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国外使節の修羅場 婚約は、混戦
──その翌日。
キャスリン邸の庭園に、再び豪奢な馬車が並んだ。
今度は各国の使節が一堂に会し、揃ってサロンに押し寄せてきた。
⸻
隣国の王弟殿下
「キャスリン嬢、今すぐ我が国に嫁いでいただきたい!」
帝国侯爵家嫡男
「馬鹿を言うな。帝国こそが彼女にふさわしい! 契約書はすでに用意してある!」
大公国の使者
「どちらも引け! 我が大公は“即決の婚姻”を望んでおられる!」
⸻
場はたちまち言い争いとなり、机を叩く音、怒鳴り声が飛び交う。
カップが倒れ、紅茶が床にこぼれていく。
⸻
キャスリンは優雅に扇子を動かしながら、一歩も動かない。
その横で、アベルが顔色を変え、必死に止めに入る。
アベル
「やめろ! ここは王国の領内だぞ!
彼女を奪い合って騒乱を起こせば、国際問題になる!」
帝国侯爵家嫡男
「ならば、なおさら急がねば! 彼女を手にする者が勝つのだ!」
⸻
ジェームス執事がため息をつき、主人の耳元に囁いた。
ジェームス
「お嬢様……少々、庭園が戦場めいてきましたが、どういたします?」
⸻
キャスリンは紅茶を一口すすり、カップをそっと置いた。
キャスリン
「……どうしようかしらね。
放っておいてもいいけれど、うるさくて本が読めないのは困るわ」
扇子をぱちんと鳴らし、静かに立ち上がる。
キャスリン
「──静かにしなさい。
ここは私の屋敷。私が望まぬ婚姻話で騒がれるのは、迷惑ですわ」
⸻
一瞬で場が凍りつき、各国の使節が言葉を失う。
その背後で、アベルだけが「……やはり、この人を守れるのは自分しかいない」と胸の内で固く決意するのだった。
(アベルの再プロポーズ)
騒乱を一喝で収めたキャスリン。
サロンに沈黙が訪れる。
国外の使節団が口をつぐむ中、アベルだけが前に出て深く頭を下げた。
⸻
アベル
「キャスリン嬢……いや、キャスリン。
どうか、この国に残ってほしい」
場がざわめく。
第二王子が、公衆の面前で彼女を“名で呼んだ”のだ。
⸻
アベル
「私の兄の愚行で、あなたを傷つけたことは重々承知している。
それでも──あなたを国外に奪われては、この国は立ちゆかぬ。
国家のためだけではない。私は……あなたに残ってほしいんだ」
真っ直ぐな声。
彼はそのまま片膝をつき、震える手で差し出した。
アベル
「契約結婚でも構わない。形式でもいい。
ただ、この国に、私の隣にいてくれ」
⸻
キャスリンは扇子を閉じ、涼しい視線で見下ろした。
キャスリン
「……本当にしつこいですわね。
私が欲しいのは“本を読む時間”と“紅茶の香り”。
殿下と結婚して、それが叶うとでも?」
アベルの顔がわずかに歪む。
だが、すぐに力強い眼差しで言い返した。
アベル
「叶えよう。
どんな本でも取り寄せる。どんな茶葉でも揃える。
──それでも駄目か?」
⸻
キャスリンは一瞬、驚いたように彼を見つめた。
しかしすぐに、口元に皮肉めいた笑みを浮かべる。
キャスリン
「……まあ、考えてあげなくもありませんわ。
ただし、私の邪魔をしないこと。それが条件です」
⸻
国外の使節たちは言葉を失い、アベルは深々と頷いた。
アベル
「約束しよう。君の自由を奪う者から、私が必ず守る」
(アベル、城で直訴)
──王城、玉座の間。
アベルは騎士に先導され、国王と王妃の前に進み出た。
⸻
アベル
「父上、母上。
私は本日、重大な報告とお願いがあり参りました」
国王と王妃が視線を向ける。
アベルは真っ直ぐ背を伸ばし、堂々と告げた。
⸻
アベル
「兄カナタは、公爵令嬢キャスリンを愚弄し、賠償金を発生させ、王家を国中の笑い者にしました。
もはや──王太子の資格はございません」
廷臣たちがざわめく。
アベルは一歩踏み出し、言葉を続けた。
⸻
アベル
「私は、キャスリン嬢をこの国に留めるため、王太子として正式に求婚したい。
第二王子のままでは、国外の大公や侯爵に勝てません!
上が“不良債権”では、国の未来は守れないのです!」
⸻
玉座に座る国王が、思わずむっと眉をひそめた。
国王
「……不良債権とは、失礼な言い方だな」
アベル
「事実です!」
国王の顔に、苦い笑いが浮かぶ。
周囲の廷臣たちは顔を見合わせ、重苦しい沈黙の中に微かな期待の色を帯びていた。
⸻
王妃
「陛下……アベルの言葉も一理ありますわ。
キャスリン嬢は、すでに国外からも縁談が殺到しているとか。
失えば、国際的に大きな損失となりましょう」
国王は深く息を吐き、背凭れに身を沈める。
⸻
国王
「……カナタを廃嫡し、アベルを王太子とするか。
それが、この国に残された唯一の手なのかもしれんな」
(王太子からの正式求婚)
──キャスリン邸。
午後のサロンに、王城の紋章入りの重厚な書状が届けられた。
執事ジェームスが恭しく差し出す。
⸻
ジェームス
「お嬢様。これは──王城より、“王太子”の名で届けられた正式な求婚状にございます」
母
「まあ……! とうとう、第二王子殿下が王太子に」
弟
「姉上に、正式な求婚か! やっぱり時代は動いてるなあ」
⸻
キャスリンはカップを置き、ゆったりと封を切った。
中には、丁寧な文言で綴られた「王太子アベル殿下からの結婚の申し込み」が記されている。
彼女は読み終えると、扇子で口元を隠しながら小さく笑った。
⸻
キャスリン
「これなら……賠償額が、ぐっと減るわけね。
国も“婚約破棄の失態”を帳消しにしたいでしょうし」
ジェームス
「お嬢様……ずいぶん実務的な感想で」
キャスリン
「愚鈍な兄より、アベル殿下のほうが国にとってはいいかもしれません。
……もっとも、私にとって“邪魔にならないかどうか”が一番大事ですけどね」
⸻
家族たちは顔を見合わせ、苦笑する。
だが誰も反対する者はいなかった。
キャスリンの視線はすでに、書物と紅茶に戻っている。
キャスリン邸の庭園に、再び豪奢な馬車が並んだ。
今度は各国の使節が一堂に会し、揃ってサロンに押し寄せてきた。
⸻
隣国の王弟殿下
「キャスリン嬢、今すぐ我が国に嫁いでいただきたい!」
帝国侯爵家嫡男
「馬鹿を言うな。帝国こそが彼女にふさわしい! 契約書はすでに用意してある!」
大公国の使者
「どちらも引け! 我が大公は“即決の婚姻”を望んでおられる!」
⸻
場はたちまち言い争いとなり、机を叩く音、怒鳴り声が飛び交う。
カップが倒れ、紅茶が床にこぼれていく。
⸻
キャスリンは優雅に扇子を動かしながら、一歩も動かない。
その横で、アベルが顔色を変え、必死に止めに入る。
アベル
「やめろ! ここは王国の領内だぞ!
彼女を奪い合って騒乱を起こせば、国際問題になる!」
帝国侯爵家嫡男
「ならば、なおさら急がねば! 彼女を手にする者が勝つのだ!」
⸻
ジェームス執事がため息をつき、主人の耳元に囁いた。
ジェームス
「お嬢様……少々、庭園が戦場めいてきましたが、どういたします?」
⸻
キャスリンは紅茶を一口すすり、カップをそっと置いた。
キャスリン
「……どうしようかしらね。
放っておいてもいいけれど、うるさくて本が読めないのは困るわ」
扇子をぱちんと鳴らし、静かに立ち上がる。
キャスリン
「──静かにしなさい。
ここは私の屋敷。私が望まぬ婚姻話で騒がれるのは、迷惑ですわ」
⸻
一瞬で場が凍りつき、各国の使節が言葉を失う。
その背後で、アベルだけが「……やはり、この人を守れるのは自分しかいない」と胸の内で固く決意するのだった。
(アベルの再プロポーズ)
騒乱を一喝で収めたキャスリン。
サロンに沈黙が訪れる。
国外の使節団が口をつぐむ中、アベルだけが前に出て深く頭を下げた。
⸻
アベル
「キャスリン嬢……いや、キャスリン。
どうか、この国に残ってほしい」
場がざわめく。
第二王子が、公衆の面前で彼女を“名で呼んだ”のだ。
⸻
アベル
「私の兄の愚行で、あなたを傷つけたことは重々承知している。
それでも──あなたを国外に奪われては、この国は立ちゆかぬ。
国家のためだけではない。私は……あなたに残ってほしいんだ」
真っ直ぐな声。
彼はそのまま片膝をつき、震える手で差し出した。
アベル
「契約結婚でも構わない。形式でもいい。
ただ、この国に、私の隣にいてくれ」
⸻
キャスリンは扇子を閉じ、涼しい視線で見下ろした。
キャスリン
「……本当にしつこいですわね。
私が欲しいのは“本を読む時間”と“紅茶の香り”。
殿下と結婚して、それが叶うとでも?」
アベルの顔がわずかに歪む。
だが、すぐに力強い眼差しで言い返した。
アベル
「叶えよう。
どんな本でも取り寄せる。どんな茶葉でも揃える。
──それでも駄目か?」
⸻
キャスリンは一瞬、驚いたように彼を見つめた。
しかしすぐに、口元に皮肉めいた笑みを浮かべる。
キャスリン
「……まあ、考えてあげなくもありませんわ。
ただし、私の邪魔をしないこと。それが条件です」
⸻
国外の使節たちは言葉を失い、アベルは深々と頷いた。
アベル
「約束しよう。君の自由を奪う者から、私が必ず守る」
(アベル、城で直訴)
──王城、玉座の間。
アベルは騎士に先導され、国王と王妃の前に進み出た。
⸻
アベル
「父上、母上。
私は本日、重大な報告とお願いがあり参りました」
国王と王妃が視線を向ける。
アベルは真っ直ぐ背を伸ばし、堂々と告げた。
⸻
アベル
「兄カナタは、公爵令嬢キャスリンを愚弄し、賠償金を発生させ、王家を国中の笑い者にしました。
もはや──王太子の資格はございません」
廷臣たちがざわめく。
アベルは一歩踏み出し、言葉を続けた。
⸻
アベル
「私は、キャスリン嬢をこの国に留めるため、王太子として正式に求婚したい。
第二王子のままでは、国外の大公や侯爵に勝てません!
上が“不良債権”では、国の未来は守れないのです!」
⸻
玉座に座る国王が、思わずむっと眉をひそめた。
国王
「……不良債権とは、失礼な言い方だな」
アベル
「事実です!」
国王の顔に、苦い笑いが浮かぶ。
周囲の廷臣たちは顔を見合わせ、重苦しい沈黙の中に微かな期待の色を帯びていた。
⸻
王妃
「陛下……アベルの言葉も一理ありますわ。
キャスリン嬢は、すでに国外からも縁談が殺到しているとか。
失えば、国際的に大きな損失となりましょう」
国王は深く息を吐き、背凭れに身を沈める。
⸻
国王
「……カナタを廃嫡し、アベルを王太子とするか。
それが、この国に残された唯一の手なのかもしれんな」
(王太子からの正式求婚)
──キャスリン邸。
午後のサロンに、王城の紋章入りの重厚な書状が届けられた。
執事ジェームスが恭しく差し出す。
⸻
ジェームス
「お嬢様。これは──王城より、“王太子”の名で届けられた正式な求婚状にございます」
母
「まあ……! とうとう、第二王子殿下が王太子に」
弟
「姉上に、正式な求婚か! やっぱり時代は動いてるなあ」
⸻
キャスリンはカップを置き、ゆったりと封を切った。
中には、丁寧な文言で綴られた「王太子アベル殿下からの結婚の申し込み」が記されている。
彼女は読み終えると、扇子で口元を隠しながら小さく笑った。
⸻
キャスリン
「これなら……賠償額が、ぐっと減るわけね。
国も“婚約破棄の失態”を帳消しにしたいでしょうし」
ジェームス
「お嬢様……ずいぶん実務的な感想で」
キャスリン
「愚鈍な兄より、アベル殿下のほうが国にとってはいいかもしれません。
……もっとも、私にとって“邪魔にならないかどうか”が一番大事ですけどね」
⸻
家族たちは顔を見合わせ、苦笑する。
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