154 / 306
Commentary
神の定義
しおりを挟む◆■
ビルの屋上に来たのは随分と久しぶりだ。
このまま一睡もしないうちに朝を迎えるかもしれないな、と思ったが、
それでも俺はそこから動けずに居た。
「ずっとね、考えて居た。結局は、神を違えた彼らの支配欲が彼らを肥やしたんじゃないか?って、俺はそれに加担しただけなんじゃないか」
そう言う色の表情がよりも穏やかだったからだろうか。
「罪悪感――――いや、自分の正体が責められるんじゃないか。そんな事を思うこともあった」
白んで来た空を背に、藍鶴色は言う。
そこには衛星が飛んでいる。
この町を定期周回するもので、テレビ局に電波を送っているらしい。
黒くて四角い塊。
緑や赤の光がチカチカと点滅し、低い音とともに消えていく。
俺は前からあれに言い知れぬ恐怖があった。
サイコメトリのせいだろうか。見ていると引きずられそうになるのだ。
向こう側と、地上の狭間が視える感覚になる。
そっと色の手を掴むと、色はそれに掌を重ねて微笑んだ。
「でも、そんな奴らとっとと潰せばよかったんだよ」
俺の世界は神様だけだった。
でも、神様は、居るだけ。弱みに付け込んだり金品を巻き上げたりしない。
「自発的にそれをするのは結局『人間』なんだから。全部、利用する側じゃないか。馬鹿だからそんな事もわからないような奴らを救う必要だって――――無かったのに」
結局のところ、俺が生まれる前には未来はあって、それら全てが自らの意思だったわけでも無い。
何故なら生まれてすぐに予知がしたいと言ったわけでも無く、それは当然のように既にあったのだ。と、色は言う。
「母さんたちが俺のことに反発していたのも、俺がそこまで不気味ながら普通の家で育ったというのも、要はそう言った策略に置かれない為なんだろう。本当に、神様だけが全てに置いて最上位だったんだ」
彼の見ていた世界、俺にはすべてはわからないけど、なんだか前よりも晴れやかな気がした。
「そうなら、それはそれで、素敵だなと思った」
望むか望まないかに関わらず、情報そのものを何も与えないことで、彼女らの言う純粋な心だけを向こうが選び決めたのだ、と今は思っている。
「でもさ」
俺は何か言いかける。
色は、違うよ、と言う前に首を振った。
「ずっと他人に何か決められたり、縛られたりは嫌だと思っていたんだけど
それはヒトに意思があり選択していたと信じているから」
それらはいつだって誰かが好きか嫌いかで、何かをする為で、俺に選ぶものなんてなかった。 『同じ人間なのに』
だけど
「神様は、ずっと誰のものでも無いんだ」
それってきっと、その為に命をかけるに値する事だ。と藍鶴色は言う。
数分後。
「じゃ、戻ろうか」
そう言いながら色は俺のネクタイに手を伸ばした。
曲がってるよと直している。
「……あぁ、どうも」
細い指が丁寧に動いているのを眺めながら、俺は何か、思っていた。
うまく言えないけど、言いたい事があったように思う。
適切な言葉を言えないまま一部始終を見ているうちに、色が離れていく。
緩めていたボタンまで丁寧に留めてあるので、ちょっ、苦しいんだけどと少しだけ緩め直す。
「そうだ、これは予言だけど」
色は先に歩き、扉に手をかけながら振り向いた。
「え」
「これから、誰かが来るだろう」
「……誰かって」
「わからない、敵対勢力か、何処かのカルトか。
でも俺は何かの霊能力自体に誰か他人を見出すのは違うと、思っている。だから、そういう事を言われても俺が頷く訳では無い」
何もかも同じ身体の人は居ないし、神は人じゃない。
だから『他の人間』と同じ、という事にはならないと言う意味なのだろう。
それは俺も思っていた事だ。
母さんが占い師になろうと、俺はそれを選ばなかった。
結局は視えたものや感じたもの、学問的な知識を伝えるだけであり、存在という役割でしかない。母という人間そのものが何か崇高な者自体に成れたと言われればそうは思えなかったからだ。
母みたいだ、と言われるのは全ての人生を否定するだけでいい事には思えない。
藍鶴色が言っていた言葉を思い出す。
『いつの時代も、神を手中に収めようとする者が現れる。
そんなものは、そもそも手中に収まるようなものではない。
人が支配できたのは人と、その周囲の従属だけだ』
下の階で、チャイムが鳴る。
2025年6月30日21時03分加筆
0
あなたにおすすめの小説
怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
どうせ全部、知ってるくせに。
楽川楽
BL
【腹黒美形×単純平凡】
親友と、飲み会の悪ふざけでキスをした。単なる罰ゲームだったのに、どうしてもあのキスが忘れられない…。
飲み会のノリでしたキスで、親友を意識し始めてしまった単純な受けが、まんまと腹黒攻めに捕まるお話。
※fujossyさんの属性コンテスト『ノンケ受け』部門にて優秀賞をいただいた作品です。
BL 男達の性事情
蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。
漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。
漁師の仕事は多岐にわたる。
例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。
陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、
多彩だ。
漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。
漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。
養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。
陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。
漁業の種類と言われる仕事がある。
漁師の仕事だ。
仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。
沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。
日本の漁師の多くがこの形態なのだ。
沖合(近海)漁業という仕事もある。
沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。
遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。
内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。
漁師の働き方は、さまざま。
漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。
出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。
休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。
個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。
漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。
専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。
資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。
漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。
食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。
地域との連携も必要である。
沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。
この物語の主人公は極楽翔太。18歳。
翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。
もう一人の主人公は木下英二。28歳。
地元で料理旅館を経営するオーナー。
翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。
この物語の始まりである。
この物語はフィクションです。
この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。
【8話完結】帰ってきた勇者様が褒美に私を所望している件について。
キノア9g
BL
異世界召喚されたのは、
ブラック企業で心身ボロボロになった陰キャ勇者。
国王が用意した褒美は、金、地位、そして姫との結婚――
だが、彼が望んだのは「何の能力もない第三王子」だった。
顔だけ王子と蔑まれ、周囲から期待されなかったリュシアン。
過労で倒れた勇者に、ただ優しく手を伸ばしただけの彼は、
気づかぬうちに勇者の心を奪っていた。
「それでも俺は、あなたがいいんです」
だけど――勇者は彼を「姫」だと誤解していた。
切なさとすれ違い、
それでも惹かれ合う二人の、
優しくて不器用な恋の物語。
全8話。
僕の恋人は、超イケメン!!
八乙女 忍
BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる