『この命、めぐりて、きみに還る』―“俺の子じゃない”と捨てたくせに―

夢窓(ゆめまど)

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晴海の心の声 ―ルシンダの人生を継いで―

目が覚めたら、赤ちゃんがいた。

真っ赤な顔で、小さく泣いてた。
どこかで見たことのある産着。
でも、私には、何がなんだかわからなくて――

それが、ルシンダの人生の始まりだった。

いや、私にとっての“二度目の人生”の始まりでもある。



ルシンダの記憶は、めちゃくちゃだった。
断片的で、曇ってて、でも……感情だけは生々しかった。

「そりゃ、生きていけないわよ……」

泣きたくなるほど、辛い記憶ばかりだった。

アレクサンダーと出会ったのは、舞踏会の帰り道だった。
最初は、ただの貴族の青年かと思ってた。
気取らず、やさしくて、ユーモアがあって。

名前を呼び捨てにされるたびに、心が跳ねたのを覚えてる。
「ルシンダ」じゃなくて、「お前」って。
ドキドキして、まるで恋愛映画のヒロインになったみたいだった。

プロポーズされたのは、その少しあと。
ほんとに普通に、笑いながら指輪を渡された。
その時初めて知ったのよ、彼が大富豪で侯爵家の跡取りだってこと。

……子爵家の娘であるルシンダが、そんな家に嫁ぐなんて、奇跡だった。

けどね、奇跡の代償は、大きすぎた。



結婚してからが、本当の地獄だった。

彼の母親。
常に冷たい目で私を見下してた。
言葉は丁寧だけど、芯に氷があった。

そして、ルビー。
アレクの従姉妹で、侯爵家の血を引く、完璧な令嬢。
美人で、才女で、社交界の華で――
私のことを「田舎者」と鼻で笑った。

「侯爵家には、相応しい花嫁がいるのに」と。
育ちも、教育も、言葉遣いも、仕草も、
すべてを“ダメ出し”される毎日。

……それでも、アレクのことが好きだった。
「信じていれば、いつか報われる」って、そう思ってたの。

だけど。

「……子供ができたの」

って言った瞬間、世界がひっくり返った。

「誰の子だ?」
「私の子ではないだろう」
「そんな、ふしだらな……」

言われたのは、彼の母親からでも、ルビーからでもなかった。

アレク――あなただった。

その言葉を最後に、私は侯爵家を追い出された。



それからは、朦朧としてた。
何もかもが、ぐちゃぐちゃだった。
歩くだけで吐き気がして、倒れそうだった。

……でも、たまたま辿り着いたのが、大漁亭だったの。

古びた木の宿屋。
魚の匂いと、潮風と、おかみさんの声。

「休んでいきなさいな。あとで代金はもらうから、安心してな」

その一言で、私はふっと、力が抜けた。

彼女は本当に、お金を取った。
でも、それ以上に、人としての温かさをくれた。

食事も、部屋も、病院の手配も――
「わたし、見過ごせない性分なの」と言いながら、全部してくれた。

私が、ルシンダとして生き延びられたのは、
あの場所が、人の心がある場所だったから。



あの子――テオが泣いていたあの瞬間。

私は、“晴海”でも、“ルシンダ”でもなく、ただ一人の“母親”になった。

「生きなきゃ」って。
あの子のために、私は生まれ変わったんだと思った。



だから私は今も、彼に会っても――
泣かない。
戻らない。
そして、許さない。

ルシンダの人生は、ここから再出発する。
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