『婚約破棄はおいくら?』 ──婚約破棄はまず、精算からお願いしてもいいですか?

夢窓(ゆめまど)

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カナタ、愛の形

(カナタの歪んだ愛)

──幽閉の塔。
薄暗い部屋で、カナタがかすれた声を張り上げる。

カナタ
「私は……愛していた!
ルビーも、この子も、私のものとして愛していた!」

サファイアはびくりと体を震わせ、キャスリンの後ろに隠れる。



キャスリンは冷ややかに目を細め、扇子をゆっくり閉じた。

キャスリン
「……“もの”として、ですか。
それは愛ではなく、ただの支配です」



アベルが一歩前に出る。
鋭い視線で兄を見据え、低く言葉を放つ。

アベル
「兄上が語るのは、己の欲望にすぎない。
真実の愛とは、相手を“生かす”ものだ。
その子は必死に生きようとしている。
──だが、あなたに抱かれたとき、一度でも安らいだか?」



サファイアが小さく首を振り、キャスリンの手を握りしめる。

サファイア
「……いや。こわかった……」

部屋の空気が凍りつく。
カナタの顔が引きつり、虚勢が剥がれていく。



キャスリン
「ご覧なさい、殿下。
それが“愛していた”と口にするあなたの実態です。
あなたの愛は、子を震え上がらせるものでしかなかった」



カナタは崩れるように椅子に沈み込み、顔を覆った。

カナタ
「……そんな……はずでは……」

アベルはその姿を見据え、サファイアを抱き上げる。

アベル
「愛を知らぬ兄に代わり──私はこの子を守る。
愛を学び、与えるために」


(カナタの哀切な独白)

──幽閉の塔。
サファイアに「こわかった」と拒絶され、キャスリンとアベルの言葉に打ちのめされたカナタは、椅子に崩れ落ちた。

顔を覆い、かすれた声で呟く。

カナタ
「……私は……ただ……愛されたかったんだ」



キャスリンとアベルは言葉を失う。
その背はかつての傲慢さを失い、ただ一人の孤独な男の影だった。

カナタ
「父にも……母にも……。
誰も、私を見てはくれなかった。
だから……手に入れたものは、全部“愛”だと信じた……」



サファイアはキャスリンの胸に顔を埋め、震えていた。
キャスリンは子を抱きしめる腕に力を込め、静かに言葉を返す。

キャスリン
「愛されなかった痛みを、この子に背負わせるべきではありませんわ」



アベルは一歩前に出て、兄の肩を見つめる。

アベル
「……兄上。
あなたが愛を知らずに苦しんだことは理解する。
だが、その痛みを他者に押しつけるのは──愛ではなかった」



カナタは答えず、ただ涙に濡れた目を伏せた。
その沈黙は、自分の過ちと孤独を静かに認めるもののようだった。


(サファイアの幼い愛)

──幽閉の塔、重苦しい沈黙。
カナタは椅子に沈み込み、うわ言のように呟いた。

カナタ
「……私は……ただ……愛されたかった……」



キャスリンは腕の中のサファイアをぎゅっと抱きしめ、守ろうとした。
だが、サファイアは小さな手を広げて、キャスリンの腕の中から首を伸ばす。

サファイア
「……でも……わたしは……このおとうさまも、あいしてるよ」



アベルもキャスリンも息を呑む。
カナタの目が大きく開かれ、涙で揺れた。

カナタ
「……な、に……?」

サファイアは震えながらも笑顔を見せる。

サファイア
「だって……おかあさまと、おとうさまの“にいさま”だから。
にいさまが、ひとりでかなしいの……いやなの」



カナタの頬を一筋の涙が伝う。
その涙は、かつて誰からももらえなかった“許し”と“愛”に触れた証のようだった。



キャスリンは唇を噛みしめ、サファイアを強く抱き寄せる。
アベルは沈黙のまま、拳を胸に当てて兄を見つめていた。



カナタ(心の声)
「……なぜ……この子は……私のような男を……まだ……愛してくれる……?」

カナタの肩が震え、嗚咽が漏れた。


(塔を後にする)

──幽閉の塔。
サファイアの幼い言葉に打ちのめされ、カナタは顔を覆って嗚咽していた。

アベルはしばし黙って見つめ、やがて低い声で告げた。

アベル
「……兄上。愛は、学べるものです。
生まれつき持っていなくても──与えられなくても。
求め、学び、掴み取ることができる。
私も、キャスリンとサファイアに教わっている最中だ」



カナタは涙に濡れた目を上げる。
その顔に、かつての誇り高き第一王子の影はなく、ただ迷子の男の姿があった。

カナタ
「……学べる……のか……私にも?」

アベルは頷き、そっと手を差し出した。

アベル
「ええ。兄上にも」

だがカナタは、その手を取ることはできなかった。
ただ震える肩で涙を流し続ける。



キャスリンはサファイアを抱き上げ、アベルと視線を交わす。
二人は静かに頷き合い、扉へと歩み出た。

サファイア(小さく振り返りながら)
「……おとうさまも、がんばって……」



ギィ、と重い扉が開き、三人は塔を後にした。
外の光が差し込み、閉ざされた部屋に一筋の希望のような明かりを残す。

カナタはその光に顔を向け、涙の中で呟いた。

カナタ
「……愛を……学ぶ……か……」


(王妃への報告)

──王宮・王妃の私室。
窓からは柔らかな光が差し込み、庭の花々の香りが漂っていた。

キャスリンとアベル、そしてサファイアが揃って王妃の前に進み出る。
三人が並んだ姿は、まだ不器用ながらも確かな“家族”の気配を放っていた。



アベル
「母上。私たちは……キャスリンとサファイアと共に、家族として歩んでいきたいと考えております」

王妃は静かに目を細め、視線をサファイアに落とした。

王妃
「サファイア。あなたはどう思うの?」

サファイアは小さな声で答える。

サファイア
「わたし……おかあさまとおとうさまと、いっしょにいたいの。
ずっと、ここがおうちなの」



王妃の瞳に涙がにじむ。
キャスリンは扇子を閉じ、深々と頭を下げた。

キャスリン
「……お願い申し上げます。
結婚式の折に、この子を正式に娘として迎えたいのです。
この子が“居場所”を失わぬように」



王妃はゆっくりと立ち上がり、キャスリンの肩に手を置いた。

王妃
「……わかりました。
アベル、キャスリン。サファイアを正式に“我が娘”として迎えることを、私が認めます」



サファイアは嬉しそうに両親を見上げ、飛びつくようにキャスリンの首に抱きついた。

サファイア
「やった! わたし、ほんとうに“おかあさま”の子になるんだね!」

キャスリンは涙をこらえきれず、小さく笑みをこぼす。

アベルはその二人を見つめ、心から安堵の息をついた。


(結婚式での家族の絆)

──王宮の大広間。
絢爛な装飾と多くの祝福の声の中、アベルとキャスリンが並び立つ。
サファイアは純白の小さなドレスで二人の間に立ち、手を繋いでいた。

だが、祝宴の最中に国外使節団の一人が前へ進み出る。



使節団長
「──待たれよ!
その幼子“サファイア”は第一王子の娘であり、外交の駒だ。
今ここで引き渡していただきたい!」

会場がざわめき、空気が凍りつく。
サファイアは怯えたようにキャスリンの腕にしがみついた。



キャスリンは堂々と扇子を広げ、冷ややかに微笑んだ。

キャスリン
「もしこの子を奪おうとするなら──それは誘拐です。
そして誘拐は、わが国に対する宣戦布告と同じ。
覚悟があるのなら、戦争になりますよ」

広間が静まり返る。



アベルは剣の柄に手を置き、真っ直ぐに告げる。

アベル
「この子は外交の駒ではない。
サファイアは──私たちの“娘”だ。
守る理由はただひとつ……愛しているからだ!」



王妃が立ち上がり、はっきりと言葉を添える。

王妃
「王家が愛の名のもとに家族を守るのは当然のこと。
この絆を否定する者こそ、世界の笑い者となりましょう」



使節団は顔を歪めたが、会場からは拍手と喝采が湧き起こる。
廷臣たちも声をそろえ、

廷臣たち
「王太子ご一家に万歳!
サファイア姫に万歳!」



サファイアは両親を見上げ、涙まじりの笑顔で宣言する。

サファイア
「わたしの家族は──おとうさまとおかあさま!」

その言葉に、アベルとキャスリンは視線を交わし、強くサファイアを抱きしめた。


(王家の未来の宣言)

──結婚式の後、王宮の奥。
祝宴の喧騒が遠ざかり、静かな謁見の間で国王夫妻が新しい家族を迎えていた。

王と王妃は目の前に並ぶ三人──アベル、キャスリン、サファイア──を見つめ、穏やかに微笑む。



国王
「……これこそが、王家の未来だ。
互いを守り、子を慈しむ“家族”。
おまえたちの姿を見て、私は確信した」



王妃(キャスリンに向かい)
「あなたがサファイアを受け入れてくれたこと──心から感謝します。
あの子はきっと、この家の希望になるでしょう」

サファイアは嬉しそうにキャスリンのドレスの裾を握り、にっこりと笑う。



国王(少し顔を曇らせて)
「……第一王子カナタも、我らの息子であることに変わりはない。
彼を立ち直らせるために、尽力は惜しまぬつもりだ。
だが──国を導く王としては、すでに道を誤った。

アベルよ。
いずれ、この国をおまえに譲ろう。
できるだけ早く、だ」



アベルは息を呑み、深く膝をついた。

アベル
「父上、母上……謹んでお受けいたします。
ですが私は、義務としてではなく──愛ある国を築くことを誓います」



国王と王妃は互いに目を合わせ、静かに頷いた。
キャスリンは横で黙って聞きながら、サファイアの頭を撫でる。

キャスリン(心の声)
「……愛なんて、いらないと思っていた。
でも今は、この子と、アベルと共にある未来が──この国を照らすのかもしれない」


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