城好きのアンナ〜すべての城を制覇します〜

chui

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第10話 思案

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 しばらくすると、ノノさんが教会から出てきた。私を見つけると、わざと眉間にシワを寄せて困った顔をし、ダメ押しに大きなため息をついた。
 「ノノさん、変な顔をしてるよ」
 私を睨んだ。
 なんか言った~?と言いながらノノさんが突進してくるので、怖がるフリをして軽く逃げる。
 これは、仲のいい友人同士がやる、お遊戯みたいな遊び。
 最後はノノさんに捕まり二人で笑いあった。
 「みんな何か言ってた?」
 「色々と聞いているうちに頭にきちゃって、私を刺した人と助けてくれた人、どっちが悪いやつなんだって怒鳴ってやった」
 私はノノさんを見た。
 話している内容は理解しているけど、それよりも、怒った顔も凛としてて美しいと思ってしまった。
 「それでもゴニョゴニョ言ってる人がいたから、文句を言おうとしたのね。そうしたら、あのテオが、こいつらが悪いに決まってんじゃん!て騎士を指さしたの」
 テオ、やるな。
 「後はリンザーさんがまとめてくれようとしたんだけど、なんで偽物だって分かったんだって質問にあって、ソレを私に振るのよ」
 「あれ、ね。まさか、あんな簡単に引っかかるとは思わなかった」
 これはダスティンの部下が鐘の音を聞いたと言った事についての話し。
 村長さんの息子ゾンバから襲撃の知らせを聞いて駆けつけたのなら、鐘の音を聞いているはずがない。
 周りの人達はこのやり取りを理解できなかったようだ。
 「なんで騎士に成りすましたのかな?」
 私はノノさんに尋ねてみた。
 「人質にしたかったのかな…だとしたら、成りすまし自体にあまり意味がないのかも、助けに来た騎士だと信じ込ませていた方が、私達の管理が楽になると考えただけとか」
 確かに恐怖で拘束するより、騎士の権威で従わせた方が楽だろう。
 「人質にしてどうするつもりだったんだろ。お金とかと交換するつもりだったのかな?」
 「お金って言ってもそんなにないけど…人質じゃなくて奴隷として売るつもりだったのかな!?」
 「え!奴隷なんてあるの?」
 ノノさんが言うには、税が払えない為に売られたり、罪人の家族なんかが売られたりしていて、割と普通の事らしい。
 奴隷という言葉自体は歴史などでよく聞くけど、それが身近にある世界にくるとは思っても見なかった私は、奴隷になる想像をして、少しばかり気持ちが悪くなった。
 この予想が正しければ、ダスティンは奴隷売買組織の一味ということになる。だとしたら、教会に皆を集めるために村長宅を襲撃したの?
 そうすると、村長を襲ったのもダスティン、もしくはその仲間ってことになるけど…賊は息子さんが討ったんだよね……そう言ってたはず。しかもムスカドの仕業だって。
 まさか、息子もグルなのか?
 疑い出すと切りがないとは本当のことで、私は疑心暗鬼の下僕になりそうだった。
 だめだ。何の物証もないのに決めつけるのは良くない。自分だって本物のアンナじゃないんだし。
 隣を見ると、ノノさんも疑心暗鬼の塊みたいになっているようだった。
 「アンナちゃん…やっぱり私達は人質だったんだ」
 「…聞かせて」
 「うん。考えてたんだけど、子供や老人なんて奴隷にしてもそんなに売れないと思うの。だとしたら、狙いはお父さん達なんじゃないかな。私達を人質にして、お父さん達を無傷で捕まえる為に」
 「確かに、それはありそう……でもそれは、ムスカドの計画なのかな?もしそうなら、領主同士の戦いになっちゃうけど」
 「……ムスカドのせいにしたい何者かがいるのかな」
 「おや、こんな所で何をしているのですか?」
 声がした方に視線を向けると、そこには神父が立っていた。
考え事をしていたせいで、全く気が付かなかった。ノノさんも慌てて立ち上がった。
 「神父さん、お帰りなさい」
 「ただいま。鐘の音を聞いたので慌てて帰って来たのですが、何かあったのですか?」
 「…それが、色々とありまして」
 ノノさんが私を見る。明らかに迷ってる顔だ。私だってどこまで神父に話せばいいか分からない。
 「そうですか…では、中で話を聞きましょう」
 神父さんは、教会へ私達を促したが、私達は動こうとしなかった。
 「どうかしましたか?」
 「……驚かれると思うので先に言っておきますが、中で偽物の騎士を拘束してあるのです」
 「ほう……よくダスティンを拘束できましたね」
 神父さんは、私達に正対した。
 えっと…神父さんは、今なんて言った?
 「誰がやったのですか?」
 彼は、私達にゆっくりと近づいてきた。いや、間合いを詰めた。
 「来ないで下さい」
 ノノさんの声が引きつっている。
 さらに一歩、踏み出してきた。
 「来ないでっ」
 閃光が走って、神父が後ろに吹き飛んだ。私の【雷】が炸裂したからだ
 ダスティンの部下に使った【雷】より強くしたから、立ち上がれないでしょ。
 「ノノさん。この神父さん本物?」
 「危ないっ!」
 私が発した声に、ノノさんの声が重なる。反射的にノノさんの目線を追った。私の喉に、神父の手刀が伸びていた。
 「うわぁ…!」
 うめき声があがった。それは神父のものだ。
彼の右手の指が、グニャグニャに折れ曲がっているのが見える。私の防御魔法【防壁】に防がれた結果だった。
 「アンナちゃん、大丈夫っ?」
 「離れて!」
 ノノさんが近づいてくるのを止めさせ、距離を取らせた。
 先程の【雷】よりも強力な【雷】を使わければ神父を倒せない事が分かった以上、ノノさんが巻き添えを喰らわないように、防御魔法をかけなければならない。攻撃と防御を同時に使う事には不安があった。ダスティンの時には上手くいったけど、次も成功する保証はない。
 「素晴らしい!」
 神父は 感嘆の声を漏らした。彼の視線は私に向けられていて、その細い目の奥で、何かがギラギラと光っている。
 彼は左手で折れた指を包むと、何かを呟き光を発生させた。その光りは指を治癒していく。そして、完全に治癒する前に、こちらに突進してきた。
 攻撃がくる!?
 私は慌てて右手を突き出し、雷を出した。しかし、その攻撃は、神父が左手に展開した【防壁】によって防がれた。
 彼は、私の右手を掴むと自分の方に引きつけた。私はつんのめる形になる。その私の腹部をめがけて、神父は右拳を突き上げるように叩き込んだ。
 私は彼の右拳が砕けると予想したけど、それは実現しなかった。神父の拳には【防壁】が展開されていたからだ。
 私も【防壁】を使っているのでダメージはないが、殴られた勢いて体が中に浮いた。
 神父は殴った後でも私の右手を離さなかった。それどころか突き上げた右拳で私の襟首をつかみ、背負投のようにして私を地面に叩きつけると、素早く馬乗りになる。
 「これなら君にも効くんじゃないかな?」
 そう言うと、右手で私の鼻と口をふさいだ。
 「……んん…っ!」
 こんな攻撃をしてくるなんて。この人は戦い慣れている。このままではマズイ。
 私は、あがいた。けれど神父から逃れることはできなかった。右手は抑えられているし、左手も馬乗りになっている足で自由を奪われている。ダスティンを倒した【稲妻】は、ノノさんが近くにいる以上使えない。【雷】も出し続けているが、彼が展開した【防壁】に阻まれ効果を発揮できていなかった。
 「不思議だな。これだけの魔法を出しているのに、魔力を感じないとは…」
 神父は未確認生物でも見ているかのような目で、私をみている。
 「んー、ん!…んん!」
 言葉にならない言葉を発しながら、必死にあがいたが、神父は微動だにしなかった。
 死ぬ、私、また死ぬ。
 息が限界に近づいて、体が自分の意思ではなく、生存本能で暴れようとする。より強力な【雷】も出したが、それすら神父の体に張り巡らされた【防壁】が弾いてしまう。
 この【防壁】をどうにかしない限り、この男を倒すことはできない。【防壁】をどうにかしないと、どうにか……。
 「……気を失ったか」
 ぐったりとした私を見た神父は、勝利を確信しただろう。
 その時、私の体を中心に光が広がった。それは神父をはじき飛ばす。
 私は上半身を起こして呼吸をした。いくら酸素を取っても足りない気がする。
 死ぬかと思った。
 「【防壁】を球状に展開したのか」
 神父も私と同じように、上半身だけを起こしている。
 その表情は驚きに支配されている。
 そう、私は体の表面に展開していた【防壁】を、球としてイメージして展開した。結果として、神父を弾き飛ばすことができた。
 私は自分の態勢が整っていないうちに、右手の人差し指から【雷】を飛ばした。神父は【防壁】を解除していないので、効きはしない。それでも構わずに雷を飛ばし続けた。
 「無駄ではないかな?」
 神父はそう言うと、ゆっくりと立ち上がった。
 私は【雷】を飛ばしている人差し指の先と、中指の先に、雷の元になる玉を二つイメージしてみた。
 すると、パチンコ玉の様なものが一個ずつ、指先に出現した。
 それは【雷】を出しながら浮遊していて【球雷】のようだった。
「行け」
 【球雷】に飛行するイメージを重ねると、思い通りに飛んでゆく。
 魔法はイメージが重要なのがよく解った。さっきの【防壁】と同じで【雷】もイメージしたら変化することができた。
 【球雷】を増やして攻撃力を上げる!
 今や【球雷】は五個に増え、神父を取り囲むように攻撃を続けていた。
 神父は【球雷】に対して攻撃するが、私はそれを避けさせる。神父の【防壁】は雷の当たった部分が弾ける様になった。彼の魔力供給が追いつかなくなったに違いない。
 もう少しだ。ノノさんも距離を取ってくれているから、出力を上げよう。
 私は【球雷】に思念を送り【雷】の威力を増した。
 「降参します」
 神父は唐突に声をあげ、両手を上げる。私は急ブレーキを踏むかのように、攻撃を停止した。
 「どういう事ですか」
 「そのままの意味ですよ。勝てないので降参します」
 神父はそう言うと、公園のベンチに座るような気軽さで、地面に座り込んだ。ふ~、つかれた。なんてセリフまで言いそうな雰囲気だ。
 「そんなに簡単に止められないでしょ」
 「おや?あなたは無抵抗な人間を殺すのですか?」
 「あなた達は、村長を殺しましたよね」
 「村長は無抵抗だったのですか?」
 悔しいが答えようがない。無性に腹が立ってきた。
 「仮にそうだとしても、殺したのは私ではないですよ」
 「でも、あなたの仲間がやったんですよね」
 「見たわけではないので、なんとも言えませんが……」
 神父は私と目が合うとそこで言葉を切り、呆れ顔になった。
 「ではどうぞ、私を殺しなさい」
 「…なにを言っているのですか」
 神父は立ち上がり、私の方へ歩いてくる。
 「また、息ができないようにするかもしれませんよ?」
 「……でまきません」
 「なんといいましたか?」
 「殺す事はできません」
 神父は、笑い出した。しかも、止まらない。なにがツボにハマったのか測りかねる。
 「あなたは、自分を殺しにきた相手を、殺せないのですね」
 そう言って、また笑い出した。私はこの男に対して、心が固くなっていくのがわかった。見たくもないし、話もしたくない。ソッポを向いた。
 その後でも男は、シカトですか?喋り方を忘れましたか?お腹が痛いのですか?などなど、しつこく絡んできたが、すべてを無視した。だけど、次の言葉には反応をしてしまった。
 「そうだ。私は、あなたの家来になります」
 私を殺そうとした奴が、なにを言っているんだ。寝言は寝て言え。
 「そう睨まないで。私は大真面目ですよ」
 そう言うと、ひざまずいて頭を垂れる。
 「貴女に対して行った数々の非礼お詫び致します。どうか、お許しください。これから私、ウォルフガング・ハフナーは、一生を賭して貴女を守ると誓います。貴方の喜びこそが、私の至上の喜び。貴方が悲しむときは、貴女の周りを美しい花で飾り、貴方が怒りに震える時には、その原因となるものを地上から消し去ります。非才の身ではありますが、私の忠誠をお受け取り下さい」
 そう言って、右手の手のひらを上に向けて私に差し出す。
 「ノノさーん、帰ろーう」
 私は無視をした。こんな戯言に付き合っていられるか。
 それでも神父は引き下がらなかった。
 「貴方に惚れ込んだのは、嘘ではありませんよ」
 そう言って、私の前で再びひざまずく。
今度は顔が笑っていない。
 「貴女の望みをお教え下さい」
 茶化す素振りもないし、それくらいなら教えてもいいかな。
 「私の野望は、全世界の城を制覇することだ」
 私は言い放ってノノさんを探しに向かったので、神父の表情に気が付かなかった。
 彼は目を見開き、口を歪めた異質な表情で、喜びに震えていた。
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