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第8話 サーファのお父様

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 サーファはなんと、この国の王女様だった。
 以前にも告げられてはいたが、ユウトは気にも留めていなかった。
 だから前回サーファの説明を聞いて、改めて驚いた。
 そんなユウトは、サーファに手を引かれて、青の城の廊下を急ぐ。

「ちょっと離してよ。」
 サーファに手を引かれるユウトは、サーファに懇願。
 今の状況は、なんだかこっ恥ずかしい。
「もう、ユウトが悪いんだからね。」
 サーファはユウトの手を離す。
 サーファも同じ気持ちだったらしい。

 サーファはある部屋の前で足を止める。
 そして扉をリズミカルにノックする。

 コンコン、コココン。

 ココココ、ココン。

 中からもリズミカルなノックが返ってくる。
 この返ってきたノックは、扉を叩いたというよりも、部屋のもっと奥の方から響く感じだった。
「ユウト、お父様に会っても、驚かないでね。」
「う、うん。」
 サーファの真剣な眼差しに、ユウトはそれしか返せなかった。
 サーファが会う事を嫌がってた、この国の国王。
 一体どんなお人なのだろう。

 そんな緊張をするユウトを尻目に、サーファは扉を開ける。

 扉の奥は、ユウトの知る八畳間ふたつ分の広さはあった。
 部屋の奥には立派な机が置かれ、王冠を被った人物が、何やら書類にサインしている。
 ここは王様の執務室って言った所だろうか。
 そして王冠を被った人物、この国の国王様と思しきお人は、青い瞳で金髪のナイスミドル。
 顔立ちからサーファとは親子と感じるが、髪の色は違う。
 サーファの青髪は、母親から受け継いだ物なのだろう。
 そして王様の机の前には、応接用のソファーとテーブルがあり、ソファーにはアスカが座っている。
 アスカも何かの書類に目を通していた。

「遅いよフィーナ。」
 アスカは書類に目を通しながら、フィーナに告げる。
「しょ、しょうがないでしょ、ユウトがもたついてたんだから。」
 ユウトは自分のせいにされて、悪い気しかしない。
「フィーナちゃん、帰ったならすぐ、報告に来なくちゃダメでしょ。」
 王様は感情を押し殺した低い声で、サーファを注意する。
「はいはーい、ごめんなさーい、今帰りましたー。」
 サーファは適当な返事をして、アスカの隣りに腰掛ける。
 ユウトもサーファの向かいに腰掛けようとするのだが、そんなユウトを王様がにらむ。
 王様のあまりの眼力に、ユウトの身体は硬直する。
 異世界ジュエガルドに七つある国の国王。
 それは地球で例えるなら、アジアやヨーロッパを代表する人物と言える。
 そんな人物と面会しているのだ。
 ユウトが緊張しないはずがなかった。

「君が、フィーナちゃんが異世界から連れてきた、あー、」
 国王はユウトに声をかける。
 ユウトは緊張の面持ちで国王の次の言葉を待つ。
 しかし国王は、「あー、」と言った口の形で固まっている。
「ユウトだよ。」
 サーファは立ち上がり、ユウトの隣りに立って紹介する。
「ユウト君かね。」
 国王はやっと次に続く言葉を述べる。
 このやりとりにずっこけるユウトだが、国王の眼力に、思わずびびる。
「き、如月悠人です!よ、よろしくお願いします!」
 ユウトは直角に腰を曲げて頭を下げる。
「ちょっと、どうしちゃったのよ、ユウト。」
 サーファもユウトの隣りで腰を曲げ、ユウトの顔を覗き込み、小声で聞いてみる。
「だってサーファ、この人怖い。」
 ユウトは心なしか、震えている。

「サーファだって?」
 王様はユウトの小声の発言を聞き取り、つぶやく。
「ちょっとユウト君、うちのフィーナちゃんとは、どう言う関係なのかな?」
 王様の問いかけに、ユウトは頭を上げる。
 見ると王様は、怒気を溜め込んだ感じにうつむいている。
 右手に握る羽根ペンが、小刻みに揺れている。
 そんな王様の雰囲気も気になるが、ユウトはサーファとの関係を、改めて考えてみる。

 突然自分を訳分からない争いに巻き込んだサーファ。
 そこに何の説明もなかった。
 しかも、バイトで疲れてるのに、魔石獣討伐に狩り出される。
 その時間は試験勉強にあててると言うのに、魔石獣討伐に狩り出される。
 それを拒むと、サーファは自分以外の人間には見えない事を良い事に、色々悪さをして、濡れ衣を着せてきた。
 おかげでユウトの勉強ははかどらず、バイトにも支障をきたし、憧れの先輩にも呆れられる始末。

「そうですね、ひと言で言ったら、下僕の関係、ですかね?」
 ユウトは上記の回想をふまえ、そう解答する。
 王様の握る羽根ペンが、ピキっと音をたててへし折れる。
「フィーナちゃん!パパ様はこんなヤツ、認めませんからね!」
 王様はいきなりサーファを叱る。
「そ、そんな関係じゃないから!勘違いしないでよ、お父様!」
「パパ様と呼びなさいって、いつも言ってるでしょ!」
「嫌よ!恥ずかしい!」

 えー、何この親子。
 ユウトはふたりのやりとりに、ドン引き。
 その横では、アスカが笑ってる。
 ほんと、何なんだろ、この親子。
 国王と王女と言うより、娘を心配する父親とその父親に反発する娘。
 その関係はどこか暖かく、そして羨ましい。

 どうやら王様は、サーファ呼びに対して怒ってるようだ。
 元は、サーファの本名が長ったらしいので、面倒だからサーファで良いよねと、ユウトが勝手に決めた呼び名。
 その呼び名は、異世界ジュエガルドで何か意味のある呼び名だったらしい。

「もう!だったらユウトにもフィーナって呼んでもらうわよ!それでいいでしょ!」
 王様と口論を続けたサーファは、そう言い放つ。
「待ちなさい、フィーナちゃん!そう言う問題ではないでしょ!」
 そんな王様を無視して、サーファはユウトに向き直る。
「いい、ユウト、これからは私の事、フィーナって呼びなさい!」
「う、うん、分かったよ、サーファ、じゃなくて、フィーナ。」
 ユウトはサーファの剣幕に圧倒される。
 ユウトにフィーナと呼ばせて、サーファは口論に勝ち誇った笑顔で王様に向き直る。
「くう、」
 これには王様も、何も言い返せなかった。

「あっはっは、残念だったな、フィーナの下僕さん。
 フィーナと特別な関係になれなくて。」
 サーファと王様との口論が終わり、アスカはユウトに笑いかけてくる。
「特別?」
 意味の分からないユウトは、その単語を聞き返す。
「ちょっと、蒸し返さないでよ、アスカ。」
 サーファはちょっと照れた様子で、アスカをとがめる。
「ああ、悪い悪い。」
 とアスカは笑い飛ばす。
「こほん。」
 と王様は咳払い。
 なごんだ場の空気が引き締まる。

「ところでフィーナちゃんの下僕の、あー、」
 と言って王様はユウトをにらむ。
「ユウトです。」
 ユウトは自分の名を告げる。
「ユウト君は、レベルが低いけれど、うちのフィーナちゃんを護れるんかね。」
 と王様は、ユウトをにらむ。
 対してユウトは、ムッとする。
「お言葉ですが国王様、俺はフィーナをずっと護ってきたのです。
 これからも護ってみせますよ。」
 とユウトは王様に対して言い返す。
「ふむ、レベの低い君がかね。」
 と王様も難癖付けてくる。
「そこは大丈夫だと思いますよ、お父様。」
 横からアスカが口を挟む。

 王様もフィーナも、アスカに視線を向ける。
 ユウトは王様をにらんだままだった。
「だってユウトは、私とも対等以上の戦いをしましたから。」
「何言ってるのよ、アスカ。あれはユウトの圧勝だったでしょ。」
「あら、ぶっ倒れたのは、ユウトの方よね?」
「それは、ユウトが慣れない手加減をしたからでしょ!」
 なんと、今度は姉妹での口論が勃発。

 ふたりの口論を無視して、王様もユウトに向き直る。
「つまり、あー、」
「ユウトです。」
「ユウト君は、青い龍討伐にも耐えられる、って事でいいのかな?」
「その青い龍の事を、俺は知りません。だからその件については、何とも言えません。」
「それなら私もついて行くので、心配ありません。」
 フィーナと口論していたアスカが、横から口を挟む。

「はあ?何言ってるのアスカちゃん!
 こんなヤツにアスカちゃんまでついていっちゃ、ダメでしょ!」
 王様は先ほどまでフィーナと繰り返してた口論と、同じテンションでアスカを叱る。
「ちょっとお父様、」
「だから、パパ様と呼びなさいって、いつも言ってるでしょ!」
「じゃあパパ様、こいつとフィーナをふたりきりにさせるんですか?」
「うぐ、」
 アスカの発言に、王様も言葉に詰まる。

「確かに、こんな下僕とフィーナちゃんふたりきりでは、フィーナちゃんの危険が危ない。
 だからと言って、アスカちゃんまで危険に晒すと言うのは、、」
 王様は苦悩する。
「ちょっと待ってよ。」
 ムッとするユウトの後ろから、フィーナが口を挟む。
「ユウトはずっと私を護ってくれてたんだよ?
 私はずっとユウトとふたりきりだったんだよ?
 なんでユウトを信じてくれないのよ!」
「だ、だってこいつ、レベル低いし。」
 娘からの反撃に、お父様はたじたじ。

「レベルが低いんだったら、私が補ってやりますよ。」
 横からアスカが口を挟む。
 アスカは左手首の腕輪の宝玉から、青く光る珠を取り出す。
「ちょっとアスカちゃん、やめなさい!」
 王様は止めに入るが、アスカは聞き入れない。

 この光る珠は、アスカが魔石獣討伐して、集めた魔素を浄化したものの一部。
 言い換えればレベルの元であり、これを取り出す事により、アスカのレベルは若干下がる。

 その光る珠を、ユウトの胸元に押し当てる。
 光る珠は、ユウトの体内に吸い込まれる。
 するとダークブルーのジャージ姿だったユウトの身体に、胸当てと肩パットと膝パットが装備される。
「何これ、かっけー。ありがとうアスカ。」
 新しい装備に、ユウトははしゃぐ。
「さ、フィーナも。」
 アスカはフィーナをうながす。
「う、うん。」
 フィーナは乗り気ではないが、アスカと同じ様に青く光る珠を取り出す。
 そして光る珠をユウトの胸元に押し当てる。
 光る珠がユウトの身体に吸い込まれると、今度は脛当てと手甲が装備される。

「うひょー、何これ、すげーかっけーじゃん。」
 ユウトはアスカに装備させてもらった時よりも、はしゃぐ。
「ありがとうな、サーファ!」
 フィーナの両手をつかんで喜びを伝えるユウト。
 思わずサーファ呼びに戻ってる事に、ユウトは気づかずはしゃぐ。

 そんなユウトに対して、フィーナは悪い気はしなかった。
 そしてアスカは、どこかもやっとした感情をいだく。
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