14 / 37
留学メンバー
しおりを挟む庶民派の、少し変わった王女
ビックは、王宮ではいつも控えめな装いだった。
華美ではない。
だが、安っぽくもない。
動きやすく、
清潔で、
どこか目に残る――そんな服。
流行や装飾については、
元貴族たちが立ち上げた
ファッション部門が請け負っていた。
「王女は、着せ替え人形じゃない」
それが、ビックの一貫した考えだった。
ビック、十六歳。
ある日、
何気ない顔で言い出した。
「……留学、したいな」
周囲が、一瞬静まる。
語学を学ぶため。
経済を知るため。
他国の仕組みを見るため。
理由は、どれも実務的だった。
美しく、
気品ある王女であることは、
彼女にとって「前提」でしかない。
それよりも――
知りたい。
見たい。
確かめたい。
だから彼女は、
少し変わった王女だった。
王宮の中では、
王女として。
街に出れば、
庶民派で。
どちらかを捨てるのではなく、
どちらも自分だと受け入れている。
新しい国に、
新しい王女がいるとしたら――
それは、
ドレスの裾を引きずる存在ではなく。
自分の足で世界を歩こうとする、
十六歳の少女だった。
隣国アルデバインへの留学
隣国への留学の話は、思いのほか順調に進んだ。
アルデバイン王国には、
年頃の王子が二人いる。
そのため王宮には、
常にお見合い話や花嫁候補が集まっており、
「王女が留学する」という前例も、すでに珍しくなかった。
だからこそ――
ビクトリアの留学も、
驚くほどあっさり受け入れられた。
行き先は、
アルデバイン王国。
正式な王女留学、
……のはずだったが。
「まあ、王女って言っても、
いろいろ違うしね」
そう言って、
ビック本人は大喜びだった。
同行するのは、
騎士のランディとハリス。
二人は護衛であると同時に、
現地で学ぶ立場でもある。
そして侍女のマリカ。
マリカは、
護衛補佐として、
そして自らも学ぶ者として同行することになった。
なお、
現地での侍女は、
アルデバイン王国が手配する――
という条件がついた。
「身の回りは、向こうに任せます」
「こちらは最低限で」
その結果。
ビクトリア。
ランディ。
ハリス。
マリカ。
四人だけの、留学団。
豪奢でも、
大人数でもない。
けれど――
自由と可能性だけは、
十分すぎるほど詰まっていた。
王女として、ではなく。
未来を学びに行く一人の少女として。
ビックは、
まだ知らない国へ向かう馬車の中で、
期待に満ちた笑顔を浮かべていた。
この留学が、
彼女自身だけでなく、
国と国との関係を変えていく。
(アルデバイン到着・第一印象)
アルデバインに到着すると、
ほとんど間を置かず、王宮へ通された。
……そして。
「お待ちしておりました」
玉座の間に立っていたのは、
年頃の王子が――二人。
あ、うん。
そうだよね。
ビクトリアは、内心で納得する。
(そりゃ、向こうは“お見合い”の延長だもんなぁ)
ちらりと王子たちを見て、
すぐに視線を外した。
(まぁ……関係ないか)
どちらも、整った顔立ち。
いかにも王子然とした立ち姿。
(美形だけど、
ここで反応したら負けだな)
黙って、やり過ごそう。
そう決める。
ふと横を見ると――
ランディとハリスが、
無言で直立している。
……黙っていれば、
この二人も、かなりの美形だ。
(喋らなければ、ね)
そして。
自分のことは棚に上げつつ、
ビクトリアは思う。
(……私も、美人枠だし)
さらにもう一人。
マリカは、落ち着いた微笑みを浮かべ、
一歩下がって控えている。
(この子も、負けてない)
結論。
――完全に、美形軍団。
しかも、
本人たちはあまり自覚がない。
王子二人が、
一瞬、言葉を失ったのも無理はなかった。
アルデバイン王宮の到着初日。
ここから始まるのは、
政略か、学びか、恋か――
少なくとも確かなのは。
この留学、
見た目だけでも、だいぶ騒がしくなりそうだ
ということだった。
40
あなたにおすすめの小説
聖女の座を追われた私は田舎で畑を耕すつもりが、辺境伯様に「君は畑担当ね」と強引に任命されました
さら
恋愛
王都で“聖女”として人々を癒やし続けてきたリーネ。だが「加護が弱まった」と政争の口実にされ、無慈悲に追放されてしまう。行き場を失った彼女が選んだのは、幼い頃からの夢――のんびり畑を耕す暮らしだった。
ところが辺境の村にたどり着いた途端、無骨で豪胆な領主・辺境伯に「君は畑担当だ」と強引に任命されてしまう。荒れ果てた土地、困窮する領民たち、そして王都から伸びる陰謀の影。追放されたはずの聖女は、鍬を握り、祈りを土に注ぐことで再び人々に希望を芽吹かせていく。
「畑担当の聖女さま」と呼ばれながら笑顔を取り戻していくリーネ。そして彼女を真っ直ぐに支える辺境伯との距離も、少しずつ近づいて……?
畑から始まるスローライフと、不器用な辺境伯との恋。追放された聖女が見つけた本当の居場所は、王都の玉座ではなく、土と緑と温かな人々に囲まれた辺境の畑だった――。
悪女の最後の手紙
新川 さとし
恋愛
王国を揺るがす地震が続く中、王子の隣に立っていたのは、婚約者ではなかった。
人々から「悪女」と呼ばれた、ひとりの少女。
彼女は笑い、奪い、好き勝手に振る舞っているように見えた。
婚約者である令嬢は、ただ黙って、その光景を見つめるしかなかった。
理由も知らされないまま、少しずつ立場を奪われ、周囲の視線と噂に耐えながら。
やがて地震は収まり、王国には安堵が訪れる。
――その直後、一通の手紙が届く。
それは、世界の見え方を、静かに反転させる手紙だった。
悪女と呼ばれた少女が、誰にも知られぬまま選び取った「最後の選択」を描いた物語。
表紙の作成と、文章の校正にAIを利用しています。
月が隠れるとき
いちい千冬
恋愛
ヒュイス王国のお城で、夜会が始まります。
その最中にどうやら王子様が婚約破棄を宣言するようです。悪役に仕立て上げられると分かっているので帰りますね。
という感じで始まる、婚約破棄話とその顛末。全8話。⇒9話になりました。
小説家になろう様で上げていた「月が隠れるとき」シリーズの短編を加筆修正し、連載っぽく仕立て直したものです。
精霊姫の追放
あんど もあ
ファンタジー
栄華を極める国の国王が亡くなり、国王が溺愛していた幼い少女の姿の精霊姫を離宮から追放する事に。だが、その精霊姫の正体は……。
「優しい世界」と「ざまあ」の2バージョン。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
夫が私にそっくりな下の娘ばかりをかわいがるのですけど!
山科ひさき
恋愛
「子供達をお願い」 そう言い残して、私はこの世を去った。愛する夫が子供達に私の分も愛情を注いでくれると信じていたから、不安はなかった。けれど死後の世界から見ている夫は下の娘ばかりをかわいがり、上の娘をないがしろにしている。許せない。そんな時、私に不思議な声が呼びかけてきて……。
夫が大変和やかに俺の事嫌い?と聞いてきた件について〜成金一族の娘が公爵家に嫁いで愛される話
はくまいキャベツ
恋愛
父親の事業が成功し、一気に貴族の仲間入りとなったローズマリー。
父親は地位を更に確固たるものにするため、長女のローズマリーを歴史ある貴族と政略結婚させようとしていた。
成金一族と揶揄されながらも社交界に出向き、公爵家の次男、マイケルと出会ったが、本物の貴族の血というものを見せつけられ、ローズマリーは怯んでしまう。
しかも相手も値踏みする様な目で見てきて苦手意識を持ったが、ローズマリーの思いも虚しくその家に嫁ぐ事となった。
それでも妻としての役目は果たそうと無難な日々を過ごしていたある日、「君、もしかして俺の事嫌い?」と、まるで食べ物の好き嫌いを聞く様に夫に尋ねられた。
(……なぜ、分かったの)
格差婚に悩む、素直になれない妻と、何を考えているのか掴みにくい不思議な夫が育む恋愛ストーリー。
メリザンドの幸福
下菊みこと
恋愛
ドアマット系ヒロインが避難先で甘やかされるだけ。
メリザンドはとある公爵家に嫁入りする。そのメリザンドのあまりの様子に、悪女だとの噂を聞いて警戒していた使用人たちは大慌てでパン粥を作って食べさせる。なんか聞いてたのと違うと思っていたら、当主でありメリザンドの旦那である公爵から事の次第を聞いてちゃんと保護しないとと庇護欲剥き出しになる使用人たち。
メリザンドは公爵家で幸せになれるのか?
小説家になろう様でも投稿しています。
蛇足かもしれませんが追加シナリオ投稿しました。よろしければお付き合いください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる