白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?

夢窓(ゆめまど)

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修羅場

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マルグリットの部屋は、すでに“避難準備”ではなく“破壊の跡”だった。
半分以上の床が、段ボールと衣服の山で埋まり、椅子は横倒し、棚は引き抜かれたまま。
壊れた花瓶の破片が光を反射して散らばり、マリーは髪をまとめたまま、息を荒げ、
故意に箱を引き倒していく。

――そのとき。

バンッ!

ドアが壁にぶつかる音が響いた。

「ごめんあそばせって言ってる場合じゃないわよ、まったく!」

スザンヌが息を切らせて踏み込んだ。

「……なんで来るのよスザンヌ様」

「なんでじゃないわ! あんた、何してるの!?」

マルグリットは答えの代わりに、
足元の箱を思い切り蹴り飛ばした。
衝撃でガシャッと、中のガラス瓶が割れる。

「見ればわかるでしょ! 全部捨てて逃げる準備よ!!」

スザンヌは目を見開く。

「逃げるって……また? この前と同じことを――」

「同じじゃないわよ!!!」

マルグリットが掴んでいた皿を、
故意に、まっすぐ壁へ叩きつけた。

パリンッ!

破片が床に雨のように散る。

「三年! 三年よ!? 音信不通! 死んだか生きてるかもわからないまま!
 “夫”の影すら見なかったのよ!?」

「戦争よ、仕方――」

「戦争? 戦争が何? それで全部許されると思ってるの!?」

マルグリットは机に残っていたカップを握る。
手が震えているのではなく、怒りで力が入っている震えだった。

「私はね……召使いにも気づかれない幽霊みたいに扱われて、
 食器も、下着も、全部ひとりで洗って、
 誰も声をかけない家で、死んでたのよ!」

カップを床に落とし、踏みつけた。
砕けた白い陶器が靴底に吸い付く。

スザンヌはため息を飲み込んだ。

「……マルグリット、落ち――」

「落ち着いてるわよ!? むしろ、ようやく正気に戻ったの!!
 壊れてるのは家具だけで、私じゃない!!」

スザンヌはしばらく黙った。
割れた花瓶、散乱する紙、歪んだ椅子。
“偶然”では絶対につかない壊れ方。

「……本気で全部壊したのね」

「ええ。わざとよ。
 あの男が戻って来ても、私の“居場所”はあの男のところじゃないって――
 そう思い知らせたかったから。」

スザンヌがため息をつく。
「ほんとに冷静な人は花瓶投げないのよ!」



マルグリットの部屋は、荒れ狂う嵐の中心のようだった。
床一面に段ボール、破れた紙袋、転がった靴。
壁際では花瓶が故意に叩きつけられた跡を晒している。

マルグリットは髪を乱し、肩で息をしながら立っていた。

「花瓶? ああ、投げたわよ!」

割れた破片をつま先で押しやり、指で示す。

「これ、あいつがくれた花のやつ!
 毎日これ見て、“あの男”を思い出せって?
 ふざけないでほしいわ!」

スザンヌが駆け寄る。
「マルグリット、もうやめなさいって!」

「嫌よ!」

マルグリットはその場にあったクッションを掴むと、
全力でスザンヌめがけて投げつけた。

スザンヌは身を翻して避けながら叫ぶ。
「ちょっと! 何でも投げればいいってものじゃないわよ!」

「八つ当たり? 違うから!」

マルグリットの声は震え、しかし怒りに満ちていた。

「今やっと……“正当に怒ってる”のよ!」


ーーーーーー

バンッ。

音が部屋の空気を裂いた。

「……マルグリット」

扉を押し開けて立っていたのは、テオドールだった。
肩で息をして、まるで走って来たように。

スザンヌが驚いて振り返る。
「ちょっと、どうしてあなたがここに――」

「泣いていると聞いた。……来ずにいられるか」

その一言に、マルグリットはピクリと肩を揺らした。

背を向けたまま、低く冷たく吐き捨てる。

「今さら、よく来れたわね」

テオドールは一歩踏み出す。
マルグリットは二歩下がる。

「あっち行って!」

テーブルの上にあった小皿を掴み、
ためらいなく壁に、投げつけた。

皿は彼の足元で粉々に砕ける。

スザンヌが慌てて横に飛ぶ。
「ちょっ、陶器はやめなさいってば! 危なかったわよ!」

マルグリットは叫ぶ。
「黙ってて! これは私の問題よ!!」

テオドールの表情が痛むように歪む。

「三年……。三年も、お前に触れることも……会うことも……」

その声に、マルグリットは振り返り、
怒りと涙で視界をにじませた。

「会いに来なかっただけでしょ!」

壁に置いていたティー•カップを掴む。
ためらいゼロ。
そのまま力任せに投げつけた。

ガシャァン!

壁にぶつかり、白い破片が飛び散る。

スザンヌ「ちょ、ちょっと!? 壁がぁ!!」

マルグリットは止まらない。

「生きてるか死んでるかもわからないまま放置されて……
 私の三年を、どうやって返すのよ!!!」

テオドールは拳を握りしめる。
爪が食い込むほど強く。

「……返せない。返せないから……ここに来たんだ」

「遅いのよ!! バカ!!!」

声が震え、泣き声とも怒号ともつかない。



スザンヌが割って入る。
「そこまで! あなたたち、一度に叫びすぎ! 家具が死ぬ!!」

テオドールは苦しげに息をつく。

「……マルグリット。
 もう誰も泣かせたくない。
 お前も、俺自身も」

マルグリットは唇を噛み、目をそらす。

「なら……最初からそうしてよ……」

破片の散らばる床に涙がぽとりと落ちた。

マルグリットは壁を拳で叩く。
「もう戻ってこないで! 二度と!」



スザンヌが割って入る。
「よし、ストップ! いったん全員黙りなさい!
 家具が死ぬ! 壁が泣くわ!」

「泣くのは私よ!」

「もう誰も泣かせたくないんだ……」
テオドールが絞り出すように言った。

「じゃあ、最初からそうしなさいよ!」

マルグリットの声が震える。
「“王命”って言葉を盾に、何もしてこなかった!
 私の人生、あなたの空白で埋めたくないの!」



静寂。
荒い息だけが響く。

スザンヌが深くため息をつき、
「……いいわ。もう今日は全員退場。
 このままだと死人が出るわ」

マルグリットは震える指で涙を拭い、
「出て行って。全員」

その言葉に、
テオドールも、スザンヌも何も言えず、
ただ出て行くことにした。

残ったのは、
割れた花瓶と、ひとりの女の嗚咽だけだった。

部屋には、
壊れた花瓶と散ったマーガレットの花びら。
マルグリットは震える指でそれを拾い上げる。
マルグリット
「もう二度と、同じ過ちはしません。
 あなたの顔を見ても、
 心が動かないようにします」

テオドールは、
その言葉に何も言えず、
ただ頭を下げた。

静寂。

水の雫が、床に落ちる音だけが響いていた。

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