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hyponica
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あれから、色は帰って来なかった。
暫く待ってみたけど、どうも余所で泊まるみたいだ。一体何故。
何か気分を害すようなことをしたのか? 単なる気まぐれ?
考えてみたが、わからない。
「考えていても、しょうがない」
昨日の夕飯をテーブルに出したままだったので、とりあえずレンジであたためて、テーブルに着く。
もうすっかり夜中で、早く寝ないと朝になってしまう。
「いただきまーす」
シンとした空気が辺りを包んだ。
寂しい。静かすぎる。
いつもなら向かい側には色が座り、事件の話なんてしてるのに。
今日は一人きり。
一日触れていないというだけでひどく、物足りない。
飲み物を用意しながら、以前、報告したときの事が脳裏に過ってきた。
――――見つかったか?
なんだかくぐもった所長の声。
少し違和感を覚えたが、きっと気の所為だろうと思っていた。
「あー、はい。保護しましたが、あいつめちゃくちゃ怯えてましたよ。何させたんすか?」
そう言うと一言、すまんな、と返された。
「あの、社長のこと、所長たちは……」
答えは返って来ない。
言えないらしい。彼が悪いわけではないのは知っていた。誰にも責任を問えないことも。
ただ、この空気は知っている。
(業界人の名を連ねる「顧客リスト」を見たとたん、捜査を打ち切ったのと同じ……)
ぼーっとカルボナーラをつついていたら、少しして、目の前の玄関のドアが開いた。
「色!」
思わず走り寄ると、そいつは少し泣きそうな顔で、俺を抱き締めた。
「ああ、ただいま」
「お前、どこいって」
「ガキじゃない。一人で宿にくらい泊まるさ」
はにかむような、苦笑。
「そういう問題じゃない」
俺はなんだか気恥ずかしくなりながら、腕の中で拗ねる。
「……そうだな」
なぜか色は俺の背中を撫でるばかりで、離れようとしない。
(おかしい)
いつもならこんな風に触れてくることは滅多にないし、仮に触れてもすぐに離れる。
「界瀬」
色が呼ぶ。いつもより、ピリついている。
「何?」
「今日のことは聞かないでくれ」
ずるい。そんな風に懇願されると、聞けなくなるじゃないか。
「浮気とかじゃ、無いよな?」
仕方なく俺は色の体を少し強く引き寄せた。
「あぁ」
色も愛しそうに背中に手を回す。
「無事なら良かったけどさ俺、寂しくて。何かあったんじゃないかって」
唇を尖らせるとキスされた。
そして、すぐに離れる。
「……っ」
「心配させて悪かった。でも俺は、これが、『寂しい』なのかわからない。いちいち考えたことがなくて」
「だけど、会えたとき、嬉しいと思った」
「俺も」
会えて嬉しかった。
色の瞳孔の横の模様が、水彩画のように滲む。
そいつは自分の体に起きた変化に驚いているようだった。
彼を抱きしめたまま俺は言う。
「とりあえず、今日はもう休もう」
「休む、って、食事中なんじゃ」
「そ。食べたら」
しばらく抱き合ってから、台所に移動する。
そのまま、べったりと引っ付いていると、今日はかいせの方が甘えている、と色は苦笑する。
「俺はわりと、甘えたがりだけど?」
「ああ知ってるよ」
「んー……この、丸まるような小さい背中。愛しい」
「うるさい。小さくない」
背中にもたれて、後ろからぎゅっとひっつく。
そいつは、俺の食べかけのスパゲティに、フォークをつける。
なんだか今日はずっとこうしていたい。
「はい」
だらんとなっていると、彼がフォークを差し出してきた。
「あーん」
「少し、背中が重くて食べにくいな……」
そのまま口に入れる。ああ、俺のつくった味だ。
「うるさい、このまま食え」
咀嚼している横で彼は言う。
「俺の身体の事。利用しようとする奴が多いんだ」
「可愛いから?」
「馬鹿」
しらーっと冷たい目で見られる。そんな変な事を言ってないのに。
色はちょっと照れ、俺の傍に椅子を引いて来て座った。
「他の超能力と違って、未来を視る力は神に通じると信じられている」
「それって、記憶の共有とは違うの?」
俺はそいつの綺麗な横顔を見る。
伏せられた長い睫毛にドキドキしてくる。
「何?」
「あ。いや……」
このまま、もう一度抱きしめたいと思った事を伏せて目を逸らす。
彼は涼しい顔をして言った。
「違うよ。未来ってのは先にあるものだから。他人の意識は常に未来にある。例え過去を見ていても、今ある未来を見てしまう。それは常にあって同じなんだ」
「んん?」
よく分からない事を言う。
いつもそうだけど。
「つまり『前世』の記憶には未来を見るという定義は無いと思う。思考や意識が同期出来ないと、目の前の本の内容すら分からない」
「えーっと。つまり、何の話?」
「うん。神様をね。決めつけて、そこに押し込もうとする人が多いんだ。
神様像ってやつに入れて、偶像崇拝、みたいな。
でも、俺はそういうの、嫌で……」
「そうなの?」
「人間のエゴっていうかさ、勝手にこの通りにってやってるの、なんか窮屈で。昔も宗教がテロ起こしただろ? あぁやって人が利用しようとしたら同じ事の繰り返しだと思う」
そこまで言って彼は寂しそうに笑った。
「母さん達とはそれで分かれてて。この前来たのも……多分親戚が入ってた宗教の人」
何処か自嘲気味な言葉。
苛立ちのような諦めのような、嘆きのような。
曰く、色の家族は、『力』が分かってから壊れてしまった。
母や父は盲目的に自分に執着するようになっており、親戚も何でも色と紐づけないと気が済まない程の病気。
持っておくと得するかもしれないから。真似しておくと良い事があるかもしれないから、と何でも漁っていく。
常に、彼の自立心よりも未来がどうなっているかばかりに気を取られ生活も疎かにするようになったのだという。
「今、母さんたちは、毎日本を読みながら俺の動向を気にして、ニヤニヤするだけの廃人になってしまった」
自分の動向も娯楽でしかなくなった家。
勝手に型に押し込めようと画策する宗教。
「俺がそう言う風に変えてしまったんだろうか?
動向を見張っててほしいなんて願った事無いのに……未来が分かっても今も生きなきゃいけないのに……そこまでして、全部放棄して、俺が悪いみたいに張り付いて」
2026年1月10日16時21分
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