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Zeigarnik syndrome
Zeigarnik syndrome
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・・・・・・・・・・・・・・・
「いやあ、まさか、究極にして極度な人嫌いな鶴が、あんな賑やかなやつと居るとは、俺が居ない間に何があった」
菊さんは穏やかな、ちょっとだけ天然そうな口調で明るく話す。何を考えてるんだろう、というのは考えても仕方なさそうだった。俺と、同じ──ではないが、似たような性質の力を持っている。似たような、似てはないか。……まぁ、いろいろあったのだが、
能力者は証明方法も無いし、するだけ危ないので『疑い』が晴れるまで大半の者は組織集団から拷問に合う境遇にあり、それからようやく認められる。その性質が少し、合うだけだった。
「あの手のは……会話を、しなくて良いから、楽だ」
「ははぁ。違うだろう? それだけじゃない、わざわざ、彼から離れて、こんな話をしてるくらいだ──」
──急に激しく鳴り出す動悸をおさえる。
そうだ、そういえば、マジなやつを探さなくては……廊下を歩き、外に向かえそうな出口を探して進む。
俺も、誰も、常に明るくしている橋引だって、まるで世界に対する試験のように何らかの拷問を受け、その拷問によってどうにか生きている。
『それ』は優しい問いに見えて、底無し沼のように常に絡み付いてくるそれを口にするようなものだった。
世界に無視されることに耐えられるか──
それが理解出来ないなら、異形になることは出来ない。
不本意で、理不尽で、褒められたものじゃ、ないけれど。
「彼はどんな未来を持って居るんだい?」
「『 』」
「……ふうん、なるほど、ねぇ。なかなか通好みだな」
「──髪のこと」
「え?」
「あいつの、過去、見えたでしょう? 意地悪」
アハハハハハ、と菊さんは笑った。
いや、それどころじゃなくて、早く山に……山でいいのかな。
「ところで君はこれからなんの捜査なんだ?
彼らから離れて良いのか」
「この式場、外になにか埋まってるらしくて……俺らはちょっと、過敏になってて、それも気になるんで」
(20210125AM0:04─01260324)
「そうかそうか、確かにここにはさまざまな奴が来ている。さまざまな怨念に満ちている、敏感なやつには気分が悪かろう」
「そうですね、良いもんでは無いですが」
廊下を突き進みながらふと、あいつらはどこに行くのかなと思った。ピザの注文も来てないし……と、考えたらちょっとピザが食べたくなって来る。伝票と何か関係があるのなら、そりゃ誰か注文くらいするかもしれない。界瀬が探しに行ってはくれたけれど、結局わからないままだった。廊下を歩いて、ちらっとまだにぎわっているホールを眺めた。
こんな楽しげなイベントも、町で配られるその辺のイベントや通販のチラシも、みんな、人によって、さまざまな意味がある。
「あのとき、どうして、俺がいなくなったか、ってのは聞かないんだな」
「──俺だって、なんて考えても仕方がないけれど、ふらっと、遠くにいきたいと思うことくらい誰にでもありますから」
ホールでは、さまざまな色の風船が飛んで、歓声が上がった。
「心が読めるのは、危険だ」
ぼそっと誰にともなく呟いた言葉。
「だけど、普通の世界のなかで、舞い上がるのも、孤立するのも危険だ」
「お前らしい言葉だな」
菊さんの声。人だかりに背を向けて、外に続くドアを開ける。風が吹く。
聞かれていた……
風が、焦りで火照る頬を撫でていく。
少し冷静になろう、と外のことを考えた。
「あの、俺が、さっき話したことは、絶対に言わないでくださいよ……もう少し、考えてみたくて──俺が、その……」
菊さんはあははは!
と、また笑う。リアクションが大きい人だ。
っていうかそんなに笑うところあったのか。
「──わかってるわかってる、さっきのは、ちょっとからかっただけさ。上が何も言わないなら俺が、どうこうする必要もないから何も言わん」
え……そうだろうか?
いろんなことを思い出して考えてみるが、考えても仕方がないのかもしれない。
「ありがとうございま……」
「ぃよっし、探索、開始だ────!」
小さく呟く言葉に重なるように気合いの入った言葉が響いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・
「あーっ、うっさい、いい加減に元気出しなさいよ」
「だって……だってなんか、色ちゃん冷たいし……」
また俺を置いて行ってしまった。
仕方がないとはいえ、微妙にモヤる。朝方可愛く笑って居たじゃないか。一緒に出かけると喜んで居たはずじゃないか。俺に。俺に……っ。
「微妙にモヤるじゃねーよっ! 」
さっきからグダグタ言ってるままベランダにしがみつく俺を橋引がたしなめる。
「おお──お前、読心術を身に付けたのか!? さすがにされるのは……あまり無い」
「違うわ!」
なぜだかイライラしている橋引嬢。
なんなんだ……
「千里眼ってさー、良いときと、効きすぎるときとあってさー、色ちゃんの周囲ーとか、そういうのがないとさー……うう……色ちゃん」
色ちゃん、藍鶴色。サイコメトラーでも心を読みきれない、俺の好きな人。遠くのものを知覚するのは、好きなものや気になるものの周囲に絞る方がはっきりいってやりやすい。
つまり! 今! トテモダルイ。
「もーっ! じゃ、上からの捜索は一旦止めて、会場の人を当たりましょう」
「何怒ってんだ?」
「サイコメトラーならわかるんでしょ!?」
「だから! いちゃついてる暇なんか! なかった!」
「うるさい!」
確かに一人であの民衆の中を探らせるのはかなり大変だっただろうし普通ならやらない。
俺が一気に心を読むことも出来なくはな……いや、やりたくないが、しかしそれは大した役に立たない。
何故なら正しいことが真実なわけじゃないし、悪いことや下心を考えまくりながら正義を遂行するやつなんか五万といるわけで、つまり、あまり効率的じゃないのだ。心だけ読めたくらいで事件が解決するならとっくに世界の犯罪が激減している。
「人が集まる場所はちょっとー……」
「とりあえず労って貰うからね!!」
「はーいはい、あとで色ちゃんも一緒にな」
「……色ちゃんは、許す」
なぜか橋引は色に甘い。
202101030PM3:15
「いやあ、まさか、究極にして極度な人嫌いな鶴が、あんな賑やかなやつと居るとは、俺が居ない間に何があった」
菊さんは穏やかな、ちょっとだけ天然そうな口調で明るく話す。何を考えてるんだろう、というのは考えても仕方なさそうだった。俺と、同じ──ではないが、似たような性質の力を持っている。似たような、似てはないか。……まぁ、いろいろあったのだが、
能力者は証明方法も無いし、するだけ危ないので『疑い』が晴れるまで大半の者は組織集団から拷問に合う境遇にあり、それからようやく認められる。その性質が少し、合うだけだった。
「あの手のは……会話を、しなくて良いから、楽だ」
「ははぁ。違うだろう? それだけじゃない、わざわざ、彼から離れて、こんな話をしてるくらいだ──」
──急に激しく鳴り出す動悸をおさえる。
そうだ、そういえば、マジなやつを探さなくては……廊下を歩き、外に向かえそうな出口を探して進む。
俺も、誰も、常に明るくしている橋引だって、まるで世界に対する試験のように何らかの拷問を受け、その拷問によってどうにか生きている。
『それ』は優しい問いに見えて、底無し沼のように常に絡み付いてくるそれを口にするようなものだった。
世界に無視されることに耐えられるか──
それが理解出来ないなら、異形になることは出来ない。
不本意で、理不尽で、褒められたものじゃ、ないけれど。
「彼はどんな未来を持って居るんだい?」
「『 』」
「……ふうん、なるほど、ねぇ。なかなか通好みだな」
「──髪のこと」
「え?」
「あいつの、過去、見えたでしょう? 意地悪」
アハハハハハ、と菊さんは笑った。
いや、それどころじゃなくて、早く山に……山でいいのかな。
「ところで君はこれからなんの捜査なんだ?
彼らから離れて良いのか」
「この式場、外になにか埋まってるらしくて……俺らはちょっと、過敏になってて、それも気になるんで」
(20210125AM0:04─01260324)
「そうかそうか、確かにここにはさまざまな奴が来ている。さまざまな怨念に満ちている、敏感なやつには気分が悪かろう」
「そうですね、良いもんでは無いですが」
廊下を突き進みながらふと、あいつらはどこに行くのかなと思った。ピザの注文も来てないし……と、考えたらちょっとピザが食べたくなって来る。伝票と何か関係があるのなら、そりゃ誰か注文くらいするかもしれない。界瀬が探しに行ってはくれたけれど、結局わからないままだった。廊下を歩いて、ちらっとまだにぎわっているホールを眺めた。
こんな楽しげなイベントも、町で配られるその辺のイベントや通販のチラシも、みんな、人によって、さまざまな意味がある。
「あのとき、どうして、俺がいなくなったか、ってのは聞かないんだな」
「──俺だって、なんて考えても仕方がないけれど、ふらっと、遠くにいきたいと思うことくらい誰にでもありますから」
ホールでは、さまざまな色の風船が飛んで、歓声が上がった。
「心が読めるのは、危険だ」
ぼそっと誰にともなく呟いた言葉。
「だけど、普通の世界のなかで、舞い上がるのも、孤立するのも危険だ」
「お前らしい言葉だな」
菊さんの声。人だかりに背を向けて、外に続くドアを開ける。風が吹く。
聞かれていた……
風が、焦りで火照る頬を撫でていく。
少し冷静になろう、と外のことを考えた。
「あの、俺が、さっき話したことは、絶対に言わないでくださいよ……もう少し、考えてみたくて──俺が、その……」
菊さんはあははは!
と、また笑う。リアクションが大きい人だ。
っていうかそんなに笑うところあったのか。
「──わかってるわかってる、さっきのは、ちょっとからかっただけさ。上が何も言わないなら俺が、どうこうする必要もないから何も言わん」
え……そうだろうか?
いろんなことを思い出して考えてみるが、考えても仕方がないのかもしれない。
「ありがとうございま……」
「ぃよっし、探索、開始だ────!」
小さく呟く言葉に重なるように気合いの入った言葉が響いた。
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「あーっ、うっさい、いい加減に元気出しなさいよ」
「だって……だってなんか、色ちゃん冷たいし……」
また俺を置いて行ってしまった。
仕方がないとはいえ、微妙にモヤる。朝方可愛く笑って居たじゃないか。一緒に出かけると喜んで居たはずじゃないか。俺に。俺に……っ。
「微妙にモヤるじゃねーよっ! 」
さっきからグダグタ言ってるままベランダにしがみつく俺を橋引がたしなめる。
「おお──お前、読心術を身に付けたのか!? さすがにされるのは……あまり無い」
「違うわ!」
なぜだかイライラしている橋引嬢。
なんなんだ……
「千里眼ってさー、良いときと、効きすぎるときとあってさー、色ちゃんの周囲ーとか、そういうのがないとさー……うう……色ちゃん」
色ちゃん、藍鶴色。サイコメトラーでも心を読みきれない、俺の好きな人。遠くのものを知覚するのは、好きなものや気になるものの周囲に絞る方がはっきりいってやりやすい。
つまり! 今! トテモダルイ。
「もーっ! じゃ、上からの捜索は一旦止めて、会場の人を当たりましょう」
「何怒ってんだ?」
「サイコメトラーならわかるんでしょ!?」
「だから! いちゃついてる暇なんか! なかった!」
「うるさい!」
確かに一人であの民衆の中を探らせるのはかなり大変だっただろうし普通ならやらない。
俺が一気に心を読むことも出来なくはな……いや、やりたくないが、しかしそれは大した役に立たない。
何故なら正しいことが真実なわけじゃないし、悪いことや下心を考えまくりながら正義を遂行するやつなんか五万といるわけで、つまり、あまり効率的じゃないのだ。心だけ読めたくらいで事件が解決するならとっくに世界の犯罪が激減している。
「人が集まる場所はちょっとー……」
「とりあえず労って貰うからね!!」
「はーいはい、あとで色ちゃんも一緒にな」
「……色ちゃんは、許す」
なぜか橋引は色に甘い。
202101030PM3:15
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