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「3」週間の後
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「腹減ったー!飯、飯!」
12時のチャイムが鳴ると同時に、
ケイタはいつも通りの大声で叫び、席を立つ。
その姿をシンジは横目に見てから、
自分のカバンの中をゴソゴソと探り始める。
今日はタマゴサンドだったはず。
それとおまけに菓子パン一つ。
シンジが小さい頃からある、
銀色の袋に包まれた細長いチョココーティングのパン。
ケイタに勉強を教える3週間はあっという間に過ぎてしまった。
今週の月曜日の放課後、
一人で図書室に向かっていたシンジをケイタが呼び止めた。
「ジャーンっ!」
と腰に手を当てて仁王立ちしている。
久しぶりに目にするケイタのユニフォーム姿だった。
「追試、受かったぞ!」
何も言わないシンジにケイタは満面の笑みで言った。
「今日から野球再開!」
学ラン姿の時よりもひと回りは大きく見えるケイタの姿。
脚の太さはシンジの脚の倍はありそうだ。
「お前のお陰だ!ありがとう、シンジ!」
そう言って、ケイタは思いっきり抱きついてきた。
ケイタの厚い胸板にシンジの顔が埋もれる。
ケイタが後頭部をガサガサとかき撫でる音に負けないくらい、
シンジの心臓は激しく音を刻んだ。
覆いかぶさるケイタの腕の中で、シンジは気をつけの姿勢で固まってしまう。
ケイタのユニフォームから伝わる洗剤と、砂と、汗の匂いがシンジの脳内を満たしていく。
いい加減に苦しくなってきたところで、ケイタがシンジの身体を解放した。
そしてシンジの両肩に大きな手を乗せたまま、真剣な声で言った。
「次は野球、頑張るからな。
高校最後の大会まで、全力で頑張る。
シンジも応援しろよ!」
シンジはこくりと頷いて、素直な思いを伝えた。
「僕も嬉しい。良かったね、ケイタ。
野球、頑張って。」
おう!とケイタは言って、もう一度シンジを抱きしめて、
部活へと走っていった。
その後ろ姿を眺めながら、シンジは思った。
放課後、一緒にいられなくなるのは寂しいけれど、
やっぱりケイタの、あの弾けるような笑顔が好きだ。
そんなことを思い出しながら、カバンからコンビニの袋を取り出そうとした瞬間、
自分の机の上にどさっと何かが置かれる音がして、シンジは顔を上げた。
ケイタが口元に笑みをたたえてシンジを見下ろしている。
机の上にはコンビニの袋。
シンジがバイトをしているのとは別のチェーンの店。
水色と白の看板のやつ。
「これ・・・」
シンジが机の上の袋を指差して言うと、
ケイタはどかっとシンジの前の席に後ろ向きで座り、袋の中を取り出し始めた。
大量のパンやおにぎりが出てくる。
「うちの近くのコンビニが7じゃなくてさ。
ま、細かいことは気にするな。」
そう言って、大きなパンの包みを開けて食べ始める。
「食堂でみんなと食べなくてもいいの?」
袋を差していた指を今度は食堂の方向に向けて、シンジは聞いた。
ケイタは口をもぐもぐさせながら答える。
「いいの、いいの。
あいつらとは部活中も会ってるし、ずっと一緒だといい加減飽きるし。」
それに、と口の中のパンを飲み込んで、ケイタは言った。
「シンジと一緒に食いたいの。俺は。」
その言葉を聞いて、シンジは鼻の奥がツンと疼くのを感じた。
ケイタに勉強を教える3週間が終わって、
もう二人で過ごすことはないのだと思っていた。
地味で誰からも話しかけられないし、誰にも話しかけない自分と、
明るく、クラスの人気者で、誰にでも気さくなケイタが
放課後の1時間ではあるけれど、
3週間毎日一緒に過ごしただけでも信じられなかった。
だから、それだけで自分は満足だし、それ以上を望むこともなかった。
でも、ケイタは自分と一緒にいる時間を今でも作ろうとしてくれている。
こんなことがあってもいいのだろうか。
そんな気持ちがシンジの胸の中を激しく駆け巡った。
「ほら、お前も食えよ。
早くしないと、俺が食っちゃうぞ。」
そう言って、ケイタはガハハと笑っている。
シンジはタマゴサンドの包みを開けて、一口かじった。
こんなに美味しいタマゴサンドは、生まれて初めて食べた。
そう思いながら、シンジはケイタが勢いよくパンやおにぎりを平らげるのを
目を離さずに見つめていた。
12時のチャイムが鳴ると同時に、
ケイタはいつも通りの大声で叫び、席を立つ。
その姿をシンジは横目に見てから、
自分のカバンの中をゴソゴソと探り始める。
今日はタマゴサンドだったはず。
それとおまけに菓子パン一つ。
シンジが小さい頃からある、
銀色の袋に包まれた細長いチョココーティングのパン。
ケイタに勉強を教える3週間はあっという間に過ぎてしまった。
今週の月曜日の放課後、
一人で図書室に向かっていたシンジをケイタが呼び止めた。
「ジャーンっ!」
と腰に手を当てて仁王立ちしている。
久しぶりに目にするケイタのユニフォーム姿だった。
「追試、受かったぞ!」
何も言わないシンジにケイタは満面の笑みで言った。
「今日から野球再開!」
学ラン姿の時よりもひと回りは大きく見えるケイタの姿。
脚の太さはシンジの脚の倍はありそうだ。
「お前のお陰だ!ありがとう、シンジ!」
そう言って、ケイタは思いっきり抱きついてきた。
ケイタの厚い胸板にシンジの顔が埋もれる。
ケイタが後頭部をガサガサとかき撫でる音に負けないくらい、
シンジの心臓は激しく音を刻んだ。
覆いかぶさるケイタの腕の中で、シンジは気をつけの姿勢で固まってしまう。
ケイタのユニフォームから伝わる洗剤と、砂と、汗の匂いがシンジの脳内を満たしていく。
いい加減に苦しくなってきたところで、ケイタがシンジの身体を解放した。
そしてシンジの両肩に大きな手を乗せたまま、真剣な声で言った。
「次は野球、頑張るからな。
高校最後の大会まで、全力で頑張る。
シンジも応援しろよ!」
シンジはこくりと頷いて、素直な思いを伝えた。
「僕も嬉しい。良かったね、ケイタ。
野球、頑張って。」
おう!とケイタは言って、もう一度シンジを抱きしめて、
部活へと走っていった。
その後ろ姿を眺めながら、シンジは思った。
放課後、一緒にいられなくなるのは寂しいけれど、
やっぱりケイタの、あの弾けるような笑顔が好きだ。
そんなことを思い出しながら、カバンからコンビニの袋を取り出そうとした瞬間、
自分の机の上にどさっと何かが置かれる音がして、シンジは顔を上げた。
ケイタが口元に笑みをたたえてシンジを見下ろしている。
机の上にはコンビニの袋。
シンジがバイトをしているのとは別のチェーンの店。
水色と白の看板のやつ。
「これ・・・」
シンジが机の上の袋を指差して言うと、
ケイタはどかっとシンジの前の席に後ろ向きで座り、袋の中を取り出し始めた。
大量のパンやおにぎりが出てくる。
「うちの近くのコンビニが7じゃなくてさ。
ま、細かいことは気にするな。」
そう言って、大きなパンの包みを開けて食べ始める。
「食堂でみんなと食べなくてもいいの?」
袋を差していた指を今度は食堂の方向に向けて、シンジは聞いた。
ケイタは口をもぐもぐさせながら答える。
「いいの、いいの。
あいつらとは部活中も会ってるし、ずっと一緒だといい加減飽きるし。」
それに、と口の中のパンを飲み込んで、ケイタは言った。
「シンジと一緒に食いたいの。俺は。」
その言葉を聞いて、シンジは鼻の奥がツンと疼くのを感じた。
ケイタに勉強を教える3週間が終わって、
もう二人で過ごすことはないのだと思っていた。
地味で誰からも話しかけられないし、誰にも話しかけない自分と、
明るく、クラスの人気者で、誰にでも気さくなケイタが
放課後の1時間ではあるけれど、
3週間毎日一緒に過ごしただけでも信じられなかった。
だから、それだけで自分は満足だし、それ以上を望むこともなかった。
でも、ケイタは自分と一緒にいる時間を今でも作ろうとしてくれている。
こんなことがあってもいいのだろうか。
そんな気持ちがシンジの胸の中を激しく駆け巡った。
「ほら、お前も食えよ。
早くしないと、俺が食っちゃうぞ。」
そう言って、ケイタはガハハと笑っている。
シンジはタマゴサンドの包みを開けて、一口かじった。
こんなに美味しいタマゴサンドは、生まれて初めて食べた。
そう思いながら、シンジはケイタが勢いよくパンやおにぎりを平らげるのを
目を離さずに見つめていた。
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