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妖精姫は皇帝国の王女です。
「ギデオンの一日と、知られざる乙女生活サポート係」
しおりを挟む朝、帝国宮廷官舎区――
ギデオン・ラースフェルトの一日は、静かに始まる。
05:00 起床。洗顔、整髪、制服の点検
05:30 政務書類の整理、報告書チェック
06:00 マルガリータの部屋へ移動
「失礼します、マルガリータ様。起床のお時間です」
◆
そこからが、本当の“仕事”の始まりだ。
06:01 マルガリータの宿題チェック
06:10 学校提出物の整理
06:20 ようやくベッドの主をゆさゆさ
「……んー、ねむい……」
「はい。ですが、あなたが起きるまで私も動けませんので。お願いです、起きてください」
06:30 顔を洗わせ、
06:35 軽く化粧を施し、
06:40 髪をとかして整え、ヘアアクセを選び、セット。
「……今日は、リボンでいきます」
「……ありがと……ギデオン……すき……」
「後でしっかり聞きますね、それ」
06:50 制服を着せて
07:00 食堂へ
◆
「最近は、彼ってば宮廷の購買部でかわいいリボンや香水をチェックして、こっそり送ってくれるんです」
昼休み、リリベッタが目を細めて語る。
「マルガリータ、あなたの親友が、完璧すぎる生活マネージャーを婚約者にしててちょっと羨ましいわ」
「へへ、いいでしょ?」
その会話を盗み聞いたハリスが、小声で尋ねる。
「……なあ、リリィ。“宮廷の購買部”ってどこにあるんだ」
「え? そこ?」
「いや……なんか、思ってたよりギデオンが“マメ”すぎて……負けた気がする……」
「大丈夫よ、あなたには“誠実さ特化”という武器があるから」
「なんか地味じゃない?」
◆
ギデオンの午後はハリスの側近として始まり、
夜まで政務室にこもって終わる。
そして――
22:45 帰宅。寝ているマルガリータの額に軽く触れキス
「おやすみなさい」と囁き
22:50 ようやく自室へ。
「……つまりですね。朝しか会話のチャンスがないから、支度を手伝うようになっただけです。
感情は関係ありません。すべては、婚約者としての責務の一環です」
「うそつけ」
と、ハリスとリリベッタが声を揃える。
「……嘘ではありません。購買部で“このリボン、彼女に似合うかも”と悩んでいたことも、あります」
「レポートに書くなよそれは!」
◆
ギデオンの「真顔の献身」と、マルガリータの「ゆるふわ天然」のバランスは、
帝国でも一部の人々の間でこう呼ばれていた。
“恋愛表現非対応型忠犬と、世界の姫”
リリベッタが頷く。
「……うん。やっぱりギデオンが一番おもしろいわ」
帝国政庁の中庭。
昼休み、ベンチに並んで座ったハリスとギデオン。
手にはお互いの持ち場の資料……のはずだったが、話題は政務ではない。
「なあ、ギデオン。お前、マルガリータに……その、どうやって“男としての好意”を伝えてるんだ?」
ギデオンが書類から顔を上げ、静かに瞬きをした。
「……どう、とは?」
「いや、なんというか。リリィに何か贈るとか、褒めるとか……お前、どうしてるのかと思って」
ギデオンは一拍置いて、普通に、あまりにも普通に言った。
「別に。彼女は可愛いので、贈り物をしたくなるんです。それだけですよ」
「さらっと言うな!?」
「事実です」
ギデオンは落ち着いた手つきで手帳を閉じた。
「朝、寝ぼけながら“んー……あと五分……”と毛布を巻く姿。
顔を洗って、『しゃきっとしたよ!』と笑う顔。
制服のリボンが左右ズレてて『直してくれる?』と甘える声。
全部、私の言動力です」
「えっっっ」
「“いってらっしゃい”の頬へのキスは特に推奨します。朝一番に心臓が跳ねますが、仕事の効率が格段に上がります」
「お前、真顔でなに言ってるんだ……!」
ハリスは肩を震わせて言った。
「お前……表情、ずっと変わってないのに、内容が全部ラブレターだぞ!?」
「当然でしょう。彼女が世界で最も可愛いので。……書類と同じくらい整っている存在です」
「“整ってる”って言うな!」
◆
しばらく沈黙が落ちた後、ハリスがぽつりと呟いた。
「……俺、リリィに“今日もきれいだな”って言うだけで顔真っ赤になるのに……」
「ならば、毎朝言ってください。“毎日きれい”という定義が成立します」
「恋愛に公式あるのか……?」
「ええ。私の中では、“朝の観測値が一日の幸福値を決定する”という仮説があります」
「何の研究だよそれ!」
◆
そこにちょうど現れたリリベッタとマルガリータ。
「ハリス、お待たせ。……あら、どうしたの顔、真っ赤よ?」
「……ギデオンのせいです」
「えっ、ギデオン? また何か変なこと……」
マルガリータが首をかしげた瞬間。
「姫、今日のリボン、非常に似合っております。朝の光に映えて、実に幸福でした」
「……ううぅ。も、もう、そういうの……っ!」
「では、午後も可愛くお過ごしください」
「なにそれぇ~~~!!(照れ崩壊)」
◆
ハリスはそっとリリベッタに囁いた。
「リリィ……あれ、真似しろって言われたら俺無理かもしれない」
「大丈夫。あなたは、あなたのままで素敵よ。……でも今度、“いってらっしゃいのキス”くらいはしてもいいわよ?」
「えっ、それ、俺の心臓は無事じゃない」
「ふふ、それはどうかしらね?」
――帝国は、政務も恋愛も、今日も平和です。
「さて、式の準備も進んでいますよ」
式典長が顔を出すと、リリベッタがぱっと顔を上げる。
「お花は、私の好きな白薔薇と、母が好きだったラベンダーを中心に。あと、お兄様の許可があれば――」
「ハリス、どうする?」
「うん、それでいい。君の笑顔が一番、式に似合うからな」
「……は、恥ずかしい!」
書類をぶんと掲げてごまかすリリベッタの姿に、室内が和やかな空気に包まれた。
◆
そこに、ギデオンが控えめに入室する。
「報告です。今のところ、政務は順調です。ハリス様が浮気しないおかげで、私も本業に専念できます」
「……おい、どういう意味だ」
「安心です。かつての王太子殿下と違って、ハリス様は記録のページが“政務と愛情一途”の二項目だけで埋まっています。
レポートはつまらないですが、平和です」
「それ、褒めてる……のか?」
「最大級の賛辞です」
ギデオンはそう言って、静かに出ていった。
◆
式の準備、政務の整備、民との対話――
ふたりの歩みは、まっすぐで、確実だった。
もう誰も、彼女を“政略の駒”とは呼ばない。
彼女は今、自らの手で帝国の未来を形づくっていた。
その隣に、ハリスがいる限り。
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