かいせん(line)

たくひあい@あい生成

文字の大きさ
27 / 349
hyponica

hyponica

しおりを挟む

>>



 あれから、色は帰って来なかった。
暫く待ってみたけど、どうも余所で泊まるみたいだ。一体何故。
何か気分を害すようなことをしたのか? 単なる気まぐれ?
考えてみたが、わからない。

「考えていても、しょうがない」
昨日の夕飯をテーブルに出したままだったので、とりあえずレンジであたためて、テーブルに着く。
もうすっかり夜中で、早く寝ないと朝になってしまう。
「いただきまーす」

シンとした空気が辺りを包んだ。
寂しい。静かすぎる。
いつもなら向かい側には色が座り、事件の話なんてしてるのに。
今日は一人きり。

一日触れていないというだけでひどく、物足りない。





飲み物を用意しながら、以前、報告したときの事が脳裏に過ってきた。



――――見つかったか?

なんだかくぐもった所長の声。
少し違和感を覚えたが、きっと気の所為だろうと思っていた。

「あー、はい。保護しましたが、あいつめちゃくちゃ怯えてましたよ。何させたんすか?」
そう言うと一言、すまんな、と返された。
「あの、社長のこと、所長たちは……」

答えは返って来ない。
言えないらしい。彼が悪いわけではないのは知っていた。誰にも責任を問えないことも。
ただ、この空気は知っている。
(業界人の名を連ねる「顧客リスト」を見たとたん、捜査を打ち切ったのと同じ……)











 ぼーっとカルボナーラをつついていたら、少しして、目の前の玄関のドアが開いた。
「色!」
思わず走り寄ると、そいつは少し泣きそうな顔で、俺を抱き締めた。

「ああ、ただいま」
「お前、どこいって」
「ガキじゃない。一人で宿にくらい泊まるさ」
はにかむような、苦笑。
「そういう問題じゃない」
俺はなんだか気恥ずかしくなりながら、腕の中で拗ねる。
「……そうだな」
なぜか色は俺の背中を撫でるばかりで、離れようとしない。

(おかしい)
いつもならこんな風に触れてくることは滅多にないし、仮に触れてもすぐに離れる。
「界瀬」
色が呼ぶ。いつもより、ピリついている。
「何?」
「今日のことは聞かないでくれ」

 ずるい。そんな風に懇願されると、聞けなくなるじゃないか。

「浮気とかじゃ、無いよな?」
仕方なく俺は色の体を少し強く引き寄せた。
「あぁ」
色も愛しそうに背中に手を回す。



「無事なら良かったけどさ俺、寂しくて。何かあったんじゃないかって」
唇を尖らせるとキスされた。
そして、すぐに離れる。
「……っ」
「心配させて悪かった。でも俺は、これが、『寂しい』なのかわからない。いちいち考えたことがなくて」






「だけど、会えたとき、嬉しいと思った」
「俺も」
会えて嬉しかった。
色の瞳孔の横の模様が、水彩画のように滲む。
そいつは自分の体に起きた変化に驚いているようだった。
彼を抱きしめたまま俺は言う。
「とりあえず、今日はもう休もう」



「休む、って、食事中なんじゃ」


「そ。食べたら」
 しばらく抱き合ってから、台所に移動する。
そのまま、べったりと引っ付いていると、今日はかいせの方が甘えている、と色は苦笑する。

「俺はわりと、甘えたがりだけど?」
「ああ知ってるよ」
「んー……この、丸まるような小さい背中。愛しい」
「うるさい。小さくない」

背中にもたれて、後ろからぎゅっとひっつく。
そいつは、俺の食べかけのスパゲティに、フォークをつける。
なんだか今日はずっとこうしていたい。
「はい」
だらんとなっていると、彼がフォークを差し出してきた。
「あーん」
「少し、背中が重くて食べにくいな……」

そのまま口に入れる。ああ、俺のつくった味だ。
「うるさい、このまま食え」
咀嚼している横で彼は言う。
「俺の身体の事。利用しようとする奴が多いんだ」
「可愛いから?」
「馬鹿」
しらーっと冷たい目で見られる。そんな変な事を言ってないのに。
色はちょっと照れ、俺の傍に椅子を引いて来て座った。

「他の超能力と違って、未来を視る力は神に通じると信じられている」

「それって、記憶の共有とは違うの?」
俺はそいつの綺麗な横顔を見る。
伏せられた長い睫毛にドキドキしてくる。

「何?」
「あ。いや……」
このまま、もう一度抱きしめたいと思った事を伏せて目を逸らす。

彼は涼しい顔をして言った。
「違うよ。未来ってのは先にあるものだから。他人の意識は常に未来にある。例え過去を見ていても、今ある未来を見てしまう。それは常にあって同じなんだ」
「んん?」
よく分からない事を言う。
いつもそうだけど。
「つまり『前世』の記憶には未来を見るという定義は無いと思う。思考や意識が同期出来ないと、目の前の本の内容すら分からない」
「えーっと。つまり、何の話?」

「うん。神様をね。決めつけて、そこに押し込もうとする人が多いんだ。
神様像ってやつに入れて、偶像崇拝、みたいな。
でも、俺はそういうの、嫌で……」
「そうなの?」
「人間のエゴっていうかさ、勝手にこの通りにってやってるの、なんか窮屈で。昔も宗教がテロ起こしただろ? あぁやって人が利用しようとしたら同じ事の繰り返しだと思う」

そこまで言って彼は寂しそうに笑った。







「母さん達とはそれで分かれてて。この前来たのも……多分親戚が入ってた宗教の人」
何処か自嘲気味な言葉。
苛立ちのような諦めのような、嘆きのような。

 

曰く、色の家族は、『力』が分かってから壊れてしまった。
母や父は盲目的に自分に執着するようになっており、親戚も何でも色と紐づけないと気が済まない程の病気。
持っておくと得するかもしれないから。真似しておくと良い事があるかもしれないから、と何でも漁っていく。

常に、彼の自立心よりも未来がどうなっているかばかりに気を取られ生活も疎かにするようになったのだという。


「今、母さんたちは、毎日本を読みながら俺の動向を気にして、ニヤニヤするだけの廃人になってしまった」


自分の動向も娯楽でしかなくなった家。
 勝手に型に押し込めようと画策する宗教。


「俺がそう言う風に変えてしまったんだろうか? 
動向を見張っててほしいなんて願った事無いのに……未来が分かっても今も生きなきゃいけないのに……そこまでして、全部放棄して、俺が悪いみたいに張り付いて」


2026年1月10日16時21分







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

守り守られ

ほたる
BL
主治医 望月診療所の双子医師 患者 瀬咲朔 腸疾患・排泄障害・下肢不自由 看護師 ベテラン山添さん 準主人公 成海真幌 腸疾患・排泄障害・てんかん 木島 尚久 真幌の恋人同棲中

今日もBL営業カフェで働いています!?

卵丸
BL
ブラック企業の会社に嫌気がさして、退職した沢良宜 篤は給料が高い、男だけのカフェに面接を受けるが「腐男子ですか?」と聞かれて「腐男子ではない」と答えてしまい。改めて、説明文の「BLカフェ」と見てなかったので不採用と思っていたが次の日に採用通知が届き疑心暗鬼で初日バイトに向かうと、店長とスタッフ達とBL営業をして腐女子や腐男子たまに普通のお客様を喜ばせて!?ノンケBL初心者のバイトと同性愛者の店長のノンケから始まるBLコメディ ※ 不定期更新です。

日本一のイケメン俳優に惚れられてしまったんですが

五右衛門
BL
 月井晴彦は過去のトラウマから自信を失い、人と距離を置きながら高校生活を送っていた。ある日、帰り道で少女が複数の男子からナンパされている場面に遭遇する。普段は関わりを避ける晴彦だが、僅かばかりの勇気を出して、手が震えながらも必死に少女を助けた。  しかし、その少女は実は美男子俳優の白銀玲央だった。彼は日本一有名な高校生俳優で、高い演技力と美しすぎる美貌も相まって多くの賞を受賞している天才である。玲央は何かお礼がしたいと言うも、晴彦は動揺してしまい逃げるように立ち去る。しかし数日後、体育館に集まった全校生徒の前で現れたのは、あの時の青年だった──

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

俺は夜、社長の猫になる

衣草 薫
BL
冤罪で職を追われた葵は、若き社長・鷹宮に拾われる。 ただし条件は――夜は“猫”として過ごすこと。 言葉を話さず、ただ撫でられるだけの奇妙な同居生活。 タワマン高層階の部屋で、葵は距離を崩さない鷹宮に少しずつ惹かれていく。 けれど葵はまだ知らない。自分が拾われた本当の理由を。

[BL]憧れだった初恋相手と偶然再会したら、速攻で抱かれてしまった

ざびえる
BL
エリートリーマン×平凡リーマン モデル事務所で メンズモデルのマネージャーをしている牧野 亮(まきの りょう) 25才 中学時代の初恋相手 高瀬 優璃 (たかせ ゆうり)が 突然現れ、再会した初日に強引に抱かれてしまう。 昔、優璃に嫌われていたとばかり思っていた亮は優璃の本当の気持ちに気付いていき… 夏にピッタリな青春ラブストーリー💕

この冬を超えたら恋でいい

天気
BL
夜の街で、凪は人生の底にいた。 古いアパートに帰る途中、父の残した借金の取り立てに絡まれ、逃げ場を失う。 そこに現れたのは、大手企業の社長・鷹宮だった。 偶然の救い。年齢も立場も違う二人は、その夜を境に交わることになる。 事情を多く語らない凪は、不幸が当たり前のように身にまとい、誰かに頼ることを知らない。 一方の鷹宮は、完璧な成功者として生きてきた男だった。 危険から守るため、鷹宮は凪を一時的に自宅へ迎え入れる。 冬の同居生活の中で、凪は少しずつ日常を取り戻していく。 大学へ通い、温かい食事をし、夜を一人で怯えずに眠る。 しかし、守られることに慣れない凪は、距離が近づくほどに自分から一歩引いてしまう。 それは、失うことを恐れる、健気で不器用な選択だった。 一方、鷹宮は気づいてしまう。 凪が笑うだけで、胸が満たされることに。 そんな自分の感情から凪を守るつもりで引いた距離が、 凪を遠ざけてしまう。 近づきたい。 けれど、踏み込めば壊してしまうかもしれない。 互いを思うほど、すれ違いは深くなる。 2人はこの冬を越えることができるのかーー

タトゥーの甘い檻

マリ・シンジュ
BL
執着系わんこ攻(大学生)× 高潔な美形教授受(30代) どのお話も単体でお楽しみいただけます。 ​「先生、ここ……僕の瞳を入れるから。ずっと、僕だけを見てて」 ​真面目な大学教授・新城が、大学生の・羽生にだけ許した、あまりにも淫らな「わがまま」。 ​それは、誰にも見えない内腿の奥深くに、消えないタトゥーを刻むこと。 「下書き」と称して肌を赤く染めるペン先の冷たさ。 アトリエの無機質なライトの下、四つん這いで晒される大人の矜持。 ​ずっと年下の青年の、必死で、残酷で、純粋な独占欲。 愚かだと知りながら、新城はその熱に絆され、ゆっくりと「聖域」を明け渡していく――。 ​「……お前のわがままには、最後まで付き合う」 ​針が通るその時、二人の関係は一生消えない「共犯」へと変わる。 執着攻め×年上受け、密やかに刻まれる秘め事のお話。

処理中です...