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ハロルドはケインに、同意する。
「ケイン、これ食べてみろ」
差し出されたものを見た。
「なに、これ?」
「ポトフだ」
知らない料理だ。
でも、見た目からして違った。
湯気がやわらかい。
匂いが、優しい。
恐る恐る、口に入れた。
「うわー」
「どうだ」
「うちのと違うね」
じゃがいもが、ほくほくしている。
崩れるくらい柔らかいのに、形は残っている。
甘い。
「うちのは、じゃがいもが固いのか?」ハロルドが聞いた。
ケインは、少し考えた。
「あっ、時々ね。食べてたら火が通るんだよ」
ハロルドが、何とも言えない顔をした。
「母さん、うちは、お店じゃないから、そんなものって言うけどね」
でも、これは。
「美味しいね」
パクパク食べた。止まらなかった。
「ジュリアー!」
ハロルドが叫んだ。
どこからか、母さんの声が返ってきた。
「食べれればいいんですよう」
「よくない!」
「ケイン、ネギスープだったのか?」
ハロルドが言った。
「なんで知ってるんですか?」
「噂になってる」
ケインは、少し考えた。
「ネギいっぱいに、乾燥野菜のスープは、母さんの得意料理らしいです」
ハロルドが、天を仰いだ。
「うわー。子供に、本当に食べさせてたのか」
「体にいいんですよ」
すかさず、ジュリアの声がした。
「それとパンです。最近は」
ケインが、続けた。
少し、間があった。
「アンナの所に行ったら、シチューとか、グラタンとか、いろいろ作ってくれて。美味しくて、つい、行ってしまって」
パクパク食べていた手が、止まった。
「母さんに、酷いことしてしまった」
食堂が、静かになった。
ハロルドが、ケインの頭に手を置いた。
「ケイン」
「はい」
「俺も同じことすると思うわ」
「え?」
「ネギスープとパンの毎日だったら、俺もシチューの方に行く」
少し間があって、ケインが吹き出した。
大人ふたりで怒鳴りあってるみたいだ。
どうしたんだろう。
ケインは、ポトフを食べながら、少しだけ笑った。
母さんの声が、久しぶりに近かった。
「ケイン、食べた後、腹壊さなかったか?」
「し、失礼ですよ!」
ジュリアが、横から口を挟んだ。
ハロルドは、ケインを見た。
ケインが、少し目を逸らした。
「……時々、ご飯の後、お腹痛くなって、何度もトイレ行くことありました」
食堂が、静かになった。
「でも母さん、体の中がきれいになる効果とかがあって、お腹の中きれいになってるから気にしないって言ってました」
「ジュリアーー!」
ハロルドが立ち上がった。
「お前、これから料理作るの禁止だーーー!」
「体にいいんですよ!」
「よくない!全然よくない!」
「食べれてましたし!」
「腹壊してるじゃないか!」
ケインは、二人のやり取りを見ながら、笑った。
母さんが、怒られている。
なんか、久しぶりに、にぎやかだった。
「なんでも有能なジュリアが、まさかメシマズとは思わなかった」
ハロルドが、頭を抱えながら言った。
「母さん、うちはメシ屋じゃないから、普通だって言ってました」
ケインが、少し考えてから続けた。
「アンナさん、居酒屋で働いてたらしいから、美味しいのかなって思ってました」
「なるほど」ハロルド
「うちは、普通の家庭ですが」
ジュリアが、静かに言った。
普通、という言葉に、少し力がこもっていた。
ケインは、膝の上で手を握った。
「最近、だんだん、母さんの料理がひどく不味くなってきて」
誰も、何も言わなかった。
「腹減って、アンナさんの所に行って」
少し、声が小さくなった。
「母さん怒らせてしまって」
「僕、悲しくて」
ジュリアは、何も言わなかった。
ただ、ケインの隣で、静かに座っていた。
「悪かったわ、ケイン」
ジュリアが、静かに言った。
「ネギスープは、嫌いだったのね」
「……はい」
「でも、よもぎはそのまま食べれないし、カラスノエンドウの山菜スープってのもね」
ハロルドが、眉を上げた。
「話がずれてないか?」
「だって」
ジュリアが、少し声を上げた。
「買ってきた食材を持って行かれたら、どうすればいいんですか。その辺で取れるもので作るしかないでしょう」
ハロルドが、何とも言えない顔をした。
「母さん」
ケインが、俯いたまま言った。
「僕、いろいろ知らなくてごめんなさい」
しばらく、沈黙があった。
ジュリアが、ゆっくりと息を吐いた。
「母さんこそ、ごめん」
ケインが、顔を上げた。
「あなたの身になって、考えてなかったわ」
ハロルドは、黙って二人を見ていた。
ネギとよもぎと山菜の話は、もういいと思った。
それにしても、家の食材を毎日、他の女の所へ持って行く夫って、何を考えているんだ。
差し出されたものを見た。
「なに、これ?」
「ポトフだ」
知らない料理だ。
でも、見た目からして違った。
湯気がやわらかい。
匂いが、優しい。
恐る恐る、口に入れた。
「うわー」
「どうだ」
「うちのと違うね」
じゃがいもが、ほくほくしている。
崩れるくらい柔らかいのに、形は残っている。
甘い。
「うちのは、じゃがいもが固いのか?」ハロルドが聞いた。
ケインは、少し考えた。
「あっ、時々ね。食べてたら火が通るんだよ」
ハロルドが、何とも言えない顔をした。
「母さん、うちは、お店じゃないから、そんなものって言うけどね」
でも、これは。
「美味しいね」
パクパク食べた。止まらなかった。
「ジュリアー!」
ハロルドが叫んだ。
どこからか、母さんの声が返ってきた。
「食べれればいいんですよう」
「よくない!」
「ケイン、ネギスープだったのか?」
ハロルドが言った。
「なんで知ってるんですか?」
「噂になってる」
ケインは、少し考えた。
「ネギいっぱいに、乾燥野菜のスープは、母さんの得意料理らしいです」
ハロルドが、天を仰いだ。
「うわー。子供に、本当に食べさせてたのか」
「体にいいんですよ」
すかさず、ジュリアの声がした。
「それとパンです。最近は」
ケインが、続けた。
少し、間があった。
「アンナの所に行ったら、シチューとか、グラタンとか、いろいろ作ってくれて。美味しくて、つい、行ってしまって」
パクパク食べていた手が、止まった。
「母さんに、酷いことしてしまった」
食堂が、静かになった。
ハロルドが、ケインの頭に手を置いた。
「ケイン」
「はい」
「俺も同じことすると思うわ」
「え?」
「ネギスープとパンの毎日だったら、俺もシチューの方に行く」
少し間があって、ケインが吹き出した。
大人ふたりで怒鳴りあってるみたいだ。
どうしたんだろう。
ケインは、ポトフを食べながら、少しだけ笑った。
母さんの声が、久しぶりに近かった。
「ケイン、食べた後、腹壊さなかったか?」
「し、失礼ですよ!」
ジュリアが、横から口を挟んだ。
ハロルドは、ケインを見た。
ケインが、少し目を逸らした。
「……時々、ご飯の後、お腹痛くなって、何度もトイレ行くことありました」
食堂が、静かになった。
「でも母さん、体の中がきれいになる効果とかがあって、お腹の中きれいになってるから気にしないって言ってました」
「ジュリアーー!」
ハロルドが立ち上がった。
「お前、これから料理作るの禁止だーーー!」
「体にいいんですよ!」
「よくない!全然よくない!」
「食べれてましたし!」
「腹壊してるじゃないか!」
ケインは、二人のやり取りを見ながら、笑った。
母さんが、怒られている。
なんか、久しぶりに、にぎやかだった。
「なんでも有能なジュリアが、まさかメシマズとは思わなかった」
ハロルドが、頭を抱えながら言った。
「母さん、うちはメシ屋じゃないから、普通だって言ってました」
ケインが、少し考えてから続けた。
「アンナさん、居酒屋で働いてたらしいから、美味しいのかなって思ってました」
「なるほど」ハロルド
「うちは、普通の家庭ですが」
ジュリアが、静かに言った。
普通、という言葉に、少し力がこもっていた。
ケインは、膝の上で手を握った。
「最近、だんだん、母さんの料理がひどく不味くなってきて」
誰も、何も言わなかった。
「腹減って、アンナさんの所に行って」
少し、声が小さくなった。
「母さん怒らせてしまって」
「僕、悲しくて」
ジュリアは、何も言わなかった。
ただ、ケインの隣で、静かに座っていた。
「悪かったわ、ケイン」
ジュリアが、静かに言った。
「ネギスープは、嫌いだったのね」
「……はい」
「でも、よもぎはそのまま食べれないし、カラスノエンドウの山菜スープってのもね」
ハロルドが、眉を上げた。
「話がずれてないか?」
「だって」
ジュリアが、少し声を上げた。
「買ってきた食材を持って行かれたら、どうすればいいんですか。その辺で取れるもので作るしかないでしょう」
ハロルドが、何とも言えない顔をした。
「母さん」
ケインが、俯いたまま言った。
「僕、いろいろ知らなくてごめんなさい」
しばらく、沈黙があった。
ジュリアが、ゆっくりと息を吐いた。
「母さんこそ、ごめん」
ケインが、顔を上げた。
「あなたの身になって、考えてなかったわ」
ハロルドは、黙って二人を見ていた。
ネギとよもぎと山菜の話は、もういいと思った。
それにしても、家の食材を毎日、他の女の所へ持って行く夫って、何を考えているんだ。
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