新生月姫

宇奈月希月

文字の大きさ
72 / 75
新月の運命

邂逅・3

しおりを挟む
「ああ。やっと見つけたよ。うちの愚息と、愛娘が世話になったようだな」
 突然響いた声に、ナギサが驚いて振り向くと、ルシフが立っていた。
「魔王!?」
「親父!?」
 ナギサとレイガの声が被る。
 ルシフは不敵な笑みを浮かべながら、二人の元へと近づいて来る。
 一瞬、呆けた顔を見せたキールだったが、すぐに口角を上げた。
「はっ。まさか、三大王である魔王まで来るとはな。余程、暇なのだろうな?」
「ははっ。可愛い娘にちょっかいをかけている奴がいると聞いてね。どこの馬の骨なのかと確認したくなっただけさ」
 そう笑みを零しながら言うルシフだが、目は笑っておらず、あまりの圧にナギサは思わず、引き留めようと握っていたレイガの服を更に強く握った。
「娘、ね。まさか、殺した相手の娘を懐に入れるとは、魔王も随分と甘いのだな」
 キールの挑発に、ルシフは笑みを崩しはしないが、嫌悪感を込めた目でキールを見つめた。
「それは貴様と大して変わらないのでは?国を滅ぼした大神の末裔である娘と婚姻を結びたいなど、物好きにも程があると思うが?」
 ルシフに言い返され、キールから笑みが消えたが、すぐに鼻で笑った。
「そうだな。しかし、貴様の実の娘が欲しいとはさすがに言えないだろう?私も、子供に手を出すほど狂ってはないからな」
 キールはそこまで言うと、「まあ、いい」と踵を返した。
「今日のところは、挨拶までにしておこうか。では、失礼する」
 そう言い残し、一方的に去って行った。
 極度の緊張に晒されていたナギサはホッとし、パッと顔を上げるとレイガと目が合った。
 レイガはぽかんとした表情で、ナギサに捕まれた腕を見ていた。
「あっ!ごめんなさい!」
 ナギサが慌てて離したが、すぐにその手をぎゅっと握られた。
「ナギサ!怖かったよね!あんな変態に一方的に言い寄られて、しかも嫌味を言われるなんて!」
「いや、どちらかと言えば、挑発をされていたのはあなたの方だし、その挑発に乗ろうとしてたのもあなただわ」
 ナギサは思わず言い返したが、聞こえていないレイガは、「俺が守るから心配しないで!」とか言い放つ。
 ナギサは呆れた目でレイガを見た。「全然安心できないから結構よ」と掴まれた手を放そうとするが離れず、力ずくでレイガの手と戦っていた。
 が、すぐに「女性一人も守れていない奴が言わないでくれるかな」とルシフがレイガの後頭部を殴った。
「いってぇ!親父、何すんだよ!」
「ナギサがとても嫌がっているから、離してあげなさい」
 笑顔で言い放つが、全然目が笑っていないルシフに、ナギサは大きな溜め息を吐いた。
「なんで!?こんなに怖がっているのに……ぶはっ!」
 レイガが言い終わる前に、今度はレイガの横っ面を叩く。
「うんうん。どちらかと言えば、お前の奇行に怖がっているだけだから」
「……ありがとう、魔王」
 ナギサは、倒れたレイガを踏むルシフに向かって言えば、彼はナギサを見て、眉を寄せた。
「大丈夫だったかい?このアホ息子もそうだが、あの変態クソ野郎にも追われていたのだろう?」
「え、ええ。なんだかんだで似た者同士って感じよね。どっちも人の話聞かないんだもの」
「まあ、アホ息子と比べて、あちらは全て計算通りだと思うがな」
 ルシフはそう言うと、大きな溜め息を吐き、倒れたレイガに向かって転移魔法を施し、彼だけ先に魔界へ送り返した。
「よし。とりあえず、これで荷物は一つ減ったとして……ナギサ、とりあえず一度冥王のところへ行こう。あいつも、冥界にキールが来ていたとなれば、動かざるを得ないからな」
 その言葉に、ナギサは頷いた。

 ルシフとナギサから報告を受けたリキは、思いっきり机に突っ伏した。
「もうやだもうやだ!何で仕事ばかり増やすんだよ!」
 いやいや期の子供のように喚くリキに、ルシフは苦笑いを零した。
「まあ、冥界の特性上、結界を強くするのは難しいだろうしな」
「そうですね。極力、検閲を厳しくした上で、居住区での軍の配備を強化するしかないでしょうね」
 ルシフの言葉に、カイが代わりに答える。が、リキは思いきり顔を上げる。
「居住区は居住区で、あいつの許可がいるだろ!?俺、苦手なんだよ!」
 リキの叫びに、ナギサは「あいつ?」ときょとんとした。
 カイは溜め息を吐きながら、口を開いた。
「冥界両族長のことです。魔界領に、魔界両族長がいるのと同じように、冥界の一般居住区にもいるのですが……キョウノ様と比べると、かなりプライドが高い方でして。……私としては、キョウノ様と違って封印の神と契約していないので、すっこんでいてほしいのですが」
 カイはナギサに説明をすると同時に、心の声が思いっきり漏れていた。
 が、ルシフはふと口を開いた。
「とりあえず、三大界とも厳戒態勢に入った方がいいのは間違いないだろうな。聖界は兎も角、魔界と冥界は協力体制を敷いた方がお互いのためだろう」
「ええ、そうですね。最悪、こちらからアクションを起こした方が、早期解決は望めると思います。ただ、そうなると……」
 カイはそこまで言うと、ナギサをじっと見た。それに釣られるように、ルシフとリキもナギサを見、「え?何?」とナギサはぎょっとする。
「代理人に動いてもらうことになるってことだな。ただ……そのナギサが狙われているからな」
 リキはそう言って溜め息を吐いた。
「ああ、そういうこと。大丈夫よ。何なら、私のことだから、自分でちゃんと決着をつけるわ。それに、ああいう奴、一度ぶん殴らないと気が済まないじゃない」
 ナギサはそう言うが、誰もが「そう簡単に決着つくなら、早々に解決できるんだよな」と思っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はじめまして、私の知らない婚約者様

有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。 見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。 けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。 ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。 けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。 この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。 悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに? ※他サイトにも掲載しています。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

婚約破棄された私は、処刑台へ送られるそうです

秋月乃衣
恋愛
ある日システィーナは婚約者であるイデオンの王子クロードから、王宮敷地内に存在する聖堂へと呼び出される。 そこで聖女への非道な行いを咎められ、婚約破棄を言い渡された挙句投獄されることとなる。 いわれの無い罪を否定する機会すら与えられず、寒く冷たい牢の中で断頭台に登るその時を待つシスティーナだったが── 他サイト様でも掲載しております。

『伯爵令嬢 爆死する』

三木谷夜宵
ファンタジー
王立学園の中庭で、ひとりの伯爵令嬢が死んだ。彼女は婚約者である侯爵令息から婚約解消を求められた。しかし、令嬢はそれに反発した。そんな彼女を、令息は魔術で爆死させてしまったのである。 その後、大陸一のゴシップ誌が伯爵令嬢が日頃から受けていた仕打ちを暴露するのであった。 カクヨムでも公開しています。

シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした

黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)

短編)どうぞ、勝手に滅んでください。

黑野羊
恋愛
二度も捨てられた聖女です。真実の愛を見つけたので、国は救いません。 あらすじ) 大陸中央にあるルオーゴ王国で、国を守る結界を維持してきた聖女ロザリア。 政略のため王太子と婚約していた彼女は、突如『真の聖女』が現れたとして婚約を破棄され、聖女の座を追われてしまう。さらに、代わりに婚姻しろと命じられた聖騎士からも拒絶され、実家にも見捨てられたロザリアは、『最果ての修道院』へと追放された。 けれど彼女はそこで、地位や栄光、贅沢などとはほど遠い、無条件に寄り添ってくれる『真実の愛』と穏やかな日々を手にいれる。 やがて聖女を失った王国は、崩壊へ向かっていき――。 ーーー ※カクヨム、なろうにも掲載しています

《完結》悪女と噂されたわたくしのざまぁ

ヴァンドール
恋愛
悪女と噂のわたくしとの結婚なら、どれほど軽んじても問題はないと思っていた旦那様。 ところが……。

最強転生悪役令嬢は人生を謳歌したい!~今更SSクラスに戻れと言われても『もう遅い!』Cクラスで最強を目指します!~【改稿版】

てんてんどんどん
ファンタジー
 ベビーベッドの上からこんにちは。  私はセレスティア・ラル・シャンデール(0歳)。聖王国のお姫様。  私はなぜかRPGの裏ボス令嬢に転生したようです。  何故それを思い出したかというと、ごくごくとミルクを飲んでいるときに、兄(4歳)のアレスが、「僕も飲みたいー!」と哺乳瓶を取り上げてしまい、「何してくれるんじゃワレ!??」と怒った途端――私は闇の女神の力が覚醒しました。  闇の女神の力も、転生した記憶も。  本来なら、愛する家族が目の前で魔族に惨殺され、愛した国民たちが目の前で魔族に食われていく様に泣き崩れ見ながら、魔王に復讐を誓ったその途端目覚める力を、私はミルクを取られた途端に目覚めさせてしまったのです。  とりあえず、0歳は何も出来なくて暇なのでちょっと魔王を倒して来ようと思います。デコピンで。 --これは最強裏ボスに転生した脳筋主人公が最弱クラスで最強を目指す勘違いTueee物語-- ※最強裏ボス転生令嬢は友情を謳歌したい!の改稿版です(5万文字から10万文字にふえています) ※27話あたりからが新規です ※作中で主人公最強、たぶん神様も敵わない(でも陰キャ) ※超ご都合主義。深く考えたらきっと負け ※主人公はそこまで考えてないのに周囲が勝手に深読みして有能に祀り上げられる勘違いもの。 ※副題が完結した時点で物語は終了します。俺たちの戦いはこれからだ! ※他Webサイトにも投稿しております。

処理中です...