かいせん(line)

たくひあい@あい生成

文字の大きさ
155 / 306
Commentary

訪問者

しおりを挟む


階段を降り、ドアの前で三毛猫を見た。
にゃー、と鳴きやけに人懐っこく掌に触れて来る。
「飼い猫かな?」
色が軽く撫でながら呟いている後ろを、俺はそのときは和やかに見ていた。

「こんなとこに猫が来るなんて珍しいな」



 ドアを開ける。
今度は知らない下駄が置いてあった。
廊下の先、ソファーの上に着物姿の少女が、蛇を連れて座っている。
「……動物園?」
色が不思議そうに言い、俺は動物園には少ないだろとマジレスしそうになる。
大家じゃないから知らないけどこの建物、動物を入れてもいいんだろうか?


恐る恐る中に向かうと着物の少女が笑顔で此方を向いた。
更にその奥に、見た事のある二人、佳ノ宮まつりと行七夏々都が居る。

「なんだこれは……」

色も困惑していたので、予想外の事があったらしい。


「あ、久しぶり」
亜麻色の髪。白い肌に童顔。人形のような出で立ち――――佳ノ宮まつりがいつも通り長袖を揺らしながら此方に手を振る。

「どうも」
細い身体に耳が隠れる程度の黒髪。一部だけ短い前髪から円らな瞳が覗いている
――――行七夏々都が隣で会釈する。

一見大人しそうな中学生だが、訳があってまつりと行動をする間柄だ。
色が、よく来たね、と返す。



夏々都は手に金魚鉢を持っていて、中で死にかけのタツノオトシゴが泳いでいた。

「……どういう状況? なに、これ」
ツッコミ不在そうなので、俺が恐る恐る聞いてみる。

まつりがやたら優雅にコーヒーを飲みながら
「この動物さんと、この着物の人達が1セット。で、敵対勢力としてまつりとななとが1セットだね」という。
「なに、試合でもあるの?」
「いや、撫子たちは遊んでただけだよぉ。ね、蛇さん」
撫子、というらしい少女が、ふふふ、と嬉しそうに笑う。
「……」
肩に居る蛇さんが、吹き戻しのように赤い舌をのぞかせた。

「え、何してたの?」
「タメ口かよ!」
何故か晶が怒り出す。
自分に言われたと思ったのか、事前に嫌な事が重なったのか。
ずっと奥に居たらしいのだが、乱暴に歩いてくるなりドカッとデスクに座った。
「なんでこういうときもタメ口なんだ!どいつもこいつもため口なんだ!」

「彼は何怒ってるの?」
まつりがこそっと色に尋ねる。
色は「小学生の頃、いじめられてたんだって」と律儀に答えていた。
「下級生にまで」
「あー……」


俺も初耳だったが、タメ口に過剰反応する理由、概念そのものなのか。
下級生にまで虐められていた当時の状況を思い出して、他者に舐められる事への抵抗感が今の自己愛的な人格を形成してしまったという事か。
「つまり年下や新入りなんかにはこんな感じなんだ」


色が頷く。
「そう、ため口とかもだけど、わりと結構そういうの短気というかね」

色はどちらかというと、あんまり怒らない方ではあるが、それでも呆れるくらいの性格という事だったりする。

「ま、その辺の人にはそんなのわからないよね、最初からそう言えばいいのに」
意趣返しなのか色がボソッと呟く。
確かにそう言っていればよかったのにとは思ってしまった。
背景が無いせいでただの怒鳴る人になってしまっているけど、タメ口がこんなに許せないんですと説明があれば違う印象だった可能性もなくはない。
(だから何なのかとも言えるけど)

「うるさい! 馬鹿にしやがって」
晶が怒鳴る。
「ハッ、そーだよ、どうせ、タメ口が気になってその後学校も行けてないですよ!! あんなとこ居たら皆から馬鹿にされるからな!」

……。深刻だ。
タメ口アレルギーが重すぎる。


え、履歴書に書いてる大学、行ってないの? と菊さんが遠くで驚いている。
「じゃあ最終学歴、小卒って事なのか……大久保さん(人事)になんて言おう」

「今は既婚者で田中さんだよぉ~」
花子さんがふんわりと微笑む。

「そうじゃない」

晶が吼える。
「いいだろ、その分他人の業務を請け負ってんだから!!」

小卒で、請負い業をこなして今までやって来た晶の事は、俺もそこまで語る程知らないが、誇りに思っているのであればどうして大卒なんて嘘を吐いたのだろうというのは疑問だった。



何処かから戻って来た猫が、玄関先でにゃー、と鳴いた。
夏々都君がびっくりして金魚鉢を落としそうになっている。
「あぁっ、猫ちゃん」
橋引が、猫の方に向かう。

混沌。

2025年7月1日17時01分
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人

こじらせた処女
BL
 幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。 しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。 「風邪をひくことは悪いこと」 社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。 とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。 それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

どうせ全部、知ってるくせに。

楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】 親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。 飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。 ※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

同居人の距離感がなんかおかしい

さくら優
BL
ひょんなことから会社の同期の家に居候することになった昂輝。でも待って!こいつなんか、距離感がおかしい!

死ぬほど嫌いな上司と付き合いました

三宅スズ
BL
社会人3年目の皆川涼介(みながわりょうすけ)25歳。 皆川涼介の上司、瀧本樹(たきもといつき)28歳。 涼介はとにかく樹のことが苦手だし、嫌いだし、話すのも嫌だし、絶対に自分とは釣り合わないと思っていたが‥‥ 上司×部下BL

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

処理中です...