夫と息子に捨てられたので、全部置いて出て行きます。明日から、タオルがなくても知りません。

夢窓(ゆめまど)

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家の中の不審者

しばらくは王宮から、ケインは、学校に行くことが決まった。
ケインの私物を取りに行かなければならない。
「夕方になったけど、お父さんがいたら話してあげるよ」
ハロルドが言った。

私の中で、ジャンとは、もうやっていけないと決めていたので、ケインは、どうしても、手元に引き取りたかった。

行くと決まったら、なぜか人数が増えた。
ハロルドが立ち上がると、荷物持ちに、護衛がついてくる。アロンソも来る。気づいたら一行になっていた。

ハロルド、アロンソ、ケイン、ジュリア。
そして少し離れたところに、6人の護衛の軍団。
住宅街を、妙な行列が馬に乗っていく。
家の前に着いた。
ハロルドが扉に手をかけようとした時、ジュリアが止まった。
「……待って」
「どうした」
「誰かいる」
妙な気配がした。ジャンではない。複数いる。
アロンソがすっと前に出た。扉の隙間から中を伺う。それから無言で振り返り、護衛に手で合図を送った。
「不審者がいる」
静かな声だった。
「中に入る。捕まえるぞ」


アロンソが、踏み込んだら、三人いた。
盗賊だった。
ここはアジトだと、捕まえてからわかった。住宅街の一角に、いつの間にか盗賊団が根を張っていた。
三人を捕まえて、牢に送った。

「なんで盗賊のアジト?」
「いつの間に?」
ジュリアとケインは、混乱したままロベルトに連れられて、王宮に戻った。
答えは、まだ誰も持っていなかった。​​​​​​​​​​​​​​​​

盗賊団の仲間は、全部で七人いた。
後から四人来たそうだ。
夜遅く、報告が入った。
ジャンも、アンナも、捕まっていた。

「なんで?」
ケインが、呟いた。
ジュリアも、言葉が出なかった。
いつから、うちが盗賊団のアジトになっていたのか。あの家で、毎日ご飯を作って、洗濯をして、息子を送り出していた家が。

アロンソが、ケインの鞄と、少しの服を持ってきた。
「これ以外に必要なものは、お母さんに買ってもらいなさい」
ケインの鞄だった。中に教科書が入っていた。それだけだった。
服は、紐で無造作にくくられてた。
ケインは黙って受け取った。

これ以外は、捜査中だから、持って来れないらしい。アロンソが、最低限のもの、持ってきてくれたらしい。
調べが済んだら、荷物は取りに来れるが、もう住むことはできないと言われた。

アロンソが、ケインの前にしゃがんだ。
「ケイン。お父さんが盗賊団の仲間だと、知ってたか」
ケインは、しばらく考えた。
心当たりが、なかった。
夜に出かけることは、あった。でもジャンは警備員だから、夜勤があるのだと思っていた。アンナと仲良くしていたのも、幼馴染だからだと思っていた。
「……知らなかった」
「そうか」
アロンソが立ち上がった。

「お父さんはこれから取り調べる。盗賊団の仲間かもしれん」
ケインは、鞄を胸に抱えたまま、黙っていた。
なんだかよくわからない、という顔をしていた。
ジュリアは、その隣に座った。
何も言わなかった。ただ、隣にいた。​​​​​​​​​​​​​​​​

ジュリアとケインも、隔離された。
盗賊団の仲間の家族、かもしれない。そういう扱いになった。部屋は、ふたり一緒だが、外には、騎士団が、見張っている部屋だ。だが、ベッドも、風呂もある。

ジュリアは、混乱していた。
ジャンが、盗賊団の仲間。あの、どこか抜けていて、真面目だけが取り柄の男が。仕事はきちんとしていた。バカだけど、不真面目ではなかった。それだけは、認めていた。
なんで。

アロンソが、二人に向き合った。
「鍵は持っているか」
「はい、これです」
ケインが、鞄から取り出した。
「ジュリアは」
「……家を出る時に、置いてきました」
ケインが、すぐに口を開いた。
「本当です。お母さん、鍵を持たずに出て行ったから、僕、ずっと家で待ってたの」
真剣な顔だった。
「出てきたのは、今日の昼すぎです。鍵はかけて出てきました」
それから付け加えた。

「お母さんの鍵なら、玄関のキーボックスに入れてあります」​​​​​​​​​​​​​​​​

「鍵なしなら、こじ開けた後があるはずだが、なかった。」
アロンソが、鍵を取り出した。
「この鍵に、見覚えがあるか」
ケインが、目を細めた。
それから、顔が変わった。
「……お父さんのだ」
「間違いないか」
「うん。僕が作った、木彫りのマスコットがついてる」
ケインが、鍵のマスコットに触れた。不格好な、小さな木彫りだった。子どもが一生懸命削って作った、そういう形をしていた。

「僕が、お父さんにあげたやつ」
しばらく、誰も何も言わなかった。
アロンソが、静かに鍵を手元に戻した。​​​​​​​​​​​​​​​​
「盗賊たちは、この鍵で、部屋に入ったんだ。」

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