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「騎士科の練習が見たくて」
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「あの人、誰だったんでしょう……」
本を抱えて図書館を出たあとも、私はずっと昨日のことを考えていた。
黒髪の青年。あの静かで温かい瞳。
名前も、所属も、なにも知らなかった。
ただ、騎士課の制服を着ていたことだけ、はっきりと覚えている。
――気になっている。それは認める。
けれど、それはただのお礼の気持ちであって、べつに特別な感情などでは――
「アネット様?」
「わっ!? タ、タニア様……」
「どうしたんですの? ニヤニヤしておられましたけれど」
「してませんわっ!?」
同じ学園の友人、タニア・ウェストン嬢。
快活で好奇心旺盛、そして何より、騎士団の熱烈なファン。
私は思い切って切り出した。
「……タニア様。騎士課の練習って、見に行けたりするのかしら?」
「もちろんですわ! 学園内の公開練習なら、見学自由ですの。ご希望ですか?」
「ちょっと、見てみたいだけ」
「まあ! まさかアネット様も、沼に入られるおつもりで……!」
「ちがいますわっ!」
*
その週末。
タニア様に連れられ、私は騎士課の演習場へと足を踏み入れた。
そこは思ったよりも熱気に満ちていて、見学席には令嬢たちの小さな歓声が飛び交っていた。
「うわ、今日もレオン様がいらっしゃるわ!」
「レオン様って?」
「黒髪の青年騎士ですわ。若手の中でも将来有望で、まじめで、背が高くて、しかも――」
タニアの説明は右から左へ流れた。
だって、その名前が耳に入った瞬間、心臓が跳ねたから。
レオン。
図書館で、あの言葉をくれた人。
剣を振るう姿は、昨日の静けさとはまるで違っていた。
真剣な目。滲む汗。鋭い踏み込み。
体の芯から、鍛えている人の動き。
「……かっこいい」
思わず漏れた言葉に、隣でタニアが目を輝かせる。
「ふふふ、アネット様! さあ、こちら側へようこそ!」
「ちがいますわっ! ちが……いますわ……」
でもその日、私は知ってしまった。
“誰かのことを、もっと知りたい”と思うだけで、胸がこんなに忙しくなるのだということを。
「騎士科女性向け・体力補強レッスンのお知らせ」
学園の掲示板に、新しいお知らせが貼られていた。
🔔【女性向け】体力補強レッスン参加者募集!
騎士科監修:ドレスを美しく着こなすための、しなやかな筋肉づくり
※マッスルにはなりません
※初心者・文官志望歓迎
参加希望者は講堂前にて申し込み受付中!
「……あら、面白そう」
掲示を見つけたタニアが、いたずらっぽく笑う。
「ねえアネット、私たちもやってみない? 騎士科の方とも親しくなれるかもしれないし……うふふ、沼、よ?」
「沼って、タニア……」
苦笑しながらも、アネットの心はわずかに揺れた。
(ドレスを着こなすための筋肉……確かに、ワルツでリフトされる時も、少し体幹が必要だったわ)
好奇心と実用性が背中を押す。
「やってみようかしら」
* * *
初回レッスンの日。
講堂では、柔らかな音楽が流れ、女性教官が笑顔で出迎えた。
「今日はまず、制服姿でもできるストレッチから始めましょうね」
両腕をゆっくりと上げ、肩を回し、背筋を伸ばす。
わずかな動きなのに、じんわりと体が温まっていくのがわかった。
「これ……なんだか気持ちいいわ」
「でしょ? 騎士団の式典前にもよくやるのよ」とタニア。
周囲では他の女生徒たちも笑顔で取り組んでおり、なごやかな雰囲気に包まれていた。
(これなら、続けられそう……)
そしてアネットはまだ知らない。
このレッスンの先に、自分の知らなかった「自信」と「仲間」と、そして――
思わぬ“騎士科の出会い”が待っていることを。
本を抱えて図書館を出たあとも、私はずっと昨日のことを考えていた。
黒髪の青年。あの静かで温かい瞳。
名前も、所属も、なにも知らなかった。
ただ、騎士課の制服を着ていたことだけ、はっきりと覚えている。
――気になっている。それは認める。
けれど、それはただのお礼の気持ちであって、べつに特別な感情などでは――
「アネット様?」
「わっ!? タ、タニア様……」
「どうしたんですの? ニヤニヤしておられましたけれど」
「してませんわっ!?」
同じ学園の友人、タニア・ウェストン嬢。
快活で好奇心旺盛、そして何より、騎士団の熱烈なファン。
私は思い切って切り出した。
「……タニア様。騎士課の練習って、見に行けたりするのかしら?」
「もちろんですわ! 学園内の公開練習なら、見学自由ですの。ご希望ですか?」
「ちょっと、見てみたいだけ」
「まあ! まさかアネット様も、沼に入られるおつもりで……!」
「ちがいますわっ!」
*
その週末。
タニア様に連れられ、私は騎士課の演習場へと足を踏み入れた。
そこは思ったよりも熱気に満ちていて、見学席には令嬢たちの小さな歓声が飛び交っていた。
「うわ、今日もレオン様がいらっしゃるわ!」
「レオン様って?」
「黒髪の青年騎士ですわ。若手の中でも将来有望で、まじめで、背が高くて、しかも――」
タニアの説明は右から左へ流れた。
だって、その名前が耳に入った瞬間、心臓が跳ねたから。
レオン。
図書館で、あの言葉をくれた人。
剣を振るう姿は、昨日の静けさとはまるで違っていた。
真剣な目。滲む汗。鋭い踏み込み。
体の芯から、鍛えている人の動き。
「……かっこいい」
思わず漏れた言葉に、隣でタニアが目を輝かせる。
「ふふふ、アネット様! さあ、こちら側へようこそ!」
「ちがいますわっ! ちが……いますわ……」
でもその日、私は知ってしまった。
“誰かのことを、もっと知りたい”と思うだけで、胸がこんなに忙しくなるのだということを。
「騎士科女性向け・体力補強レッスンのお知らせ」
学園の掲示板に、新しいお知らせが貼られていた。
🔔【女性向け】体力補強レッスン参加者募集!
騎士科監修:ドレスを美しく着こなすための、しなやかな筋肉づくり
※マッスルにはなりません
※初心者・文官志望歓迎
参加希望者は講堂前にて申し込み受付中!
「……あら、面白そう」
掲示を見つけたタニアが、いたずらっぽく笑う。
「ねえアネット、私たちもやってみない? 騎士科の方とも親しくなれるかもしれないし……うふふ、沼、よ?」
「沼って、タニア……」
苦笑しながらも、アネットの心はわずかに揺れた。
(ドレスを着こなすための筋肉……確かに、ワルツでリフトされる時も、少し体幹が必要だったわ)
好奇心と実用性が背中を押す。
「やってみようかしら」
* * *
初回レッスンの日。
講堂では、柔らかな音楽が流れ、女性教官が笑顔で出迎えた。
「今日はまず、制服姿でもできるストレッチから始めましょうね」
両腕をゆっくりと上げ、肩を回し、背筋を伸ばす。
わずかな動きなのに、じんわりと体が温まっていくのがわかった。
「これ……なんだか気持ちいいわ」
「でしょ? 騎士団の式典前にもよくやるのよ」とタニア。
周囲では他の女生徒たちも笑顔で取り組んでおり、なごやかな雰囲気に包まれていた。
(これなら、続けられそう……)
そしてアネットはまだ知らない。
このレッスンの先に、自分の知らなかった「自信」と「仲間」と、そして――
思わぬ“騎士科の出会い”が待っていることを。
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