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第一章
10 旅立ち
しおりを挟む朝の光が水面に乱反射し、湖畔に澄んだ霧の匂いを漂わせる頃、鳥たちの鳴き声でおれは目を覚ました。
ソフィアはおれの肩に頭を乗せて、毛布に包まり眠っていた。起こさないようにそっと地面に転がす。もちろん地面にはおれのマントを敷いてあげている。
朝霧の彼方へ鳥たちが飛んでいくのを眺めながら、おれは湖畔で顔を洗って、これからのことを考えた。
実を言うと目的地はもうとっくに決めていた。ソフィアの母の生家であり、初代フランディア国王ジル1世の出身地でもあるジルダリア公国だ。問題はどうやってそこまで行くかだった。
ルートは大きく二つ考えられた。ひとつはオービル街道を西に戻ってアティリス街道に入り、ティリス川沿いに北上するか。もしくは、オービル街道からアガタ旧道を北へ抜けてペタニウムを目指すかだ。
アティリス街道のほうが安全かつスムーズに北を目指せるだろうが、同時に軍用道でもあるため、敵に見つかる可能性は高いし、戦闘に巻き込まれる恐れもあった。対照的にアガタ旧道は、道幅も狭く難所も多いため、ペタニウムに用がある冒険者か、行商人くらいしか使わない。
後者のルートを選ぶ場合は、ソフィアの足で踏破できるのかが論点になるが、道中でロバかラバを手に入れればなんとかなるだろう。
「おはよう、もう起きてたんだ」
「おはようございます、ソフィア様」
眠たそうな目をこすって、起きてきたソフィアの髪を梳いてやりながら、おれは先ほどの件について、ソフィアに意見をうかがってみた。
「ペタニウムに行ってみましょう!」ソフィアは弾けるように立ち上がりながら言った。
「険しい道のりですが、よろしいですか?」
「ええ! ペタニウムを通るのは初めてだから楽しみだわ」
緊張感のないその発言に、これからの旅の過酷さを、あらためて感じることになったが、進むべき道が見えたのは良いことだ。朝日が昇っていくのと同時に、胸のつかえも取れてきた気がした。
そうと決まれば善は急げだ!
おれは身に着けていた半甲冑を取り外し、ひとつずつ湖に向かって投げていった。
「何してるのリュカ!」ソフィアがおれの腕を掴みながら叫んだ。
「昨日のソフィア様の真似です」
おれが笑いながらからかうと、ソフィアは「ひどい!」と言ってふてくされた。
「冗談ですよ、ペタニウムに行くなら、これからは冒険者に扮して旅をしましょう! 冒険者がこんな仰々しい半甲冑など着けていたら、怪しまれるだけですからね」
おれは最後のすね当てを、思いっきり遠くに投げ捨てながら大声を出した。
図らずしもおれは騎士を捨て、冒険者に身をやつすことになった。ノクスと話してた通りになったな、おれはつい笑ってしまった。
「私も冒険者ってことでいいの?」
ソフィアもなんだか楽しそうだ。
「ええ! おれたちは今日から凄腕の冒険者です」
「北方の小ロマリス帝国出身の二人組み!」
「いいですねその設定! ソフィア様は稀代の大魔術師ってとこでしょうか」
こんなところ人に見られたら笑われるかもしれないが、おれも楽しくなってきてしまった。
「私は、とある妖精種の呪いによって魔術を一部封印されてるの、その呪いを解くために旅をしてる!」
「悪くない役だ! それじゃおれは魔術師に付き従う従士ってところですかね」
「違うわ」ソフィアは胸の前で手を合わせながら、はにかんだ。
「リュカは私の恋人役よ」
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