12 / 27
「わたし、代わりじゃないですよね?」
しおりを挟む
――ジェイクが“本気”になる回。
山猫の宿での仮住まいから、大漁亭のおかみの計らいで正式にジェイクの家へ。
共同生活は、穏やかだけど、どこか“遠慮”があった。
けれどある日、晴海がうっかり言ってしまったのだ。
「……ジェイクさん、やさしいですね。こんな偽装結婚なのに……」
食卓で、ふとこぼれたその言葉に、ジェイクは箸を置いて、まっすぐ見つめてくる。
「――晴海」
呼び捨てが不意に来て、びくっと肩をすくめた。
「……偽装って言うなよ。俺は、本気でやってる」
「え……?」
「テオの父親として、あんたの夫として、ちゃんと向き合ってる。……だから俺は、名前で呼んでほしい」
「……名前で?」
「“ジェイクさん”じゃなくて、ちゃんと、“ジェイク”って」
晴海の頬が、ふわっと赤くなった。
「……わかりました、ジェイク」
そのときの笑顔を見て、ジェイクははじめて――
この小さな家族を守りたい、と本気で思った。
――晴海が不安になるけど、ちゃんと抱きしめられる回。
夜、テオがやっと寝ついたあと。
晴海は、ジェイクが書類を見ているのを見て、ぽつりとつぶやく。
「……私、ルシンダさんの代わりじゃないですよね」
ジェイクは、動きを止めた。
「……ルシンダさん、確かに辛い人生だったと思うんです。
でも私、彼女の人生の続きを生きてるだけで、本当は――この体にいるの、申し訳ないなって思うときがあるんです」
震える声に、ジェイクがゆっくり立ち上がって、そっと肩を抱いた。
「――おまえは、晴海だ。俺が今、一緒に暮らしてるのは、晴海。
……代わりなんかじゃねぇよ」
そのまま、そっと腕の中に引き寄せられる。
「泣いてもいい。俺は、おまえの味方だからな」
晴海はようやく、声を漏らした。
「……ありがとう、ジェイク」
その夜、晴海はジェイクの腕の中で、
はじめて“誰かに許された”ような安心を覚えた。
次の日、居間に入ると、ジェイクがどっかりと座っていた。
そのまま勢いよく立ち上がったかと思えば、
次の瞬間、床に手をつき、頭を下げた。
「お願いします。私、ジェイクと結婚していただきたい!」
あまりに突然の土下座に、私は思わず慌てて座り込み、
口から出たのは――
「ふ、ふつか……」
ジェイクが顔を上げて、ぽつり。
「……ふつつか、だろ」
「あっ、そ、そう! ふつつか者ですが……よろしくお願いします!」
ふたりで顔を見合わせて――
つい、吹き出してしまった。
笑いながら、ぽかぽかと心があたたかくなっていくのを感じた。
こんなふうに始まるのも、悪くない。
ふたりとも、不器用で、言葉足らずで、ちょっと変。
でも、向き合って、笑い合える。
たぶんそれが、いちばん大事なことなんだと思う。
「これから、たくさん喧嘩もするかも」
「うん。黙って勝手に何かしたら、殴る」
「……それは、気をつける」
「でも、大丈夫よ。私、怒っても、ちゃんとあなたが好きだから」
「……それ、先に言ってくれよ」
また、笑い合う。
この人となら、やっていける。
この人となら――家族になれる。
あの日、あの居間で、
ふたりの人生がそっと、ひとつに重なった。
転生って、不思議だね。
前の世界では、
私は誰かの妻で、
とても大切にされていた。
優しい手、あたたかい声、
笑い合った日々。
……でも、この世界に来たら、
それをすっかり忘れてしまってた。
何もかも、リセットされたみたいに。
まっさらな自分。
新しい人生。
思い出すまでは、
それが「当たり前」だと思ってた。
でも、ふとした瞬間に――
夢の中とか、
あたたかな光を浴びた時とか、
理由もなく、涙がこぼれるんだ。
きっと、心のどこかに、
まだ残ってるんだろうね。
“あの人”との記憶。
それでも――
今の私は、もう別の人生を生きている。
愛した誰かを、忘れてしまうこと。
それを、罪だとは思わない。
だって、私は今、
この世界でまた誰かを、
好きになろうとしているから。
山猫の宿での仮住まいから、大漁亭のおかみの計らいで正式にジェイクの家へ。
共同生活は、穏やかだけど、どこか“遠慮”があった。
けれどある日、晴海がうっかり言ってしまったのだ。
「……ジェイクさん、やさしいですね。こんな偽装結婚なのに……」
食卓で、ふとこぼれたその言葉に、ジェイクは箸を置いて、まっすぐ見つめてくる。
「――晴海」
呼び捨てが不意に来て、びくっと肩をすくめた。
「……偽装って言うなよ。俺は、本気でやってる」
「え……?」
「テオの父親として、あんたの夫として、ちゃんと向き合ってる。……だから俺は、名前で呼んでほしい」
「……名前で?」
「“ジェイクさん”じゃなくて、ちゃんと、“ジェイク”って」
晴海の頬が、ふわっと赤くなった。
「……わかりました、ジェイク」
そのときの笑顔を見て、ジェイクははじめて――
この小さな家族を守りたい、と本気で思った。
――晴海が不安になるけど、ちゃんと抱きしめられる回。
夜、テオがやっと寝ついたあと。
晴海は、ジェイクが書類を見ているのを見て、ぽつりとつぶやく。
「……私、ルシンダさんの代わりじゃないですよね」
ジェイクは、動きを止めた。
「……ルシンダさん、確かに辛い人生だったと思うんです。
でも私、彼女の人生の続きを生きてるだけで、本当は――この体にいるの、申し訳ないなって思うときがあるんです」
震える声に、ジェイクがゆっくり立ち上がって、そっと肩を抱いた。
「――おまえは、晴海だ。俺が今、一緒に暮らしてるのは、晴海。
……代わりなんかじゃねぇよ」
そのまま、そっと腕の中に引き寄せられる。
「泣いてもいい。俺は、おまえの味方だからな」
晴海はようやく、声を漏らした。
「……ありがとう、ジェイク」
その夜、晴海はジェイクの腕の中で、
はじめて“誰かに許された”ような安心を覚えた。
次の日、居間に入ると、ジェイクがどっかりと座っていた。
そのまま勢いよく立ち上がったかと思えば、
次の瞬間、床に手をつき、頭を下げた。
「お願いします。私、ジェイクと結婚していただきたい!」
あまりに突然の土下座に、私は思わず慌てて座り込み、
口から出たのは――
「ふ、ふつか……」
ジェイクが顔を上げて、ぽつり。
「……ふつつか、だろ」
「あっ、そ、そう! ふつつか者ですが……よろしくお願いします!」
ふたりで顔を見合わせて――
つい、吹き出してしまった。
笑いながら、ぽかぽかと心があたたかくなっていくのを感じた。
こんなふうに始まるのも、悪くない。
ふたりとも、不器用で、言葉足らずで、ちょっと変。
でも、向き合って、笑い合える。
たぶんそれが、いちばん大事なことなんだと思う。
「これから、たくさん喧嘩もするかも」
「うん。黙って勝手に何かしたら、殴る」
「……それは、気をつける」
「でも、大丈夫よ。私、怒っても、ちゃんとあなたが好きだから」
「……それ、先に言ってくれよ」
また、笑い合う。
この人となら、やっていける。
この人となら――家族になれる。
あの日、あの居間で、
ふたりの人生がそっと、ひとつに重なった。
転生って、不思議だね。
前の世界では、
私は誰かの妻で、
とても大切にされていた。
優しい手、あたたかい声、
笑い合った日々。
……でも、この世界に来たら、
それをすっかり忘れてしまってた。
何もかも、リセットされたみたいに。
まっさらな自分。
新しい人生。
思い出すまでは、
それが「当たり前」だと思ってた。
でも、ふとした瞬間に――
夢の中とか、
あたたかな光を浴びた時とか、
理由もなく、涙がこぼれるんだ。
きっと、心のどこかに、
まだ残ってるんだろうね。
“あの人”との記憶。
それでも――
今の私は、もう別の人生を生きている。
愛した誰かを、忘れてしまうこと。
それを、罪だとは思わない。
だって、私は今、
この世界でまた誰かを、
好きになろうとしているから。
56
あなたにおすすめの小説
義妹の嫌がらせで、子持ち男性と結婚する羽目になりました。義理の娘に嫌われることも覚悟していましたが、本当の家族を手に入れることができました。
石河 翠
ファンタジー
義母と義妹の嫌がらせにより、子持ち男性の元に嫁ぐことになった主人公。夫になる男性は、前妻が残した一人娘を可愛がっており、新しい子どもはいらないのだという。
実家を出ても、自分は家族を持つことなどできない。そう思っていた主人公だが、娘思いの男性と素直になれないわがままな義理の娘に好感を持ち、少しずつ距離を縮めていく。
そんなある日、死んだはずの前妻が屋敷に現れ、主人公を追い出そうとしてきた。前妻いわく、血の繋がった母親の方が、継母よりも価値があるのだという。主人公が言葉に詰まったその時……。
血の繋がらない母と娘が家族になるまでのお話。
この作品は、小説家になろうおよびエブリスタにも投稿しております。
扉絵は、管澤捻さまに描いていただきました。
これからもあなたが幸せでありますように。
石河 翠
恋愛
愛する男から、別の女と結婚することを告げられた主人公。彼の後ろには、黙って頭を下げる可憐な女性の姿があった。主人公は愛した男へひとつ口づけを落とし、彼の幸福を密やかに祈る。婚約破棄風の台詞から始まる、よくある悲しい恋の結末。
小説家になろうにも投稿しております。
扉絵は管澤捻さまに描いていただきました。
婚約破棄された聖女は、愛する恋人との思い出を消すことにした。
石河 翠
恋愛
婚約者である王太子に興味がないと評判の聖女ダナは、冷たい女との結婚は無理だと婚約破棄されてしまう。国外追放となった彼女を助けたのは、美貌の魔術師サリバンだった。
やがて恋人同士になった二人。ある夜、改まったサリバンに呼び出され求婚かと期待したが、彼はダナに自分の願いを叶えてほしいと言ってきた。彼は、ダナが大事な思い出と引き換えに願いを叶えることができる聖女だと知っていたのだ。
失望したダナは思い出を捨てるためにサリバンの願いを叶えることにする。ところがサリバンの願いの内容を知った彼女は彼を幸せにするため賭けに出る。
愛するひとの幸せを願ったヒロインと、世界の平和を願ったヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、他サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACより、チョコラテさまの作品(写真のID:4463267)をお借りしています。
地味令嬢は結婚を諦め、薬師として生きることにしました。口の悪い女性陣のお世話をしていたら、イケメン婚約者ができたのですがどういうことですか?
石河 翠
恋愛
美形家族の中で唯一、地味顔で存在感のないアイリーン。婚約者を探そうとしても、失敗ばかり。お見合いをしたところで、しょせん相手の狙いはイケメンで有名な兄弟を紹介してもらうことだと思い知った彼女は、結婚を諦め薬師として生きることを決める。
働き始めた彼女は、職場の同僚からアプローチを受けていた。イケメンのお世辞を本気にしてはいけないと思いつつ、彼に惹かれていく。しかし彼がとある貴族令嬢に想いを寄せ、あまつさえ求婚していたことを知り……。
初恋から逃げ出そうとする自信のないヒロインと、大好きな彼女の側にいるためなら王子の地位など喜んで捨ててしまう一途なヒーローの恋物語。ハッピーエンドです。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタにも投稿しております。
扉絵はあっきコタロウさまに描いていただきました。
せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?
石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。
彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。
夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。
一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。
愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
愛することをやめたら、怒る必要もなくなりました。今さら私を愛する振りなんて、していただかなくても大丈夫です。
石河 翠
恋愛
貴族令嬢でありながら、家族に虐げられて育ったアイビー。彼女は社交界でも人気者の恋多き侯爵エリックに望まれて、彼の妻となった。
ひとなみに愛される生活を夢見たものの、彼が欲していたのは、夫に従順で、家の中を取り仕切る女主人のみ。先妻の子どもと仲良くできない彼女をエリックは疎み、なじる。
それでもエリックを愛し、結婚生活にしがみついていたアイビーだが、彼の子どもに言われたたった一言で心が折れてしまう。ところが、愛することを止めてしまえばその生活は以前よりも穏やかで心地いいものになっていて……。
愛することをやめた途端に愛を囁くようになったヒーローと、その愛をやんわりと拒むヒロインのお話。
この作品は他サイトにも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID 179331)をお借りしております。
番を辞めますさようなら
京佳
恋愛
番である婚約者に冷遇され続けた私は彼の裏切りを目撃した。心が壊れた私は彼の番で居続ける事を放棄した。私ではなく別の人と幸せになって下さい。さようなら…
愛されなかった番。後悔ざまぁ。すれ違いエンド。ゆるゆる設定。
※沢山のお気に入り&いいねをありがとうございます。感謝感謝♡
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる