未来世界に戦争する為に召喚されました

あさぼらけex

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第205話 ファストフード

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 これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
 この時代に召喚されたマイには、二体のクローンが創られていた。
 そのクローン同士の戦いは、多くの技術革新をもたらした。
 破壊された戦闘機が、大量に宇宙のもずくになってしまった。
 そのため、戦闘機の部品を原子レベルで帰巣本能を持たせた。
 これにより、戦闘機が破壊されても、基地まで戻ってこられるようになり、原子レベルでの再配列も可能になった。
 つまり、自動修復機能が備わった。
 とは言え、この機能の量産化には、まだまだ課題が多かった。
 そして脱出用システム自体も、大幅に見直される。
 元々はコックピットの操縦席が、脱出用ポッドを兼ねていた。
 しかしこれだと、召喚者は座席の定位置に、しっかり座っていないと、機能しなかった。
 少しでもずれていると、機能しなかった。
 そこでサポートAIを活用し、死の危険がある時には即、反応する様になった。
 しかしこれも、一長一短があった。
 その死の危険の定義が、曖昧すぎた。
 だから幾つかの事例をピックアップして、それを個別に登録するしかなかった。


 マイとマインとアイとミサと、そしてジョーの五人は、とあるファストフード店に来ていた。
 前回の喫茶店は、酔って羽目を外し過ぎたため、居づらくなった。
 ファストフード店にはビールが無かったため、メロンソーダで我慢するしかなかった。

「まさかマインがあんなに酒癖悪いとは、思わなかったわ。がつがつ。」
 と言って、マイは名前がよく分からないハンバーガーをほおばる。
「だから、それは忘れなさいって。ぱくぱく。」
 マインのほおばるのは、普通のチーズバーガーだった。
「私もあんなマイン、初めて見たぜ。もぐもぐ。」
 ミサはエルサイズのポテトを、四本くらいまとめてほおばる。
「マイと呑めるのが、よっぽど嬉しかったのよ。」
 アイはバニラシェイクを、ずずずっと飲み込む。
「もう、その話しはやめてよ。」
 マインは今度は月見バーガーに手を出す。

「あー、おまえ達、なんでここに来たのか、分かってるよな。」
 思い思いにファストフードをほおばる四人に、ジョーはめんくらう。
「ジョー、食べないの?」
 と言いながら、マイはジョーの前にあるバーガーに手を伸ばす。
 ペシっ。
 そんなマイの手を、思いっきりはたく。
「あいったあ、なにすんのよ、ジョー!」
「マイ、ここに何しに来たのか、分かってるよな?」
 ジョーは両肘を机に置いて、両手を組み、その組んだ両手に額を当てる。
 ジョーの声は、なんとか威厳を込めようとしていた。

「ここに来た理由?」
 きょとんとするマイだが、すぐに邪悪な笑みを浮かべる。
 そしてジョーの真似をするように、両肘を机に置いて、両手を組み、ほくそ笑む。
「そんな事より、マインとはうまい酒が呑めそうだわ。」
 マイは、マインにやられた事を、やり返すつもりだ。
 無理矢理呑ませて、こぼしたら、ひっぱたいてやる。くくくのく。

「はあ、マイの頭はとり頭か。」
 ジョーは思わずため息をつく。
「まあまあ、今さらマイがなんで女性型アバターなのかなんて、どうでもいいではないですか。」
 アイはチョコレートシェイクを吸い込む。ずずずのずー。
「あ、それ、僕知りたい。」
 ずー!
 マイの言葉に、アイは飲み込んだシェイクを、戻してしまう。
「ちょ、ちょっとマイ、今さら?げほげほ。」
 アイはむせ込む。
「えー、だって、やっぱり気になるじゃん。」
 マイはむせたアイに、お詫びのタピオカを差し出す。

「そんなの、おおかたベータに頼まれたってトコじゃないの?」
 と言ってマインは、チョコレートパフェを食べ始める。
「まあ、その通りなんだが、ベータの事には、触れないでほしい。」
 ジョーはマイに取られそうになったバーガーに、手をつける。
「それはまた、なんで?」
 マイは、おかわりしたカツ丼を食べ始める。
「ベータとアルファの行動は、あまり公には出来ないんだよ。」
 話しながら食べるジョーのバーガーは、あまり減ってはいない。
「なるほどねぇ。」
 マインはチョコレートパフェを、半分ほど食す。

「え、どゆ事?もぐもぐ。」
 マインは何かを理解しても、カツ丼を食すマイには、よく分からない。
「そりゃ、ベータ達を道具扱いしてる連中には、知られたくないでしょ。ぱくぱく。」
 マインはマイの疑問に答える。
「ああ、なるほど。でも、ジョーだってこの時代の人間だよ。がつがつ。」
 マイはカツ丼をほおばりながら、ジョーを見る。

「もぐもぐ。」
 ジョーはマイ達と違い、食しながら話す事は出来なかった。
 これがアバター体と生身の人間との違いだろう。
「ごっくん。
 この時代にも、ベータ達を理解する人間は、居るって事さ。」
 ジョーはごっくんしてから、マイの疑問に答える。
「へー、そうなんだ。カツ丼おかわりー。」
 マイはジョーの言葉を、嬉しく思う。
 ベータ達を道具扱いする人間ばかりでなく、ジョーの様な理解者がいる事を。

「ベータが集団無意識に潜れる事は、知ってるだろ?」
 ジョーの言葉に、マイはカツ丼をほおばりながら、うなずく。
「ベータは、心ある者を探して、協力を頼んだのさ。」
「ああ、なるほど。」
 ティラミスのケーキを食べながら、マインは納得する。
「ベータのやってる事って、個人単独では出来ないもんね。ぱくぱく。」
「え、そうなの?がつがつ。」
 マイはマインの様には、理解出来なかった。
「そりゃそうでしょ。クローン軍団のアルファと違って、ベータはたったひとりなのよ。ぱくぱく。
 そんなベータがアルファと対立するのは、無理があるでしょ。」
「ふーん、??、がつがつ。」
 マイには、やっぱりよく理解出来なかった。

「とにかく、ベータ達に協力してる人間は、それなりの数が、存在しているって事だ。
 まあ、公には出来ないんだけどな。」
 マイが理解出来るのが、いつになるか分からないので、ジョーはそう話しをまとめる。
 その横でアイとミサは、ノンアルコール飲料で盛りあがる。

「それはさておき、マイ、男と女の違いって、分かるか?」
 食い過ぎたお腹をさするマイに、ジョーが尋ねる。
「そりゃあ、染色体が違うんでしょ。
 X Xと、X Yだっけ?」
「へー、マイの時代でも、その知識はあったんだ。ぱくぱく。」
 杏仁豆腐を食べながら、マインは驚く。
「まあ、マイの時代よりもっと古い時代に、分かってた事なんだけどな。」
 喋りながら食すジョーのバーガーは、なかなか減らない。
「で、その染色体の違いが生じるのは何故か、分かるか、マイ?」
「えー、なんでそんな事、僕に聞くのよ。」
 マイはジョーの質問攻めにうんざりするが、ジョーはマイの答えを待っている。

「なんか、温度によって変わるんじゃないの。」
「ぷっ。」
 マイの答えに、マインは口にした杏仁豆腐を吹き出しそうになる。
「それは、爬虫類だな。
 人間の場合は、諸説あって、定かではない。」
「じゃあ、なんで聞いたのよ、そんな事。」
 ジョーの受け答えに、マイはマインに笑われた恥ずかしさをぶつける。
「それが、重要な事だからだよ。ぱく、ごっくん。」
 ジョーはニヒルな顔で、バーガーの最後のひと口を食す。
「重要?何がよ?」
 ちょっと食い過ぎたマイには、なんの事だか、頭が回らない。
「ああ、なるほど。そういう事ね。」
 マインはクリームシチューを、音をたてずにスプーンですくう。
「え、分かるの、マイン?」
 マインに聞いてみるマイだが、音もたてずにスープが凄い勢いで減っていくのは、どこか不気味に感じる。
「何よ、その目は。すぷすぷ。」
 マインも、そんなマイの心の内を、目ざとく感じとる。
「少しは、自分で考えなさいよね。ふきふき。」
 機嫌をそこねたマインは、お口の周りをふいて、そっぽを向く。

「えー、そんなぁー。」
 マイは情けない顔で、マインを見る。
「つーん。」
 だけどマインは、マイから視線をそむけたままだ。
「はあ、ほんとに分からないのか、マイ。」
 ここでジョーが、わざとらしく大げさに、ため息をつく。
「おまえはあの古文書を書いた人物だから、少しは期待してたのだがな。」
「そ、それとこれとは、関係ないでしょ!」
 マイは思わずキレる。
 古文書を書いたのは、確かに自分だ。
 だけどそんな記憶は朧げで、あまり覚えていない。
 つか、それとこれとは、関係あるのだろうか。
 男女の違いは、どこから来るのか。
 これ、古文書なんて関係ないだろ。
 それなのにマインもジョーも、答えられないマイを、どこか見下してる感じがする。
「もう、そんなの偶然でしょ!
 何もったいぶってんのよ!」
 そんなふたりに、マイもキレる。

 そんなマイ達にはお構いなく、アイとミサはノンアルコール飲料で盛り上がっている。

「ふ、流石ね、マイ。」
「やはり、俺の目に狂いはなかったな。」

 マイには分からないが、マインもジョーも、何故かマイの発言に感服する。
「え、どったの?ふたりとも。」
 そんなふたりに、マイは若干引き気味だ。
「そう、男女の違いなんて、偶然の産物でしかない。」
 ジョーは突然、答え合わせの様な事を言い始める。
「つまり、マイは男として産まれたけれど、その姿で産まれてきてた可能性も、あったって事。」
 マインはニヤリと、マイを指差す。

「急にどうした?」
 ついさっきまで、マイを見下してたふたり。
 それがいきなり、マイを持ち上げてくる。
 マイは、違和感と得体の知れない気持ち悪さを、感じずにはいられない。
 やはり食い過ぎで、どこかおかしくなったのだろうか。

「マイ、おまえは言ったよな。
 男と女の違いは、染色体のX X、 X Yだと。」
「い、言ったけどさ。」
 真剣な表情で尋ねてくるジョーを、マイはどこか受け付けない。
 この短時間のうちに、マイに対する態度がころころ変わる。
 お腹が膨れて頭に血が回らないマイは、そんなジョーについて行けない。

「その染色体をちょっといじったのが、今のおまえだ。」
「男のマイもかわいかったけれど、私は今のマイの方が好きだな。」

 マインがかわいかったと言うのは、マイのクローンであるベータの少年の姿。
 マイはかわいいと言われて、少年ベータの股間にあったものを思い出す。

「もう、一体なんなのよ、あんた達ぃ!」
 マイは恥ずかしさのあまり、叫び出す。
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