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Messiah complex
同化
しおりを挟む後で聞くところによると最初にあの人を怒らせたのは、藍鶴色で二人目らしい。
――――俺も言ったんだよ、そんなものはないって。
そしたら、「お前の不幸自慢なんか聞いてない! って言われてさ。
『ぼくがそれで喜ぶと思ったか!』 とか、いやそんなの思う訳ないじゃん」
――――ずっと、会ったときから甘っちょろくて、薄くて、軽くて、その程度で苦しむのも何一つ理解出来なかった。聞いててイライラしてたよ。
「救われずに死ね」
聞き慣れた声が、急にはっきりと聞こえてきた。
振り向く間すらなく誰かが近付いてくる。
「俺が言いたいのは、いつもそれだけだ」
一歩、二歩、三歩、四歩。
「あちら側とは交わる事が出来ない。だから、線を引く。いつだって、何度だって」
木の葉を踏む音。
その音が実感を伴ってくっきりと耳に届き始めてようやく俺はそちらを向いた。
「色……」
藍鶴色。
何度見ても、紛れもない藍鶴色が目の前に居た。
「色!」
相変わらず無表情なやつだ。
何を思っているのかは見た目だけではわからなかったが、その藍色が、じっと俺を見据えていた。
「どうして、此処に!」
彼は何も答えない。
無言で俺にもたれかかって来た。
「……色?」
よく……わからないが、とりあえずその背を撫でてみる。
なんだか悲しそうにしているような気がした。
――――もう少しましだと思ったんだが、結界が無いとろくに対話出来なかった。
「……そうか」
腕が、肩に回される。
――――俺が思っていたより、この力は、強かった。
「そうなのか」
――――そう、見られるのが嫌だったのに。せっかく線を引いたのに。
また、みんなおかしくなった。
心の奥。泣きそうな、悲痛な叫びだった。
「……そうか」
けれど、それはずっと俺たちと居たから油断していた、という事だろうかと考えると、場違いにも少し嬉しくなってしまう。
嬉しいのか、悲しいのか。
――――脳裏に彼の心象が映る。
魚が、気が狂ったように泳ぎ出し突然自殺している。
「魚殺し!」と誰かが指をさしている。
藍鶴色の力は時々強力な磁場のようなものが発生すると、聞いた事がある。
『みんなおかしくなった』
それが何を示すのかはわからないが、昔からそうだったようで、
大勢の人を狂わせてしまうからと、いつも周りから一歩離れて過ごしていたらしい。
そういえば母親ですらそうで、自分の描いたものを他人、特に身内にだけは見せる事は無かったのだとか。
――――そう、線。引いてたのに。
失望した
どんなに線を引いても。
今。
社会に『線を引く』事が、国の個人への監視によって曖昧になっている。
魚殺しも、事務所に居た時にはそこまでではなかったのは、結界だけの問題ではなく、俺たちと居た時にはあった『彼にとっての社会性』が、能力者ではない何らかの要素で変質したことによるのだろう。
自分がどんなに線を引き、守ってきても
割り込んでくるその事実は、藍鶴色だって失望して仕方がないはずだ。
上に立つ普通の人たちは俺たちの人権など、考えさえしないから。
失望していることすら、何故失望するのかと憤り、理不尽に感じてしまう。
自分を救わないのか、と、理不尽に怒り狂う。
「……ヒガンバナの痕跡はあった?」
「あぁ」
いつの間にか、色は俺より先に歩き、木を眺めている菊さんに話しかけている。
2025年3月日11時00分
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