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第9話 助けた後で
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私は眼の前で倒れているダスティンを見ていた。
ノノさんを傷つけた、許すことの出来ない奴。こんな奴、死ねばいい。今でもそう思っている。
だけど、震えが止まらない。全身の毛が逆だって、表皮から剥がれそう。
私は怖い。人の命を奪うことが、怖いんだ。
自覚はないけれど、そうとしか思えない。
で、どうするの?
答えは分かっている。
ダスティンに回復魔法を使えばいいんだ。まだ完全には死んではいない今なら、蘇らせる事ができる。
だけど……嫌だ。
「アンナちゃん…」
声のした方を見た。
よかった、よかった、目を開けている。ノノさん…。
「心配を掛けちゃって、ごめんなさい」
「ううん。私がでしゃばったから、ノノさんが…」
「でもほら、アンナちゃんが治してくれた。ありがとね」
もう、止めることなどできない。私は直立したまま泣いた。それを、ノノさんが抱きしめてくれた。
「ごめんなさい」
「アンナちゃんは、悪くない。悪くない」
数時間前にも同じ様にしてくれた。
私はいつからこんな甘えん坊になったのか。
私はヒクヒクしながら、痛かったでしょ、ごめんなさい、等を連発した。
「じゃ、お願いを聞いてくれたら、許してあげる」
「なに?」
「この騎士さんを治してあげて」
ノノさんは、何を言っているんだ?理解できなかった。
「コイツ、ノノさんを刺したんだよ」
「分かってるよ。でも、アンナちゃんが人殺しになっちゃう」
私はいいんだ。人殺しでも何でもいい。ノノさんに酷いことをしたコイツを許せないんだ。
「私ね、アンナちゃんが私の仇を討ってくれて、それは嬉しいの。でもね、私の為に人殺しになるのは、とても嫌なの。お互いに一生消えることのない負い目を抱える事になると思う」
確かにそれは嫌だな、と思った。
私はノノさんのお願いを聞き入れた。ただし、死なない程度に、回復させただけだけどね。
ダスティン一味を回復、拘束した後、親を呼び戻すために教会の鐘を鳴らした。
教会の屋根が一部壊れていたけど鐘楼の機能に支障はなく、鐘を鳴らすことができた。ただ、永遠に続くのではないかと思うほど、その音はなり続けたけど。
その原因は壊れた屋根のせいではなく、テオだった。
「オレ、一度鳴らして見たかったんだ~」
そう言い、ノノさんに止められるまで鳴らし続けた。
なんと子供らしい子供なんだろう。
鐘に対する欲求を満たした彼は、次のターゲットを見つけた。
「お前、いつの間にあんな魔法を使えるようになったんだ」
つまり、私だ。
私は嫌悪感を具現化した表情を、包み隠すことなく見せたはずだが、彼はそんなことなどお構いなしに突撃してくる。
「あれ凄かったな!」「もう一回見たい!」「俺にも教えてくれ!」の3連コンボを決めてきた。
ノノさんとの幸せな空間を、デリカシーのないチビギャングが破壊していく。
もう一回見たいなら、お前で試してやろうか~と思ったが、これは幼児虐待になるかもしれないので止めることにした。
とにかく適当にあしらおう。
「後で見せてあげるから」
「後でっていつだよ」
ホントに子供らしい子供だな。さてはお前、疑問が湧いた時に、なんで?なんで?を連発するヤツだろう。
私、この子、苦手かも。
「テオ、アンナちゃん疲れているから、今はそっとさておいて」
そんなノノさんの言葉でも止まらない。
「ノノはいいよ。怪我してもアンナに治してもらえるんだから。でもさ、アンナの怪我は誰が治してあげるのさ?」
この子はナイトなのだ。小さな身体の中に、純粋な優しさを持ち合わせている…悪戯っ子ではあるが。
私は胸の奥の部分の何かが、きゅっとなったのを自覚した。
まてまて、おちつけ私。相手は子供だぞ。現代だったら危ない奴になっちゃうぞ。
あわてて、自らの心を否定する。
「じゃあさ、アンナちゃんが怪我をしないように、テオが強くなればいいんじゃない」
テオが私を見る。
「なんでオレが守ってやんなきゃいけないんだよ」
そう言って、小さなナイトは走り去っていった。
「あらあら~」
とぼけたように言いながらテオを見送っているノノさんを見て、この人にも小悪魔的な部分があるのだと認識した。
テオは一人の老婆のまえに行き、鐘を鳴らした事の感動を身振り手振りで伝えて始めた。
あの人が、テオのおばあちゃんなんだろうな。
微笑ましくその光景を眺めていると、その老婆と目があった。彼女はテオを引き寄せると、どこにも行かせない様に抱きしめた。
あれは…私を恐れてる目だ。
ノノさんばかりに気を取られて気付かなかったが、目を全く合わせない人、視線をそらし見るともなく見ている人、睨んでいる人、様々だが、総じて私を警戒している様に見える。
皆からは騎士を倒しちゃうし、瀕死のノノさんを治癒しちゃうし、まともな子供には見えないよね。
あまり居心地が良くないので、外にでも行こうと立ち上がると、周りの人たちが一斉にこちらを見た。
やれやれ…注目のまとだね。
「私、外の空気を吸ってくるね」
「私も後から行くから外で待ってて」
このノノさんの笑顔があれば、私は大丈夫。
うん、と頷いて玄関に向かった。内心急ぎたかったが、周りの人をあまり刺激したくないので、なるべく平常通りを意識した。
玄関の戸を開け、外に出て戸を閉める。
戸の開閉で、こんなに気を使った事はないだろう。
私は長く息を吐いた。
中にいる人達も、私と同じ様に息を吐いたに違いない。
私はこれから先、あの視線に耐えて生きていくのかな。
魔法か…。
あの時だ。ブナの木の下で寝た時、誰かと話をした。その人は、私がダスティンに首をはねられそうになった時、魔法の力を発動させてくれた。
でもさ、魔法を使えるようにしてくれるなら、もうちょっと早く使わせて欲しい。
その誰かが神様だとすれば、やっぱり神様は意地が悪いのかもしれない。
空は相変わらず星が輝いている。
やさしい風が吹き、草木の香りを運んでくれた。
天然のアロマテラピー。
そんな広告めいた文言が浮び、私は
声を抑えて笑った。
村人から拒絶されたとしても、私は現代で命を失った身だ。
今生きている事自体がオマケみたいなものなんだし、深刻になり過ぎず生きていこう。
ノノさんを傷つけた、許すことの出来ない奴。こんな奴、死ねばいい。今でもそう思っている。
だけど、震えが止まらない。全身の毛が逆だって、表皮から剥がれそう。
私は怖い。人の命を奪うことが、怖いんだ。
自覚はないけれど、そうとしか思えない。
で、どうするの?
答えは分かっている。
ダスティンに回復魔法を使えばいいんだ。まだ完全には死んではいない今なら、蘇らせる事ができる。
だけど……嫌だ。
「アンナちゃん…」
声のした方を見た。
よかった、よかった、目を開けている。ノノさん…。
「心配を掛けちゃって、ごめんなさい」
「ううん。私がでしゃばったから、ノノさんが…」
「でもほら、アンナちゃんが治してくれた。ありがとね」
もう、止めることなどできない。私は直立したまま泣いた。それを、ノノさんが抱きしめてくれた。
「ごめんなさい」
「アンナちゃんは、悪くない。悪くない」
数時間前にも同じ様にしてくれた。
私はいつからこんな甘えん坊になったのか。
私はヒクヒクしながら、痛かったでしょ、ごめんなさい、等を連発した。
「じゃ、お願いを聞いてくれたら、許してあげる」
「なに?」
「この騎士さんを治してあげて」
ノノさんは、何を言っているんだ?理解できなかった。
「コイツ、ノノさんを刺したんだよ」
「分かってるよ。でも、アンナちゃんが人殺しになっちゃう」
私はいいんだ。人殺しでも何でもいい。ノノさんに酷いことをしたコイツを許せないんだ。
「私ね、アンナちゃんが私の仇を討ってくれて、それは嬉しいの。でもね、私の為に人殺しになるのは、とても嫌なの。お互いに一生消えることのない負い目を抱える事になると思う」
確かにそれは嫌だな、と思った。
私はノノさんのお願いを聞き入れた。ただし、死なない程度に、回復させただけだけどね。
ダスティン一味を回復、拘束した後、親を呼び戻すために教会の鐘を鳴らした。
教会の屋根が一部壊れていたけど鐘楼の機能に支障はなく、鐘を鳴らすことができた。ただ、永遠に続くのではないかと思うほど、その音はなり続けたけど。
その原因は壊れた屋根のせいではなく、テオだった。
「オレ、一度鳴らして見たかったんだ~」
そう言い、ノノさんに止められるまで鳴らし続けた。
なんと子供らしい子供なんだろう。
鐘に対する欲求を満たした彼は、次のターゲットを見つけた。
「お前、いつの間にあんな魔法を使えるようになったんだ」
つまり、私だ。
私は嫌悪感を具現化した表情を、包み隠すことなく見せたはずだが、彼はそんなことなどお構いなしに突撃してくる。
「あれ凄かったな!」「もう一回見たい!」「俺にも教えてくれ!」の3連コンボを決めてきた。
ノノさんとの幸せな空間を、デリカシーのないチビギャングが破壊していく。
もう一回見たいなら、お前で試してやろうか~と思ったが、これは幼児虐待になるかもしれないので止めることにした。
とにかく適当にあしらおう。
「後で見せてあげるから」
「後でっていつだよ」
ホントに子供らしい子供だな。さてはお前、疑問が湧いた時に、なんで?なんで?を連発するヤツだろう。
私、この子、苦手かも。
「テオ、アンナちゃん疲れているから、今はそっとさておいて」
そんなノノさんの言葉でも止まらない。
「ノノはいいよ。怪我してもアンナに治してもらえるんだから。でもさ、アンナの怪我は誰が治してあげるのさ?」
この子はナイトなのだ。小さな身体の中に、純粋な優しさを持ち合わせている…悪戯っ子ではあるが。
私は胸の奥の部分の何かが、きゅっとなったのを自覚した。
まてまて、おちつけ私。相手は子供だぞ。現代だったら危ない奴になっちゃうぞ。
あわてて、自らの心を否定する。
「じゃあさ、アンナちゃんが怪我をしないように、テオが強くなればいいんじゃない」
テオが私を見る。
「なんでオレが守ってやんなきゃいけないんだよ」
そう言って、小さなナイトは走り去っていった。
「あらあら~」
とぼけたように言いながらテオを見送っているノノさんを見て、この人にも小悪魔的な部分があるのだと認識した。
テオは一人の老婆のまえに行き、鐘を鳴らした事の感動を身振り手振りで伝えて始めた。
あの人が、テオのおばあちゃんなんだろうな。
微笑ましくその光景を眺めていると、その老婆と目があった。彼女はテオを引き寄せると、どこにも行かせない様に抱きしめた。
あれは…私を恐れてる目だ。
ノノさんばかりに気を取られて気付かなかったが、目を全く合わせない人、視線をそらし見るともなく見ている人、睨んでいる人、様々だが、総じて私を警戒している様に見える。
皆からは騎士を倒しちゃうし、瀕死のノノさんを治癒しちゃうし、まともな子供には見えないよね。
あまり居心地が良くないので、外にでも行こうと立ち上がると、周りの人たちが一斉にこちらを見た。
やれやれ…注目のまとだね。
「私、外の空気を吸ってくるね」
「私も後から行くから外で待ってて」
このノノさんの笑顔があれば、私は大丈夫。
うん、と頷いて玄関に向かった。内心急ぎたかったが、周りの人をあまり刺激したくないので、なるべく平常通りを意識した。
玄関の戸を開け、外に出て戸を閉める。
戸の開閉で、こんなに気を使った事はないだろう。
私は長く息を吐いた。
中にいる人達も、私と同じ様に息を吐いたに違いない。
私はこれから先、あの視線に耐えて生きていくのかな。
魔法か…。
あの時だ。ブナの木の下で寝た時、誰かと話をした。その人は、私がダスティンに首をはねられそうになった時、魔法の力を発動させてくれた。
でもさ、魔法を使えるようにしてくれるなら、もうちょっと早く使わせて欲しい。
その誰かが神様だとすれば、やっぱり神様は意地が悪いのかもしれない。
空は相変わらず星が輝いている。
やさしい風が吹き、草木の香りを運んでくれた。
天然のアロマテラピー。
そんな広告めいた文言が浮び、私は
声を抑えて笑った。
村人から拒絶されたとしても、私は現代で命を失った身だ。
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