割り切れない世界にいる僕ら

浅香ショウ

文字の大きさ
11 / 23
11

「−1」の積層体

しおりを挟む
「ケイタ!早く来いよ!」
ケイタを呼ぶ声がして、シンジと話していたケイタが廊下の方を振り返る。
椅子に座っているシンジの目の前にケイタのズボンのベルトがある。
シンジは視線のやり場に困る。

「じゃあ、放課後。よろしくな。」
と言って、ケイタは廊下の方に歩いていった。

しばらくその後ろ姿を見ていたシンジだったが、
廊下でケイタを待っていた男子生徒がシンジのことをチラチラと見ながらケイタに何か言っているのに気がつき、サッと視線を外した。

それから、バイト先でもらったパンをかじり始める。
昨日、バイト終わりに事務所で作業をしていたオーナー兼店長であるコウジさんがくれたパンだ。

コウジさんとその奥さんのケイコさんは、廃棄処分になりかけたパンやおにぎりをよくシンジに持たせてくれる。

「ちゃんと食べてるの?」
「もっと食え。」
が二人の口癖だ。
二人のおかげで、シンジは昼食代をかなり浮かせることができていた。

ケイタが一緒に昼食を取ろうと誘ってくれた。
きっといつものメンバーと一緒に食べるのだろう。
ケイタは学年の人気者で、彼の周りにはいつも数人の男子生徒がいる。
そして、それを遠目で、まどろんだような目で見つめている女子生徒も。

小さな頃から、複数人の中に入るのが苦手だった。
皆と同じ空間にいても、自分自身の異物感に耐えられなくなる。
まるで、自分の周りに透明な膜が張っていて、
周囲の世界と隔たれているような感覚。

皆に合わせなければと思って喋ってみると、
急に皆の会話が止まり、明らかにそれまでとは違った空気が流れる、恐怖感に近い違和感。
そんな小さな「-1」の感情が積み重なり、いつしか「-100」になって、
シンジは人と積極的に関わらなくなった。

本当はケイタと、できるなら二人で、お昼を食べたかった。
そんな思いを喉に詰まりそうなパンと一緒に飲み込んで、なかったことにする。


放課後、図書館に行くと、ケイタの姿はなかった。

他に用事ができたのか。
そう、例えば、友達に誘われて何処かに行ってしまったとか。

そんなことを考えながら、お決まりの席、「宇宙・生命」の棚の前の席に座る。

「宇宙」と「生命」。

なんの関連があって、同じジャンルとして棚が設けられているのか分からないが、
どちらも、その終わりが想像できないほど広い世界だから、
その2つの世界はどこかで重なり合ったり、繋がり合ったりしているのかもしれない。

なんの関連もない自分とケイタの世界は、互いのどこかで重なり、繋がることがあるのだろうか。

ノートを開いて、宿題に取り掛かる。
紙の匂いが感じられるほど、顔を近づけて、最初の一文字を書き始める。

と、その時、図書室のドアが勢いよく開いた。

ケイタだった。
大きく肩で息をしながら大股で近づいてくる。
昨日と同じく、ドアは開けっ放し。

「遅くなってごめん。うるさい奴らに絡まれちゃって。」
そう言いながら、ケイタがどかっと椅子に腰を下ろすと、
向かいに座っているシンジの前髪が風で揺れた。

「次遅れたら、お尻ペンペンしていいぞ!」
ケイタが自分の腰のあたりをペシペシと叩いている。

シンジはそれを無視しつつも、微かに口角を上げて、言った。
「いいから。今日やる教科、どれ?教科書出して。」

そして、ケイタが準備するのを待つ。

しかし、ケイタはカバンから何も取り出す様子がない。
そして真剣な眼差しで言った。

セブン、笑うんだな。」
そして、急に嬉しそうな顔をして、ガサガサとカバンをあさり、
数学の教科書を机の上に放り出した。

シンジはきょとんとした顔で、ケイタのことを見つめ続けていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている

キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。 今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。 魔法と剣が支配するリオセルト大陸。 平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。 過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。 すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。 ――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。 切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。 全8話 お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c

劣等アルファは最強王子から逃げられない

BL
リュシアン・ティレルはアルファだが、オメガのフェロモンに気持ち悪くなる欠陥品のアルファ。そのことを周囲に隠しながら生活しているため、異母弟のオメガであるライモントに手ひどい態度をとってしまい、世間からの評判は悪い。 ある日、気分の悪さに逃げ込んだ先で、ひとりの王子につかまる・・・という話です。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

坂木兄弟が家にやってきました。

風見鶏ーKazamidoriー
BL
父子家庭のマイホームに暮らす|鷹野《たかの》|楓《かえで》は家事をこなす高校生。ある日、父の再婚話が持ちあがり相手の家族とひとつ屋根のしたで生活することに、再婚相手には年の近い息子たちがいた。 ふてぶてしい兄弟に楓は手を焼きながら、しだいに惹かれていく。

君に望むは僕の弔辞

爺誤
BL
僕は生まれつき身体が弱かった。父の期待に応えられなかった僕は屋敷のなかで打ち捨てられて、早く死んでしまいたいばかりだった。姉の成人で賑わう屋敷のなか、鍵のかけられた部屋で悲しみに押しつぶされかけた僕は、迷い込んだ客人に外に出してもらった。そこで自分の可能性を知り、希望を抱いた……。 全9話 匂わせBL(エ◻︎なし)。死ネタ注意 表紙はあいえだ様!! 小説家になろうにも投稿

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

たとえば、俺が幸せになってもいいのなら

夜月るな
BL
全てを1人で抱え込む高校生の少年が、誰かに頼り甘えることを覚えていくまでの物語――― 父を目の前で亡くし、母に突き放され、たった一人寄り添ってくれた兄もいなくなっていまった。 弟を守り、罪悪感も自責の念もたった1人で抱える新谷 律の心が、少しずつほぐれていく。 助けてほしいと言葉にする権利すらないと笑う少年が、救われるまでのお話。

処理中です...