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帰宅して、家族と、
──その夜。
婚約破棄のざわめきがまだ王都を駆け巡っている頃、キャスリンは馬車で自邸に戻ってきた。
扉が開くや否や、玄関ホールに家族が集まっていた。
⸻
父(公爵であり商人)
「おかえり、キャスリン!」
母
「婚約破棄されたらしいわね。?」
弟(やや無邪気)
「いやぁ、殿下があんな馬鹿やるとは思ってたよ」
──冷静なる家族会議
父・公爵
「……思っていた通りだな。
あの王子には、礼儀というものがない。
“婚約者を立てる”という最低限の心得すら持っておらん」
母・公爵夫人
「正直、どちらが上とかいう話ではないのよ。
でもね──王家のやり方は、どうも好きになれないの」
扇子を閉じる音が、キャスリンの中で響いた。
⸻
弟(少し皮肉っぽく)
「結局、“王子教育”の失敗を押しつけられただけだよ。
しつけもできないなら、返すだけだね」
父
「うむ。あの家に“愛”がないのは、誰が見ても明らかだ。
書面をもって正式に“お返し”するとしよう」
キャスリンは微笑んだ。
「さすが、うちの家族は話が早いわ」
家族全員の表情には、怒りよりも冷ややかな理性があった。
それが、どんな政治的動揺よりも恐ろしいと王家はまだ知らない。
キャスリンは扇子を閉じ、優雅に一礼。
しかしその表情は冷静そのものだった。
キャスリン
「──ですので、今から精算の準備に入らねばなりません。
執事のジェームスをお借りしたく存じます」
⸻
父
「おやおや……仕事が早いな。
だが、お手柔らかにな。王家とはまだ縁を切るわけにいかん」
母
「そうそう。身ぐるみはいでも構わないけど──」
父・母(声を揃えて)
「カナタだけにしておけよ!」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、くすりと笑った。
キャスリン
「承知しました。殿下お一人だけ、きっちり裸にして差し上げますわ」
キャスリンが執務室に入ると、すでにジェームスが待機していた。
銀髪を撫でつけ、分厚い帳簿と羽根ペンを机に広げている。
⸻
キャスリン
「ジェームス、例の件をお願いします」
ジェームス
「かしこまりました。すでに商人ギルドへ連絡を入れております。
婚約期間中に動いた資金の流れ、贈答品の鑑定額……すべて洗い出しました」
彼は素早く帳簿をめくり、几帳面な字で記された数値を示す。
⸻
ジェームス
「こちらがカフスや外套などの品──金貨五百枚強。
そして殿下側からの贈り物は……例の“ルビー嬢とのお揃い”ばかり。婚約者への正式な贈答記録は、一切ございません」
キャスリン
「……想定通りですわね」
⸻
その時、別の扉から商人ギルドの使者が入ってきた。
会計用の石版を持ち、深々と頭を下げる。
使者
「ギルド査定の結果、王家への請求総額は──金貨二百三十万枚。
さらに慰謝料を加え、正式な請求額は金貨三百万枚となります」
会場に居合わせた家族からも、思わず感嘆の声が漏れる。
⸻
キャスリン
「よろしい。では、その請求書を正式文書として整えてください。
明朝、王家へ送達いたします」
ジェームス
「承知しました」
⸻
キャスリンは窓辺に立ち、夜空を見上げた。
キャスリン
「これで──殿下も、ルビー嬢も、ただの“請求先”ですわね」
扇子の影に、静かな微笑みが浮かんだ。
非公式の謝罪書簡
家族のいる執務室の扉をノックする音が響いた。
入ってきた執事が、封蝋付きの手紙を恭しく差し出す。
封印には──王家の紋章。
⸻
執事
「宰相閣下より、“非公式の書簡”にございます」
キャスリンの父は静かに受け取り、封を切った。
読み進めるうちに、眉間の皺が深くなる。
⸻
母
「……また言い訳の羅列かしら?」
父
「いや、“誤解があった”などという言葉では済ませておらん。
宰相自身の筆で“第一王子の行動を遺憾とする”とある」
家族の空気が変わる。
⸻
キャスリン
「ふふ、非公式である時点で“本音”ね。
公には王家の威信を守りたい、でも実際は責任を恐れている」
弟
「つまり、あの裁判が実現すれば“王家の財務”まで表に出る……」
キャスリン
「ええ。国庫がざわつけば、真っ先に責任を取らされるのは宰相。
私たちは、何もせずとも勝つのよ」
⸻
父は軽く笑った。
父
「……まったく、公爵家の管財人が作る請求書に、漏れなどあるまい。
王家がどんなに言い逃れをしても、数字は嘘をつかん」
⸻
キャスリンは紅茶をひと口。
「“請求書ざまぁ”ですわね」
家族の誰もが、くすりと笑った。
⸻
王宮が揺れ、公爵家は揺るがない。
愛も契約も、ここではすべて計算のうち。
この冷たい均衡の中に──
婚約破棄のざわめきがまだ王都を駆け巡っている頃、キャスリンは馬車で自邸に戻ってきた。
扉が開くや否や、玄関ホールに家族が集まっていた。
⸻
父(公爵であり商人)
「おかえり、キャスリン!」
母
「婚約破棄されたらしいわね。?」
弟(やや無邪気)
「いやぁ、殿下があんな馬鹿やるとは思ってたよ」
──冷静なる家族会議
父・公爵
「……思っていた通りだな。
あの王子には、礼儀というものがない。
“婚約者を立てる”という最低限の心得すら持っておらん」
母・公爵夫人
「正直、どちらが上とかいう話ではないのよ。
でもね──王家のやり方は、どうも好きになれないの」
扇子を閉じる音が、キャスリンの中で響いた。
⸻
弟(少し皮肉っぽく)
「結局、“王子教育”の失敗を押しつけられただけだよ。
しつけもできないなら、返すだけだね」
父
「うむ。あの家に“愛”がないのは、誰が見ても明らかだ。
書面をもって正式に“お返し”するとしよう」
キャスリンは微笑んだ。
「さすが、うちの家族は話が早いわ」
家族全員の表情には、怒りよりも冷ややかな理性があった。
それが、どんな政治的動揺よりも恐ろしいと王家はまだ知らない。
キャスリンは扇子を閉じ、優雅に一礼。
しかしその表情は冷静そのものだった。
キャスリン
「──ですので、今から精算の準備に入らねばなりません。
執事のジェームスをお借りしたく存じます」
⸻
父
「おやおや……仕事が早いな。
だが、お手柔らかにな。王家とはまだ縁を切るわけにいかん」
母
「そうそう。身ぐるみはいでも構わないけど──」
父・母(声を揃えて)
「カナタだけにしておけよ!」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、くすりと笑った。
キャスリン
「承知しました。殿下お一人だけ、きっちり裸にして差し上げますわ」
キャスリンが執務室に入ると、すでにジェームスが待機していた。
銀髪を撫でつけ、分厚い帳簿と羽根ペンを机に広げている。
⸻
キャスリン
「ジェームス、例の件をお願いします」
ジェームス
「かしこまりました。すでに商人ギルドへ連絡を入れております。
婚約期間中に動いた資金の流れ、贈答品の鑑定額……すべて洗い出しました」
彼は素早く帳簿をめくり、几帳面な字で記された数値を示す。
⸻
ジェームス
「こちらがカフスや外套などの品──金貨五百枚強。
そして殿下側からの贈り物は……例の“ルビー嬢とのお揃い”ばかり。婚約者への正式な贈答記録は、一切ございません」
キャスリン
「……想定通りですわね」
⸻
その時、別の扉から商人ギルドの使者が入ってきた。
会計用の石版を持ち、深々と頭を下げる。
使者
「ギルド査定の結果、王家への請求総額は──金貨二百三十万枚。
さらに慰謝料を加え、正式な請求額は金貨三百万枚となります」
会場に居合わせた家族からも、思わず感嘆の声が漏れる。
⸻
キャスリン
「よろしい。では、その請求書を正式文書として整えてください。
明朝、王家へ送達いたします」
ジェームス
「承知しました」
⸻
キャスリンは窓辺に立ち、夜空を見上げた。
キャスリン
「これで──殿下も、ルビー嬢も、ただの“請求先”ですわね」
扇子の影に、静かな微笑みが浮かんだ。
非公式の謝罪書簡
家族のいる執務室の扉をノックする音が響いた。
入ってきた執事が、封蝋付きの手紙を恭しく差し出す。
封印には──王家の紋章。
⸻
執事
「宰相閣下より、“非公式の書簡”にございます」
キャスリンの父は静かに受け取り、封を切った。
読み進めるうちに、眉間の皺が深くなる。
⸻
母
「……また言い訳の羅列かしら?」
父
「いや、“誤解があった”などという言葉では済ませておらん。
宰相自身の筆で“第一王子の行動を遺憾とする”とある」
家族の空気が変わる。
⸻
キャスリン
「ふふ、非公式である時点で“本音”ね。
公には王家の威信を守りたい、でも実際は責任を恐れている」
弟
「つまり、あの裁判が実現すれば“王家の財務”まで表に出る……」
キャスリン
「ええ。国庫がざわつけば、真っ先に責任を取らされるのは宰相。
私たちは、何もせずとも勝つのよ」
⸻
父は軽く笑った。
父
「……まったく、公爵家の管財人が作る請求書に、漏れなどあるまい。
王家がどんなに言い逃れをしても、数字は嘘をつかん」
⸻
キャスリンは紅茶をひと口。
「“請求書ざまぁ”ですわね」
家族の誰もが、くすりと笑った。
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愛も契約も、ここではすべて計算のうち。
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