城好きのアンナ〜すべての城を制覇します〜

chui

文字の大きさ
26 / 28

第26話

しおりを挟む
 文献を読み進めると、私達自身が東方から移住してきた民族であることや、宗教闘争で破れた一派との合流など、歴史の主流から逃れてきた一派だと言うことがわかってきた。
 キフ族との戦いも、もちろん書いてある。
 私達の先祖が南方には侵攻できず、西と北へ領地を拡大していった歴史だ。
 キフ族の文明のことにも触れられていて、高度な石の加工技術をもつ一方、文字や車輪の文化を持っていないなかったらしい。
 で、あの神殿は、神殿のことは書かれていないの?
 ノノさんが文献の最後のページの方を開いてくれた。
 人を寄せ付けない北の大地。キフ族はそこを聖地と呼んだ。そこに造られたのが例の神殿なんだそうだ。
 この神殿が最後の戦いの場になった。
 ただ、それほど大規模な戦力が残っていなかったようで、苦戦することなく勝利したと書かれている。
 神殿入口からは内部に続く細い一本道が続き、その先に大広間とおぼしき空間が広がっていた。ただ外見の壮大さと比べて、内部の空間はそれ程広いものではなかったらしい。
 内部に立て籠もる人達はなく、無人であったと書かれている。
 こうして、国家としてのキフは滅び、生き残った少数のキフの民、キフ族は奴隷となったんだ。
 この神殿を最後まで守ったのは、信仰の為なのかな。北の大地にあるって事は、北極星信仰のような物があったのだろうか。
 「この神殿を見てみたいね」
 文献を読んで聞かせてくれたノノさんも、神殿に興味を持ったらしい。
 ただ、長時間読み聞かせてくれたせいで、その声は少しがらついている。  
 ごめんね、ノノさん。いま、回復魔法をかけるからね。
 魔法をかけると、ノノさんの美しい声が元に戻った。しかし、便利だな回復魔法。
 さて、と。今後の事を考えよう。
 理由もわからず、このリーベリに連れてこられたけど、キハーノの企んでいた婚姻話もなくなったし、お暇してもいいよね。
 「どうです、文献は」
 いいタイミング。アイユークが入ってきた。
 文献を読ませてくれた礼を述べた後で、先人達の苦労が偲ばれます、とノノさんが発言して、いつの時代も苦労が絶えないですね、とアイユークが返した。
 私がお暇したい事を伝えるタイミングを図っていると、アイユークから質問を受けた。
 「アンナさんは、いにしえの騎士たちの戦いを読んで、どう思われました」
 一瞬、キョトンとしてしまった私を見て、想像していたものと異なりましたか?と続けてきた。
 そうだった。文献を読む口実を騎士に興味を持ったから、という事にしていたんだった。
 すぐに応えることのできなかった私を見て、文献の内容が期待外れなのだと判断したらしいアイユークは、さらに続けた。
 「いや、無理にお答えしなくてもいいんです。では、騎士たちの模擬戦などご覧になりますか?」
 少し興味はある。だけど、何者かに命だって狙われた訳だし、足早にお暇する方がいいよね。
 「あと、城の見学などいかがでしょう」
 「見たいです」
 素早く応えた私を、ノノさんが凝視する。
 なぜそんな目で私を見るの?
 「では早速案内しましょう」
 「じゃ、外から。外から見たいです」
 城を見るなら、まずは周りから。
 攻め手の気持ちになり、どこからどう攻め込むのか、城の設計者との知恵比べをするのだ。
 「城壁の周りは、危ないですよ」
 「大丈夫です」
 で、来たわけだけど、これがなか手ごわい傾斜。
 山などで、道でない部分を歩いた事がある人ならわかるけど、人が歩かない箇所は、土が踏み固められていなくて柔らかい。傾斜に対して体を立てようと踏ん張ると、土に足がめり込んだり、滑ったりする。
 ぱっと見では、すぐに城壁に取り付くことができると思うけど、そう簡単にはいかない。
 「アンナさん、戻りませんか」
 後ろからアイユークの声がかかった。
 私は、もう少しだけと歩みを進めたが、その足取りは怪しい。
 「裏手は川になっているので、落ちたら溺れますよ」
 アイユークめ、私が【防壁】の魔法を使えるのを忘れたのかな。転げ落ちても怪我なんてしないし、したとしても回復魔法があります。
 そう思った瞬間、ウォルフの言葉がよぎった。
 『水の中に沈められたらどうでしょう【防壁】を使っても息はできませんよ』
 ……水ポチャは、まずいかも。
 もちろん球体の【防壁】を使えば大丈夫なのかもしれないけれど、水の中で球体の【防壁】を使ったら、水を内包したまま【防壁】が展開されるんじゃない?水に落ちる前に使っても、水が入ってくるかもしれないし。
 「引き返しましょ…」
 アイユークから、ため息が漏れたような気がした。
 すごすごと城門まで戻った私を、ノノさんは暖かく迎えてくれた。
 「なんであんな所を歩いたの」
 私が裾野から道に上がれるよう、ノノさんは手を差し伸べながら、屈託ない表情で質問をしてきた。
 悪意があるように見えるのは、私の羞恥心からくる歪んだ観測眼。それがわかるだけまともだけど、故に私は恥ずかしさを倍増させた。
 「城を制覇するには、やはり攻め手の気持ちを味合わないと…」
 そういうと、ノノさんは優しく頷いてくれた。たちの悪い羞恥心を、この笑顔が癒やしてくれる。
 「落ちなくて良かった」
 道に引き上げようと私の手を掴んでくれたその手は、暖かい。
 よし、次にいこう。
 私の表情を見て、側防塔を見ましょう、とアイユークが先導して場内を案内してくれる。
 城主自らガイドをしてくれるなんて、現代なら人気のツアーになるかも、なんて考えながら私の目は周りの城景…情景を見逃すまいと、まさに血眼になっている。
 側防塔の階段は螺旋状で、上から見て時計回りに作られていた。
 「ここが城壁の上につながっています」
 3階に当たる部分でアイユークが立ち止まり、戸を開いた。
 空が見える。その空が遠くの方で、大地とつながっているように見えるほど、視界を妨げるものがない。
 隣でノノさんの感嘆が漏れた。
 今までの人生で、この高さからの大パノラマを見ることなんてなかったはずだから当然だけど、美しいものを見たときの感動が、顔から溢れ出ている。
 いい表情だよ。ノノさんに喜んでもらえただけでも尊いのに、私は城に登っている。
 私の顔は今までないくらいの緩みっぷりを披露していたに違いない。
 風が優しく体をなでていく。
 ノノさんの髪がゆれた。
 手前に視線を移すと、凹凸状の鋸壁(きょへき)が見える。
 私はそこに駆け寄った。
 隙間から外をのぞきたい衝動に駆られたからだ。
 危ないよ、そういう声が聞こえて、大丈夫と応えたけど、それは無意識下で行われている。
 身を乗り出すように凹凸の間に体を突き出し下を見た。
 瞬間、現代でのラストシーンが思い出された。
 息を呑んだ。
 体が硬直して動かない。むしろ、地面に吸い寄せられるように、体が傾いていっている様に思える。
 わたし、おちる、かも…。
 そんな思考が客観的に流れた。
 「危ないって言ってるだろ」
 誰かに背中を捕まれ、体を引き起こされた。
 見るとロビンだった。
 その顔は困った表情をしていたが、一瞬で困惑に変化した。
 「アンナちゃん、どうした?」
 なんでもないです。私はそう言おうとしたが、言葉になっていないようで、ロビンが声掛けを繰り返す。
 あれ、へんだな。
 そう思ったところで、眼の前が暗くなった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

さようなら婚約者

あんど もあ
ファンタジー
アンジュは、五年間虐げられた婚約者から婚約破棄を告げられる。翌日、カバン一つを持って五年住んだ婚約者の家を去るアンジュ。一方、婚約者は…。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

【完結短編】ある公爵令嬢の結婚前日

のま
ファンタジー
クラリスはもうすぐ結婚式を控えた公爵令嬢。 ある日から人生が変わっていったことを思い出しながら自宅での最後のお茶会を楽しむ。

異世界でまったり村づくり ~追放された錬金術師、薬草と動物たちに囲まれて再出発します。いつの間にか辺境の村が聖地になっていた件~

たまごころ
ファンタジー
王都で役立たずと追放された中年の錬金術師リオネル。 たどり着いたのは、魔物に怯える小さな辺境の村だった。 薬草で傷を癒し、料理で笑顔を生み、動物たちと畑を耕す日々。 仲間と絆を育むうちに、村は次第に「奇跡の地」と呼ばれていく――。 剣も魔法も最強じゃない。けれど、誰かを癒す力が世界を変えていく。 ゆるやかな時間の中で少しずつ花開く、スロー成長の異世界物語。

処理中です...