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第25話
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朝食を済ませると、この場所でしばらく待つように言われたので待っているけど、なんとも静かな時間が流れている。
昨夜にしろ、先程の朝食の時間にしろ、大概の話はしてしまったから、話すことが、ない。この場にいる、3人が3人とも、何かを考えているような雰囲気を出しながら、気まずさに耐えている。
「アイユーク様、なにか娯楽ゲームのような物はないのですか?」
誰かが口を開いたという、安堵感が広がるのがわかる。アイユークが、ほっとした表情を浮かべた。
「スゴロクなら、兵舎にありますよ。持ってこさせましょ」
私はその提案を丁重にお断りした。スゴロクは決まったルートをサイコロで進めるだけのゲームだから、一度プレイしちゃうと飽きちゃうんだよね。
将棋やチェス、トランプといった物はないのか、身振り手振りを交えて聞いてみたが、どうもないらしい。
ノノさんは、この場の空気に見切りをつけて、ポルテの世話をしてくると立ち上がった。
これはいけない。なぜならノノさんなしでは文献が読めないからだ。在りてい言えば、私はこの世界の文字が読めない。
ここは、なにかゲームを披露しなくては…簡単に覚えられて、頭を使えるやつがいいな…【ハサミ】がいいか。
私の表情を読み取り、ノノさんが足を止めた。
「夢の世界の娯楽ですか」
アイユークも察したらしい、輝く目をこちらに向けている。
私はアイユークに木の板と小石を6つ求めた。
【ハサミ】とは一対一の対戦ゲームで、はさみ将棋の簡易版と言うべきもの。
必要になるのは、盤1枚と駒が6つ。
まず盤の説明からするね。盤上には将棋のマスのように図形が描かれていて、それは、こんな感じになります。
田んぼの【田】に各頂点から対角線を引いた【✕】と、それぞれの辺の真ん中同士を結ぶ【◇】を書き入れた物が盤になる。
対戦者は将棋やチェスのように、盤を挟んですわり、盤の自分側にある辺の、線の接点に駒を1つずつ、計3つを配置して、対戦準備が完了する。
駒は、線と線が交わっている接点にしか移動できなくて、複数の接点を一気に移動することはできない。
先攻後攻を決めたら駒を動かし、相手の駒を自分の駒ではさむ事で、盤上から排除していく。
将棋やチェスと同じで、一つの駒を動かすと、相手のターンになる。
ともかく、私は材料を受け取り盤を作った。
ノノさんもポルテの世話をしてくると言っていたのにも関わらず、娯楽に興味があるようで、私の手元にある盤を見つめている。
「これが娯楽…」
本当に好奇心が旺盛なんだから。
私はノノさんに、おそらくはこの世界で初めてになる、はさみの体験者になってもらうことにした。
相手をするのは、もちろん私。当然ながら、勝利したのも私。
「なるほど…自分から挟まりにいった時は取られないんですね…」
これはアイユーク。
ノノさんは、そのアイユークの表情をみて、もう一回やらせて下さい、と彼に告げると私の方に向き直った。
むきになっている顔が、美しかった。
「手加減しなくていいからね」
鋭い言葉が私に向けられた。
読まれてるっ。そんな事しないよ、などと言いながら、動揺を隠したけど、見抜かれているだろうな。
2回戦目を開始した。
先攻のノノさんが、中央の駒を前進させてきた。受ける私は、右端の駒を前進させる。その空いている私の右側手前の方へ向かうべく、ノノさんはさらに前進させて来た。
ノノさんが前進してくるのだから、経験者の私が進めた駒を下げる訳にはいかない。そう思った私は、自身の中央手前に配置している駒を、右手前へ移動させた。
ふふふっ。ノノさん、安全地帯になる角を取ろうとしたんだろうけど、そうは行かないぞ。
とこがノノさんは、私の中央手前の空いたスペースへ、自身の駒を前進させた。しかも、駒を移動させた時に私の顔をチラッと見るオマケつき。
なんだ、今のチラ見は?
疑問に思いつつも、私の駒を動かす番だ。
ところが、このときに初めて気づいた。私の駒が確実に1つ、取られる事に。
まぐれなのか?私はノノさんを見た。彼女は目を細めて盤を見ている。
これは、狙ってやっている。2回目にして、すでにコツを掴んでいる。なんて飲み込みの速さなんだろう。
この戦いが、私の連敗記録のはじまりだった。
結局ノノさんとアイユークの戦いばかりになった。牽制、挑発、誘いなどなど、この小さな盤の上で、激しい頭脳戦が繰り広げられている。
これならスゴロクの方が良かった。
今更悔いても仕方がないのだけれど、嘆かざるを得ない。だって今、教えたばかりなのに、2人はすでに私を超えている。立つ瀬がないよ。
2人は、やがてゲームの改良の話まで始めた。
そんな折、廊下から入室を求める声が聞こえた。
やっと文献が届いたのかと、一瞬期待に胸が高まったが、それにしては声のトーンに険しさを感じた。
「お二人はそのまま、おくつろぎ下さい」
そう言うと、アイユークは席を立ち廊下へ出ていった。
途の向こうで、何かしら話をしている様子が伺えた。そうなると、外での会話に興味がないと言うのが嘘になる。
私は戸の方に集中して、少しでも会話が聞こえないか耳を傾けた。
「アンナちゃん、ゲームやろう」
私の顔に、拒否したいと、書いてあったのを読み取ったノノさんは、ハンデをあげるから、と私を更に誘う。
「どんなハンデをくれるの?」
「私は2駒で開始するから」
なるほど…そんなハンデをくれるのか。私は快諾をした。
始めて見ると、思うように攻める事ができなかった。
駒の少なさは、行動できる自由さを与えていて、意外にすばしっこい。
交代交代に駒を動かすこのゲームにおいて、駒がすばしっこくなるはずはないのだけれど、そう見えるのだから、しょうがないじゃない。
ノノさんは2つの駒に役割を当てているようで、1つはあまり動かない本隊というべき駒。もう一つは動き回り陽動や攻撃など、騎馬での遊撃隊を思わせた。
戦いは、私の駒が1つ取られようとすることろで終わりを告げた。
私が盤をひっくり返したからではないよ。アイユークが部屋に戻って来たからだ。
「アンナさん、お待たせしました。文献です」
私の心は晴れた。
昨夜にしろ、先程の朝食の時間にしろ、大概の話はしてしまったから、話すことが、ない。この場にいる、3人が3人とも、何かを考えているような雰囲気を出しながら、気まずさに耐えている。
「アイユーク様、なにか娯楽ゲームのような物はないのですか?」
誰かが口を開いたという、安堵感が広がるのがわかる。アイユークが、ほっとした表情を浮かべた。
「スゴロクなら、兵舎にありますよ。持ってこさせましょ」
私はその提案を丁重にお断りした。スゴロクは決まったルートをサイコロで進めるだけのゲームだから、一度プレイしちゃうと飽きちゃうんだよね。
将棋やチェス、トランプといった物はないのか、身振り手振りを交えて聞いてみたが、どうもないらしい。
ノノさんは、この場の空気に見切りをつけて、ポルテの世話をしてくると立ち上がった。
これはいけない。なぜならノノさんなしでは文献が読めないからだ。在りてい言えば、私はこの世界の文字が読めない。
ここは、なにかゲームを披露しなくては…簡単に覚えられて、頭を使えるやつがいいな…【ハサミ】がいいか。
私の表情を読み取り、ノノさんが足を止めた。
「夢の世界の娯楽ですか」
アイユークも察したらしい、輝く目をこちらに向けている。
私はアイユークに木の板と小石を6つ求めた。
【ハサミ】とは一対一の対戦ゲームで、はさみ将棋の簡易版と言うべきもの。
必要になるのは、盤1枚と駒が6つ。
まず盤の説明からするね。盤上には将棋のマスのように図形が描かれていて、それは、こんな感じになります。
田んぼの【田】に各頂点から対角線を引いた【✕】と、それぞれの辺の真ん中同士を結ぶ【◇】を書き入れた物が盤になる。
対戦者は将棋やチェスのように、盤を挟んですわり、盤の自分側にある辺の、線の接点に駒を1つずつ、計3つを配置して、対戦準備が完了する。
駒は、線と線が交わっている接点にしか移動できなくて、複数の接点を一気に移動することはできない。
先攻後攻を決めたら駒を動かし、相手の駒を自分の駒ではさむ事で、盤上から排除していく。
将棋やチェスと同じで、一つの駒を動かすと、相手のターンになる。
ともかく、私は材料を受け取り盤を作った。
ノノさんもポルテの世話をしてくると言っていたのにも関わらず、娯楽に興味があるようで、私の手元にある盤を見つめている。
「これが娯楽…」
本当に好奇心が旺盛なんだから。
私はノノさんに、おそらくはこの世界で初めてになる、はさみの体験者になってもらうことにした。
相手をするのは、もちろん私。当然ながら、勝利したのも私。
「なるほど…自分から挟まりにいった時は取られないんですね…」
これはアイユーク。
ノノさんは、そのアイユークの表情をみて、もう一回やらせて下さい、と彼に告げると私の方に向き直った。
むきになっている顔が、美しかった。
「手加減しなくていいからね」
鋭い言葉が私に向けられた。
読まれてるっ。そんな事しないよ、などと言いながら、動揺を隠したけど、見抜かれているだろうな。
2回戦目を開始した。
先攻のノノさんが、中央の駒を前進させてきた。受ける私は、右端の駒を前進させる。その空いている私の右側手前の方へ向かうべく、ノノさんはさらに前進させて来た。
ノノさんが前進してくるのだから、経験者の私が進めた駒を下げる訳にはいかない。そう思った私は、自身の中央手前に配置している駒を、右手前へ移動させた。
ふふふっ。ノノさん、安全地帯になる角を取ろうとしたんだろうけど、そうは行かないぞ。
とこがノノさんは、私の中央手前の空いたスペースへ、自身の駒を前進させた。しかも、駒を移動させた時に私の顔をチラッと見るオマケつき。
なんだ、今のチラ見は?
疑問に思いつつも、私の駒を動かす番だ。
ところが、このときに初めて気づいた。私の駒が確実に1つ、取られる事に。
まぐれなのか?私はノノさんを見た。彼女は目を細めて盤を見ている。
これは、狙ってやっている。2回目にして、すでにコツを掴んでいる。なんて飲み込みの速さなんだろう。
この戦いが、私の連敗記録のはじまりだった。
結局ノノさんとアイユークの戦いばかりになった。牽制、挑発、誘いなどなど、この小さな盤の上で、激しい頭脳戦が繰り広げられている。
これならスゴロクの方が良かった。
今更悔いても仕方がないのだけれど、嘆かざるを得ない。だって今、教えたばかりなのに、2人はすでに私を超えている。立つ瀬がないよ。
2人は、やがてゲームの改良の話まで始めた。
そんな折、廊下から入室を求める声が聞こえた。
やっと文献が届いたのかと、一瞬期待に胸が高まったが、それにしては声のトーンに険しさを感じた。
「お二人はそのまま、おくつろぎ下さい」
そう言うと、アイユークは席を立ち廊下へ出ていった。
途の向こうで、何かしら話をしている様子が伺えた。そうなると、外での会話に興味がないと言うのが嘘になる。
私は戸の方に集中して、少しでも会話が聞こえないか耳を傾けた。
「アンナちゃん、ゲームやろう」
私の顔に、拒否したいと、書いてあったのを読み取ったノノさんは、ハンデをあげるから、と私を更に誘う。
「どんなハンデをくれるの?」
「私は2駒で開始するから」
なるほど…そんなハンデをくれるのか。私は快諾をした。
始めて見ると、思うように攻める事ができなかった。
駒の少なさは、行動できる自由さを与えていて、意外にすばしっこい。
交代交代に駒を動かすこのゲームにおいて、駒がすばしっこくなるはずはないのだけれど、そう見えるのだから、しょうがないじゃない。
ノノさんは2つの駒に役割を当てているようで、1つはあまり動かない本隊というべき駒。もう一つは動き回り陽動や攻撃など、騎馬での遊撃隊を思わせた。
戦いは、私の駒が1つ取られようとすることろで終わりを告げた。
私が盤をひっくり返したからではないよ。アイユークが部屋に戻って来たからだ。
「アンナさん、お待たせしました。文献です」
私の心は晴れた。
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