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11章 俺はその時、彼女にもう一度さよならを言いたくなった
114 あの日と同じ思い
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再生の儀の後、ハーレムの女子メンバーは城の広間に集まるという話だったらしい。
エムエル姉妹が声掛けをして城に入っていく所は、俺もこの目でちゃんと見ている。
ちさや美緒と一緒だったメルは、移動の途中にメルーシュ親衛隊のヒオルスに呼ばれて別の所へ行ってしまったという事だ。
彼女の部屋に鍵は掛かっていなかった。
俺はドアに貼られた名前を確かめて、「美緒、入るぞ」と一方的に断りを入れてからゆっくりと扉を開いた。
予想通り人気はない。中は荒れた様子もなく、ベッドもきちんと整えられた状態だ。
「いない……」と不安気に呟くちさ。
部屋には誰かが隠れているような気配もなく、俺はすぐに廊下へ出て扉を閉じた。
「私がちょっと、と……トイレに行ってて。その後みんなの所に行ったら、先に行ったはずの美緒さんがいなくて」
言い辛そうに肩をすくめ、ちさは腹の前でぎゅうと両手を握りしめた。
「わ、私のせいなんです。私が一緒だったら、美緒さんは……」
「そうじゃないよ。何があったかなんてわからないんだから、悪く考えるなよ。アイツのことだから、城の中探検してるのかもしれないし」
そうは言ってみたものの、さすがにそれはないかなと思ってしまう。けれどこんな広い城で迷子にならないとも言い切れず、「俺が探してみるよ」とちさの肩をぽんと叩いた。
「俺だってトイレ行きたくなったら、先に行ってろって言うよ。だから、ちさはみんなの所で待っててもらえる?」
「は、はい」
しゅんとした顔をくしゃりと歪めて、ちさは大きく俺に頭を下げると廊下をパタパタと戻っていった。
「どこに行ったんだ……?」
シンとした廊下に呟いて、俺はひとまず自分の部屋へ戻る。
セルティオの襲撃で一度壁が消えてしまったことを疑ってしまう程に、記憶通りの状態だ。
「はぁい、ユースケ」
「居たのか、ヒルド」
クラウと一緒にティオナに拉致されてしまったが、まさかここに居るとは思わなかった。
ベッドの上に座っていたヒルドは、長い足を広げて俺に「お帰りなさい」と手を振った。
「驚かすなよ」
「そんなことしてないよ。僕はずっとユースケを待ってたんだよ? ティオナ様ってば、僕に邪魔するなって勝手に連れてきてさ」
ティオナなりに気を使ったんだろうか。けれど、ハイドと二人きりになったところで特別何かが起きたわけじゃない。
魔法師は人を飛ばせないと言っていたが、ティオナは例外らしい。それも近距離のみで、「僕を廊下に捨てたんだよ」とヒルドが愚痴った。
「じゃあ、クラウも城に居るのか?」
「うん、下の廊下に出たんだけど、ゼストが部屋に連れて行ったよ」
「そうか」と答えて、俺はひとまずヒルドの自画像を元あった壁の側に持って行った。この際飾らなくてもいいかなと思っていたが、期待いっぱいの本人の視線に背くわけにはいかず、諦め半分の気持ちでそれを杭に引っ掛ける。
「いいね」と笑顔を広げるヒルド。
「俺さ、美緒が居なくなったっていうから捜してくるよ」
「ミオちゃんが?」
俺は制服のジャケットを脱いでソファに乗せた。
「あぁ。城の中じゃなかったら外かもしれないしな」
「外? ユースケに言わないで外なんて行くかな?」
「アイツは俺に言わないで行くやつなんだよ。だから俺がここまで追ってきたんじゃねぇか」
俺に内緒で、美緒は勝手にこの異世界に来た。瑛助の保管者であるアイツは、クラウにその影を重ねて魔王の巨乳ハーレムに入ってしまったのだ。
「そっか」と納得して、ヒルドはベッドを下りる。
「なら僕も一緒に行くよ」
「別に、俺一人で良いよ」
「ええっ。それって、見つけた時に彼女を抱きしめたいから? 僕は後ろ向いてるから遠慮なんかしなくていいんだよ?」
「そうじゃない……けど。わかったよ。行こうぜ、戦友」
ヒルドの勢いには勝てない。抵抗する気力がないという方が正しいのかもしれないけれど、俺はいつもコイツの存在を心強いとは思っている。
「そうこなくちゃ。いい? もう一回言うけど、遠慮なんていらないからね?」
そんな流れで俺とヒルドは部屋を出たわけだが、美緒の捜索は思っていたより難航した。
城の中をバタバタと走り回ってみたが、有力な情報は得られなかった。
厨房にも行ったし、女子トイレの前で呼んでみたりもしたが、反応はない。
正門の兵士はここ数時間の出入りはなかったというし、髭面の門番・アースの所にも行ってみたが答えは変わりなかった。
「本当にいるのかな」
「たぶん……」
焦りと不安が交錯する。この気持ちは、美緒を探して炎天下を走ったあの日と一緒だ。
俺たちは城に戻って、今度は廊下を隅々まで歩いてみた。そして最上階まで行った俺たちは、フロアの中央へと続く廊下の前で足を止める。
城の廊下は、淡い白色に金糸で草花の模様が描かれた壁紙で統一されていたが、そこから風景が一変した。
パズルのピースを間違えて組んでしまったように、突然壁が藍色に変わる。銀糸の刺繍はなにやら異国の紋章のような形が繰り返されていた。
三部屋分くらい奥の突き当りに扉が一つあるだけで、藍色の壁には窓すらなかった。
「魔王の部屋……?」
俺が居た向こうの世界の『魔王=魔物(魔界)の王』という感覚で言えばそれで納得ができるが、こっちの世界の魔王は『魔法世界の王』を意味する。
「違うかな」と首をひねると、ヒルドは「たぶん……」と廊下の奥を見据えてから、壁に這わせた指で側の銀刺繍をぐるりと囲んで見せた。
「城にあるってことは知ってたけど。これは、元老院の印だ。だから、ここが議事室なんじゃないかな」
それを聞いて、俺はハイドの言葉を思い出す。
――「美緒様が苦しむ姿を見たくはないでしょう?」
藍色の廊下に突然不穏な空気を感じて、俺はねっとりと汗の滲む掌を力強く握りしめた。
エムエル姉妹が声掛けをして城に入っていく所は、俺もこの目でちゃんと見ている。
ちさや美緒と一緒だったメルは、移動の途中にメルーシュ親衛隊のヒオルスに呼ばれて別の所へ行ってしまったという事だ。
彼女の部屋に鍵は掛かっていなかった。
俺はドアに貼られた名前を確かめて、「美緒、入るぞ」と一方的に断りを入れてからゆっくりと扉を開いた。
予想通り人気はない。中は荒れた様子もなく、ベッドもきちんと整えられた状態だ。
「いない……」と不安気に呟くちさ。
部屋には誰かが隠れているような気配もなく、俺はすぐに廊下へ出て扉を閉じた。
「私がちょっと、と……トイレに行ってて。その後みんなの所に行ったら、先に行ったはずの美緒さんがいなくて」
言い辛そうに肩をすくめ、ちさは腹の前でぎゅうと両手を握りしめた。
「わ、私のせいなんです。私が一緒だったら、美緒さんは……」
「そうじゃないよ。何があったかなんてわからないんだから、悪く考えるなよ。アイツのことだから、城の中探検してるのかもしれないし」
そうは言ってみたものの、さすがにそれはないかなと思ってしまう。けれどこんな広い城で迷子にならないとも言い切れず、「俺が探してみるよ」とちさの肩をぽんと叩いた。
「俺だってトイレ行きたくなったら、先に行ってろって言うよ。だから、ちさはみんなの所で待っててもらえる?」
「は、はい」
しゅんとした顔をくしゃりと歪めて、ちさは大きく俺に頭を下げると廊下をパタパタと戻っていった。
「どこに行ったんだ……?」
シンとした廊下に呟いて、俺はひとまず自分の部屋へ戻る。
セルティオの襲撃で一度壁が消えてしまったことを疑ってしまう程に、記憶通りの状態だ。
「はぁい、ユースケ」
「居たのか、ヒルド」
クラウと一緒にティオナに拉致されてしまったが、まさかここに居るとは思わなかった。
ベッドの上に座っていたヒルドは、長い足を広げて俺に「お帰りなさい」と手を振った。
「驚かすなよ」
「そんなことしてないよ。僕はずっとユースケを待ってたんだよ? ティオナ様ってば、僕に邪魔するなって勝手に連れてきてさ」
ティオナなりに気を使ったんだろうか。けれど、ハイドと二人きりになったところで特別何かが起きたわけじゃない。
魔法師は人を飛ばせないと言っていたが、ティオナは例外らしい。それも近距離のみで、「僕を廊下に捨てたんだよ」とヒルドが愚痴った。
「じゃあ、クラウも城に居るのか?」
「うん、下の廊下に出たんだけど、ゼストが部屋に連れて行ったよ」
「そうか」と答えて、俺はひとまずヒルドの自画像を元あった壁の側に持って行った。この際飾らなくてもいいかなと思っていたが、期待いっぱいの本人の視線に背くわけにはいかず、諦め半分の気持ちでそれを杭に引っ掛ける。
「いいね」と笑顔を広げるヒルド。
「俺さ、美緒が居なくなったっていうから捜してくるよ」
「ミオちゃんが?」
俺は制服のジャケットを脱いでソファに乗せた。
「あぁ。城の中じゃなかったら外かもしれないしな」
「外? ユースケに言わないで外なんて行くかな?」
「アイツは俺に言わないで行くやつなんだよ。だから俺がここまで追ってきたんじゃねぇか」
俺に内緒で、美緒は勝手にこの異世界に来た。瑛助の保管者であるアイツは、クラウにその影を重ねて魔王の巨乳ハーレムに入ってしまったのだ。
「そっか」と納得して、ヒルドはベッドを下りる。
「なら僕も一緒に行くよ」
「別に、俺一人で良いよ」
「ええっ。それって、見つけた時に彼女を抱きしめたいから? 僕は後ろ向いてるから遠慮なんかしなくていいんだよ?」
「そうじゃない……けど。わかったよ。行こうぜ、戦友」
ヒルドの勢いには勝てない。抵抗する気力がないという方が正しいのかもしれないけれど、俺はいつもコイツの存在を心強いとは思っている。
「そうこなくちゃ。いい? もう一回言うけど、遠慮なんていらないからね?」
そんな流れで俺とヒルドは部屋を出たわけだが、美緒の捜索は思っていたより難航した。
城の中をバタバタと走り回ってみたが、有力な情報は得られなかった。
厨房にも行ったし、女子トイレの前で呼んでみたりもしたが、反応はない。
正門の兵士はここ数時間の出入りはなかったというし、髭面の門番・アースの所にも行ってみたが答えは変わりなかった。
「本当にいるのかな」
「たぶん……」
焦りと不安が交錯する。この気持ちは、美緒を探して炎天下を走ったあの日と一緒だ。
俺たちは城に戻って、今度は廊下を隅々まで歩いてみた。そして最上階まで行った俺たちは、フロアの中央へと続く廊下の前で足を止める。
城の廊下は、淡い白色に金糸で草花の模様が描かれた壁紙で統一されていたが、そこから風景が一変した。
パズルのピースを間違えて組んでしまったように、突然壁が藍色に変わる。銀糸の刺繍はなにやら異国の紋章のような形が繰り返されていた。
三部屋分くらい奥の突き当りに扉が一つあるだけで、藍色の壁には窓すらなかった。
「魔王の部屋……?」
俺が居た向こうの世界の『魔王=魔物(魔界)の王』という感覚で言えばそれで納得ができるが、こっちの世界の魔王は『魔法世界の王』を意味する。
「違うかな」と首をひねると、ヒルドは「たぶん……」と廊下の奥を見据えてから、壁に這わせた指で側の銀刺繍をぐるりと囲んで見せた。
「城にあるってことは知ってたけど。これは、元老院の印だ。だから、ここが議事室なんじゃないかな」
それを聞いて、俺はハイドの言葉を思い出す。
――「美緒様が苦しむ姿を見たくはないでしょう?」
藍色の廊下に突然不穏な空気を感じて、俺はねっとりと汗の滲む掌を力強く握りしめた。
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