かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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Zeigarnik syndrome

Zeigarnik syndrome

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  ────痛いんだ。
(え?)

 外を見に行くか話し合おうとしたとき、何かが聞こえた。
けれど俺に聞こえて界瀬に聞こえていないらしい。表情が変わる様子はない。
「どうかしたのか?」

「いや──痛いって言うんだ」

「何が?」

「わからない。痛いらしい」

──痛いんだよ。

「何かが『痛い』って、言ってる」

俺はとりあえず繰り返す。薬物を探すのも大事だがこうも空気が悪いとそれさえ鈍るのは確かだし、此処は横道にそれても許されるのでは無いだろうか、という考えが過る。
 橋引は今どうしてるかな……

山はどう歩けば回れたかな。ふらふらと歩きだしていると、界瀬が腕を掴んだ。

「探しに……行くのか?」

じっ、と少し心配そうに見つめている。何も答えられずに先へと進む。
 
────痛いんだ。

何かが呟くと建物がまた揺れる。
地震?
それとも、能力者……
よろけた身体を界瀬が受け止める。のを無視して歩く。

「そうか……痛いのか……」

一度振り向いて、彼を見上げた。

「なぁ──」

「わかった」

 俺が何か言う間もなく、彼は首肯く。
「わかってるよ、でも、今までの限りだとただでさえ妨害がされてるらしい。ちょっと高いとこに上らないと見渡し辛い」

「そうだったな……」

──裏切りたいけど、痛い。

「『裏切りたいけど、痛い』って言ってる」

「……何が聞こえてる? 俺、今ちょっと情報ありすぎて──」

 それは確かに心というにはあまりにも、一方的な信号だった。読み取るというよりも急に降り注ぐような。喋ってはいないし。さわれるわけでもない。だから今、これは俺にしか聞こえないのだろうか。

「……俺はこういうの、あまり経験がないが、これからのことかもしれない」
「えっと?」

「──呪いが、呪いを辞めたいが
それすら出来ない、みたいな、ことってあるのかなって。
例えば死んだのに身体だけ、縛られているとか、一部だけどこかに、置いてきただとか、何かの制約をうけたとか、違うことをしたら脅されるとか」

「何かの術が中途半端で苦しめられてるってことか?」

「俺も──知らないよぉ……でも、なんだか、う……うぅえ……」

何か、気分が悪い。
口元をおさえて踞る。界瀬は目を見開きちょっと驚いた様子を見せた。

「色──まさか」

「さっきから、変なんだ、首絞められる気がしたり、刺される気がしたり、俺に自分自身のイメージはそう見えないと……思うんだけどさ」

「やっぱりそれ、誰かのお前に対する殺意──という未来を描くやつがいる──つまり呪ってるんじゃないか」

「奇遇だな。俺もそんな気がしてきてたんだ……」

痛いってのも、今は俺にしか聞こえないのか。界瀬はじっ、と俺をみたまま心配そうに口を開いた。

「呪いを辞めたいとかなんとかの意思が本当に死人やら道具にあるかは
わからん」
でも、と彼は続ける。

「呪いが呪う相手を呪うには呪うべきと強く信じた感情がなくてはならない。
それが中途半端な場合はただ、死や苦痛に対しての痛みが上回ってしまう──というのは先輩の受け売りだけど、要は単なる我が儘だけで、呪いの生贄にすら微塵も理解されないようなやつが居るというのがたまーに起こるらしい」

「術者か……心当たりがありすぎて俺も、もう──」

嫌な再会もあったし、あり得そうだなというやつも居る。
俺が嫌いだというやつも居る。



2020‐11/18AM2:49




 とにかく一度高い場所に出ようと界瀬は屋上に向かい走る。俺も後を追う。
そこで今度はまた映像が脳裏に浮かんできた。

「大型トレーラーだ……」
「え?」
「……わからないけど。トラックとぶつかる……気がする、しんじゅく、あたり? わからないけど」

「そうか」

変な感覚。変な日常。妄言なのか、現実なのか、自分ですらわからない言葉。いつ失くなるか、またはいつまで続くのか定かではない力。

「階段登ってたら浮かんだんだ……歩道橋かどこか高い場所から見下ろしている」

「……そうか」

「そっちはどう?」

彼はガチャガチャ、とドアを動かす。
開かない。こんなこともあろうかと、と彼はポケットに忍ばせているヘアピンを曲げて鍵穴に差し込み、どうにか開けてしまった。

「よっし! 捜索開始────」

ふわりと飛び乗るように屋上に降り立ち、
集中のために目を閉じる。
吸い込まれそうな大きくて真っ白な曇り空が広がる。少し肌寒い空気と、風。
そこに界瀬と二人きりで立っていた。

────あぁ。
 このまま俺もどこかに飛び立てそうな気すらしてしまう。
──こういう高い場所は、あまり好きじゃない。
悲しくなって、胃の奥がきゅっと痛むような、どこか、とても懐かしい気持ちになるからだ。
これはなんていうんだっけ。
懐かしい。懐かしくて────

「山の奥……ひとつ、どうも昔埋められたものらしいけど────この建物を囲むようにして埋めるものが────」

界瀬が何か言っているのに気がつき我に返る。

「さっきの奴が言ってたことは何か絡んでるか?」


「わからない……」

そう呟いた界瀬が急に顔を上げた。

「『痛いよ』って声がしている」

「え?」

なにかを探すように彼はキョロキョロと首を回す。
「とにかく……連絡だ」
 慌てたように言うなり端末を取り出してどこかに電話を始めてしまう。
捜索に人員をとかそんな話だろう。少し待っていると彼は苦笑しながらやがて通話を終える。
「急ごう!」
と言うなり踵を返して下にくだっていく彼を追いかける。
彼が見下ろした先には街が見える。
山と反対更に向こうにある街の中。
何かが聞こえたのだろうか。



(20200.12/8AM2:00)
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