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成績発表の日
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廊下の掲示板の前には、人だかりができていた。
貼り出された成績表を、みんなが指さしながら騒いでいる。
私はそっと列に並び、自分の名前を探した。
——あった。
「……十八番」
胸の奥で小さく安堵する。
九番よりはずっと目立たない。
これなら、あの家の耳に入ることもないだろう。
でも次の瞬間——。
「マリーン! 十八番だって! やっぱりすごい!」
ハンナの声が響いた。
「そうそう、だって全員で百人以上いるんだからね? 上位二十位以内なんて本当に優秀だよ!」
サーシャも満面の笑みで言う。
「……そんな、大げさよ」
口では否定しながらも、心臓が熱くなる。
伯爵家では“できない子”と決めつけられていた。
けれどここでは、十八番でも「すごい」と言ってもらえる。
落としたはずなのに、褒められて、みんなが笑ってくれる。
「マリーンって、ほんと努力家なんだね」
「次も一緒に勉強会しよう!」
そんな声に囲まれて、私は小さく笑みを返した。
——たとえ秘密を抱えていても、この場所は少しずつ、私の居場所になっていく。
ギルの家での片づけ練習
ギルの家に入った瞬間、私は思わず目を丸くした。
「……すごい、散らかってますね」
床には紙が散乱し、本棚には収まりきらない本が山のように積まれている。
衣服も椅子にかけっぱなしで、ゴミ箱からは紙屑が溢れていた。
ギルは悪びれもせず笑った。
「はは、掃除は性に合わなくてね。だから、マリーンちゃんがやってくれると嬉しい」
「なんだって! そんなことをやらせるのか!」
隣でグレッグが声を上げる。
けれどギルは肩をすくめて答えた。
「練習だよ、練習。生活魔法を覚えるには、身近なことからだ」
「……練習なら、やってみます」
私は頷き、散らかった部屋を見渡した。
「まずは、本だ。本棚に並んでいるイメージをしっかり持って」
ギルの指示に従い、両手をそっとかざす。
頭の中で“背表紙が揃って本棚に並ぶ姿”を描くと、積み重なっていた本がふわりと浮かび、すうっと棚に収まっていった。
「……できた!」
「次は紙だ。書類はまとめて揃える、紙屑はゴミ箱へ」
散乱していた紙束が、一枚残らず整えられ、ばらばらだった紙屑はひとりでにゴミ箱へ吸い込まれていく。
「……すごい」
私自身も思わず見入ってしまった。
最後に、椅子にかけられていた衣服がふわりと浮かび、洗濯かごに収まった。
ほんの数分で、散らかっていた部屋は見違えるように片づいていた。
ギルは大きく頷き、にやりと笑った。
「ほら、できるじゃないか。これが生活魔法さ」
グレッグは信じられないという顔で私を見つめる。
「……本当に、やっちゃったんだな」
私は小さく笑った。
「イメージすると……できるんですね」
掃除の仕上げと気づき
「じゃあ……掃除もしてしまいますね」
私は両手を広げ、散らかった床や家具を頭の中で“きれいになった部屋”として思い描いた。
——本は背表紙が揃って並んでいる。
——紙は一枚残らず片づいている。
——服はきちんと畳まれて洗濯かごへ。
——床は磨かれ、窓から光が差し込んでいる。
そのイメージが広がった瞬間、部屋全体がぱっと変わった。
ごちゃごちゃだったギルの家が、見違えるように整えられている。
「……綺麗になった!」
思わず笑みがこぼれた。
ギルは満足そうに頷く。
「そう、それでいい。生活魔法は“イメージ”がすべてなんだ」
私は首をかしげる。
「イメージ……?」
「そう。知らないことはできない。
例えば、“磨かれた床”がどんな状態かを知らなければ、磨くことはできない。
“洗濯された服”がどんな仕上がりか知らなければ、服は整わない」
「なるほど……」
心の中にすとんと落ちるものがあった。
だから私は、裁縫や刺繍みたいに“知っているもの”ならイメージしやすいのだ。
グレッグは腕を組みながら、まだ呆れたように私を見ていた。
「……本当に片づいちゃったな。
でも、知らないことはできないってのは、逆に安心したよ」
私はくすっと笑った。
「これなら、私でも役に立てそう」
ランプに照らされた部屋が、清々しい空気に包まれていた。
料理をめぐる掛け合い
「食事とかもね、作り方を知らないと魔法ではできないんだ。
だから、もし料理したいなら、まずは作り方を覚えないと」
ギルが笑って言うと、私は思わず目を輝かせた。
「……料理、してみたいです」
「ここでですか?」と少し戸惑うと、ギルは肩をすくめた。
「簡単な料理なら、教えてあげるけどね」
その言葉に、グレッグがずいっと前に出てきた。
「なんでマリーンが、あんたの食事を作らなきゃならないんだ!」
怒りで声が少し大きくなる。
ギルはけろりとして答える。
「だって、彼女、卵焼きひとつ作れないからさ」
「……っ!」
グレッグが顔を真っ赤にしながら、口を開いた。
「結婚したら、俺が教える……」
一瞬、空気が止まった。
「……え?」
私の顔も熱くなる。
「あっ……!」
グレッグは自分の言葉に気づいて、慌てて口を押さえた。
ギルが吹き出して笑う。
「はは、いいねぇ若いって。ごちそうさま」
私は胸がどきどきして、返事もできなかった。
——でも、不思議と嫌じゃなかった。
貼り出された成績表を、みんなが指さしながら騒いでいる。
私はそっと列に並び、自分の名前を探した。
——あった。
「……十八番」
胸の奥で小さく安堵する。
九番よりはずっと目立たない。
これなら、あの家の耳に入ることもないだろう。
でも次の瞬間——。
「マリーン! 十八番だって! やっぱりすごい!」
ハンナの声が響いた。
「そうそう、だって全員で百人以上いるんだからね? 上位二十位以内なんて本当に優秀だよ!」
サーシャも満面の笑みで言う。
「……そんな、大げさよ」
口では否定しながらも、心臓が熱くなる。
伯爵家では“できない子”と決めつけられていた。
けれどここでは、十八番でも「すごい」と言ってもらえる。
落としたはずなのに、褒められて、みんなが笑ってくれる。
「マリーンって、ほんと努力家なんだね」
「次も一緒に勉強会しよう!」
そんな声に囲まれて、私は小さく笑みを返した。
——たとえ秘密を抱えていても、この場所は少しずつ、私の居場所になっていく。
ギルの家での片づけ練習
ギルの家に入った瞬間、私は思わず目を丸くした。
「……すごい、散らかってますね」
床には紙が散乱し、本棚には収まりきらない本が山のように積まれている。
衣服も椅子にかけっぱなしで、ゴミ箱からは紙屑が溢れていた。
ギルは悪びれもせず笑った。
「はは、掃除は性に合わなくてね。だから、マリーンちゃんがやってくれると嬉しい」
「なんだって! そんなことをやらせるのか!」
隣でグレッグが声を上げる。
けれどギルは肩をすくめて答えた。
「練習だよ、練習。生活魔法を覚えるには、身近なことからだ」
「……練習なら、やってみます」
私は頷き、散らかった部屋を見渡した。
「まずは、本だ。本棚に並んでいるイメージをしっかり持って」
ギルの指示に従い、両手をそっとかざす。
頭の中で“背表紙が揃って本棚に並ぶ姿”を描くと、積み重なっていた本がふわりと浮かび、すうっと棚に収まっていった。
「……できた!」
「次は紙だ。書類はまとめて揃える、紙屑はゴミ箱へ」
散乱していた紙束が、一枚残らず整えられ、ばらばらだった紙屑はひとりでにゴミ箱へ吸い込まれていく。
「……すごい」
私自身も思わず見入ってしまった。
最後に、椅子にかけられていた衣服がふわりと浮かび、洗濯かごに収まった。
ほんの数分で、散らかっていた部屋は見違えるように片づいていた。
ギルは大きく頷き、にやりと笑った。
「ほら、できるじゃないか。これが生活魔法さ」
グレッグは信じられないという顔で私を見つめる。
「……本当に、やっちゃったんだな」
私は小さく笑った。
「イメージすると……できるんですね」
掃除の仕上げと気づき
「じゃあ……掃除もしてしまいますね」
私は両手を広げ、散らかった床や家具を頭の中で“きれいになった部屋”として思い描いた。
——本は背表紙が揃って並んでいる。
——紙は一枚残らず片づいている。
——服はきちんと畳まれて洗濯かごへ。
——床は磨かれ、窓から光が差し込んでいる。
そのイメージが広がった瞬間、部屋全体がぱっと変わった。
ごちゃごちゃだったギルの家が、見違えるように整えられている。
「……綺麗になった!」
思わず笑みがこぼれた。
ギルは満足そうに頷く。
「そう、それでいい。生活魔法は“イメージ”がすべてなんだ」
私は首をかしげる。
「イメージ……?」
「そう。知らないことはできない。
例えば、“磨かれた床”がどんな状態かを知らなければ、磨くことはできない。
“洗濯された服”がどんな仕上がりか知らなければ、服は整わない」
「なるほど……」
心の中にすとんと落ちるものがあった。
だから私は、裁縫や刺繍みたいに“知っているもの”ならイメージしやすいのだ。
グレッグは腕を組みながら、まだ呆れたように私を見ていた。
「……本当に片づいちゃったな。
でも、知らないことはできないってのは、逆に安心したよ」
私はくすっと笑った。
「これなら、私でも役に立てそう」
ランプに照らされた部屋が、清々しい空気に包まれていた。
料理をめぐる掛け合い
「食事とかもね、作り方を知らないと魔法ではできないんだ。
だから、もし料理したいなら、まずは作り方を覚えないと」
ギルが笑って言うと、私は思わず目を輝かせた。
「……料理、してみたいです」
「ここでですか?」と少し戸惑うと、ギルは肩をすくめた。
「簡単な料理なら、教えてあげるけどね」
その言葉に、グレッグがずいっと前に出てきた。
「なんでマリーンが、あんたの食事を作らなきゃならないんだ!」
怒りで声が少し大きくなる。
ギルはけろりとして答える。
「だって、彼女、卵焼きひとつ作れないからさ」
「……っ!」
グレッグが顔を真っ赤にしながら、口を開いた。
「結婚したら、俺が教える……」
一瞬、空気が止まった。
「……え?」
私の顔も熱くなる。
「あっ……!」
グレッグは自分の言葉に気づいて、慌てて口を押さえた。
ギルが吹き出して笑う。
「はは、いいねぇ若いって。ごちそうさま」
私は胸がどきどきして、返事もできなかった。
——でも、不思議と嫌じゃなかった。
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