かいせん(line)

たくひあい@あい生成

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Commentary

衛星逃れのトンネル

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二人が出ていった数分後。
「何で俺は駄目なんだよ!」
晶が叫んだ。
ドカッ、と空席のデスクを蹴って、その上に座る。
 
「何で、あいつらばっかつるんで……俺はいつも除け者で」

 昔からそうだった。
晶は此処に居るときにも浮いていた。
理由は勿論、晶の性格が無自覚に踏み入り過ぎるからだが……彼はそうは思っていない。


「俺は何も悪くないし、めぐみさんの事じゃないなら言えば良かったし、今からいくらでも合わせることだって」


菊さんに続いて中に入ってきた花子さんが、んー、と困った顔をしながら唸る。


「あっくんさぁ。神様って好き?」
と、柔らかく晶を振り向いた。
「居る訳ないですよね」
即答。  すぐ正面、菊さんが飛び出しそうになるのを片手で制しながら、花子さんは困った顔になる。

「んー、でも私も、幽霊とか見ちゃうんだぁ。居るわけ無いって言ったって、見えちゃうもん。事件の解決に繋がったこともある」

自分のデスクでコーヒーの粉末を入れながら、彼女は苦笑いする。

「別に頭おかしくても構わないよ。
でも実際にそれで事件は解決した。
他に何があるの?
なら、有効活用したいじゃない」

「でも幽霊はまだ知名度あるじゃないすか……彼奴、神様がどうとか、事件の話しかしかねーし」

晶は勝ち誇ったように鼻で笑ってみせ、私は思わず立ち上がりそうになる。
確かに色ちゃんはそうだ。
もっと楽しい話とか、日常の事、話せば良いのに、彼の会話は界瀬を除くと主に事件や仕事だけ。
でも――





「出来ないのよ」
花子さんが寂しそうに言う。

「あの子は幼い頃から此処に居る。いつだって前線に立っていたからねぇ」

晶が解せないという顔になる。
 藍鶴色には世間一般的な話が事件絡みしか出来ない、……という意味が彼にはわからないのだろう。

彼にあったのは、現実だけ。幼い頃から、ずっと仕事だった。
アンパンになりたいとか、どうでもいい空想とか、考える時間さえなかった。
仕事以外に夢を見ることは国規模で規制され、『俺等が使えないものは要らない』とされた。


花子さんのデスクを跨いで向こう側……晶の方を向きながら私は言う。

「前に一度先輩たちが『藍鶴色は何が好きか、どんな事を考えてるか』って質問攻めして、大問題になった」

全て監視下なのに何を観るものがあるか、何を考えるものがあるかと、興味本位で囲み、嘲笑う為に仕組んだ人の心などない陰湿な話題だった。

「夢や思想は贅沢品なの。色ちゃんには特に。
自分たちが使えないものは周囲が奪って捨てる、ちょっと外出するだけでも置いてくなと文句つけてくる。なのに、そんなものあるわけ無いでしょ?」


後ろにある、本棚を横目に見る。
一冊だけ何故かあるボロボロの漫画本。
先輩の忘れ物だけど……あれを読み切る事すらも、彼には時間がかかった。
イメージというものを脳内で形成する事に支障を来していたからだ。

「ねぇ。聞きたいんだけど」
私は言う

「色ちゃんが、めぐみさんの為だ、ってあんたにはっきり言った?」

晶は押し黙る。


「その為にあんたに何かしてほしいって、いつ言ったの?」
否。
色ちゃんは、言わなかった。
少なくとも、晶に対しては何も求めたりしなかった。
自分の能力に否定的な、自分の人生に否定的な晶に関わって欲しいと考えたことすら無いだろう。


「俺だって、味方に……」

晶は答えない。
全部勝手に解釈していたのだ。

「なれない。藍鶴色の味方は、神様だけだ」

黙っていた菊さんがコーヒーを啜りながら言う。






「あいつ昔から此処にいたんだけどさ。いつも、ぼんやりした奴。心此処にあらず。で、何考えてるか一度聞いたことがあるんだよ。なんて言ってたか知ってる?

『神様が言ってることなら従う』」


晶がはっとした顔になる。



「他の意識など無く、他の意思など無く、 藍鶴色に許される世界は神様が全て。企業と国が彼奴を作り上げたんだ」


 国や政府が藍鶴色に夢をみることを許可するとは思えないし、全ての当人の中の夢、人生が神様にある。
仕事以外に夢を見ることは国規模で規制され、『俺等が使えないものは要らない』とされたというのはその意味だ。
伸ばした髪を何度も何度も括られ、切られる。

「それを、トンネルの奴らは承認していた」

ちなみにトンネルというのはこの業界で『衛星逃れ』の事を指す。
国が設置する監視衛星に引っ掛からない地下通路で暮らす人の事らしい。
私は未だに見たことが無いが、スパイや工作員、はたまたあらゆる要人が今も利用しており、国家指名手配犯も居るとか。

北朝鮮の幹部が暗殺を恐れてトンネルを使って居るって話は聞いたことがある。

 本来夢をどうしたいかは本人が決めるべきだ。
なのに、彼のような人物にはそれすらままならなかった。
国の要人が使えるかどうかとトンネルを行き来して受け渡し、決めている。




晶が立ち上がる。

「あぁなるほど、じゃ、全部、彼奴に抱いていた印象は俺の病気の、勝手な関係妄想だったと、言いたいんですね?」


おや。珍しく、物わかりが――


「そんなんわかるわけねーだろ!?」

悪いわ。
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