13 / 18
愛を伝えたい
宰相のアドバイス)
──執務室。
アベルは報告書をまとめながら、宰相の言葉を聞いていた。
宰相
「殿下、形だけは“家族”になっておりますな。
東屋で三人並べば、誰の目にも立派な一家に見えるでしょう。
──しかし、それは上辺にすぎません」
アベルの手が止まる。
アベル
「……まだ家族ではない、と?」
宰相
「はい。王族に足りないもの……それは“愛”です。
キャスリン様はサファイア様に愛を伝えておられる。
ですが殿下は“義務”で支えているにすぎません。
女は、その違いを敏感に見抜くものです」
⸻
アベルは息を呑み、背凭れに沈んだ。
アベル(心の声)
「愛……私はそれを知らない。
知らないから、作り出せないのか……。
義務ばかりで、心を捧げたことがない。
だから……表面を整えても、キャスリンには伝わらないのだな」
⸻
宰相は静かに一礼し、去り際に言葉を残す。
宰相
「愛を学ばれることです、殿下。
それができれば、キャスリン様にも必ず伝わりましょう」
ぎこちない愛情表現)
──王宮・図書室。
キャスリンは紅茶を飲みながら、静かに本をめくっていた。
傍らでサファイアが絵本を広げて遊んでいる。
そこへアベルが現れ、少し落ち着かない様子で立ち止まった。
⸻
アベル
「キャスリン……その、本を読む姿……美しい」
キャスリンはページをめくる手を止め、扇子で口元を隠す。
キャスリン
「……殿下。無理にお世辞を言うのは趣味が悪いですわよ」
アベル
「ち、違う! 本心だ。
私は……君の横顔を見るたびに、心が安らぐのだ」
⸻
サファイアがぱっと顔を上げる。
サファイア
「わぁ! おとうさま、はずかしいこと言った!」
キャスリンは肩を震わせ、思わず笑みを漏らした。
キャスリン
「……まぁ。殿下がそんな顔をなさるの、初めて見ましたわ」
⸻
アベルは顔を赤らめながらも、必死に続ける。
アベル
「私は……まだ不器用だ。だが、義務ではなく……
君に“愛”を伝えたいと、そう思っている」
キャスリンは一瞬だけ目を見開き、すぐに扇子を閉じた。
キャスリン
「……邪魔くさいことを。
ですが──努力は認めましょう」
⸻
サファイアが楽しげに拍手をする。
サファイア
「おかあさま、よかったね! おとうさま、がんばった!」
キャスリンは頬をわずかに染めながら、
「ええ、まぁ」とそっけなく答える。
しかし紅茶のカップを持つ手は、ほんの少しだけ震えていた。
キャスリン邸でのサファイア)
──公爵家の屋敷。
キャスリンがサファイアを連れて帰ると、家族や使用人たちが一斉に驚いた。
母公爵夫人
「まぁ……なんて可愛らしい子」
サファイア
「こんにちは! おかあさまのおうちですか?」
にっこりと挨拶するサファイア。
召使い達も思わず頬を緩め、誰もが自然と笑顔になる。
⸻
キャスリンはその光景を眺めながら、扇子で口元を隠して小さく呟いた。
キャスリン(心の声)
「……どうしてかしら。
何も持っていないはずのこの子が、一番素直に人の心に溶け込んでしまうなんて」
⸻
サファイアは庭師に花をもらっては嬉しそうに笑い、厨房のメイドに焼き菓子をもらって「ありがとう!」と跳ねる。
そのたびに周囲の者たちが和み、空気が温かく変わっていく。
⸻
キャスリン(心の声)
「私はずっと“愛なんて邪魔くさい”と思っていた。
けれど……愛を知らずに捨てられたはずのこの子が、誰よりもまっすぐに愛を求めている。
それに応えることが、こんなにも心を軽くするなんて」
キャスリンはサファイアの髪をそっと撫でた。
サファイア
「おかあさま!」
小さな声に、胸がふっと熱くなる。
アベル来訪)
──公爵家・客間。
応接室の扉が開き、アベルが入ってくる。
落ち着いた礼を見せる彼に、キャスリンは扇子を軽く開き、いつも通りの冷ややかな表情で迎えようとした。
だがその前に──
サファイア
「おとうさまーーっ!」
小さな足音がぱたぱたと響き、サファイアが勢いよくアベルに飛びついた。
⸻
アベルは驚いたが、すぐに微笑みを浮かべ、両腕でその小さな体を受け止める。
アベル
「……ただいま、サファイア」
サファイア
「おかあさまと待ってたの!」
⸻
キャスリンの頬がかすかに赤く染まる。
扇子で口元を隠し、取り繕うように声を出す。
キャスリン
「……あの子は無邪気すぎますわ。
“おかあさま”に続いて、“おとうさま”まで勝手に決めてしまうなんて」
⸻
アベルはサファイアを抱き上げたまま、真剣な眼差しでキャスリンを見つめる。
アベル
「だが……悪くない呼び名だと思わないか?」
キャスリン
「っ……!」
扇子の影に隠した頬がさらに赤くなる。
彼女はそっけなく視線を逸らし、紅茶を口にした。
キャスリン
「……邪魔くさい、ほんとに」
だが、その声はどこか震えていた。
(キャスリンの気づき)
──夜の書斎。
キャスリンとアベルが向かい合い、テーブルには眠りについたサファイアの小さな寝息が響いている。
キャスリンは静かに紅茶を置き、目を伏せて言った。
キャスリン
「……あの子は、愛が足りないから、あんなにニコニコしているのよ」
アベル
「……ニコニコ、しているからではなく?」
キャスリン
「違いますわ。
人見知りすることもできないのよ。
“嫌われたら捨てられる”と、どこかで分かっているから……誰にでも笑って、必死にしがみついているのです」
アベルの表情が固まる。
⸻
キャスリンはサファイアの髪を撫でながら、かすかに眉を寄せた。
キャスリン
「あなたのことも“おとうさま”と呼ぶのは……捨てられないための必死さ。
私を“おかあさま”と呼ぶのも、同じ。
……あの子は、本当は必死に生き延びようとしているのよ」
⸻
アベルは深く息を吐き、視線を落とす。
その手が震え、拳を強く握りしめる。
アベル
「……なんと残酷なことだ。
親に捨てられた幼子が、愛を知らぬまま、愛を求めて笑っている……。
ならば、私は必ず──あの子に“本物の愛”を与えてみせる」
⸻
キャスリンは一瞬だけアベルを見つめ、扇子で口元を隠した。
キャスリン(心の声)
「……殿下。義務ではなく“愛”を語るあなたを見る日が来るなんて。
本当に……邪魔くさい方ですわ」
──執務室。
アベルは報告書をまとめながら、宰相の言葉を聞いていた。
宰相
「殿下、形だけは“家族”になっておりますな。
東屋で三人並べば、誰の目にも立派な一家に見えるでしょう。
──しかし、それは上辺にすぎません」
アベルの手が止まる。
アベル
「……まだ家族ではない、と?」
宰相
「はい。王族に足りないもの……それは“愛”です。
キャスリン様はサファイア様に愛を伝えておられる。
ですが殿下は“義務”で支えているにすぎません。
女は、その違いを敏感に見抜くものです」
⸻
アベルは息を呑み、背凭れに沈んだ。
アベル(心の声)
「愛……私はそれを知らない。
知らないから、作り出せないのか……。
義務ばかりで、心を捧げたことがない。
だから……表面を整えても、キャスリンには伝わらないのだな」
⸻
宰相は静かに一礼し、去り際に言葉を残す。
宰相
「愛を学ばれることです、殿下。
それができれば、キャスリン様にも必ず伝わりましょう」
ぎこちない愛情表現)
──王宮・図書室。
キャスリンは紅茶を飲みながら、静かに本をめくっていた。
傍らでサファイアが絵本を広げて遊んでいる。
そこへアベルが現れ、少し落ち着かない様子で立ち止まった。
⸻
アベル
「キャスリン……その、本を読む姿……美しい」
キャスリンはページをめくる手を止め、扇子で口元を隠す。
キャスリン
「……殿下。無理にお世辞を言うのは趣味が悪いですわよ」
アベル
「ち、違う! 本心だ。
私は……君の横顔を見るたびに、心が安らぐのだ」
⸻
サファイアがぱっと顔を上げる。
サファイア
「わぁ! おとうさま、はずかしいこと言った!」
キャスリンは肩を震わせ、思わず笑みを漏らした。
キャスリン
「……まぁ。殿下がそんな顔をなさるの、初めて見ましたわ」
⸻
アベルは顔を赤らめながらも、必死に続ける。
アベル
「私は……まだ不器用だ。だが、義務ではなく……
君に“愛”を伝えたいと、そう思っている」
キャスリンは一瞬だけ目を見開き、すぐに扇子を閉じた。
キャスリン
「……邪魔くさいことを。
ですが──努力は認めましょう」
⸻
サファイアが楽しげに拍手をする。
サファイア
「おかあさま、よかったね! おとうさま、がんばった!」
キャスリンは頬をわずかに染めながら、
「ええ、まぁ」とそっけなく答える。
しかし紅茶のカップを持つ手は、ほんの少しだけ震えていた。
キャスリン邸でのサファイア)
──公爵家の屋敷。
キャスリンがサファイアを連れて帰ると、家族や使用人たちが一斉に驚いた。
母公爵夫人
「まぁ……なんて可愛らしい子」
サファイア
「こんにちは! おかあさまのおうちですか?」
にっこりと挨拶するサファイア。
召使い達も思わず頬を緩め、誰もが自然と笑顔になる。
⸻
キャスリンはその光景を眺めながら、扇子で口元を隠して小さく呟いた。
キャスリン(心の声)
「……どうしてかしら。
何も持っていないはずのこの子が、一番素直に人の心に溶け込んでしまうなんて」
⸻
サファイアは庭師に花をもらっては嬉しそうに笑い、厨房のメイドに焼き菓子をもらって「ありがとう!」と跳ねる。
そのたびに周囲の者たちが和み、空気が温かく変わっていく。
⸻
キャスリン(心の声)
「私はずっと“愛なんて邪魔くさい”と思っていた。
けれど……愛を知らずに捨てられたはずのこの子が、誰よりもまっすぐに愛を求めている。
それに応えることが、こんなにも心を軽くするなんて」
キャスリンはサファイアの髪をそっと撫でた。
サファイア
「おかあさま!」
小さな声に、胸がふっと熱くなる。
アベル来訪)
──公爵家・客間。
応接室の扉が開き、アベルが入ってくる。
落ち着いた礼を見せる彼に、キャスリンは扇子を軽く開き、いつも通りの冷ややかな表情で迎えようとした。
だがその前に──
サファイア
「おとうさまーーっ!」
小さな足音がぱたぱたと響き、サファイアが勢いよくアベルに飛びついた。
⸻
アベルは驚いたが、すぐに微笑みを浮かべ、両腕でその小さな体を受け止める。
アベル
「……ただいま、サファイア」
サファイア
「おかあさまと待ってたの!」
⸻
キャスリンの頬がかすかに赤く染まる。
扇子で口元を隠し、取り繕うように声を出す。
キャスリン
「……あの子は無邪気すぎますわ。
“おかあさま”に続いて、“おとうさま”まで勝手に決めてしまうなんて」
⸻
アベルはサファイアを抱き上げたまま、真剣な眼差しでキャスリンを見つめる。
アベル
「だが……悪くない呼び名だと思わないか?」
キャスリン
「っ……!」
扇子の影に隠した頬がさらに赤くなる。
彼女はそっけなく視線を逸らし、紅茶を口にした。
キャスリン
「……邪魔くさい、ほんとに」
だが、その声はどこか震えていた。
(キャスリンの気づき)
──夜の書斎。
キャスリンとアベルが向かい合い、テーブルには眠りについたサファイアの小さな寝息が響いている。
キャスリンは静かに紅茶を置き、目を伏せて言った。
キャスリン
「……あの子は、愛が足りないから、あんなにニコニコしているのよ」
アベル
「……ニコニコ、しているからではなく?」
キャスリン
「違いますわ。
人見知りすることもできないのよ。
“嫌われたら捨てられる”と、どこかで分かっているから……誰にでも笑って、必死にしがみついているのです」
アベルの表情が固まる。
⸻
キャスリンはサファイアの髪を撫でながら、かすかに眉を寄せた。
キャスリン
「あなたのことも“おとうさま”と呼ぶのは……捨てられないための必死さ。
私を“おかあさま”と呼ぶのも、同じ。
……あの子は、本当は必死に生き延びようとしているのよ」
⸻
アベルは深く息を吐き、視線を落とす。
その手が震え、拳を強く握りしめる。
アベル
「……なんと残酷なことだ。
親に捨てられた幼子が、愛を知らぬまま、愛を求めて笑っている……。
ならば、私は必ず──あの子に“本物の愛”を与えてみせる」
⸻
キャスリンは一瞬だけアベルを見つめ、扇子で口元を隠した。
キャスリン(心の声)
「……殿下。義務ではなく“愛”を語るあなたを見る日が来るなんて。
本当に……邪魔くさい方ですわ」
あなたにおすすめの小説
「退屈な女だ」と婚約破棄されたので去りましたが、翌日から国政が止まったそうです。え、私はもう存じませんけど?
にたまご
恋愛
公爵令嬢クラーラは、ユリウス王太子殿下に婚約を破棄された。
「退屈な女だ」「何の取り柄もない」と。
否定はしない。
けれど殿下が知らないだけで、通商条約も予算案も外交書簡も、この国の政務の大半を六年間匿名で回していたのは──この「退屈な女」だ。
婚約破棄の翌朝、宰相補佐官のレオンが焼き菓子と四十二件の緊急報告を携えて公爵邸を訪れる。
「貴女がいなくなった王宮は、控えめに申し上げて、地獄です」
──存じません。私はもう、ただの無職ですので。
「では、ごきげんよう」と去った悪役令嬢は破滅すら置き去りにして
東雲れいな
恋愛
「悪役令嬢」と噂される伯爵令嬢・ローズ。王太子殿下の婚約者候補だというのに、ヒロインから王子を奪おうなんて野心はまるでありません。むしろ彼女は、“わたくしはわたくしらしく”と胸を張り、周囲の冷たい視線にも毅然と立ち向かいます。
破滅を甘受する覚悟すらあった彼女が、誇り高く戦い抜くとき、運命は大きく動きだす。
結婚式の翌朝、夫に「皇太子の愛人だろう」と捨てられました――ですが私は、亡き国王の娘です
柴田はつみ
恋愛
母の遺した薬草店を守りながら、慎ましく暮らしていたアンリ。
そんな彼女に求婚してきたのは、国内でも名高い騎士にして公爵家当主、アルファだった。
真っすぐな想いを向けられ、彼を信じて結婚したアンリ。
けれど幸せなはずの結婚式の翌朝、夫は冷たく言い放つ。
「君を愛していると本気で思っていたのかい? 」
彼はアンリが第一皇太子と深い仲にあり、自分との結婚は身を隠すための偽装だと誤解していたのだ。
アンリは実は、亡き国王の婚外子。
皇太子にとっては、隠して守らなければならない妹だったのである。
【完結】さよなら、馬鹿な王太子殿下
花草青依
恋愛
ビーチェは恋人であるランベルト王太子の傍らで、彼の“婚約破棄宣言”を聞いていた。ランベルトの婚約者であるニナはあっさりと受け入れて去って行った。それを見て、上手く行ったと満足するビーチェ。しかし、彼女の目的はそれだけに留まらず、王宮の平和を大きく乱すものだった。
■主人公は、いわゆる「悪役令嬢もの」の原作ヒロインのポジションの人です
■画像は生成AI (ChatGPT)
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
幼馴染が最優先な婚約者など、私の人生には不要です。
たると
恋愛
シュタイン伯爵家の長女エルゼは、公爵子息フィリップに恋をしていた。
彼の婚約者として選ばれた時は涙を流して喜んだが、その喜びもいまは遠い。
『君は一人でも大丈夫だろう。この埋め合わせは必ずする。愛している』
「……『愛している』、ですか」
いつも幼馴染を優先するアルベルトに、恋心はすっかり冷めてしまった。
【完結】真実の愛とやらに目覚めてしまった王太子のその後
綾森れん
恋愛
レオノーラ・ドゥランテ侯爵令嬢は夜会にて婚約者の王太子から、
「真実の愛に目覚めた」
と衝撃の告白をされる。
王太子の愛のお相手は男爵令嬢パミーナ。
婚約は破棄され、レオノーラは王太子の弟である公爵との婚約が決まる。
一方、今まで男爵令嬢としての教育しか受けていなかったパミーナには急遽、王妃教育がほどこされるが全く進まない。
文句ばかり言うわがままなパミーナに、王宮の人々は愛想を尽かす。
そんな中「真実の愛」で結ばれた王太子だけが愛する妃パミーナの面倒を見るが、それは不幸の始まりだった。
周囲の忠告を聞かず「真実の愛」とやらを貫いた王太子の末路とは?