33 / 190
3章 命の猶予
31 バレた!?
しおりを挟む
朝一人で登校したのは、とりあえず『お腹が痛くなったから』の理由で誤魔化すことができた。
少し嘘っぽいかなとは思ったが、ちょうど通りかかった鈴木に「さっきは~」と保健室でのことを話したことで、真実味が増したらしい。
鈴木は大分慌てた様子で逃げて行ったけれど。
中條が何事もなかったように接してくれたのが有難い。これは、嵐の前の静けさというやつだろうか。
そんな感じで、今日一日は咲にとってまぁまぁ平和に終わる筈だった――。
☆
学校から駅までの帰り道、みさぎとお泊り会の予定を色々立てる。
良い機会だからと、みさぎの両親が温泉に一泊旅行する事になり、夕飯を一緒に作ろうだとか、夜は何を着て寝ようだとか、話題は尽きない。
「お兄ちゃん、咲ちゃんが来るのめちゃくちゃ楽しみにしてるよ」
「それは嬉しいな」
「何なに? 何の話? 楽しそうだね」
テンションを上げた咲に、少し後ろを歩いていた智が首を突っ込んできた。隣にはもちろん湊が居る。
「みさぎの家に泊りに行くんだ。羨ましいか」
咲がしたり顔を二人へ向けると、湊が面倒そうに溜息を漏らす。
「お前は俺に何て言わせたいんだよ」
「羨ましいですって言わせたいんだよ」
「咲ちゃんらしいね。確かにみさぎちゃんの家に泊れるなんて羨ましいけど、流石に俺たちは男だから遠慮しとくよ。咲ちゃんは女の子だから、俺たちの分も楽しんできてね」
「お、おぅ」
『女の子』を強調する智に意味深な空気を感じて、咲は息を呑んだ。
まさか智は気付いているのだろうか。
表情はいつも通りだが、今日は朝から智の視線を多く感じた気がする。気のせいだとは思いたいけれど、絢にも注意されたように一昨日の山の件も含めて心当たりは幾らでもあった。
不穏な空気を噛み締めつつ、咲はみさぎの隣に隠れるように歩く。
☆
「咲ちゃん、智くん、また明日ね」
改札の手前で二人と別れる。
もう上り電車はホームに入っていた。駆け足で行く二人の背中はカップルに見えるが、この間みさぎに告白したのは智だ。
笑顔で見送る智をそろりと見上げると、「何?」と振り向いてくる。
咲は反射的に彼から一歩横へ離れた。不自然さを見せないように、いち早く彼とサヨナラをしたいと思う。
「お前は行かないのか?」
上り電車が出ると、下りもすぐ入ってくる。いつもならここで「じゃあね」と行ってしまう智だけれど、今日に限って彼はそこから動こうとはしなかった。
「うん、俺は咲ちゃんに用事があるからね」
「は……? 私に?」
サッと逸らした視線を智に戻すことができなかった。
やばい、やばい……緊張を走らせたまま呪文のように心で繰り返すが、もちろん何の効果もない。
上り電車が出ていくまでの沈黙が過ぎて、智の短い息が笑ったような音を含ませて咲の耳に届いた。
「咲ちゃん」
「な、なぁに、智くん」
こんな急な状況で、覚悟なんて決めることはできなかった。
「智くん、じゃないでしょ? 咲ちゃん俺に色々隠してるよね?」
「な、何のことかしら……」
「とボケても無駄だよ。俺さ、咲ちゃんが思ってるより咲ちゃんに詳しいと思うんだ」
「そ、それはどういう……」
フッと笑う智の声色が変わる。
「俺がお前の太刀筋とか間合いに気付かないと思う?」
「い、いいえ。思いません……」
もうダメだ。はぐらかすことなんてできなかった。
「どういう経緯かは知らないけど、俺の目を侮るなよ、ヒルス!」
少し嘘っぽいかなとは思ったが、ちょうど通りかかった鈴木に「さっきは~」と保健室でのことを話したことで、真実味が増したらしい。
鈴木は大分慌てた様子で逃げて行ったけれど。
中條が何事もなかったように接してくれたのが有難い。これは、嵐の前の静けさというやつだろうか。
そんな感じで、今日一日は咲にとってまぁまぁ平和に終わる筈だった――。
☆
学校から駅までの帰り道、みさぎとお泊り会の予定を色々立てる。
良い機会だからと、みさぎの両親が温泉に一泊旅行する事になり、夕飯を一緒に作ろうだとか、夜は何を着て寝ようだとか、話題は尽きない。
「お兄ちゃん、咲ちゃんが来るのめちゃくちゃ楽しみにしてるよ」
「それは嬉しいな」
「何なに? 何の話? 楽しそうだね」
テンションを上げた咲に、少し後ろを歩いていた智が首を突っ込んできた。隣にはもちろん湊が居る。
「みさぎの家に泊りに行くんだ。羨ましいか」
咲がしたり顔を二人へ向けると、湊が面倒そうに溜息を漏らす。
「お前は俺に何て言わせたいんだよ」
「羨ましいですって言わせたいんだよ」
「咲ちゃんらしいね。確かにみさぎちゃんの家に泊れるなんて羨ましいけど、流石に俺たちは男だから遠慮しとくよ。咲ちゃんは女の子だから、俺たちの分も楽しんできてね」
「お、おぅ」
『女の子』を強調する智に意味深な空気を感じて、咲は息を呑んだ。
まさか智は気付いているのだろうか。
表情はいつも通りだが、今日は朝から智の視線を多く感じた気がする。気のせいだとは思いたいけれど、絢にも注意されたように一昨日の山の件も含めて心当たりは幾らでもあった。
不穏な空気を噛み締めつつ、咲はみさぎの隣に隠れるように歩く。
☆
「咲ちゃん、智くん、また明日ね」
改札の手前で二人と別れる。
もう上り電車はホームに入っていた。駆け足で行く二人の背中はカップルに見えるが、この間みさぎに告白したのは智だ。
笑顔で見送る智をそろりと見上げると、「何?」と振り向いてくる。
咲は反射的に彼から一歩横へ離れた。不自然さを見せないように、いち早く彼とサヨナラをしたいと思う。
「お前は行かないのか?」
上り電車が出ると、下りもすぐ入ってくる。いつもならここで「じゃあね」と行ってしまう智だけれど、今日に限って彼はそこから動こうとはしなかった。
「うん、俺は咲ちゃんに用事があるからね」
「は……? 私に?」
サッと逸らした視線を智に戻すことができなかった。
やばい、やばい……緊張を走らせたまま呪文のように心で繰り返すが、もちろん何の効果もない。
上り電車が出ていくまでの沈黙が過ぎて、智の短い息が笑ったような音を含ませて咲の耳に届いた。
「咲ちゃん」
「な、なぁに、智くん」
こんな急な状況で、覚悟なんて決めることはできなかった。
「智くん、じゃないでしょ? 咲ちゃん俺に色々隠してるよね?」
「な、何のことかしら……」
「とボケても無駄だよ。俺さ、咲ちゃんが思ってるより咲ちゃんに詳しいと思うんだ」
「そ、それはどういう……」
フッと笑う智の声色が変わる。
「俺がお前の太刀筋とか間合いに気付かないと思う?」
「い、いいえ。思いません……」
もうダメだ。はぐらかすことなんてできなかった。
「どういう経緯かは知らないけど、俺の目を侮るなよ、ヒルス!」
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
24
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる