未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

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地球へ

第201話 クローンの感情

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代にマイが召喚された理由。
 それは、マイのクローンであるアルファを、どうにかしてくれとの思いからだった。
 持てる才能を完全に開花させたアルファは、自らのクローンを創り出す。
 と言っても、完全に同じクローンではない。
 自分とは、どこか違うところがあるクローンだった。
 アルファがクローン軍団を創った目的は、死の星と化した地球を再生させるため。
 そのための才能に特化したクローンを、数万と創った。
 このクローン達は、見た目も能力も個性も違い、自らの確固とした意志を持っていた。
 クローン体として共通していたのは、アルファと同じ思想を持っている事だけだった。
 そしてアルファは許せなかった。
 地球をこんな状態で放置していた人類達を。
 回復した地球に、さも当然に乗り込んで来た人類達を。
 ここに、アルファと人類達との間で、戦争が起きる。
 アルファは地球を回復させたクローン達の叡智を結集させ、人類達を追い払う。
 そして太陽系外周部にあるという、オールトの雲に光を屈折させる装置を張り巡らせる。
 これにより、太陽系の灯りは、宇宙から消えた。
 そしてアルファは、これより先に侵入してくる者を、許さない。


 帰りの列車に乗り込むマイとマインと、アイとミサの四人。
 マイとマインが隣りあって座り、その向かいの席にミサが座り、ミサの横でアイが横になる。
 来る時はぴったり隣りあってたマイとマインだが、今は拳ふたつ分、離れている。
 これはやはり、マイの魂が男だと分かった事に起因する。
 男嫌いのマインと、そんなマインに気をつかうマイ。
 ふたりは知らない間に、距離をとる。

「これはまずいかもな。」
 そんなふたりを見て、ミサは思う。
 愛を持つ者じゃないと、アルファは倒せないと、ベータは言っていた。
 この愛を持つ者の意味は分からないが、今のふたりがそうではない事くらい、ミサにも分かる。
 そんなふたりの間には、微妙な空気が流れている。

「ねえミサ、ちょっと聞きたいんだけど。」
 そんな空気をおしのけ、マイはミサに尋ねる。
 ミサはおもむろにマイへと視線を向け、マイの質問を待つ。

「なんでアルファは、他の全人類相手に、戦争なんてしたのかな。」
 マイのその疑問に、ミサは驚きの表情を浮かべる。
「それをおまえが聞くのか。」
「え?」
 マイには、ミサの言っている意味が分からない。
「だってアルファは、おまえのクローンだろ?
 アルファの考えてる事くらい、分かるんじゃないのか?」
「そ、そう言われても。」

 マイは、ミサの言葉にたじろぐ。
 ミサはマイの性格を、分かっていない。
 ミサのパートナーのマインは、合理的に割り切れる性格だが、マイは違う。
 女々しくて、女の腐った様な性格。
 興味のある事にはのめり込むが、基本後ろ向きで、物語の主役には向いていない。
 作者も話しを先に進められず、困ってるほどだ。

「はあ、いきなり全部分かれって、そりゃ無理があるでしょ。」
 ここでマインが横から、助け船を出す。
「ちゃんと経緯を説明しなさい。」
 とマインに凄まれても、ミサも困る。
「経緯っつっても、その頃私は造られていない。
 詳しくは、知らないよ。」
「そうなんだ、ミサにも分からないんだ。」
 ミサの答えに、マイはしょげる。
 そんなマイを見て、ミサもマインも、呆気にとられる。
「ご、ごめんね、変な事聞いちゃって。」
 そんな空気を察して、マイは謝る。

「おいおい。」
 ミサは思わずつぶやく。
 マイは、言葉の額面通りにしか捉えないのか。
 その言葉の言い方とかから、別の意味を持つ事くらい、分かるだろ。

 ミサとマインは、顔を見合わせる。
 素直すぎるマイに対して、後ろめたさを覚える。

「まあ、詳しい経緯は分からんが、アルファの立場に立って、考えてみようや。」
 ミサは、マイにこう提案する。
 マイみたいなタイプは、答えを教えても理解しない。
 自分で考える事で、初めて理解出来る。
 ミサのAIの学習機能は、そう告げている。
「アルファの立場?」
 マイは聞き返す。
 ミサはうなずき、話しを進める。
「アルファが地球環境を甦らせました。
 さあこの時、人類は、どうしたでしょう?」

「そう言う事。」
 ミサの話しを聞いて、マインはミサの意図を理解する。
 マインのこのつぶやきは、マイの耳には入らなかった。

「それは、地球環境を甦らせてくれて、ありがとうってお礼を言ったんじゃないの。」
 マイのその答えに、横で聞いてたマインは、首をふる。
 ミサもニヤける。
「いや、違うな。
 私もその時には、造られていなかったけれど、それは断言できる。」

「いや、なんでよ。」
 マイは、納得いかない。
「自分達に出来なかった事を、やってくれたんでしょ?
 普通は感謝するでしょ。」
 マイは思わずミサを責める。
 ミサも自分には関係ない事で責められても、困るだけだ。
「マインなら、分かるんじゃないか?」
 ミサはマインに話しをふる。
 マインも、話しに加わりたがっているのに、ミサは気づいていた。

「そうね、そんなの、感謝するわけないじゃない。」
「え、マイン?
 何言ってるの?」
 ニヤけながら答えるマインの発言は、マイには信じられなかった。
 そんなマイを尻目に、マインは続ける。
「クローンなんて、人が作り出した道具にすぎない。
 道具を使って行なった行為で、どこに感謝するわけ?」
 マインは逆にマイに聞き返すが、マイは何も言えない。

「私は、クローンとか人造人間の類いにも、心がある事くらい、知ってるわ。」
 マインはニヤけた態度を一変、真剣な表情になる。
「クローンやAIが反乱を起こしたから、鎮圧してくれって任務を、私は何度か受けた事があるから。」
 マインは一瞬だが、悲痛な表情を浮かべた。
 マイは、そんな表情を見せるマインに、どこか安心する。

「過去の時代から来た私達には分からないけれど、これがこの時代の人達の認識なのよ。」

「何よ、それ。」
 マイはマインの発言に、少なからずショックを受ける。
 マイは隣りに座るマインの左肩に寄りかかり、顔を伏せる。
「そんなの、アルファが怒って、当然じゃない。」
 マイの身体は、悲しみに震えている。

 マインはそんなマイの頭を、優しくなでる。
 これからマイとマインは、アルファと戦わなくてはならないのだ。
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