かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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Commentary

ノイズ

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「坊主」
――――ちょうど、誰かが呼んだ。青年のような声だ。

「は? 視えねーのか? ふっさふさだろ」
俺はなんだかイラっと来て反射的に答えた。
くくく、と顰めたような笑い声がして、そうじゃない、と声は続けた。
俺は渋々振り返る。
二十歳くらいだろうか。それとも高校生?

「そうじゃなくて、こんなとこに、子どもが来ない方がいい」
大人びた雰囲気の、見知らぬ男だった。
身長はすでに180くらいあった気がする。俺の倍のデカさだった。
暗くて顔までよく覚えていないけど、耳に変なピアスを3つくらい付けていた気がする。

変な……何の飾りだっただろう。
耳朶を貫通するナイフと、耳の上にあるサイコロと――――

「お、おじさんだって、出歩いてるじゃん?」
見惚れているのがいけない事の気がして、慌てて目を逸らす。

「おい、俺はまだ18だ。傷付くなぁー」

 彼は愉快そうに笑って俺に近づいてくる。
良い人なのか、悪い人なのか。
……少なくとも変な飾りをつけまくってる時点で、既に痛覚とか触覚がイカレている。まともな人じゃなさそうだと偏見を持ちながら、それでも、どうでもいいと思った。
死んでも、どうでもいいと思った。



「俺はちゃんと、此処にやることがあんの。坊主はとっとと帰りな」
彼は見た目こそ異質さを感じるも、即座に切りかかっては来なかった。
子どもを心配して、彼なりに気遣っているようだった。
俺は「嫌だ」と言った。

「もう何処にも居られない。鑑賞物になって、権力に都合のいいように使われるんだ。明日から社会の笑いものになるんだ。俺だけ足掻いたってどうにもならないんだ、学校だって」

「はぁ? なんでだよ。どういう意味」


彼は呆れながら一瞬腕時計を見た。
「まだ、時間あるな……」と小声で呟き、しょうがないかぁ、と諦めたように
悩みがあるなら聞いてやるよと言った。

「なんで話さなきゃいけないんだ」
「だって、此処俺の倉庫だもん」
「嘘だ!」

俺は即答する。
彼と目が合う。

「――――……嘘、でしょ」
俺にはわかる。此処は彼が所有したり買い取った倉庫ではない。
だけど……一瞬、変な映像が流れ込んだ。

「さぁ。滞在理由を聞かないと。通報しちゃうぞ」

笑顔の裏に何を隠して居るのか気になって、俺は逆らえなくなる。


「……わかった」
だから、通報されるかもという嘘に騙されておくことにした。






それから俺はその日の事を話した。

「俺は自分で生きていきたい。でも、先に鑑賞物にされて、イメージが決まってしまう気がする。もうどんな顔で学校に行けばいいかわからない。生きていける気がしない」

たった一人でそのイメージに向き合って、否定していかなければならない。創作物の読み過ぎだろうとか、厨二病だと笑われながら、痛い奴としてそれでも用意された偏見に向き合っていくしかない。

「なるほどなぁ」
彼は意外にも、しみじみと聞いていた。
感慨深いとか、懐かしいとか、悲しいとか。そんな感じ。


「なんで俺が、現実でもこんな苦労しなきゃならないんだ。真面目に生きて来たのに……晒し者にされなきゃこんなことしなくて良かったはずだったのに、隠して来たのに、それで、やってあげてるみたいな事ばかり言われて」
理不尽なやりきれなさを何処にもぶつけられないままだ。




「夢なんか見たこと無いよ。輝かしいとか羨ましいなんて思った事もないのに。みんな自意識過剰で図々しい、上から目線だ。押し付けられてばっかり」

俺が有難いと思うのは、もっと無で、空虚で、何も求めて来ないような。
当たり前の景色と、俺が当たり前に馴染んで存在出来る世界そのもの。

あんな風に矢面に立って叩かれたり笑われたりじゃなかったのに。

「輝いていたと思った事なんか無いのに」

そもそも、俺には空想の才能が無い。

現実ばかり見ている。
人前で殺人事件の本の感想を述べて、たまにホンモノを引いてしまうように、何を見ても、戦争と殺人が目について――
可愛らしい絵柄が余計にしゃくで、
大人になればこんな、醜い嘘をつかないと生きていけないんだと幼心に思っていた。

あの大人達に囲まれた世界の中で唯一『ノイズ』にならないのは俺自身だけだったのに。
それすらノイズになってしまうのが、もう何もかもノイズになってしまうのが幼心に耐えられない。

「俺自身が消費されるのが耐えられない。でも、今の、ガキのままじゃあの家しか、居られない。だから、もう」

待てよ? お前の家って……と、彼は何か考えて居るようだったが、すぐに
「そいつは酷い話だ。BPO案件じゃねぇか、普通に摘発から始めた方がよくねぇか?」とやや怒ったように言った。
「摘発?ってどうするの?」

「それより、もう帰――――あぁ……ったく」
彼は何か言いかけて、上着のポケットから携帯電話を取り出す。

「はい」

気怠そうに応答を始めた彼だったがそのうち「は? ちょい待てよ」と、狼狽し始めた。
「今からか? 聞いてないんだけど」


俺は嫌な予感を覚える。
それはさっき、彼とすれ違ったときに視えたものが脳裏に過ったからだ。

2025年9月20日 2時07分
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