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第13話 ウォルフとの話し
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聞いてない。聞いてないよ。教会に住むなんて、聞いてない。
動揺しながら、なぜ教会に住むことになるのか、私は冷静を装って尋ねた。
「お前を教団に守ってもらうためだろ」
「お母さん達も辛いけど、いつでも会えるから」
私が聞いているのは、そこじゃなくて、教会に住む必要性なんだけど?
私の顔を見て神父が言う。
「入信とはそういうものですよ」
驚!!
こいつ、なんか、企んでいないか?大体、他人の幼児と住むオヤジなんて、変態扱いされるんだぞ。現代なら警察案件だぞ!
「お父さぁん、わたし帰りたぁい」
私は人生ではじめて、女の武器なるものを使った。
どうだ!男親なら拒絶できまい!
「あなた、帰りますよっ」
私の思惑は『男に甘える女を、女は嫌う』の法則を発動させた母親によって、あっさりと阻害された。
「アンナちゃん、ご両親を見送りませんか?」
すました顔なんか向けやがって。お前の本性をバラしてやろうか?けれど、両親は見送ってあげよう。彼らは私の顔を見たいだろう。
外にいた村人は、すべて帰ったようで、静けさが支配していた。私がノノさんがいるのではないかと辺りを見回していると。
「お休みアンナ」
そう言って母のマーヤがキスをしてきた。お休みお母さん。
父のフランツを見ると、物欲しそうな顔をしてこちらを見ている。
「お父さん」
私はそう言って両手を伸ばした。父は持っていた松明を母に預けると、私を抱き上げキスをした。
「それじゃあな」
父は短いさよならを告げると、母から松明を受け取った。
二人が歩き出した。
私は両親がこちらを振り返る度に手を振り、笑顔を振りまいた。私が笑顔の方が、親の心配が半減するだろうと考えての事だ。
両親の姿が見えなくなった。
私は教会の周りに誰もいないことを確認してから、切り出した。
「ウォルフ、話を聞こうか?」
「何がです?」
「私を教会に住まわせて、どうする気なの?」
「聞いていなかったのですか?」
「教団の庇護を受けるためと、入信したから、という理由はわかったけど、別に家に帰っても良かったんだよね」
「まあ、厳密には良くはないですが、帰っていただいても問題はありませんでした」
「じゃ、なんで引き止めたの?」
「私の近くにいてくれた方が、貴女を守れるからですね」
「私はウォルフより強いけど?」
彼は私を見て、くくっと心地よい声で笑った。
「失礼。確かに貴女の方は圧倒的な力を持っています。ですが、水の中に沈められたらどうでしょう【防壁】を使っても空気は補充されませんよ。関節技は?毒は?変わった方法では、水のない土地に放置なんてこともあるかもしれません。貴女は、これらに対処できますか?」
ウォルフの言うことは、的を射ている。私には力はあっても、戦いの経験や知識、発想力がない。昨夜ウォルフに殺されかけたのも、その部分が原因だ。
「ウォルフ聞いていいかな?」
「貴女の疑問に答えない訳がないでしょ」
即答だ。
「私のどこを気に入ったの?」
ウォルフの口角が少しだけ上がった。
こいつ私を笑ったな。
「幼子のくせに、大人のような思考ができること。農民の分際で三種類の魔法を使えること。魔力を使わずに魔法が使えること。本気の私を倒せること。後は昨夜話しましたが、人を殺せないところですかね」
予想以上に気に入ったポイントがあるのだなと、素直に驚いた。いくつか気になることがあるけど…。まず、一番に引っ掛かったことを、問いただした。
「さっき私が質問したときに、あなた、笑ったよね。なんで?」
いゃあ、あれは…、と、おどけた調子をつくり、怒らないで聞いてくださいよと、前置きをしてから話しだした。
「十代の女性とお付き合いをした時に、よく聞いた言葉だったので……かわいいなと、思ったのですよ」
私は、息を呑んだ。悔しさがこみ上がる。なんか、言い返してやる。
「お前、神父なのに、女の人とお付き合いをしていたの?」
「神父はお付き合いをしては、いけないのですか?」
え!ちがうの?私は驚の声をあげた。ウォルフは私の顔を覗き込む。
「貴女の、その知識はどこで得たものなのですか?」
「どこも何も、物心ついたときからウォルフが独り身だったから、そういうものだと思い込んでいたの」
「…なるほど。独り身だと、色々と誤解を招くと言う事ですか」
とっさに、もっともらしい嘘をついたことを、自分でも感心する。追い詰められると、何かしら力を発揮できるものだ。
「気になった事が、まだあるんだけど、私には魔力がないの?」
「そこが面白いのですよ。魔力がないくせに、魔法が使える。こんな謎掛けのような人に会ったのは初めてです」
ウォルフは興奮てしいるのか、ありえないを、連呼している。そして、連呼するたびに恍惚とした表情になっていく。
こいつ、こわい。
私の心の声が聞こえたのか、ウォルフは急に私の方を向くと、ずいっと近寄って質問をしてきた。
「どの様に魔法を使っているのですか?」
う~ん、出ろって思うとでるんだけど、これをどうやって伝えればいいのかな。そうだ!
「口笛に似てる。唇をとがらせて息を吹くと音が出るでしょう。あれって論理的にどうこうじゃなくて、感覚でやってるじゃない?音の高低を付けるときもそう。あんな感じで魔法を使ってるの」
「あんな気軽さで魔法を使えるのですか?」
そうだけどと答えると、ウォルフはまたも、ありえないの虜になってしまった。
「ウォルフは違うの?」
「全く違います。魔法を使うというのは、とてつもない集中力を必要とします」
どんな感じなのか興味をそそられたので、説明を求めた。ウォルフは、しばらく考えてから、例えばですが…と話し始める。
「決まった呪文を唱えながら、暗算で100から7を引いていくようなものですかね。呪文は頭の中で唱えても大丈夫です」
100から7を引いていく?93、86、79、72、65…同時に呪文を唱えるのか。私は、難しくない?と聞いてみたが、ウォルフが言うには馴れだそうだ。
「ちなみに、高度な魔法になれば計算はより難しく、式の数も増えます。それらを同時に解きながら、呪文も唱えなければなりません。と、こんな感じなのですが、上手く説明できていましたか?」
私は、うなずいた。集中力が必要なのは、よくよく分かったよ。
「他に質問がなければ、今晩はお眠りになって下さい」
あと1つ、問いたださなくてはならない事がある。
「この一連の事件に、あなたはどこまで関わっているの?」
特に云いたくないといった素振りもなく、ウォルフは話しだした。
「まず、この事件の元は教団です。私はその指示に従ったのです」
そう言うと、ウォルフは以下の事を話しだした。
・ムスカドとのいざこざでを装って襲撃されるので、領主に助けを求めること。
・事が起こった時には教会に人を集めて、親と子を引き離しておくこと。
・ムスカドのダスティンが、リーベリの騎士として教会に入るので、その時までに神父は不在とすること。
・ダスティンは村人をムスカドへ輸送するので、その障害になるものは排除しておくこと。
「あなたも一味の割には、直接関わっている事案が少なくない?」
「教団が関わっている以上、教団関係者の私に罪が及ばないようにしているのでしょう」
「これじゃ、ダスティンの利益がないんじゃない?彼はなんの為にこんな事をしたの?」
「私には、判りかねます」
「あと、リーベリの騎士ってなに?」
「この領地の名がリーベリなのですが…アンナ様は幼いから、ご存じなかったでしょうか?」
「今まで知らなかった」
私にはここの知識がないので、幼さを利用して乗り切るしかない。別に、不自然ではないはず。
それよりも、言いたいことがある。
「私はあなたの教団を潰したいんだけど」
「いや、本当に危なっかしい」
私の言葉を聞いてウォルフが吐いた言葉がこれだった。
嫌なものは嫌。人を騙して奴隷にするような所は無くしたほうが世のためだ。
「教団が大切だと思うなら、私から離れた方がいいよ」
「アンナ様の怒りは、当然のことと思います。ですが外で話す内容ではありません。ともかく中に入りませんか?」
確かにその通りだ。私は感情的になってしまったことを詫びて、教会に入った。
あれ?うめき声が聞こえる…。
ウォルフは、鐘楼の方ですねと言うと、鐘塔へ入っていった。
鐘楼にはダスティン達を閉じ込めている。元々はベンチの置いてある広間で拘束していたんだけど、ウォルフが村人に見せない方が良いと判断して、そのようになった。
鐘塔の扉を開けると、うめき声がよく聞こえた。
ウォルフはランプの灯りで指し示した方を見た。
「うわぁ!」
私は思わず声を出してしまった。ダスティンの部下の一人が痙攣を起こしていた。
人が痙攣を起こしているのを初めて見た私は、人がこのような動きをするなんて想像もしていなかった。
体中の関節が、小刻みに伸び縮みを繰り返していて、気持ち悪さより、恐怖を感じる。なにか処置をしなければと、頭では考えているのに、体は何も動いてくれない……この人、死なないよね。
「ウォルフ!なんとかして!」
「ちょっと手荒いですが」
そう言うと、ウォルフは痙攣を起こしている人の背中に回り腕を首に回すと、肘の内側で首を絞めた。
「なにしてるの?死んじゃう!」
「気絶させるだけです」
十秒ほど経っただろうか。首を絞められた彼はぐったりとした。
「息が詰まらないようにしておきましょう」
気絶させた彼をうつ伏せに寝かせ、ウォルフは自身の服を丸めて、彼の顎下へ押し込むようにした。
私が放った魔法で、何か異常をきたしたのではないの?そんな恐怖に駆られてしまい、指先が氷のように冷えてきた。
「…私のせいじゃないよね」
「貴女の魔法に、こんな効果はありませんし、【雷】を当てたあとに回復魔法をかけたのですよね。大丈夫です」
「本当に?」
「本当です」
良かった。私のせいじゃない。
だからといって、眼の前の男性が痙攣を起こしていた事実に変わりはないのだけれど…。
「なんで痙攣なんて起こしたんだろう」
別に深く考えて出した言葉ではなくて、普通にでてきた言葉。むしろ独り言に近い疑問だった。それにウォルフが答えてくれた。
「神の血という薬物のせいですね」
「なにそれ」
ウォルフは痙攣を起こしていた人に、軽く回復魔法をかけながら話してくれた。
「教団で人を言いなりにするときに使う薬物です。これを口にすると、この世とは思えない快楽と自己肯定感を得られ、疲労を感じなくなります」
それって怪しい薬じゃない。
あなたがやったの?私がそう言いかけたとき、ウォルフは機先を制して、私のやったとこではありません、そう言った。
「これで大丈夫でしょ」
回復魔法を掛け終え、兵士の応急処置は済んだらしい。
私はこれまでの人生で介抱なんてしたことないし、救急車すら呼んだことはないけど、ウォルフの処置は、かなり手慣れているように見えた。
この人にはそういった経験が豊富なのかな?
「手際いいね」
「まあ、色々とやってきましたからね」
「どんな事を、やってきたの?」
ウォルフは即答しなかった。なんか、怒ってる?
「ごめん。言いたくなかったら、いいんだ」
「そうしてもらえると、ありがたいです。お応えできなくて、申し訳ありません」
ウォルフはランプを手に取ると、私に休むよう言ってきた。さすがに眠い。一日で起ったとは思えない程の体験だった。
「じゃあ、先に休ませてもらうね。お休みなさい」
そう言うと、ウォルフの部屋の奥にあるハシゴを登り、自分の部屋に向かった。
ベッドと窓があるだけの質素な部屋だけど、ぜいたくは言わない。
ベッドに入った私は、眠りの虜になっていた。
動揺しながら、なぜ教会に住むことになるのか、私は冷静を装って尋ねた。
「お前を教団に守ってもらうためだろ」
「お母さん達も辛いけど、いつでも会えるから」
私が聞いているのは、そこじゃなくて、教会に住む必要性なんだけど?
私の顔を見て神父が言う。
「入信とはそういうものですよ」
驚!!
こいつ、なんか、企んでいないか?大体、他人の幼児と住むオヤジなんて、変態扱いされるんだぞ。現代なら警察案件だぞ!
「お父さぁん、わたし帰りたぁい」
私は人生ではじめて、女の武器なるものを使った。
どうだ!男親なら拒絶できまい!
「あなた、帰りますよっ」
私の思惑は『男に甘える女を、女は嫌う』の法則を発動させた母親によって、あっさりと阻害された。
「アンナちゃん、ご両親を見送りませんか?」
すました顔なんか向けやがって。お前の本性をバラしてやろうか?けれど、両親は見送ってあげよう。彼らは私の顔を見たいだろう。
外にいた村人は、すべて帰ったようで、静けさが支配していた。私がノノさんがいるのではないかと辺りを見回していると。
「お休みアンナ」
そう言って母のマーヤがキスをしてきた。お休みお母さん。
父のフランツを見ると、物欲しそうな顔をしてこちらを見ている。
「お父さん」
私はそう言って両手を伸ばした。父は持っていた松明を母に預けると、私を抱き上げキスをした。
「それじゃあな」
父は短いさよならを告げると、母から松明を受け取った。
二人が歩き出した。
私は両親がこちらを振り返る度に手を振り、笑顔を振りまいた。私が笑顔の方が、親の心配が半減するだろうと考えての事だ。
両親の姿が見えなくなった。
私は教会の周りに誰もいないことを確認してから、切り出した。
「ウォルフ、話を聞こうか?」
「何がです?」
「私を教会に住まわせて、どうする気なの?」
「聞いていなかったのですか?」
「教団の庇護を受けるためと、入信したから、という理由はわかったけど、別に家に帰っても良かったんだよね」
「まあ、厳密には良くはないですが、帰っていただいても問題はありませんでした」
「じゃ、なんで引き止めたの?」
「私の近くにいてくれた方が、貴女を守れるからですね」
「私はウォルフより強いけど?」
彼は私を見て、くくっと心地よい声で笑った。
「失礼。確かに貴女の方は圧倒的な力を持っています。ですが、水の中に沈められたらどうでしょう【防壁】を使っても空気は補充されませんよ。関節技は?毒は?変わった方法では、水のない土地に放置なんてこともあるかもしれません。貴女は、これらに対処できますか?」
ウォルフの言うことは、的を射ている。私には力はあっても、戦いの経験や知識、発想力がない。昨夜ウォルフに殺されかけたのも、その部分が原因だ。
「ウォルフ聞いていいかな?」
「貴女の疑問に答えない訳がないでしょ」
即答だ。
「私のどこを気に入ったの?」
ウォルフの口角が少しだけ上がった。
こいつ私を笑ったな。
「幼子のくせに、大人のような思考ができること。農民の分際で三種類の魔法を使えること。魔力を使わずに魔法が使えること。本気の私を倒せること。後は昨夜話しましたが、人を殺せないところですかね」
予想以上に気に入ったポイントがあるのだなと、素直に驚いた。いくつか気になることがあるけど…。まず、一番に引っ掛かったことを、問いただした。
「さっき私が質問したときに、あなた、笑ったよね。なんで?」
いゃあ、あれは…、と、おどけた調子をつくり、怒らないで聞いてくださいよと、前置きをしてから話しだした。
「十代の女性とお付き合いをした時に、よく聞いた言葉だったので……かわいいなと、思ったのですよ」
私は、息を呑んだ。悔しさがこみ上がる。なんか、言い返してやる。
「お前、神父なのに、女の人とお付き合いをしていたの?」
「神父はお付き合いをしては、いけないのですか?」
え!ちがうの?私は驚の声をあげた。ウォルフは私の顔を覗き込む。
「貴女の、その知識はどこで得たものなのですか?」
「どこも何も、物心ついたときからウォルフが独り身だったから、そういうものだと思い込んでいたの」
「…なるほど。独り身だと、色々と誤解を招くと言う事ですか」
とっさに、もっともらしい嘘をついたことを、自分でも感心する。追い詰められると、何かしら力を発揮できるものだ。
「気になった事が、まだあるんだけど、私には魔力がないの?」
「そこが面白いのですよ。魔力がないくせに、魔法が使える。こんな謎掛けのような人に会ったのは初めてです」
ウォルフは興奮てしいるのか、ありえないを、連呼している。そして、連呼するたびに恍惚とした表情になっていく。
こいつ、こわい。
私の心の声が聞こえたのか、ウォルフは急に私の方を向くと、ずいっと近寄って質問をしてきた。
「どの様に魔法を使っているのですか?」
う~ん、出ろって思うとでるんだけど、これをどうやって伝えればいいのかな。そうだ!
「口笛に似てる。唇をとがらせて息を吹くと音が出るでしょう。あれって論理的にどうこうじゃなくて、感覚でやってるじゃない?音の高低を付けるときもそう。あんな感じで魔法を使ってるの」
「あんな気軽さで魔法を使えるのですか?」
そうだけどと答えると、ウォルフはまたも、ありえないの虜になってしまった。
「ウォルフは違うの?」
「全く違います。魔法を使うというのは、とてつもない集中力を必要とします」
どんな感じなのか興味をそそられたので、説明を求めた。ウォルフは、しばらく考えてから、例えばですが…と話し始める。
「決まった呪文を唱えながら、暗算で100から7を引いていくようなものですかね。呪文は頭の中で唱えても大丈夫です」
100から7を引いていく?93、86、79、72、65…同時に呪文を唱えるのか。私は、難しくない?と聞いてみたが、ウォルフが言うには馴れだそうだ。
「ちなみに、高度な魔法になれば計算はより難しく、式の数も増えます。それらを同時に解きながら、呪文も唱えなければなりません。と、こんな感じなのですが、上手く説明できていましたか?」
私は、うなずいた。集中力が必要なのは、よくよく分かったよ。
「他に質問がなければ、今晩はお眠りになって下さい」
あと1つ、問いたださなくてはならない事がある。
「この一連の事件に、あなたはどこまで関わっているの?」
特に云いたくないといった素振りもなく、ウォルフは話しだした。
「まず、この事件の元は教団です。私はその指示に従ったのです」
そう言うと、ウォルフは以下の事を話しだした。
・ムスカドとのいざこざでを装って襲撃されるので、領主に助けを求めること。
・事が起こった時には教会に人を集めて、親と子を引き離しておくこと。
・ムスカドのダスティンが、リーベリの騎士として教会に入るので、その時までに神父は不在とすること。
・ダスティンは村人をムスカドへ輸送するので、その障害になるものは排除しておくこと。
「あなたも一味の割には、直接関わっている事案が少なくない?」
「教団が関わっている以上、教団関係者の私に罪が及ばないようにしているのでしょう」
「これじゃ、ダスティンの利益がないんじゃない?彼はなんの為にこんな事をしたの?」
「私には、判りかねます」
「あと、リーベリの騎士ってなに?」
「この領地の名がリーベリなのですが…アンナ様は幼いから、ご存じなかったでしょうか?」
「今まで知らなかった」
私にはここの知識がないので、幼さを利用して乗り切るしかない。別に、不自然ではないはず。
それよりも、言いたいことがある。
「私はあなたの教団を潰したいんだけど」
「いや、本当に危なっかしい」
私の言葉を聞いてウォルフが吐いた言葉がこれだった。
嫌なものは嫌。人を騙して奴隷にするような所は無くしたほうが世のためだ。
「教団が大切だと思うなら、私から離れた方がいいよ」
「アンナ様の怒りは、当然のことと思います。ですが外で話す内容ではありません。ともかく中に入りませんか?」
確かにその通りだ。私は感情的になってしまったことを詫びて、教会に入った。
あれ?うめき声が聞こえる…。
ウォルフは、鐘楼の方ですねと言うと、鐘塔へ入っていった。
鐘楼にはダスティン達を閉じ込めている。元々はベンチの置いてある広間で拘束していたんだけど、ウォルフが村人に見せない方が良いと判断して、そのようになった。
鐘塔の扉を開けると、うめき声がよく聞こえた。
ウォルフはランプの灯りで指し示した方を見た。
「うわぁ!」
私は思わず声を出してしまった。ダスティンの部下の一人が痙攣を起こしていた。
人が痙攣を起こしているのを初めて見た私は、人がこのような動きをするなんて想像もしていなかった。
体中の関節が、小刻みに伸び縮みを繰り返していて、気持ち悪さより、恐怖を感じる。なにか処置をしなければと、頭では考えているのに、体は何も動いてくれない……この人、死なないよね。
「ウォルフ!なんとかして!」
「ちょっと手荒いですが」
そう言うと、ウォルフは痙攣を起こしている人の背中に回り腕を首に回すと、肘の内側で首を絞めた。
「なにしてるの?死んじゃう!」
「気絶させるだけです」
十秒ほど経っただろうか。首を絞められた彼はぐったりとした。
「息が詰まらないようにしておきましょう」
気絶させた彼をうつ伏せに寝かせ、ウォルフは自身の服を丸めて、彼の顎下へ押し込むようにした。
私が放った魔法で、何か異常をきたしたのではないの?そんな恐怖に駆られてしまい、指先が氷のように冷えてきた。
「…私のせいじゃないよね」
「貴女の魔法に、こんな効果はありませんし、【雷】を当てたあとに回復魔法をかけたのですよね。大丈夫です」
「本当に?」
「本当です」
良かった。私のせいじゃない。
だからといって、眼の前の男性が痙攣を起こしていた事実に変わりはないのだけれど…。
「なんで痙攣なんて起こしたんだろう」
別に深く考えて出した言葉ではなくて、普通にでてきた言葉。むしろ独り言に近い疑問だった。それにウォルフが答えてくれた。
「神の血という薬物のせいですね」
「なにそれ」
ウォルフは痙攣を起こしていた人に、軽く回復魔法をかけながら話してくれた。
「教団で人を言いなりにするときに使う薬物です。これを口にすると、この世とは思えない快楽と自己肯定感を得られ、疲労を感じなくなります」
それって怪しい薬じゃない。
あなたがやったの?私がそう言いかけたとき、ウォルフは機先を制して、私のやったとこではありません、そう言った。
「これで大丈夫でしょ」
回復魔法を掛け終え、兵士の応急処置は済んだらしい。
私はこれまでの人生で介抱なんてしたことないし、救急車すら呼んだことはないけど、ウォルフの処置は、かなり手慣れているように見えた。
この人にはそういった経験が豊富なのかな?
「手際いいね」
「まあ、色々とやってきましたからね」
「どんな事を、やってきたの?」
ウォルフは即答しなかった。なんか、怒ってる?
「ごめん。言いたくなかったら、いいんだ」
「そうしてもらえると、ありがたいです。お応えできなくて、申し訳ありません」
ウォルフはランプを手に取ると、私に休むよう言ってきた。さすがに眠い。一日で起ったとは思えない程の体験だった。
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ベッドに入った私は、眠りの虜になっていた。
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