かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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aimed at precision

(自己表現)aimed at precision

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「妹に似ていた女の子を逃がしてあげたつもりなんです!」


事務所に寄ると、ドアの向こうから女性の金切り声が聞こえて来た。
「飯田君は悪くありません!自己犠牲なんです! 大好きだから!なのにあの女にストーカーだなんて恨まれて!可哀想だったから呪ったんです」
「で?」
「貴方にだってかけがえのない、大事な人が居るでしょう? 妹の為なんて聞けば同情するもんじゃない?」
「しませんね。まったく」
「何をしてくれたかもどんな思いかも、当人には関係無い事だ。
彼は相手の気持ちを考えずに勝手に突っ走った。感情なんか役に立たない。結果だけが全てだよ」


『不愉快だ』
――――感想なんかどうでもいい。
感情も、どうでもいい。大事に持ってる喜びや大事さなんか説かず、

「さっさと出て行ってくれたらいいのに」


女性が走って出て来た。バタン、と強い勢いでドアが閉まる。
色が応接用のソファに座ったまま、そーっとドアを開け、入って来た俺を見上げた。
「あ、おかえり」
「いいのか? さっきの」
俺が言うと、色は苦笑した。
「実際、優しければ、誰かを想っていれば何をしてもいいと思う? 俺には思えない」

テーブルに広げてあるファイルを片付け、お茶にしようかななんて言っている。


 「……まぁ、そうだな」
確かにストーカーなんてするべきでは無いし、
直接言えばいいのに呪いに手を出すなんて、まともな奴じゃない。
――と、いうのは前提。建前だが、更にこいつの場合はそもそも「何も思わせないように」させられている中で、
『妹を想っているんです!可哀想じゃないですか? 貴方は冷たくないですか?』なんて常識的な奴が来てしまったからいけなかった。
理解が出来ないのは仕様の無い話ではある。



「あー……もう少し早く来るんだったな」
ボソッと呟く俺に、色は、やりたかったの?と不思議そうな顔をした。

「いや、そういうんじゃないんだけどさ」
心を読んで適当に同調するというくらいなら、俺の方が手慣れている。
こんな空気になる前に盾になってやれただろうに。

(客も客で余計な事を言わず依頼の話だけしてくれればいいのにな)
などと言っていられないのがこの仕事の悲しいところだ。

『はぁ、本当にさっきのは意味が分からない。そんな個人の主張なんかでコントロールできると思ったのか。
自分が本気で好きになったものが、2Bみたいに皆の前で馬鹿にされて、
それが当然の空気が作られていて、批難されたり疑問視されることもないから、好き嫌いで同情を貰おうとするんだ』

――――と心の中で憤る色を見ながら、悲しくなる。


俺はあんまり考えない事にして「で。今日の依頼は?」と訊ねる。
「んー、三件かな」
「そうか」
「ちなみに、さっきのは、呪いをかけた人を捕まえたときの……後始末
。関わらない事にした」
「そうか」
「界瀬は、診察帰りだよね」
「あぁ。健康健康」
俺は、顔に熱が集まるのを感じて目を逸らす。
「なんで、目を逸らすの?」
色が不思議そうにする。


「実は、さっき、検診に行って、その事を報告して来たんだ」
観念して白状すると、色は首を傾げる。
「それが、何?」
「そ、そのっ」


『人が生きて行く上で、誰にも触れないという事は出来ません。
パートナーに少しずつ触って、手伝って貰うのはいかがですか。もっと積極的に近づいてみるだとか』



『あぁ、おかえりなさい。そうですか、確かに。君はすぐ疲れてしまいますから。感度を調整する訓練が居るかもしれないですね。
色君も、情操教育が必要と思っていましたが、
宿題として、彼の興味を惹くものを探して来る、というのはどうでしょう。
デートとかして貰ったりして……』



(みんな、恋人とか凄いナチュラルに聞いてくるからびっくりするな……)

何だあの距離感。
一歩間違えばセクハラじゃないか。

「どうしたの?」
「えっと……その。何が、好きかなって。ハハハ」」

気恥ずかしさを誤魔化していると、色はきょとんと俺を見た。

「好き? 所長に何か吹き込まれたの? もっと遊びに行きなさいーとか、好きな映画や本を教えてくれとか」
「よくわかったな」
「前に聞かれて事件のドキュメンタリーの話をしたら、困った顔された」
「あー……」
「他人から傍目に見ても楽しいものを作るって、それを個人の雰囲気の評価にして貰う、って。難しいね」

自己表現って、本当の話をするにも嘘を吐くにも、
結局どんな風にしたいかっていう、元になるイメージが必要なんだよな。

「あ一日ずっと落ちて来る雪を見てました。って言ったら、もっと凄い顔された」
「……」
「心の中が、表現できない、思いでいっぱい」
「だろうな」


あのドクター達、ふざけ半分かと疑いそうになってたが、藁にも縋る思いで言っている可能性が出て来たな。

「暗くなるでしょー、とか言われるから、自己紹介が出来ない」
「……」
「かいせ?」
「なんでもない」












――――数か月疑問だったことの謎が、最近解けつつある。
普通の警察とは違って、此処は普通に職場恋愛が同じ部署であっても、
何も言われないという事。


「色は今日、何してたんだ?」
「え?」
彼は、驚いた様子で目を丸くする。
「別の科の人と話してたよ、今、中央から来てる人も居てさ」

「えーと……」
なんかそんな言葉あったなぁと記憶を掘り起こす。
「たしか地方組織と中央組織があって、こっちは一応地方に位置するんだっけ?」

だとしたら知事、公安、本部、本部長ってなるはずなんだが、
地方機関の通信部とかどうとかとなんとかって言ってた気もするし。

「そうそう。北海道と東京に通信部があるな。科学も通信部も、上は庁の長官に繋がり、国家公安がさらに存在する。
そして内閣総理大臣に通じる」
「能力障害者利用制度がそこに繋がる、か」
俺が呟くと、色が苦笑する。
「ある意味で、政治家とのコネがある業界なんだよね」



その脳裏には、きっと
この前見つけた『Xファイル』の一部が浮かんでいる事だろう。






「横たわる嘘の雨……幻の大地への恵み」

ぼんやりと、よく分からない事を言っている色の横で、俺は近くのカップを手に取る。

「誰も気付かない真実」

インスタントの粉末を二つのカップに入れ、それぞれにお湯を注ぐ。
テーブルにある予定表(本来は壁にかけてあるボード)を見る。
明後日の所に色の字で『枯葉』と書いてあった。


「これって」
コーヒーの入ったカップをテーブルに置き、俺がボードを指さすと、色が頷く。
「この前の失踪事件の続き」

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