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第204話 呑んだくれ讃歌
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これは西暦9980年のはるか未来のお話し。
この時代に召喚されたマイのクローン、アルファとベータは激しい戦闘を繰り広げた。
とは言えその激しい戦闘は、ふたりが示し合わせたものだった。
まだ戦闘に不慣れなベータを、戦闘に慣れさせるための戦闘が、数度行われる。
その後、ふたりは本気で戦った。
その戦闘は、三日で終わる。
ベータの精神力が、限界を超えたのだ。
ベータは召喚者達が遺したアバター体に残る残留思念に、集団無意識を介して操っていた。
数十万にもおよぶ、アバター体のひとりひとりを。
アルファには、参謀となる自らのクローン体がいた。
実質ひとりで戦うしかなかったベータには、最初から勝機はなかった。
ベータはこれ以降半年間、意識を失い、夢の世界を彷徨う事になる。
ベータ不在の中、休戦協定が結ばれ、アルファは太陽系を全宇宙から隔離する。
アルファは人類が休戦協定を守るとは、思っていなかった。
人類は、ベータはアルファと示し合わせ、手を抜いていたと直感する。
ベータがその気になれば、集団無意識を介して、アルファのクローンやアルファ自身を洗脳し、操る事も可能だった。
しかし、ベータが集団無意識に潜れる事を、人類は知らない。
それでも、ベータが手を抜いた事は、直感出来た。
そして人類は、クローンの本体の魂を召喚する。
21世紀末を模したエスの53区画。
普通に人類が生活するだけならば、この程度の文化水準で充分だった。
そう、宇宙航路を使った幅広い交易とは、無縁ならば。
そんなエスの53区画の街並みを歩く、マイ達四人。
前回お着替えしたマイとマインは、この街並みに溶け込んでいた。
しかしアイとミサは、少し浮いていた。
グラマラスなボディに、簡易ドレスな装い。
ここが大都会な街並みだったら、あまり浮かなかったかもしれない。
しかしここの街並みは、都会を少し離れた、ちょっと寂れた繁華街って感じだった。
アイとミサの格好も、ぎりぎり有りとも言えるが、それはぎりぎりアウトである事も、意味している。
そんなふたりの簡易ドレスも、サポートAIとしての身体の一部。
着替えたりとかは、出来ないのだった。
上に何か羽織る事は出来るが、そこまで気が回らなかった。
作者も今、気がついたのだから。
「ここは、グリムアからの捕虜達が暮らす街。」
歩きながら、アイはこの区画について説明する。
「え、じゃあここは敵地なの?」
マイはびくつく。
「そんな訳ないでしょ。」
マインは呆れる。
「ああ、みんなここが気に入って、出て行かないんだよ。」
とミサが続ける。
「どゆ事?」
マイには意味が分からない。
「グリムアに戻れば、また戦争に行かなければならないからな。
みんなここでの暮らしが、気に入ってるのさ。」
とミサに言われても、マイには意味が分からない。
「みんな、あなた達の様な、歴戦の戦士ではないからね。」
ここでアイが、ミサから説明を引き継ぐ。
「ああ、そう言う事。」
マインはアイの説明で理解する。
だけどマイは、まだ分からない。
「戦争に行くたびに殺されてたら、戦争に行く気なんて、なくなるでしょ。」
マインは今理解した事を、マイに伝える。
「でも、捕虜なんでしょ?
逃げだしたくならないの?」
マイも、マインの言う事を理解する。
それでも分からない。
捕虜がここに留まる理由が。
「昔は捕虜虐待なんて言葉もあったけど、今はそんな言葉は死語よ。」
アイは、マイの疑問に思う事に答える。
アイはマイのパートナーとして、マイの考えている事が分かる。
「え、じゃあ、ここの捕虜達って、ニート生活を満喫してるの?」
「そのニートって何か分からないけど、みんなここでの新しい生活に満足してるのは、間違いないわね。」
実際捕虜達は、ここでは好きな事、やりたい事が出来た。
それは主に創作活動である。
捕虜達の戦争体験を元にした漫画は、すべからくヒットした。
以前登場したラノベののがない、僕の頭のネジは少ないも、そんな捕虜の街から生まれた。
そして歌手デビューを果たしたユアに、楽曲提供をしたのも、こんな街の住人だった。
そんな彼らは、元の国に戻る理由など無かった。
と言うかこの時代、国という概念もあいまいで、生まれに関わらず、自由に国籍を選べた。
土地という物に縛られる事が無くなったため、移動の自由度は高まった。
ただそれは、先祖伝来の土地を持たない、いわゆる底辺層に限られる。
そして戦争に参加させられる召喚者は、そんな土地に縛られない層だった。
「なんか、複雑だなあ。」
上記の説明を聞いて、マイは感想をもらす。
この時代に戦争するために召喚されて、この時代で創作活動して生きていく。
元の時代に、戻ろうとは思わないのだろうか。
「まあ、そんな街だから、機密に関する話しも出来るのさ。」
ミサがそう言った時、四人はオープンテラスの喫茶店にさしかかる。
「おーい、遅いぞ。」
オープンテラスの端っこの席で、ジョーが待ちくたびれていた。
マイ達四人は早速席につき、注文する。
「私、サルサレトフールとビール。」
「ぼ、僕も同じ物。」
マイは、マインと同じ物を注文する。
アイもミサも、マイにはよく分からない何かとビールを注文する。
ビールがきたので、早速四人は乾杯する。
「かんぱーい、ごくごくごく。ぷはー。」
「ぷはー、この一杯の為に、生きてるのを実感するわー。」
「全くよ。日ごろの疲れが癒されるわー。」
「ほんとほんと、やな事は全部忘れて、どんどん飲めー。」
「わっはっはっはっは。」
マイは、自分以外の三人の言動に、かなり引く。
「すみませーん、ビール四つおかわりー。」
え、四つ?
マインは四人分のビールを頼むが、マイのビールは半分以上残ってる。
そうかジョーの分かと思ったが、そもそもジョーは、元からビールなんか注文していない。
「何やってるの、次が来ちゃうでしょ、早く飲みなさい。」
疑問だらけの光景に、食が進まないマイに、マインがからんでくる。
「つ、次って何?」
マイは恐怖に引きつった顔で、マインを見る。
「ほら、来ちゃうでしょ!」
丁度店員さんが、ビールジョッキを四つ持って、こちらに来る。
マインはマイに無理矢理ジョッキを握らせると、そのままマイの口元に持っていく。
「うぐ!」
マイは口元から遠ざけようと抵抗するが、マインが口元からこぼさない絶妙な角度で押さえつける。
マイはジョッキから口を離そうと、頭をのけぞらせるが、その頭もマインががっちりおさえる。
「何?私が手伝ってあげるのに、飲まないの?」
「うぐ!」
マイは、マインの目が怖かった。
「こぼしたら、承知しないからね。」
マインは、ジョッキをさらに傾けてくる。
「ごくごくごくごく!」
マイは必死でビールを呑み干す。
「あっはっは、凄いじゃん、マイ。やれば出来るじゃない!」
「そりゃあ、私のパートナーですからね。これくらいはとーぜんよ。」
「なんか今日のマイン、出来上がるの早くねーか?」
マイの飲みっぷりにマインとアイがはしゃぐ中、ミサは冷静に分析する。
マインは記憶を消されているが、直前に大ジョッキで七杯、呑んでいた。
記憶はないが、その分出来上がるのも早い。
おかわりのビールを置く店員さんの表情も、引きつっている。
「あ、店員さん、ビールもうひとつ、すぐに持ってきて。」
マインは今マイが飲み干したジョッキを、店員さんに手渡す。
店員さんはすでに三つのジョッキを持っていて、すぐにここから離れようとしていた。
「さあ、今度は一杯分、一気にいくわよ!」
「うぐ!」
マインは先ほどと同じムーブで、マイの口もとに持っていったジョッキと、マイの頭をおさえつける。
「おいおい、やりすぎじゃないか?」
見かねてミサが注意するのだが、横からアイが口をはさむ。
「まあまあ、マインもマイと飲めて、嬉しいのよ。
私達も、どんどん飲みましょ。」
「それもそうだな。」
「それじゃ改めて、かんぱーい。」
折角ミサが助けてくれそうだったのに、アイに邪魔されるマイ。
軽く絶望するマイに、マインは容赦なくジョッキを傾ける。
「ごくごくごくごごくごごごくごくごくごくん!」
ぱしん!
呑み干したマイのほほを、何故かマインがはたく。
「何するのよ!」
流石にマイも、言い返す。
「こぼしたあんたが、悪いんでしょ。」
ぱしん!
マインはもう一度、マイのほほをはたく。
「あ、あんたが無理矢理飲ますからでしょ。」
ぱしん!
口ごたえするマイに、もう一発おみまいする。
「ごめんなさいは?」
「はあ?」
口ごたえするマイに、もう一発叩き込もうとするマインだが、今度はマイががっちりマインの手を掴む。
「こぼしたら、ごめんなさいでしょ!」
反対の手ではたきにいくマインがだ、こちらの手も、マイががっちり握る。
「ちょっと、離してよ、悪いのはあんたでしょ!」
マインは凄い力で暴れる。
マイも抑えるのに精一杯だ。
「ちょっと助けてよ。」
マイはアイとミサに助けを求める。
だけどふたりで盛り上がっていて、こちらには見向きもしない。
「ねえジョー、なんとかしてよー。って、ジョー?」
ジョーはすでに、隣り、いや、遠くの席に避難していた。
「ジョー?」
マインはジョーの名を聞いて、脱力。
「あんた、あんなヤツの事が好きなんだ。」
「な、何言ってるのよ、いきなり。」
マイも思わず脱力。
掴んでいたマインの両手が抜ける。
「じゃあ、私とあいつ、どっちが好きなのよ!」
「はあ?今そんな事、関係ないでしょ!」
ふたりは睨みあう。
「だったら、勝負よ。」
マインはジョッキに手をかける。
「負けたら、勝った方の言う事を、何でも聞く!
私が勝ったら、どっちが好きか、言わせるから!」
「分かったわ。」
マイもジョッキに手をかける。
マイの新しいジョッキは、そそくさと店員さんが置いてった。
「じゃあ、ミサとアイ、審判お願い。」
マインがふたりに声をかける。
とその時、店長らしき人物が近づいてくる。
「あのお客さま、困ります。ここはそういうお店ではございませんので。」
「けっ。」
勝負に水をさされて、マインはそっぽを向く。
「あー、彼女白銀の魔女なんだけどさ。」
ミサは、マインを指差す。
「しろがねのまじょ?
な、白銀の魔女!」
店長は驚きの声を上げる。
「あの、はむかう者は、誰であろうと殺す、戦場の死神!」
「そう、その死神。追い出せるかな?」
と言ってミサはニヤける。
「お、お代は結構ですんで、何とぞ穏便に。」
店長は震えながら頭を下げる。
「いやいや、迷惑料として、三倍払うよ。」
「いえ、その様な事は、」
ミサの申し出に、店長はめんくらう。
「だってこの区画で騒ぎを起こしたんだから、それくらい当然じゃん。
ね、てーんちょ。」
ミサは媚びた声を出す。
「そ、そう言う事でしたら、」
店長はすごすごと引き下がる。
「誰が魔女だ、こらー。こんな美女つかまえてー。」
何か納得いかないマインが叫ぶ。
「そうね、あなたは魔女じゃない。
ただの呑んだくれよ!」
マイはうまい事言ったと、思わずニヤける。
「あん?そんなふざけた口、すぐに聞けなくしてやるよ。
ミサ、早く!」
「あー、分かった。じゃあ、
よーいドン!って言ったら飲むんだぞ。」
ミサの言葉に反応して、マイはジョッキを持ち上げる。
「あはは、何フライングしてんのよ!」
「ちょっとミサ、真剣勝負なのに、なにふざけてんのよ!」
「ああ、悪い悪い。
じゃあ、今度こそ、よーいドン!」
「ごくごくごくごくごく…。」
ドン!
ふたりは同時に呑み終え、ミサの方を見る。
「驚いた。イチミクロン秒の差もなく、同着だぜ。」
ミサはふたりの勝負の結果に驚く。
「いえ、マイのジョッキの方が、三滴ほど、少なかったわ。」
横からアイが、口を挟む。
そう、マイがフライングした時、ジョッキから三滴ほど、こぼれていた。
「という事は、私の勝ちね、やったー。」
「くっそー!」
喜ぶマインと、激しく落ち込むマイ。
勝敗の差が、はっきりと出る。
「じゃあ、勝者からの命令、いくわよ?」
「ぐぐ。」
マインは勝負としての余韻に浸り、マイは敗者としての屈辱を噛みしめる。
「マイ、あなたが好きなのは、」
と言いかけて、マインは思う。
私、何言ってんだろと。
と同時に、顔が赤くなる。
マインはそのまま正気に戻る。
「わ、忘れて。」
マインはつぶやく。
そのつぶやきがよく聞こえなかったので、マイは顔をあげる。
「いいから、今この店であった事、全部忘れなさーーい!」
この時代に召喚されたマイのクローン、アルファとベータは激しい戦闘を繰り広げた。
とは言えその激しい戦闘は、ふたりが示し合わせたものだった。
まだ戦闘に不慣れなベータを、戦闘に慣れさせるための戦闘が、数度行われる。
その後、ふたりは本気で戦った。
その戦闘は、三日で終わる。
ベータの精神力が、限界を超えたのだ。
ベータは召喚者達が遺したアバター体に残る残留思念に、集団無意識を介して操っていた。
数十万にもおよぶ、アバター体のひとりひとりを。
アルファには、参謀となる自らのクローン体がいた。
実質ひとりで戦うしかなかったベータには、最初から勝機はなかった。
ベータはこれ以降半年間、意識を失い、夢の世界を彷徨う事になる。
ベータ不在の中、休戦協定が結ばれ、アルファは太陽系を全宇宙から隔離する。
アルファは人類が休戦協定を守るとは、思っていなかった。
人類は、ベータはアルファと示し合わせ、手を抜いていたと直感する。
ベータがその気になれば、集団無意識を介して、アルファのクローンやアルファ自身を洗脳し、操る事も可能だった。
しかし、ベータが集団無意識に潜れる事を、人類は知らない。
それでも、ベータが手を抜いた事は、直感出来た。
そして人類は、クローンの本体の魂を召喚する。
21世紀末を模したエスの53区画。
普通に人類が生活するだけならば、この程度の文化水準で充分だった。
そう、宇宙航路を使った幅広い交易とは、無縁ならば。
そんなエスの53区画の街並みを歩く、マイ達四人。
前回お着替えしたマイとマインは、この街並みに溶け込んでいた。
しかしアイとミサは、少し浮いていた。
グラマラスなボディに、簡易ドレスな装い。
ここが大都会な街並みだったら、あまり浮かなかったかもしれない。
しかしここの街並みは、都会を少し離れた、ちょっと寂れた繁華街って感じだった。
アイとミサの格好も、ぎりぎり有りとも言えるが、それはぎりぎりアウトである事も、意味している。
そんなふたりの簡易ドレスも、サポートAIとしての身体の一部。
着替えたりとかは、出来ないのだった。
上に何か羽織る事は出来るが、そこまで気が回らなかった。
作者も今、気がついたのだから。
「ここは、グリムアからの捕虜達が暮らす街。」
歩きながら、アイはこの区画について説明する。
「え、じゃあここは敵地なの?」
マイはびくつく。
「そんな訳ないでしょ。」
マインは呆れる。
「ああ、みんなここが気に入って、出て行かないんだよ。」
とミサが続ける。
「どゆ事?」
マイには意味が分からない。
「グリムアに戻れば、また戦争に行かなければならないからな。
みんなここでの暮らしが、気に入ってるのさ。」
とミサに言われても、マイには意味が分からない。
「みんな、あなた達の様な、歴戦の戦士ではないからね。」
ここでアイが、ミサから説明を引き継ぐ。
「ああ、そう言う事。」
マインはアイの説明で理解する。
だけどマイは、まだ分からない。
「戦争に行くたびに殺されてたら、戦争に行く気なんて、なくなるでしょ。」
マインは今理解した事を、マイに伝える。
「でも、捕虜なんでしょ?
逃げだしたくならないの?」
マイも、マインの言う事を理解する。
それでも分からない。
捕虜がここに留まる理由が。
「昔は捕虜虐待なんて言葉もあったけど、今はそんな言葉は死語よ。」
アイは、マイの疑問に思う事に答える。
アイはマイのパートナーとして、マイの考えている事が分かる。
「え、じゃあ、ここの捕虜達って、ニート生活を満喫してるの?」
「そのニートって何か分からないけど、みんなここでの新しい生活に満足してるのは、間違いないわね。」
実際捕虜達は、ここでは好きな事、やりたい事が出来た。
それは主に創作活動である。
捕虜達の戦争体験を元にした漫画は、すべからくヒットした。
以前登場したラノベののがない、僕の頭のネジは少ないも、そんな捕虜の街から生まれた。
そして歌手デビューを果たしたユアに、楽曲提供をしたのも、こんな街の住人だった。
そんな彼らは、元の国に戻る理由など無かった。
と言うかこの時代、国という概念もあいまいで、生まれに関わらず、自由に国籍を選べた。
土地という物に縛られる事が無くなったため、移動の自由度は高まった。
ただそれは、先祖伝来の土地を持たない、いわゆる底辺層に限られる。
そして戦争に参加させられる召喚者は、そんな土地に縛られない層だった。
「なんか、複雑だなあ。」
上記の説明を聞いて、マイは感想をもらす。
この時代に戦争するために召喚されて、この時代で創作活動して生きていく。
元の時代に、戻ろうとは思わないのだろうか。
「まあ、そんな街だから、機密に関する話しも出来るのさ。」
ミサがそう言った時、四人はオープンテラスの喫茶店にさしかかる。
「おーい、遅いぞ。」
オープンテラスの端っこの席で、ジョーが待ちくたびれていた。
マイ達四人は早速席につき、注文する。
「私、サルサレトフールとビール。」
「ぼ、僕も同じ物。」
マイは、マインと同じ物を注文する。
アイもミサも、マイにはよく分からない何かとビールを注文する。
ビールがきたので、早速四人は乾杯する。
「かんぱーい、ごくごくごく。ぷはー。」
「ぷはー、この一杯の為に、生きてるのを実感するわー。」
「全くよ。日ごろの疲れが癒されるわー。」
「ほんとほんと、やな事は全部忘れて、どんどん飲めー。」
「わっはっはっはっは。」
マイは、自分以外の三人の言動に、かなり引く。
「すみませーん、ビール四つおかわりー。」
え、四つ?
マインは四人分のビールを頼むが、マイのビールは半分以上残ってる。
そうかジョーの分かと思ったが、そもそもジョーは、元からビールなんか注文していない。
「何やってるの、次が来ちゃうでしょ、早く飲みなさい。」
疑問だらけの光景に、食が進まないマイに、マインがからんでくる。
「つ、次って何?」
マイは恐怖に引きつった顔で、マインを見る。
「ほら、来ちゃうでしょ!」
丁度店員さんが、ビールジョッキを四つ持って、こちらに来る。
マインはマイに無理矢理ジョッキを握らせると、そのままマイの口元に持っていく。
「うぐ!」
マイは口元から遠ざけようと抵抗するが、マインが口元からこぼさない絶妙な角度で押さえつける。
マイはジョッキから口を離そうと、頭をのけぞらせるが、その頭もマインががっちりおさえる。
「何?私が手伝ってあげるのに、飲まないの?」
「うぐ!」
マイは、マインの目が怖かった。
「こぼしたら、承知しないからね。」
マインは、ジョッキをさらに傾けてくる。
「ごくごくごくごく!」
マイは必死でビールを呑み干す。
「あっはっは、凄いじゃん、マイ。やれば出来るじゃない!」
「そりゃあ、私のパートナーですからね。これくらいはとーぜんよ。」
「なんか今日のマイン、出来上がるの早くねーか?」
マイの飲みっぷりにマインとアイがはしゃぐ中、ミサは冷静に分析する。
マインは記憶を消されているが、直前に大ジョッキで七杯、呑んでいた。
記憶はないが、その分出来上がるのも早い。
おかわりのビールを置く店員さんの表情も、引きつっている。
「あ、店員さん、ビールもうひとつ、すぐに持ってきて。」
マインは今マイが飲み干したジョッキを、店員さんに手渡す。
店員さんはすでに三つのジョッキを持っていて、すぐにここから離れようとしていた。
「さあ、今度は一杯分、一気にいくわよ!」
「うぐ!」
マインは先ほどと同じムーブで、マイの口もとに持っていったジョッキと、マイの頭をおさえつける。
「おいおい、やりすぎじゃないか?」
見かねてミサが注意するのだが、横からアイが口をはさむ。
「まあまあ、マインもマイと飲めて、嬉しいのよ。
私達も、どんどん飲みましょ。」
「それもそうだな。」
「それじゃ改めて、かんぱーい。」
折角ミサが助けてくれそうだったのに、アイに邪魔されるマイ。
軽く絶望するマイに、マインは容赦なくジョッキを傾ける。
「ごくごくごくごごくごごごくごくごくごくん!」
ぱしん!
呑み干したマイのほほを、何故かマインがはたく。
「何するのよ!」
流石にマイも、言い返す。
「こぼしたあんたが、悪いんでしょ。」
ぱしん!
マインはもう一度、マイのほほをはたく。
「あ、あんたが無理矢理飲ますからでしょ。」
ぱしん!
口ごたえするマイに、もう一発おみまいする。
「ごめんなさいは?」
「はあ?」
口ごたえするマイに、もう一発叩き込もうとするマインだが、今度はマイががっちりマインの手を掴む。
「こぼしたら、ごめんなさいでしょ!」
反対の手ではたきにいくマインがだ、こちらの手も、マイががっちり握る。
「ちょっと、離してよ、悪いのはあんたでしょ!」
マインは凄い力で暴れる。
マイも抑えるのに精一杯だ。
「ちょっと助けてよ。」
マイはアイとミサに助けを求める。
だけどふたりで盛り上がっていて、こちらには見向きもしない。
「ねえジョー、なんとかしてよー。って、ジョー?」
ジョーはすでに、隣り、いや、遠くの席に避難していた。
「ジョー?」
マインはジョーの名を聞いて、脱力。
「あんた、あんなヤツの事が好きなんだ。」
「な、何言ってるのよ、いきなり。」
マイも思わず脱力。
掴んでいたマインの両手が抜ける。
「じゃあ、私とあいつ、どっちが好きなのよ!」
「はあ?今そんな事、関係ないでしょ!」
ふたりは睨みあう。
「だったら、勝負よ。」
マインはジョッキに手をかける。
「負けたら、勝った方の言う事を、何でも聞く!
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「分かったわ。」
マイもジョッキに手をかける。
マイの新しいジョッキは、そそくさと店員さんが置いてった。
「じゃあ、ミサとアイ、審判お願い。」
マインがふたりに声をかける。
とその時、店長らしき人物が近づいてくる。
「あのお客さま、困ります。ここはそういうお店ではございませんので。」
「けっ。」
勝負に水をさされて、マインはそっぽを向く。
「あー、彼女白銀の魔女なんだけどさ。」
ミサは、マインを指差す。
「しろがねのまじょ?
な、白銀の魔女!」
店長は驚きの声を上げる。
「あの、はむかう者は、誰であろうと殺す、戦場の死神!」
「そう、その死神。追い出せるかな?」
と言ってミサはニヤける。
「お、お代は結構ですんで、何とぞ穏便に。」
店長は震えながら頭を下げる。
「いやいや、迷惑料として、三倍払うよ。」
「いえ、その様な事は、」
ミサの申し出に、店長はめんくらう。
「だってこの区画で騒ぎを起こしたんだから、それくらい当然じゃん。
ね、てーんちょ。」
ミサは媚びた声を出す。
「そ、そう言う事でしたら、」
店長はすごすごと引き下がる。
「誰が魔女だ、こらー。こんな美女つかまえてー。」
何か納得いかないマインが叫ぶ。
「そうね、あなたは魔女じゃない。
ただの呑んだくれよ!」
マイはうまい事言ったと、思わずニヤける。
「あん?そんなふざけた口、すぐに聞けなくしてやるよ。
ミサ、早く!」
「あー、分かった。じゃあ、
よーいドン!って言ったら飲むんだぞ。」
ミサの言葉に反応して、マイはジョッキを持ち上げる。
「あはは、何フライングしてんのよ!」
「ちょっとミサ、真剣勝負なのに、なにふざけてんのよ!」
「ああ、悪い悪い。
じゃあ、今度こそ、よーいドン!」
「ごくごくごくごくごく…。」
ドン!
ふたりは同時に呑み終え、ミサの方を見る。
「驚いた。イチミクロン秒の差もなく、同着だぜ。」
ミサはふたりの勝負の結果に驚く。
「いえ、マイのジョッキの方が、三滴ほど、少なかったわ。」
横からアイが、口を挟む。
そう、マイがフライングした時、ジョッキから三滴ほど、こぼれていた。
「という事は、私の勝ちね、やったー。」
「くっそー!」
喜ぶマインと、激しく落ち込むマイ。
勝敗の差が、はっきりと出る。
「じゃあ、勝者からの命令、いくわよ?」
「ぐぐ。」
マインは勝負としての余韻に浸り、マイは敗者としての屈辱を噛みしめる。
「マイ、あなたが好きなのは、」
と言いかけて、マインは思う。
私、何言ってんだろと。
と同時に、顔が赤くなる。
マインはそのまま正気に戻る。
「わ、忘れて。」
マインはつぶやく。
そのつぶやきがよく聞こえなかったので、マイは顔をあげる。
「いいから、今この店であった事、全部忘れなさーーい!」
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そんな折、現代日本に迷宮と魔物が出現。それらは拓斗が異世界で散々見てきたものだった。
そして3年後、ついに迷宮で活動する国家資格を手にした拓斗は、安定も平穏も捨てて、自分のすべてを活かせるはずの迷宮へ赴く。
異世界人「フィリア」との出会いをきっかけに、拓斗は自分の異世界経験が、他の初心者同然の冒険者にとって非常に有益なものであると気づく。
やがて拓斗はフィリアと共に、魔物の倒し方や、迷宮探索のコツ、魔法の使い方などを、時に直接売り、時に動画配信してお金に変えていく。
さらには迷宮探索に有用なアイテムや、冒険者の能力を可視化する「ステータスカード」を発明する。
そんな彼らの活動は、ダンジョン黎明期の日本において重要なものとなっていき、公的機関に発展していく――。
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
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