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第15話 ジュエガルド統一

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 青の国の龍脈を、赤く染めようとする赤の国の王女、ルビーの侵攻を妨げて、青の城に帰還したユウト達三人。
 そこでユウトは、青の国の王女は、剣術大会の優勝者と結婚させられる事を知らされ、衝撃を受ける。


 ユウトが王様から遅れて部屋から出ると、部屋の扉の横に、フィーナがよりかかっていた。
「あれ、フィーナ。」
 こんな所でどうしたの?
 と続けたかったが、その言葉が出てこなかった。

 フィーナの思いつめた様な、無表情な表情。
 ユウトは、そんなフィーナを見るのは初めてだった。
「遅いよ、ユウト。」
 そう返してくるフィーナの表情は、いつものフィーナに戻っていた。
「ユウト、場所分からないだろうから、待ってたんだからね。」
 そう言ってフィーナは歩きだす。
「待ってよ、フィーナ。」
 ユウトは慌ててフィーナの後を追う。

 王様との話しを、聞かれてしまったのだろうか。
 ユウトはそれを確かめたいと思ったが、出来なかった。
 フィーナが答えるであろう複数のパターンに、適切に返せる気がしなかった。
 フィーナは、ユウトが場所分からないから、と言ってたが、それは王様の後を追えば分かる事。
 フィーナがその場に留まったのは、ユウトと王様との話しを聞く為、と捉えるのが自然だろう。
 ユウトはフィーナにかける言葉が見つからず、とある部屋にたどり着く。

 部屋の中には、王妃様とアスカ、ひと足先にたどり着いた王様が待っていた。
「あなたがユウト君ですね。」
 ユウトが部屋に入ると、王妃様が眼を輝かせる。
 そしてトタトタとユウトに近づくと、ユウトの両手を握る。
「あなたのおかげで、助かりました。
 もうほんと、なんと言ってお礼を申し上げたらいいのやら。」
 王妃様は、満面の笑みを見せる。

「いえ、当然の事をしたまでです。」
 ユウトは今までに見せた事のない、キリッとした表情で答える。

 王妃様は、フィーナを数年成長させた様なイメージだった。
 フィーナのおてんばさが、おしとやかさになった様なイメージ。
 フィーナの母親と言う事は、歳は40前後であろう。
 だがユウトにとって、フィーナよりも断然タイプであった。

「ですが、青い龍の穢れを祓い、私を解放して下さった事は、何者にも出来る事では、ございません。」
「いえいえ、お母様。フィーナさんとアスカさんのご協力が有ればこそですよ。
 私ひとりでは、何も出来ませんでした。」
 ユウトは白い歯をキラりと輝かせ、凛々しい笑顔を見せる。

 突然アスカが、バンとテーブルを叩く。
「ユウト、あんた一国の王妃様に、なに色目使ってるのよ。」
 アスカはギロりとユウトをにらむ。
「何をおっしゃいますか、アスカさん。私はいつも通りですよ。
 色目を使うなど、そんな恐れ多い事など、いたしませんですよ。」
 アスカに向けられたユウトの笑顔に、アスカはサーっと鳥肌がたつ。

「お、お母様もお母様です。
 ユウトを誘惑しないで下さい!」
 フィーナはまだつながれたままの、ユウトと王妃様の手を、ひきはがす。
「あらあらフィーナさん、ママ様に焼きもち妬いてるの?」
「な、何を言ってるのですか。」
 王妃様の言葉に、フィーナの顔が赤くなる。
 そんなフィーナの耳元で、ママ様はささやく。
「ユウト君には手だししませんから、安心なさい。
 だって若い頃のパパ様の方が、素敵でしたから。」
「な、」
 フィーナは赤い顔でママ様を見つめる。
「ふふふ。
 ユウト君もフィーナさんも、早く席につきなさい。
 現状についてと、これからの事、説明いたしますわ。」
 王妃様はフィーナに微笑みかけると、フィーナとユウトに告げる。

 この部屋の中央には、円形のテーブルがあった。
 そのテーブルの周りに、椅子が六席あった。
 王様が座る椅子から半時計回りに、
 空き、アスカ、ユウト、フィーナ、王妃様と座る。
 王妃様は最初、王様とアスカの間の椅子に座ってたが、ユウトが来た時に、トタトタと席を立った。
 そしてユウトの隣りに座ろうとしたら、フィーナに邪魔された。
 そしてこのテーブルの上には、ここジュエガルドの地図が置かれていた。

「さて現状ですが、ユウト君はどこまで知ってますか?」
 王妃様は、ユウトに尋ねる。
「えと、このジュエガルドを支えるマスタージュエルが、砕かれたんですよね。
 その欠けらが魔石となって、世界中に散らばって、フィーナさん達が集めて、浄化して、元に戻そうとしている。けれど、」
 ここまですらすらと答えるユウトだが、ここで言葉がつまる。
「けれど?」
「けれど、赤の国が、ジュエガルド統一をかかげて、山吹先輩まで巻き込まれてしまった。」
 王妃様にうながされ、ユウトは続けた。

「そうですね、赤の国の動向も気になりますが、その前になぜ、マスタージュエルが砕かれたのか。
 この説明からしなければなりません。」
 王妃様は、一同の顔を見渡す。
 砕かれる理由について、王妃様以外知らなかった。
 これがこの国の王妃様にだけ伝わる内容だった。
「マスタージュエルは、この世界の中心に位置しています。」
 王妃様は席から立ち上がり、指示棒を取り出して、地図の中央を指す。
「これは、各国を流れる龍脈の、交差する地点になります。」
 王妃様は指示棒で、中央付近の龍脈を、複数なぞる。
 一同、王妃様の説明にうなずく。

「各国の龍脈を流れる魔素は、各国の穢れを帯びて、マスタージュエルに流れ込みます。」
 王妃様は、青の国を流れる龍脈を、指示棒でなぞる。
「そしてその穢れは、マスタージュエルで浄化され、浄化された魔素は、再び龍脈に流されます。」
 王妃様は、マスタージュエルのある場所を、ぐるぐると指示棒でなぞる。

「まるで、人体を流れる血液みたいですね。」
 ユウトは、王妃様の説明に対する感想を述べる。
「ええ、その通り。この世界は、生きてます。」
 王妃様は、ユウトの感想を発展させる。
 フィーナとアスカは、信じられないといった顔をする。
 だけど王様は違った。
「やはり、そうであったか。」
 と王様はつぶやく。

 この世界で使われる魔法は、魔素を頼ったもの。
 魔法の上級者ほど、世界を包む魔素の流れを意識する。
 龍脈という言葉を知らなくても、魔素が世界を循環するイメージはあった。

 王様の言葉に、王妃様はにこりと微笑むと、話しを続ける。
「浄化された穢れは、マスタージュエルに蓄積されていきます。
 このジュエガルドを流れる、六色の穢れ。
 それが混じると、どうなると思いますか。」
 王妃様は指示棒でマスタージュエルを指しながら、一同に問う。

 一同おし黙る。
 色を混ぜ合わせると、別の色になる。
 混ぜる色が増えれば、出来上がる色は、どす黒く濁る。

「黒く、濁る。ですか?」
 ユウトは真剣な表情で、王妃様の問いに答える。
「その通りよ、ユウト君。」
 王妃様は、にっこり微笑む。
 そして真剣な表情に戻り、説明を続ける。

「どす黒く濁ったマスタージュエルに、浄化作用はありません。
 マスタージュエルは砕かれ、欠けらとなった魔石を浄化して、新しいマスタージュエルを作り上げる。
 これは、千年に一度、繰り返されています。」
 王妃様の説明に、フィーナとアスカは、驚きの表情を浮かべる。
 しかし王様は、眼を閉じて静かにうなずく。
「なるほどの、これが国王にも伝えられず、王妃だけに伝わる由縁か。」

 王様は、今の説明で理解した。
 千年周期で繰り返された、マスタージュエルの破砕。
 これはジュエガルド全土に大災害をもたらした。
 これを防ぐ方法は、確かにある。
 それは、マスタージュエルをどす黒くしなければいい。
 マスタージュエルに流れ込む穢れた魔素の色が少なければ、濁る事はない。
 これが一色ならば、濁りようがない。
 そう、マスタージュエル破砕に伴う大災害は、ジュエガルド全土を一色に統一すれば、おこりようがない。
 これだけの知恵が回れば、ジュエガルド全土を巻き込んで、戦争がおきるだろう。

 ユウトも、王様と同じ様な考えにいたり、ユウトの表情はさえない。
 王様とユウトが理解した事を感じて、王妃様は説明を続ける。
「千年前、紫の国がジュエガルド統一に乗り出しました。」
「な、何よそれ。」
「意味が分からない。」
 ジュエガルド統一と聞いて、フィーナとアスカは同時に違をとなえる。

 ジュエガルドの六色の国は、互いに影響しあって存在している。
 一国でも欠けては駄目なのだ。
 だからこそ、統一に向けての、攻める順番みたいなものがあった。
 しかしそれは、今の説明には関係ない。

「フィーナ、アスカ、色が一色なら、マスタージュエルは濁らないんだよ。」
 ユウトはふたりに、そう説明する。

「はあ?何言ってるのよ。」
「色が一色って、それじゃあジュエガルドの存在する意味がないじゃん。」
 フィーナもアスカも、ユウトに反論する。
 ふたりに反論するほどの知識は、ユウトにはない。
 ユウトは困った表情で、黙るしかなかった。

「アスカちゃん、フィーナちゃん、それが実際おきてしまったのだよ。
 今は、ママ様の話しを聞こう。」
 王様はふたりに優しく話しかける。
 アスカとフィーナは顔を見合わせて、うなずく。
 そして王妃様の話しに、耳を傾ける。

 王妃様はうなずくと、話しを続ける。
「千年前の、紫の国の侵攻。
 これは赤の国を中心とした、連合軍によって阻止されました。」
「赤の国。」
 王妃様の説明を受けて、ユウトはつぶやく。
「じゃあ、なんで、今度は赤の国が、ジュエガルド統一なんてしようとするのですか。山吹先輩…」
 ユウトの声に、涙がにじむ。

「千年前の戦争で、赤の国に召喚された勇者が、戦死しました。」
 王妃様の説明に、ユウトは顔をあげる。
「この事が何か、関係があるのでしょう。」
 と王妃様は続ける。

 千年前に勇者を殺された事への復讐。
 それが赤の国の、ジュエガルド統一の原動力なのだろうか。

「ユウト、元気だして。」
 フィーナは、テーブルの上に置かれたユウトの手をにぎる。
 ユウトは涙のにじんだ顔を、フィーナに見せる。
 そんなふたりを見て、王妃様が声をかける。
「つらいでしょうけれど、今は赤の国の侵攻から、この青の国を守らなければいけません。」
「はい。」
 ユウトはうなずく。

 赤の国と事を構えると言う事は、山吹先輩と戦う事を意味している。
 では具体的に、この国を守るには、どうすればいいのだろうか。


次回予告
 はあーい、私、フィーナちゃんのママ様ですぅ。
 落ち込んでるユウト君、なんかかわいいわね。
 こうゆうのを、母性本能をくすぐるって言うのかな?
 フィーナちゃんもほんと、素敵なナイトを見つけてきたわね。
 って、パパ様の若い頃の方が素敵なんだからね。
 はあ、この青の国を守る事。
 それを伝えたら、ユウト君は行ってしまうのね。
 ユウト君はこの青の国だけではなく、ここジュエガルドの希望!
 長くは留めておけないわ。
 次回、異世界を救ってくれと、妖精さんに頼まれました、王妃様を守れ!
 お楽しみに。
※次回分は、これから書くため、予告と異なる場合もあります。
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