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第一章 出会い
三本目 チョロインお持ち帰り
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アーゼを背負い、家に戻るとガルマーダは目を丸くしてオレとアーゼを見比べてきた。
「お持ち帰りか……やるな!」
「違うし」
いい笑顔でサムアップしてガルマーダを無視して、ぺちぺちアーゼの頬を叩く。
パチッと目蓋を開けて、オレを見た次の瞬間。悲鳴をあげて退かれた。
「ば、化け物!」
「失礼な。オレのどこが化け物と申すか」
「現在進行形にクマを咀嚼してるからだろ」
あ。まだハンバーグにしてたの忘れていた。
アーゼはそれからというもの、騒いで騒いで騒いで、遂にはガルマーダの拳骨で落ち着いた。痛そうなり。
「うぅ……なんなのですの。なんでわたくしが追放なのですの。シラム公国で立派な国母になるために幼い頃からずっとダンス、マナーを稽古してきたのに。勉強も恥じることがないように必死に努力してきたのに……。それをあのイモ娘を貴族として注意しただけですのに、なんでこうなるのですの……」
「つまりあれか。どこの出のイモ娘に愛しの王子(笑)を寝取られたってことだな」
「なんでわかるのですの!? 一言も王子とは言ってないのに!」
「乙女ゲーっぽいテンプレ展開していたから」
「わけがわかりませんわ!?」
怒鳴られた。どうやらここに乙女がはないようだ。乙女ゲーしたことないし、しようと思わないけど。
「落ち着け嬢ちゃん。アンタが国からしたらお尋ね者みたいなもんになったことがよくわかった。安心しろ。俺達はアンタをどうこうするつもりはねぇ。むしろ、立ち直るまでここにいてもいいぜ」
「が、ガルマーダ様……」
あのガルマーダを様付けだと!? このオヤジ。マジでスゲーんだな。
と呟くとアーゼが食って掛かるように言い始めた。
「当たり前ですわ! シラムでも救国の傭兵とうたわれている伝説のギルダー! 教科書にも載っているほどの大有名人ですわ!」
「ところでギルダーってなんぞや」
「人の話を聞きなさい!」
アーゼをスルーして、ガルマーダにギルダーのことを詳しく聞く。この前、水面下な感じの説明だったしな。
ギルド協会の組員は【ギルダー】と呼ばれ、ライセンスが発行されている。その免許証みたいなものが、ギルダーである証であり、ランクの証明にもなるらしい。
「Sランクだとオリハルコンのカード。ちなみに俺のエーテルでこのカードに文字が浮かび上がり、証明書となるんだ。俺以外が使うと文字は浮かび上がらない」
「うわぁー。便利な免許証」
「マネー機能もあるんだぜ」
「マジでか。クレジットとして機能するのか」
ガルマーダのカードはガルマーダしか使えない。盗まれても悪用、乱用されない。
もしそうなればカードにアラームが鳴って、ギルダーが追いかけてくるとか。大分前に盗人が使おうとしたら、ギルダー達によってボコボコにされて、留置場に入れられたそうだ。
その牢獄で何があったのか……。彼は盗人から男性客専用のMに目覚めたらしい。
ある意味、日本の牢獄よりも怖いって。出所したら変態になってるってこぇーよ。
「わ、わたくしの……はなしを……きいてぐだざいまじぃぃぃ……」
スルーしすぎてアーゼが咽び泣きはじめたので、彼女の話を聞くことにした。
シラム公国の公爵令嬢だったアーゼはテンプレよろしくのごとく、イモ娘をいじめた罪として国外追放されたらしい。
しかし、その罪は免罪だった。実行していたのはアーゼの取り巻き達だったのだが、結果的にアーゼが企てた思われ、父親からも見放され、追放された。
良かれ悪かれと思ってのことか知らないが、部下をちゃんと見張っていなかったアーゼが悪い。
「そうですわ。けれど、わたくしだって忙しかったのですわ。王妃様のお茶会、活動していない生徒会のフォロー。おまけに父の人脈作り……。イモ娘の面倒を見ている暇もないですわ!」
「なんか仕事を言い訳にしている親みたい」
「うっ……似てほしくないところが似てしまっていたですわ……」
愕然とするアーゼをとりあえず、頭を撫でてやる……触手で。
「なんで触手ですの! そこはあなの暖かい手でするものでしょ!?」
「気安く触れちゃいけないと思って」
「触手の方が何倍も傷つきますわ!」
文句があったので仕方がなく手で撫でてやる。顔を綻ばせて、喜んでいる。
「……そうですわ。この温もりがほしかったのですわ。地位や名誉よりも……暖かい手で誰かにほめられたかった……」
「撫でられたことねぇーのかよ」
「はい……わたくしはできて当然って……。わたくしだってできるために必死にがんばったのですよ。でも……でもぉ……」
再びポロポロ目から雫を流すアーゼ。
悔しいだろうなぁ。せっかく努力したのに報われないとか。
結果が全てだと誰かが言うけど、それは本当に努力してないから言えることじゃないだろうか。
だって、努力したのに駄目だった――と簡単に受け入れられないものだろ?
納得できない。認めたくない――――――そんな想いに支配されて感情的になるものだろ?
アーゼが泣きたい理由はそんなところだろう。何もかも理不尽で、何も言い返せないまま、追放されたってことが。
しばらくアーゼは泣き続け、オレは終わるまで頭から手を離さなかった。
アーゼside
わたくし、アリアーゼ・フォーラムは元公爵令嬢でした。
大好きだった母を亡くし、父の人脈を固めようと必死に社交界の花になろうとしていました。
それだけでなく、勉学やマナー、ダンスも家に傷がつかないように努力してきました。
生徒会もそうです。イモ娘によって機能しなくなった生徒会をフォローするために、必死にがんばってきましたわ。
けれど、その末が理不尽な末路でした。
いじめたこともないイモ娘の証言によって、婚約破棄され、役立たずとなったわたくしを父は追放しました。
この服装のまま、家から無理矢理出ていかせ、転移で二度とフォーラムの家へ戻れないようにしたのです。
わたくしはいったい何をしたと言うのですか……。貴族らしくないイモ娘を注意しただけなのに、いじめられたのは納得できない。
わたくしは何もかも絶望し、放浪とさ迷い、木の穴を見つけて横になりました。
干し草と思われるもので寝るのははじめてで少し寝づらかったですけど、疲れ果てたわたくしはそのまま眠りました。
もう二度と目を覚めたくなかった。
けれど、そんなときわたくしより歳下の少年に起こされましたわ。
年齢的には五歳歳下。十六歳のわたくしより幼い少年が話しかけてきました。
髪は黒で瞳が紅い少年の服装は明らかに平民のものでした。
その少年はわたくしに危ないから出ろという言い方をしたので、わたくしは拒否しました。
元は付くとは言え公爵令嬢。平民に指図されたくないという小さく愚かなプライドですわ。
「あ。つまりただの馬鹿ってわけね」
「いきなり馬鹿呼ばわりとは失礼ですわね!」
「事実馬鹿だろ。子ども一人でこんなところにいるなんて、馬鹿なの。死ぬの?」
「な、生意気な……。平民の分際で!」
「じゃあお前、貴族なの?」
「当たり前ですわ! 【シラム公国】四代公爵の令嬢こそがわたくしですわ!」
「捨てられたのに?」
そう言われてグサリと何かが突き刺さりました。思わず、涙声になってしまいましたわ。
「そ、そんなことないですわ。わたくしが捨てられたなんてことは……き、きっとないですわ! そうですわ! お父様もこのわたくしを捨てるなんて……捨てるなんてこと…………うぅ……」
こんな少年の前で泣き言だなんて、今思えば恥ずかしい。
「泣くなよ豆腐」
「トーフじゃないですわ! アーゼですわ!」
あろうことかトーフとはなんですトーフとは! なんか馬鹿にされてる気がしますわ!!
「じゃあ、アーゼたん。早くここから出た方がいいぞ」
今度は『たん』!? どれだけ生意気な口を!
わたくしは喚きながら、指をさされた方へ振り返る――――あら、既に住んでる方がいらっしゃったわ。
ええ、クマさんことキングベアーさんが。
「きゃ、きゃあぁぁぁぁぁ!」
悲鳴をあげて飛び出したわたくし。下の方が少し湿った気がします。恥ずかしいですわ……。
「おー。デケーなオイ」
「なんでそれほど暢気に言ってるのです!? キングベアーですのよ! Sランクの魔物ですのよ!!」
呑気に感想を言う平民少年に事の重大さを伝えたものの、気にせず、やる気満々になっていた。
「とりあえず、売られた勝負はいどまねーとな。よし、いっちょやるか」
「逃げないのですか!?」
「逃げるという文字はオレの辞書にはねぃ。あ、逃走するって文字はあるけど」
「それも逃げるってことですわよ! とにかく逃げるのが一番ですわ! 走りましょう!」
逃げるのが一番。わたくしとて、魔法が使える身であります。少年を逃がすことくらいは……できる、はず。
「えぇー。やだよめんどくさい。アーゼ一人でやってて」
「わたくし一人で逃げろと言うのですか! 公爵家の娘として、しもじもの前で背中を向けてなるものですか!」
それこそ末代までの恥。お母様に顔向けできないことですわ。
キングベアーが大きな身体を見せはじめると、少年は触手のようなものを伸ばしていた。
白けた目で少年を見て、尋ねた。
「なんですの……それ」
「触手」
「どこから伸ばしましたの」
「背中」
「そんなえっちぃスキルでキングベアーに勝てるものですかー!!」
うがぁーと叫んだ。それに刺激されて、キングベアーがわたくしに襲いかかった。
もう無理だ。わたくしのような小さな存在が、Sランクの魔物に勝てるはずがない。
恐怖のあまりわたくしはらしくない悲鳴をあげてしまっていたのだ。
涎を垂らして襲いかかったキングベアー。
それに対して、わたくしは目を閉じていると――少年の触手がキングベアー持ち上げていた。。
『JUa!? JURUaaaaaaa!』
ヒョイッと持ち上げられた少年に威嚇するキングベアー。うるさいのか、彼は腹パンして黙らせた。
悶絶していそうな仕草をしているキングベアーをスルーして、少年がわたくしに話しかけた。
「おーい。無事だぞー」
「たすけて……たすけてぇ…………え、あ、はれ……?」
「うん無事だから、顔を押し付けないで。おっぱいが邪魔」
わたくしは顔を髪の色と同じくしながら、少年から離れた。いくら小さいとは言え、その……殿方に抱きつくなんてはしたない……。
少年は「どうすればいい?」とわたくしに尋ねた。
わたくしもどうすればいいのかわからない。
「殴るor新技。どっちかお選びくださいませ」
そう聞かれたので思わず、「新技、で」と答えると少年の目が光った気がしましたわ。
えぇ。確か、イタズラ小僧が顔を暗くして目を光らせたあの表情ですわ。
「はいよ」と呟いて少年は触手をミミズのようにする。
それをキングベアーの顔面まで近づけました。キングベアーはというと相変わらず、威嚇したり吠えていました。
そんなキングベアーにミミズがグパァと口を開きました。
そのときキングベアーは静かになった。いや、もう蒼白していました。
食虫植物のような口を開き、そして――――キングベアーさんを顔面から補食しました。
ひめいと断末魔をあげていき、そして……――――
『JU、aaaaa――――………………』
バキ、ボキ、メリメリ!! クチャクチャ……。
見ていられない光景に意識がフッと消えました。ショッキングなものを見て、正気にいられるほどの度胸はわたくしにはありませんわ……。
それから目を覚ましたわたくしは例の光景を見せてくれた少年を見に入って、思わず悲鳴をあげた。
隣にいる方が少年にツッコんでいましたが……えっ! あの方はガルマーダ様じゃないですか!
伝説のギルダーとうたわれる方がなぜここに!?
そして少年。なぜわたくしをスルーしますの!? 公爵令嬢であるわたくしを! わたくしを………………わたくし……を。
なんかむなしくなりました。いろいろがんばったのに、もう公爵令嬢じゃないし、何より変な少年に助けられるし、少年が伝説のギルダーとの仲がいいのを見て、かつてのお母様とのやり取りを思い出して……。
何もかも少年に吐き出して、泣いてしまいましたわ。
触手で頭を撫でられたことに怒ると、今度は手で撫でてくれた。こうして、誰かにほめられたのはお母様以来ですわ……。うれしくて、うれしくて……また泣いてしまいました。
泣き止んだわたくしは恥ずかしいあまり、少年を真っ直ぐ見られなかった。……殿方の前でこのような姿を見せるのはなかったのに。
けど、気分は悪くなかった。
「お持ち帰りか……やるな!」
「違うし」
いい笑顔でサムアップしてガルマーダを無視して、ぺちぺちアーゼの頬を叩く。
パチッと目蓋を開けて、オレを見た次の瞬間。悲鳴をあげて退かれた。
「ば、化け物!」
「失礼な。オレのどこが化け物と申すか」
「現在進行形にクマを咀嚼してるからだろ」
あ。まだハンバーグにしてたの忘れていた。
アーゼはそれからというもの、騒いで騒いで騒いで、遂にはガルマーダの拳骨で落ち着いた。痛そうなり。
「うぅ……なんなのですの。なんでわたくしが追放なのですの。シラム公国で立派な国母になるために幼い頃からずっとダンス、マナーを稽古してきたのに。勉強も恥じることがないように必死に努力してきたのに……。それをあのイモ娘を貴族として注意しただけですのに、なんでこうなるのですの……」
「つまりあれか。どこの出のイモ娘に愛しの王子(笑)を寝取られたってことだな」
「なんでわかるのですの!? 一言も王子とは言ってないのに!」
「乙女ゲーっぽいテンプレ展開していたから」
「わけがわかりませんわ!?」
怒鳴られた。どうやらここに乙女がはないようだ。乙女ゲーしたことないし、しようと思わないけど。
「落ち着け嬢ちゃん。アンタが国からしたらお尋ね者みたいなもんになったことがよくわかった。安心しろ。俺達はアンタをどうこうするつもりはねぇ。むしろ、立ち直るまでここにいてもいいぜ」
「が、ガルマーダ様……」
あのガルマーダを様付けだと!? このオヤジ。マジでスゲーんだな。
と呟くとアーゼが食って掛かるように言い始めた。
「当たり前ですわ! シラムでも救国の傭兵とうたわれている伝説のギルダー! 教科書にも載っているほどの大有名人ですわ!」
「ところでギルダーってなんぞや」
「人の話を聞きなさい!」
アーゼをスルーして、ガルマーダにギルダーのことを詳しく聞く。この前、水面下な感じの説明だったしな。
ギルド協会の組員は【ギルダー】と呼ばれ、ライセンスが発行されている。その免許証みたいなものが、ギルダーである証であり、ランクの証明にもなるらしい。
「Sランクだとオリハルコンのカード。ちなみに俺のエーテルでこのカードに文字が浮かび上がり、証明書となるんだ。俺以外が使うと文字は浮かび上がらない」
「うわぁー。便利な免許証」
「マネー機能もあるんだぜ」
「マジでか。クレジットとして機能するのか」
ガルマーダのカードはガルマーダしか使えない。盗まれても悪用、乱用されない。
もしそうなればカードにアラームが鳴って、ギルダーが追いかけてくるとか。大分前に盗人が使おうとしたら、ギルダー達によってボコボコにされて、留置場に入れられたそうだ。
その牢獄で何があったのか……。彼は盗人から男性客専用のMに目覚めたらしい。
ある意味、日本の牢獄よりも怖いって。出所したら変態になってるってこぇーよ。
「わ、わたくしの……はなしを……きいてぐだざいまじぃぃぃ……」
スルーしすぎてアーゼが咽び泣きはじめたので、彼女の話を聞くことにした。
シラム公国の公爵令嬢だったアーゼはテンプレよろしくのごとく、イモ娘をいじめた罪として国外追放されたらしい。
しかし、その罪は免罪だった。実行していたのはアーゼの取り巻き達だったのだが、結果的にアーゼが企てた思われ、父親からも見放され、追放された。
良かれ悪かれと思ってのことか知らないが、部下をちゃんと見張っていなかったアーゼが悪い。
「そうですわ。けれど、わたくしだって忙しかったのですわ。王妃様のお茶会、活動していない生徒会のフォロー。おまけに父の人脈作り……。イモ娘の面倒を見ている暇もないですわ!」
「なんか仕事を言い訳にしている親みたい」
「うっ……似てほしくないところが似てしまっていたですわ……」
愕然とするアーゼをとりあえず、頭を撫でてやる……触手で。
「なんで触手ですの! そこはあなの暖かい手でするものでしょ!?」
「気安く触れちゃいけないと思って」
「触手の方が何倍も傷つきますわ!」
文句があったので仕方がなく手で撫でてやる。顔を綻ばせて、喜んでいる。
「……そうですわ。この温もりがほしかったのですわ。地位や名誉よりも……暖かい手で誰かにほめられたかった……」
「撫でられたことねぇーのかよ」
「はい……わたくしはできて当然って……。わたくしだってできるために必死にがんばったのですよ。でも……でもぉ……」
再びポロポロ目から雫を流すアーゼ。
悔しいだろうなぁ。せっかく努力したのに報われないとか。
結果が全てだと誰かが言うけど、それは本当に努力してないから言えることじゃないだろうか。
だって、努力したのに駄目だった――と簡単に受け入れられないものだろ?
納得できない。認めたくない――――――そんな想いに支配されて感情的になるものだろ?
アーゼが泣きたい理由はそんなところだろう。何もかも理不尽で、何も言い返せないまま、追放されたってことが。
しばらくアーゼは泣き続け、オレは終わるまで頭から手を離さなかった。
アーゼside
わたくし、アリアーゼ・フォーラムは元公爵令嬢でした。
大好きだった母を亡くし、父の人脈を固めようと必死に社交界の花になろうとしていました。
それだけでなく、勉学やマナー、ダンスも家に傷がつかないように努力してきました。
生徒会もそうです。イモ娘によって機能しなくなった生徒会をフォローするために、必死にがんばってきましたわ。
けれど、その末が理不尽な末路でした。
いじめたこともないイモ娘の証言によって、婚約破棄され、役立たずとなったわたくしを父は追放しました。
この服装のまま、家から無理矢理出ていかせ、転移で二度とフォーラムの家へ戻れないようにしたのです。
わたくしはいったい何をしたと言うのですか……。貴族らしくないイモ娘を注意しただけなのに、いじめられたのは納得できない。
わたくしは何もかも絶望し、放浪とさ迷い、木の穴を見つけて横になりました。
干し草と思われるもので寝るのははじめてで少し寝づらかったですけど、疲れ果てたわたくしはそのまま眠りました。
もう二度と目を覚めたくなかった。
けれど、そんなときわたくしより歳下の少年に起こされましたわ。
年齢的には五歳歳下。十六歳のわたくしより幼い少年が話しかけてきました。
髪は黒で瞳が紅い少年の服装は明らかに平民のものでした。
その少年はわたくしに危ないから出ろという言い方をしたので、わたくしは拒否しました。
元は付くとは言え公爵令嬢。平民に指図されたくないという小さく愚かなプライドですわ。
「あ。つまりただの馬鹿ってわけね」
「いきなり馬鹿呼ばわりとは失礼ですわね!」
「事実馬鹿だろ。子ども一人でこんなところにいるなんて、馬鹿なの。死ぬの?」
「な、生意気な……。平民の分際で!」
「じゃあお前、貴族なの?」
「当たり前ですわ! 【シラム公国】四代公爵の令嬢こそがわたくしですわ!」
「捨てられたのに?」
そう言われてグサリと何かが突き刺さりました。思わず、涙声になってしまいましたわ。
「そ、そんなことないですわ。わたくしが捨てられたなんてことは……き、きっとないですわ! そうですわ! お父様もこのわたくしを捨てるなんて……捨てるなんてこと…………うぅ……」
こんな少年の前で泣き言だなんて、今思えば恥ずかしい。
「泣くなよ豆腐」
「トーフじゃないですわ! アーゼですわ!」
あろうことかトーフとはなんですトーフとは! なんか馬鹿にされてる気がしますわ!!
「じゃあ、アーゼたん。早くここから出た方がいいぞ」
今度は『たん』!? どれだけ生意気な口を!
わたくしは喚きながら、指をさされた方へ振り返る――――あら、既に住んでる方がいらっしゃったわ。
ええ、クマさんことキングベアーさんが。
「きゃ、きゃあぁぁぁぁぁ!」
悲鳴をあげて飛び出したわたくし。下の方が少し湿った気がします。恥ずかしいですわ……。
「おー。デケーなオイ」
「なんでそれほど暢気に言ってるのです!? キングベアーですのよ! Sランクの魔物ですのよ!!」
呑気に感想を言う平民少年に事の重大さを伝えたものの、気にせず、やる気満々になっていた。
「とりあえず、売られた勝負はいどまねーとな。よし、いっちょやるか」
「逃げないのですか!?」
「逃げるという文字はオレの辞書にはねぃ。あ、逃走するって文字はあるけど」
「それも逃げるってことですわよ! とにかく逃げるのが一番ですわ! 走りましょう!」
逃げるのが一番。わたくしとて、魔法が使える身であります。少年を逃がすことくらいは……できる、はず。
「えぇー。やだよめんどくさい。アーゼ一人でやってて」
「わたくし一人で逃げろと言うのですか! 公爵家の娘として、しもじもの前で背中を向けてなるものですか!」
それこそ末代までの恥。お母様に顔向けできないことですわ。
キングベアーが大きな身体を見せはじめると、少年は触手のようなものを伸ばしていた。
白けた目で少年を見て、尋ねた。
「なんですの……それ」
「触手」
「どこから伸ばしましたの」
「背中」
「そんなえっちぃスキルでキングベアーに勝てるものですかー!!」
うがぁーと叫んだ。それに刺激されて、キングベアーがわたくしに襲いかかった。
もう無理だ。わたくしのような小さな存在が、Sランクの魔物に勝てるはずがない。
恐怖のあまりわたくしはらしくない悲鳴をあげてしまっていたのだ。
涎を垂らして襲いかかったキングベアー。
それに対して、わたくしは目を閉じていると――少年の触手がキングベアー持ち上げていた。。
『JUa!? JURUaaaaaaa!』
ヒョイッと持ち上げられた少年に威嚇するキングベアー。うるさいのか、彼は腹パンして黙らせた。
悶絶していそうな仕草をしているキングベアーをスルーして、少年がわたくしに話しかけた。
「おーい。無事だぞー」
「たすけて……たすけてぇ…………え、あ、はれ……?」
「うん無事だから、顔を押し付けないで。おっぱいが邪魔」
わたくしは顔を髪の色と同じくしながら、少年から離れた。いくら小さいとは言え、その……殿方に抱きつくなんてはしたない……。
少年は「どうすればいい?」とわたくしに尋ねた。
わたくしもどうすればいいのかわからない。
「殴るor新技。どっちかお選びくださいませ」
そう聞かれたので思わず、「新技、で」と答えると少年の目が光った気がしましたわ。
えぇ。確か、イタズラ小僧が顔を暗くして目を光らせたあの表情ですわ。
「はいよ」と呟いて少年は触手をミミズのようにする。
それをキングベアーの顔面まで近づけました。キングベアーはというと相変わらず、威嚇したり吠えていました。
そんなキングベアーにミミズがグパァと口を開きました。
そのときキングベアーは静かになった。いや、もう蒼白していました。
食虫植物のような口を開き、そして――――キングベアーさんを顔面から補食しました。
ひめいと断末魔をあげていき、そして……――――
『JU、aaaaa――――………………』
バキ、ボキ、メリメリ!! クチャクチャ……。
見ていられない光景に意識がフッと消えました。ショッキングなものを見て、正気にいられるほどの度胸はわたくしにはありませんわ……。
それから目を覚ましたわたくしは例の光景を見せてくれた少年を見に入って、思わず悲鳴をあげた。
隣にいる方が少年にツッコんでいましたが……えっ! あの方はガルマーダ様じゃないですか!
伝説のギルダーとうたわれる方がなぜここに!?
そして少年。なぜわたくしをスルーしますの!? 公爵令嬢であるわたくしを! わたくしを………………わたくし……を。
なんかむなしくなりました。いろいろがんばったのに、もう公爵令嬢じゃないし、何より変な少年に助けられるし、少年が伝説のギルダーとの仲がいいのを見て、かつてのお母様とのやり取りを思い出して……。
何もかも少年に吐き出して、泣いてしまいましたわ。
触手で頭を撫でられたことに怒ると、今度は手で撫でてくれた。こうして、誰かにほめられたのはお母様以来ですわ……。うれしくて、うれしくて……また泣いてしまいました。
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