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エドウィンの恋心
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エドウィンは、
ビクトリアを好きになった。
理由は、
正直に言えば、
とても普通だった。
ただの男の子として、
かわいい王女を好きになった。
それだけだ。
ビクトリアは、
勉強ができる。
それだけじゃない。
かわいいし、
気取らない。
クラスメイトが困っていれば、
気軽に声をかけて、
一緒に考える。
王女なのに、
距離を作らない。
気さくで、
話しやすくて、
一緒にいると楽しい。
――好きになる理由としては、
十分すぎた。
それに、
形式だけ見れば、問題はない。
隣国の王女で、
第二王子の妃。
お互いの立場としては、
むしろ、釣り合っている。
そう思っていた。
だから、
家族に言った。
「ビクトリアと、結婚したい」
すると、
返ってきた言葉は、
思っていたものとは違った。
「……相手の気持ちは?」
一瞬、
言葉に詰まった。
でも、
正直に答えた。
「これから、アプローチします」
沈黙。
そして、
静かに国王に言われた。
「やめてほしい」
理由は、
説明されなかった。
けれど、
その一言で、十分だった。
その時、
エドウィンは初めて気づいた。
これは、
恋の問題じゃない。
立場の問題でも、
家柄の問題でもある
――相手を、
ちゃんと見ていない。
自分は、
「好きだから」という理由だけで、
踏み込もうとしていた。
「ビクトリアは、王女だけど――
王家に嫁ぐのは、無理だと思う」
そう、母親に、はっきり言われた。
「だから、あなたが空回りするだけよ」
言葉は厳しいけれど、
声は落ち着いていた。
「友達で、いいじゃない。
それ以上を求めると、
あなたが、しんどくなるだけ」
少し間を置いて、続けられる話。
「王子という身分を捨てるほど、
本気で好きなら……
それなら、話は別だけど」
視線は、まっすぐだった。
「正直に言うわね。
見ていて、あなたは空回りすることの方が多くなるわ」
慰めでも、皮肉でもない。
事実を、そのまま並べただけだ。
そして、最後に。
「彼女は――
王子妃には、ならないわ」
その一言は、
拒絶ではなかった。
夢を壊すためじゃない。
相手の人生を守るための言葉だった。
問題は、もうひとつあった。
――ランディの存在だ。
彼は、
ビクトリアから離れない。
それは、
彼女が王女だから、ではない。
ランディは、
ビクトリアのそばにいることを選んでいる。
理由を説明しないし、
周囲に示すこともない。
ただ、いつもそこにいる。
どんなに、女子に、きゃあきゃあ言われても、
ランディは、まったく動じない。
贈り物を渡されても、
「なんで?」
という顔をする。
弁当をもらっても、
一人で食べない。
「みんなでどうぞ」と、
自然に分けてしまう。
そもそも、
同じ子が、毎日持ってくるわけじゃない。
何人もの女子が、
入れ替わりで差し出す。
――だから、
誰の好意かも、
彼自身、把握していない。
(ハリスが語る・恋愛しない理由)
放課後。
いつものように集まっていたとき、
エドウィンがふと、口にした。
「なあ……」
少し言いにくそうに、
でも気になって仕方がない、という顔で。
「お前たち、
なんで誰も恋愛とかしないんだ?」
ハリスは、一瞬きょとんとしてから、
「ああ」と納得したように笑った。
「そう見えます?」
「見える」
即答だった。
ハリスは、少し肩をすくめる。
「俺んちの国ですね、
身分って――テストなんですよ」
エドウィンが、目を瞬かせる。
「テスト?」
「はい。さすがに王女とかは無理ですけど」
ちらっとビクトリアを見る。
「それ以外は、
今の親の身分一切関係なしです」
「全部、成績次第、コネは、ありますが、実力も入りますね。」
その言葉に、エドウィンは息をのんだ。
「じゃあ……」
「俺ですか?」
ハリスは、さらりと言った。
「宰相、狙ってます」
あまりにも当然の口調で。
「だから、必死になるんです」
「遊んでる暇、ないんですよね」
エドウィンは、思わず笑った。
「……本気すぎるだろ」
「本気じゃないと、無理ですから」
エドウィンは、今度はランディを見る。
「ランディは……
何、狙ってるんですか?」
ランディは、少し考えてから答えた。
「必要な場所に、
必要な言葉を置ける人間」
「そのために、彼は語学やってます。」
淡々とした声。
ハリスは満足そうに頷いた。
「この留学経験、大きいですよ」
「みんな成果を出せば、
夢に、確実に近づきますから」
「だから、みんな必死なんです」
エドウィンは、静かに考える。
(恋愛どころじゃない、か)
視線の先で、
ビクトリアがノートを閉じる。
「ビクトリアも、同じですよ」
ハリスが言った。
「仕事が“王女”ですから」
「王族、
みんな給料制ですし」
エドウィンは驚いて目を見開く。
「給料……?」
「はい」
ハリスは、さらっと続けた。
「しかも、
ビクトリアは、いろいろ特許も、取ってますし」
「変わってて当然ですよ」
エドウィンは、言葉を失った。
(王女って……)
(肩書きじゃなくて、
職業なんだ)
その瞬間、
なぜこの集団が恋愛に興味を示さないのか、
ようやく、完全に理解した。
ここでは――
未来を選ぶために、今を使っている。
それだけの話だった。
そしてエドウィンは、
自分の胸の奥に、
小さく、でも確かな焦りが芽生えたのを感じていた。
(俺は……
何を、狙う?)
その問いが浮かんだ時点で、
もう、
この勉学は「見学」では終わらない。
そう、はっきり分かってしまった。
少し真面目な話が続いたあとで、ハリスはふっと力を抜くように笑った。
「……とはいえですね。別に、修行僧みたいな生活してるわけじゃないですよ」
そう前置きしてから、軽い調子で続ける。
「俺、お菓子が好きなんです。マリカと、よく食べ歩きに行きますし」
エドウィンが思わず目を向けると、ハリスは肩をすくめた。
「マリカ、食べたものをそのままレシピにできる天才なんですよ。もうレシピ本も出してますし。あいつ、ブティックにもよく行ってて、コーディネート考えたり、素材を研究したり、いろいろやってます」
さらっと言うが、内容はかなり濃い。
「俺はというと、週に一度、絵を描きに行ってます。油絵なんですけど、流派というか、描き方がうちの国と、全然違うんですよ。それを学びたくて、ちゃんと習ってます」
エドウィンは、内心で息を吐いた。
――忙しい。しかも、全部自分で選んでやっている。
ハリスは、今度はランディのほうをちらりと見た。
「ランディは、ダンスですね。次の舞踏会で、あいつの評判は確実に変わります」
断言だった。
「踊った人も、見た人も、だいたい全員、ランディに夢中になりますよ。でも本人は、相変わらず距離の取り方が下手で、妙に冷たいから……」
少し楽しそうに、言葉を続ける。
「結果、あちこちで、彼の視線ひとつで腰が砕けてる女子が出ます。本人は気づいてないでしょうけど」
くす、と笑ってから、
「まあ、見ものですよ。正直、楽しみです」
その話を聞きながら、エドウィンは黙っていた。
必死に学んでいる。
将来を見据えている。
それでも、人生を楽しむことをやめていない。
(恋愛に興味がないわけじゃないんだな)
(今は、優先順位が違うだけか)
勉強も、芸術も、趣味も、全部が「自分の未来」につながっている。だからこそ、無駄に見えないし、焦りもない。
エドウィンは、ふと自分の胸に問いかける。
――俺は、何をしてきた?
王子として与えられた立場。
当然のように用意された道。
その上で、自分は何を選んだだろうか。
答えは、まだ出ない。
けれど、この留学が終わる頃には、きっと逃げられなくなる。
そう確信できるくらいには、彼らの生き方は、静かに、しかし確実に、エドウィンの中に入り込んでいた。
ビクトリアを好きになった。
理由は、
正直に言えば、
とても普通だった。
ただの男の子として、
かわいい王女を好きになった。
それだけだ。
ビクトリアは、
勉強ができる。
それだけじゃない。
かわいいし、
気取らない。
クラスメイトが困っていれば、
気軽に声をかけて、
一緒に考える。
王女なのに、
距離を作らない。
気さくで、
話しやすくて、
一緒にいると楽しい。
――好きになる理由としては、
十分すぎた。
それに、
形式だけ見れば、問題はない。
隣国の王女で、
第二王子の妃。
お互いの立場としては、
むしろ、釣り合っている。
そう思っていた。
だから、
家族に言った。
「ビクトリアと、結婚したい」
すると、
返ってきた言葉は、
思っていたものとは違った。
「……相手の気持ちは?」
一瞬、
言葉に詰まった。
でも、
正直に答えた。
「これから、アプローチします」
沈黙。
そして、
静かに国王に言われた。
「やめてほしい」
理由は、
説明されなかった。
けれど、
その一言で、十分だった。
その時、
エドウィンは初めて気づいた。
これは、
恋の問題じゃない。
立場の問題でも、
家柄の問題でもある
――相手を、
ちゃんと見ていない。
自分は、
「好きだから」という理由だけで、
踏み込もうとしていた。
「ビクトリアは、王女だけど――
王家に嫁ぐのは、無理だと思う」
そう、母親に、はっきり言われた。
「だから、あなたが空回りするだけよ」
言葉は厳しいけれど、
声は落ち着いていた。
「友達で、いいじゃない。
それ以上を求めると、
あなたが、しんどくなるだけ」
少し間を置いて、続けられる話。
「王子という身分を捨てるほど、
本気で好きなら……
それなら、話は別だけど」
視線は、まっすぐだった。
「正直に言うわね。
見ていて、あなたは空回りすることの方が多くなるわ」
慰めでも、皮肉でもない。
事実を、そのまま並べただけだ。
そして、最後に。
「彼女は――
王子妃には、ならないわ」
その一言は、
拒絶ではなかった。
夢を壊すためじゃない。
相手の人生を守るための言葉だった。
問題は、もうひとつあった。
――ランディの存在だ。
彼は、
ビクトリアから離れない。
それは、
彼女が王女だから、ではない。
ランディは、
ビクトリアのそばにいることを選んでいる。
理由を説明しないし、
周囲に示すこともない。
ただ、いつもそこにいる。
どんなに、女子に、きゃあきゃあ言われても、
ランディは、まったく動じない。
贈り物を渡されても、
「なんで?」
という顔をする。
弁当をもらっても、
一人で食べない。
「みんなでどうぞ」と、
自然に分けてしまう。
そもそも、
同じ子が、毎日持ってくるわけじゃない。
何人もの女子が、
入れ替わりで差し出す。
――だから、
誰の好意かも、
彼自身、把握していない。
(ハリスが語る・恋愛しない理由)
放課後。
いつものように集まっていたとき、
エドウィンがふと、口にした。
「なあ……」
少し言いにくそうに、
でも気になって仕方がない、という顔で。
「お前たち、
なんで誰も恋愛とかしないんだ?」
ハリスは、一瞬きょとんとしてから、
「ああ」と納得したように笑った。
「そう見えます?」
「見える」
即答だった。
ハリスは、少し肩をすくめる。
「俺んちの国ですね、
身分って――テストなんですよ」
エドウィンが、目を瞬かせる。
「テスト?」
「はい。さすがに王女とかは無理ですけど」
ちらっとビクトリアを見る。
「それ以外は、
今の親の身分一切関係なしです」
「全部、成績次第、コネは、ありますが、実力も入りますね。」
その言葉に、エドウィンは息をのんだ。
「じゃあ……」
「俺ですか?」
ハリスは、さらりと言った。
「宰相、狙ってます」
あまりにも当然の口調で。
「だから、必死になるんです」
「遊んでる暇、ないんですよね」
エドウィンは、思わず笑った。
「……本気すぎるだろ」
「本気じゃないと、無理ですから」
エドウィンは、今度はランディを見る。
「ランディは……
何、狙ってるんですか?」
ランディは、少し考えてから答えた。
「必要な場所に、
必要な言葉を置ける人間」
「そのために、彼は語学やってます。」
淡々とした声。
ハリスは満足そうに頷いた。
「この留学経験、大きいですよ」
「みんな成果を出せば、
夢に、確実に近づきますから」
「だから、みんな必死なんです」
エドウィンは、静かに考える。
(恋愛どころじゃない、か)
視線の先で、
ビクトリアがノートを閉じる。
「ビクトリアも、同じですよ」
ハリスが言った。
「仕事が“王女”ですから」
「王族、
みんな給料制ですし」
エドウィンは驚いて目を見開く。
「給料……?」
「はい」
ハリスは、さらっと続けた。
「しかも、
ビクトリアは、いろいろ特許も、取ってますし」
「変わってて当然ですよ」
エドウィンは、言葉を失った。
(王女って……)
(肩書きじゃなくて、
職業なんだ)
その瞬間、
なぜこの集団が恋愛に興味を示さないのか、
ようやく、完全に理解した。
ここでは――
未来を選ぶために、今を使っている。
それだけの話だった。
そしてエドウィンは、
自分の胸の奥に、
小さく、でも確かな焦りが芽生えたのを感じていた。
(俺は……
何を、狙う?)
その問いが浮かんだ時点で、
もう、
この勉学は「見学」では終わらない。
そう、はっきり分かってしまった。
少し真面目な話が続いたあとで、ハリスはふっと力を抜くように笑った。
「……とはいえですね。別に、修行僧みたいな生活してるわけじゃないですよ」
そう前置きしてから、軽い調子で続ける。
「俺、お菓子が好きなんです。マリカと、よく食べ歩きに行きますし」
エドウィンが思わず目を向けると、ハリスは肩をすくめた。
「マリカ、食べたものをそのままレシピにできる天才なんですよ。もうレシピ本も出してますし。あいつ、ブティックにもよく行ってて、コーディネート考えたり、素材を研究したり、いろいろやってます」
さらっと言うが、内容はかなり濃い。
「俺はというと、週に一度、絵を描きに行ってます。油絵なんですけど、流派というか、描き方がうちの国と、全然違うんですよ。それを学びたくて、ちゃんと習ってます」
エドウィンは、内心で息を吐いた。
――忙しい。しかも、全部自分で選んでやっている。
ハリスは、今度はランディのほうをちらりと見た。
「ランディは、ダンスですね。次の舞踏会で、あいつの評判は確実に変わります」
断言だった。
「踊った人も、見た人も、だいたい全員、ランディに夢中になりますよ。でも本人は、相変わらず距離の取り方が下手で、妙に冷たいから……」
少し楽しそうに、言葉を続ける。
「結果、あちこちで、彼の視線ひとつで腰が砕けてる女子が出ます。本人は気づいてないでしょうけど」
くす、と笑ってから、
「まあ、見ものですよ。正直、楽しみです」
その話を聞きながら、エドウィンは黙っていた。
必死に学んでいる。
将来を見据えている。
それでも、人生を楽しむことをやめていない。
(恋愛に興味がないわけじゃないんだな)
(今は、優先順位が違うだけか)
勉強も、芸術も、趣味も、全部が「自分の未来」につながっている。だからこそ、無駄に見えないし、焦りもない。
エドウィンは、ふと自分の胸に問いかける。
――俺は、何をしてきた?
王子として与えられた立場。
当然のように用意された道。
その上で、自分は何を選んだだろうか。
答えは、まだ出ない。
けれど、この留学が終わる頃には、きっと逃げられなくなる。
そう確信できるくらいには、彼らの生き方は、静かに、しかし確実に、エドウィンの中に入り込んでいた。
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