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アベル、サファイアを知っていた。
キャスリンの報告を聞いたアベルは、しばらく沈黙したあと、静かに目を伏せた。
⸻
アベル
「……君も見てしまったか、サファイアを」
キャスリンの瞳が鋭く細められる。
キャスリン
「やはり、ご存知でしたのね」
⸻
アベルは深く息を吐き、机に両手を置いた。
アベル
「白状すると、私は……ずっと前から知っていた。ただ生まれたばかりだと思っていた。
兄上とルビーの間に生まれた子がいることも、その瞳が“王族の証”であることも。
だが、国を揺るがすあまりに、この事実を公にはできなかった」
⸻
キャスリンは紅茶をひと口すし、冷ややかに言う。
キャスリン
「つまり、殿下は隠していた。
兄上の不始末を──国のために、ですか」
アベル
「……ああ。だが今は違う。
この事実を隠せば、いずれもっと大きな火種になる。
だからこそ──君にだけは打ち明けたい」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、微笑む。
キャスリン
「まあ。ずいぶんと信頼してくださるのね。
……でも安心なさい。私は誰にも言わないわ。
ただ、必要な時には──切り札として使わせてもらいますけれど」
⸻
アベルは驚いたように目を見開いたが、すぐに苦笑する。
アベル
「やはり君は……恐ろしく賢い」
キャスリンは涼しい顔で紅茶を置く。
キャスリン
「殿下。私はただ、邪魔くさいことが嫌いなだけですわ」
(サファイア、王宮に取り残される)
──王宮。
ある日、侍女たちの間に衝撃の噂が走った。
⸻
侍女A
「ルビー様……逃げたそうよ」
侍女B
「しかも……お子様を置いて行かれたって」
⸻
その子供こそ、金髪に青い瞳のサファイア。
広い廊下の片隅で、まだ幼い彼女は心細げに座り込んでいた。
サファイア
「……お母さま、ここで待っててって……」
涙で頬を濡らしながらも、懸命に母の言葉を信じて待っている。
⸻
しかし、カナタはすでに幽閉の身。
彼も“父”として保護できない。
廷臣たちも囁き合う。
廷臣A
「カナタ殿下の子なら、王族の血……」
廷臣B
「だが正式な婚姻もない。扱いは……微妙だ」
廷臣C
「誰が保護する? このままではただの孤児と同じだ」
⸻
そのとき、サファイアの前に現れたのはキャスリンだった。
キャスリン
「……まあ。こんな小さな子を置き去りにするなんて」
サファイアが涙目で駆け寄り、スカートにしがみつく。
サファイア
「おねえさま……また会えた! お母さまは、まだ?」
キャスリンはしゃがみ込み、子の髪を優しく撫でた。
キャスリン
「(……ええ。けれど……お母さまは、もう戻らないでしょうね)」
⸻
キャスリンはゆっくりと抱き上げる。
その瞳には、冷静さとわずかな怒り、そして深い決意が宿っていた。
キャスリン(心の声)
「……王族の印を持つ子が、誰にも守られず取り残されるなんて。
邪魔くさいことは嫌いだけれど……この子を放っておけるほど、私は冷たくない」
(サファイアを預かると宣言)
──王宮、小会議室。
キャスリンは静かにサファイアを抱いて現れた。
アベルは驚きの表情で立ち上がる。
⸻
アベル
「キャスリン……その子は──」
キャスリン
「ええ、サファイア。殿下もご存知の通り、カナタ殿下とルビーの子ですわ」
アベルは苦い顔をして頷く。
⸻
キャスリンは椅子に腰掛け、サファイアを膝に座らせた。
その姿は自然で、まるで本物の母娘のようだった。
キャスリン
「殿下。この子を、私が預かります。
どうせ私と殿下の結婚は“白い結婚”──愛のない形だけのもの。
ならば、この子を跡継ぎに据えたほうが国のためにも良いのではなくて?」
⸻
アベルは息を呑む。
アベル
「……キャスリン。それは……君がその重荷を背負うことになる」
キャスリン
「背負う? 私はただ、この子が二歳にして捨てられるのを黙って見ていられなかっただけですわ。
邪魔くさいと思いながらも、抱いてしまった以上は、放り出せませんもの」
⸻
サファイアがキャスリンの服を掴み、無邪気に笑った。
サファイア
「おねえさま……だいすき!」
キャスリンは一瞬、表情を和らげ、サファイアを抱きしめる。
⸻
アベルは胸に込み上げるものを必死に抑えた。
アベル
「……君は本当に、強い。
ならば、この子を私たちの跡継ぎにすること……王太子として前向きに考えよう」
キャスリンは涼しい笑みを浮かべる。
キャスリン
「そうですわね。愛だの恋だのに振り回されるより、ずっと実用的ですわ」
(国王夫妻への公式宣言)
──王宮・謁見の間。
国王と王妃が玉座に座り、廷臣たちが列をなす。
キャスリンはサファイアを抱いて進み出た。
⸻
国王
「……その子は」
キャスリン
「はい、カナタ殿下とルビー嬢の子、サファイアです。
ルビーは逃げ、カナタ殿下は幽閉。
──誰もこの子を守る者がいないのなら、私が預かります」
⸻
廷臣たちがざわめく。
王妃は眉をひそめた。
王妃
「しかし……彼女の血統は王族に連なるもの。扱いは慎重でなければ」
キャスリンは一歩進み、澄んだ声で告げる。
キャスリン
「だからこそ、です。
この子が“誰にも庇護されない王族”として孤立することは、国の恥。
私とアベル殿下の婚姻が形式的なものでも──この子を跡継ぎ候補に据えることで、王家の未来を安定させられます」
⸻
国王はしばし沈黙し、やがて深く頷いた。
国王
「……確かに道理だ。
ならば、この子をお前に託す。キャスリン、王家の名において」
⸻
廷臣たちが一斉に頭を垂れる。
キャスリンはサファイアを抱き直し、静かに一礼した。
⸻
その横でアベルが一歩前に出る。
真剣な瞳でキャスリンを見つめる。
アベル
「キャスリン……君は“白い結婚”と呼んだ。
だが、私はあきらめない。
この子と君と、いつかは本当の家族になることを──」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、涼やかに笑った。
キャスリン
「……ご自由にどうぞ。
私はただ、静かな読書と紅茶の時間が守られれば、それで十分ですわ」
しかしその腕の中で眠るサファイアの温もりに、彼女の心はわずかに揺れていた。
⸻
アベル
「……君も見てしまったか、サファイアを」
キャスリンの瞳が鋭く細められる。
キャスリン
「やはり、ご存知でしたのね」
⸻
アベルは深く息を吐き、机に両手を置いた。
アベル
「白状すると、私は……ずっと前から知っていた。ただ生まれたばかりだと思っていた。
兄上とルビーの間に生まれた子がいることも、その瞳が“王族の証”であることも。
だが、国を揺るがすあまりに、この事実を公にはできなかった」
⸻
キャスリンは紅茶をひと口すし、冷ややかに言う。
キャスリン
「つまり、殿下は隠していた。
兄上の不始末を──国のために、ですか」
アベル
「……ああ。だが今は違う。
この事実を隠せば、いずれもっと大きな火種になる。
だからこそ──君にだけは打ち明けたい」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、微笑む。
キャスリン
「まあ。ずいぶんと信頼してくださるのね。
……でも安心なさい。私は誰にも言わないわ。
ただ、必要な時には──切り札として使わせてもらいますけれど」
⸻
アベルは驚いたように目を見開いたが、すぐに苦笑する。
アベル
「やはり君は……恐ろしく賢い」
キャスリンは涼しい顔で紅茶を置く。
キャスリン
「殿下。私はただ、邪魔くさいことが嫌いなだけですわ」
(サファイア、王宮に取り残される)
──王宮。
ある日、侍女たちの間に衝撃の噂が走った。
⸻
侍女A
「ルビー様……逃げたそうよ」
侍女B
「しかも……お子様を置いて行かれたって」
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その子供こそ、金髪に青い瞳のサファイア。
広い廊下の片隅で、まだ幼い彼女は心細げに座り込んでいた。
サファイア
「……お母さま、ここで待っててって……」
涙で頬を濡らしながらも、懸命に母の言葉を信じて待っている。
⸻
しかし、カナタはすでに幽閉の身。
彼も“父”として保護できない。
廷臣たちも囁き合う。
廷臣A
「カナタ殿下の子なら、王族の血……」
廷臣B
「だが正式な婚姻もない。扱いは……微妙だ」
廷臣C
「誰が保護する? このままではただの孤児と同じだ」
⸻
そのとき、サファイアの前に現れたのはキャスリンだった。
キャスリン
「……まあ。こんな小さな子を置き去りにするなんて」
サファイアが涙目で駆け寄り、スカートにしがみつく。
サファイア
「おねえさま……また会えた! お母さまは、まだ?」
キャスリンはしゃがみ込み、子の髪を優しく撫でた。
キャスリン
「(……ええ。けれど……お母さまは、もう戻らないでしょうね)」
⸻
キャスリンはゆっくりと抱き上げる。
その瞳には、冷静さとわずかな怒り、そして深い決意が宿っていた。
キャスリン(心の声)
「……王族の印を持つ子が、誰にも守られず取り残されるなんて。
邪魔くさいことは嫌いだけれど……この子を放っておけるほど、私は冷たくない」
(サファイアを預かると宣言)
──王宮、小会議室。
キャスリンは静かにサファイアを抱いて現れた。
アベルは驚きの表情で立ち上がる。
⸻
アベル
「キャスリン……その子は──」
キャスリン
「ええ、サファイア。殿下もご存知の通り、カナタ殿下とルビーの子ですわ」
アベルは苦い顔をして頷く。
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キャスリンは椅子に腰掛け、サファイアを膝に座らせた。
その姿は自然で、まるで本物の母娘のようだった。
キャスリン
「殿下。この子を、私が預かります。
どうせ私と殿下の結婚は“白い結婚”──愛のない形だけのもの。
ならば、この子を跡継ぎに据えたほうが国のためにも良いのではなくて?」
⸻
アベルは息を呑む。
アベル
「……キャスリン。それは……君がその重荷を背負うことになる」
キャスリン
「背負う? 私はただ、この子が二歳にして捨てられるのを黙って見ていられなかっただけですわ。
邪魔くさいと思いながらも、抱いてしまった以上は、放り出せませんもの」
⸻
サファイアがキャスリンの服を掴み、無邪気に笑った。
サファイア
「おねえさま……だいすき!」
キャスリンは一瞬、表情を和らげ、サファイアを抱きしめる。
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アベルは胸に込み上げるものを必死に抑えた。
アベル
「……君は本当に、強い。
ならば、この子を私たちの跡継ぎにすること……王太子として前向きに考えよう」
キャスリンは涼しい笑みを浮かべる。
キャスリン
「そうですわね。愛だの恋だのに振り回されるより、ずっと実用的ですわ」
(国王夫妻への公式宣言)
──王宮・謁見の間。
国王と王妃が玉座に座り、廷臣たちが列をなす。
キャスリンはサファイアを抱いて進み出た。
⸻
国王
「……その子は」
キャスリン
「はい、カナタ殿下とルビー嬢の子、サファイアです。
ルビーは逃げ、カナタ殿下は幽閉。
──誰もこの子を守る者がいないのなら、私が預かります」
⸻
廷臣たちがざわめく。
王妃は眉をひそめた。
王妃
「しかし……彼女の血統は王族に連なるもの。扱いは慎重でなければ」
キャスリンは一歩進み、澄んだ声で告げる。
キャスリン
「だからこそ、です。
この子が“誰にも庇護されない王族”として孤立することは、国の恥。
私とアベル殿下の婚姻が形式的なものでも──この子を跡継ぎ候補に据えることで、王家の未来を安定させられます」
⸻
国王はしばし沈黙し、やがて深く頷いた。
国王
「……確かに道理だ。
ならば、この子をお前に託す。キャスリン、王家の名において」
⸻
廷臣たちが一斉に頭を垂れる。
キャスリンはサファイアを抱き直し、静かに一礼した。
⸻
その横でアベルが一歩前に出る。
真剣な瞳でキャスリンを見つめる。
アベル
「キャスリン……君は“白い結婚”と呼んだ。
だが、私はあきらめない。
この子と君と、いつかは本当の家族になることを──」
⸻
キャスリンは扇子で口元を隠し、涼やかに笑った。
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