夫と息子に捨てられたので、全部置いて出て行きます。明日から、タオルがなくても知りません。

夢窓(ゆめまど)

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王宮に、ケイン来る。

母さんが、スーツケース持って怒って出ていった。
父さんは、すぐ帰ってくるさと言った。

「アンナの所へ、夕飯食べに行くか」
「僕は、母さん待つよ」
アンナの所、行ったら、悪い気がした。

「そうか」
父さんは、小銭をくれた。
「これで明日の夜、母さんが帰ってくるまで過ごせよ」
それだけ言って、出ていった。

近所のパン屋に行った。
数えたら、味付きのパン二個か、味なしの小さいパン三個しか買えなかった。
味付きを二個買った。それだけでは、足りない。
明日、母さん帰るだろうか。
一人で、不安になった。

母さん、鍵も持っていかなかった。
僕たち、母さんに見捨てられた?
その夜は、ひとりでいつの間にか寝てしまった。

朝になっても、母さんはいなかった。
母さんは、鍵も持っていってない。
その日、学校に持って行く弁当もない。
芋も、なんにもない。
学校を休んで、母さんを待った。
いつもの時間になっても、母さんは帰ってこなかった。 

勇気を出して、王宮に行ってみた。
お腹が空いていた。でも、それより、母さんが帰ってこなかったらどうしようと、それだけ考えていた。

王宮の入り口で、母さんを探していると言った。
「働いているのか?どこの部署か知らないか」
知らなかった。母さんがどこで働いているのか、聞いたことがなかった。
あっちへ行け、こっちへ行けと窓口の人に、言われた。
言われた通り歩き回った。
母さんが、見つからない。
もう、母さんに会えない?

そしたら、偉そうな人が出てきた。
泣きそうだったが、我慢した。
「ジュリア・ハーツを探しています」
声が、少し震えた。
「母さんに、謝りに来ました」
その時、お腹がギュルギュルと鳴った。
恥ずかしかった。うつむいた。
その人が、言った。
「こちらに来なさい」
王宮の食堂に連れて行ってくれた。スープと、パンと他を出してくれた。
「食べなさい」
もう、泣きそうだった。

そこに、母さんがやってきた。
僕を見て、目を丸くした。
「ケイン」
ごめんなさいと言おうとしたら、声が出なくなった。
そのまま、うつむいて泣いてしまった。​​​​​​​​​​​​​​​​

ハロルド様が、ご馳走してくれた。
食堂に連れて行かれて、座らされて、温かいものが次々と出てきた。
俺のお腹は、鳴りっぱなしだった。恥ずかしかったけど、止まらなかった。
「まず食べろ」
ハロルド様が言った。
美味しかった。
本当に、美味しかった。
気づいたら、かなりなくなっていた。
今日、ちゃんとしたご飯を食べていなかった。

ゆっくりと、話した。
母さんが出て行った時のこと。本当に悲しかった。止めればよかったと思った。でも、足が動かなかった。

その日、父さんから渡されたお金で、パン屋に行った。
これで明日の夜まで過ごせと言われた。
数えたら、味付きのパンが二個か、味なしの小さなパンの三個のどっちかしか買えなかった。
牛乳なんて、買えなかった。
明日の分も、何もなかった。


「アンナのご飯は、美味しかったんだろ」
ハロルド様が、静かにケインに聞いている。
「甘くて、とろっとして。だから、つい、アンナの方がいいって言ってしまった」
言ってしまった。母さんの前で。

「でも」
俺は、膝の上で手を握った。
「俺は、母さんのご飯がいい」
生煮えのじゃがいもが入ってても。玉ねぎが炒められてないスープでも。
ネギだけのスープでも。
母さんのご飯がいい。


ジュリアの隣に座っていたハロルドが、眉を上げた。
「じゃがいも、生煮え?玉ねぎを炒めずに使う?」

「うん。でも、アンナのご飯は美味しかったんだ。甘くて」
ハロルドが、何とも言えない顔をした。
「……ジュリアって、メシマズなのか?」
「違います」ジュリアは首を振った。
「食べれればいい、優先なんです」

母さんは、いつも忙しかった。朝も、夜も。それでも、毎日ご飯作ってくれた。
美味しいかどうかより、温かかった。
それを、あの時わかってなかった。​​​​​​​​​​​​​​​​

ハロルドが、少し眉を下げた。
「……ちょっとケインに同情するかも」

「その女の方が、同じ材料で作ったら美味しかった、ってことか」
ケインが、気まずそうに目を逸らした。

「でも」
しばらくして、ケインが口を開いた。
「母さん、いつも忙しくしてて。朝も、夜も。俺、わかってなくて」
膝の上で、手を握っている。
「家に食事があるの、当たり前だと思ってた」
それから、何かを思い出したような顔をした。
「父さん、お金のこと、よくわかってないのかもしれない」
「どういうことだ」
「パン二個の値段で、一日過ごせって言われた。でも、買いに行ったら一日分、全然足りなくて」
ケインは、少しだけ俯いた。
「父さん、よく言ってたんだ。母さんに充分お金渡してるのに、やりくりが下手だって」
食堂が、静かになった。

ハロルドが、ゆっくりと息を吐いた。
「……子供って、正直だとわかったわ」
ジュリアは、何も言わなかった。

「そんなスープに入れる玉ねぎ、炒めたからって変わりませんよ!」
ジュリアが言う。

ハロルドが、静かに首を振った。
「うん、うん。それが違うんだよな」
「え?」
「炒めると、甘みが出る。とろっとする。そのとろっとが、スープ全体に広がる」

ケインが、目を丸くした。
「……アンナのスープ、甘くてとろっとしてた」
「だろうな」
しばらく、沈黙があった。
ケインが、何かを整理しているような顔をしていた。

「話は、どっちからも聞けってことを、実感するわ」
ハロルドが、静かに言った。
周りのみんなが、小さく頷いた。

ケインが、俯いた。
「母さん、ごめんなさい」
誰に言うでもなく、呟いた。
「僕、わがまま言って」
食堂に、静かな空気が流れた。
ハロルドが、ケインの頭に手を置いた。
「いい子だぁ」
ジュリアは、また何も言わなかった。
ただ、ケインの皿に、静かにパンをひとつ追加した。​​​​​​​​​​​​​​​​

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