戦国の鍛冶師

和蔵(わくら)

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第44話 経費と不安

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道具雑貨店・匠の店主さんに、来式が完成したら店に持ってくる様に言われて
しまったのだった。店主さんはシーランド銃が偉く気に入った様子で、俺達が
帰るまで、ずっと来式を手に持っていたのだった。

望遠鏡と望遠鏡を締めるベルトとセットで、150ベルクで売ってくれると言って
くれたので、経費は嵩むが、それに見合うだけの物になりつつあるのだ。

前までの計算では、経費で掛かる額は、410ベルクだったのが、最後には460ベルク
になってしまったが、望遠鏡を固定する物までは、頭に入れてなかったのだから、
当初の値段より高くなるのは、致し方がなかった。

800ベルクで来式を売り出したとすると、利益は340ベルクしかでないな!責めて
半分の値段で売れたら良いのだが、高すぎると買い手が居なくなってしまう恐れも
あるから、欲張っても850ベルクでしか売れないな。850ベルクで売ったとしても、
390ベルクの儲けだからな.....

経費で抑えられる物は無いか、1度検討してみないとわるいな!

もしも鋳造で使う、鉄鉱石がタダ同然で手に入れば、純利益が増えるのだが、鉱山
何かが直ぐに見付かるわけもない。100丁売ったとしたら、39.000ベルクの儲けに
しかならない、そうなるとだ!そこから給金なども出さないとわるくなる、それで
遣って行けるのだろうか?

日ノ本ならば、遣って行く自信もあるのだが、此処は日ノ本とは違う世界なのだ!
全てが日ノ本と、理《ことわり》が違っている!使用人の給金なども、どの位を
払えば良いのかが解らない。不安で一杯だ!

かと言って、1丁1.000ベルクで売れるかも解らない現状では、どうして良いものか
売る物が出来たら出来たで、頭の痛くなる事ばかりが続くな!

オレークさんに、1度さり気無く、1丁の売値を訊いてみようか?教えてくれるのな
なば、それに越した事は無いが、もしもオレークさんに売値を訊けなかったら、どう
しようか?恐いな.....でも不安を払拭するには、訊くしかないのだ!

俺達は、オレークさんの工房・黒猫屋に戻って来ていたのだ。オレークさんも俺が
町に戻るなり、直ぐに消えた事を不振に思っていたのだ。俺は思い切ってオレーク
さんに、今までの事を打ち明けてしまった。

望遠鏡の事・売値の事・利益の事などだ。
それを訊いたオレークさんは、豪快に笑い出したのだった。
俺はオレークさんが、笑い出した意味が解らずに、保けた顔をして居た様だ!

「そんな事で、お前さんは悩んでいたのか!儂がお前さんを出し抜いて、シーラン
 ド銃を独占販売するとでも思っていたのか?そんな事は無いよな?ならば話は簡
 単だ!儂達は2人で、シーランド銃組合を作るんじゃ!」

オレークさんの意表を付いた発言で、またも俺は、呆けた顔をしていた。

「労働組合・ユニオンの下部組織に、シーランド銃組合を組織して、ユニオンに
 儂達が此れから、莫大な利益を上げる手伝いをさせるんじゃ!その為には、まず
 は、ユニオンに所属する組織を作る!加盟金なる物が必要なんじゃが、お前さん
 5.000ベルク出せるか?儂も5.000ベルク出すから、合わせて10.000ベルクをユニ
 オンに納めれば、儂達はユニオンに守られながら、商売を続けられるんじゃ!」

「ユニオンは、俺達をどうやって守ってくれるんですか?」

「それはな、世界中にあるユニオンの支部が、ユニオンに属してない者達が作った
 品物を押収したり、壊したりして、儂達だけが儲けられる様にしてくれるんじゃ
 だから、シーランド銃を作りたければ、儂達の組合に所属して、親方株を買わね
 ばならない!好成は組合を組織する資金を出しているから、最初から親方だ!」

「えっ.....それでは、1丁の値段も好きに決められるって事ですか?」

「まぁ~シーランド銃組合の頂点は、儂達だから、そうなるわな!」

「儂の工房でも、お前さんの工房でも、親方になりたい者達が、押し寄せてくる
 ぞ!そして、親方株を買わせるのは、見込みがある者だけじゃぞ!下手くそに
 親方株を売ったりすれば、シーランド銃の品質に傷を付ける事になる!それを
 頭に入れておいてくれ!」

「俺が親方だって.....信じられない。これは夢ではないのか?」

俺が呆けていると、芳乃・静・秋が、好成親方と、冗談めかしく言ってきたのだ。
ダーンとアンジェにも、この事を直ぐに伝えなければ、今までお世話になったのだ
から、嬉しい事は直ぐに知らせてあげたい!

ターニャに、アンジェ達を呼んできて貰い、俺達はその間に、組合に付いての話し合いを始めていた。

「1丁の値段をだな!大砲と一緒でも良いと思うんじゃ!」

「それだと買う人が、少なくなるのでは?」

「好成さんが言った様に、1丁1.000ベルクが妥当だと思うよ親父!」

「1丁1.500ベルクでも売れる!儂が保障してやる!」

オレークさんが強引に、値段を1.500ベルクと定め、俺達はそれに従ったのだった。
そして組合の役員なる者達を決める事になった。

「オレークさんが最高経営責任者で、好成様が最高技術責任者で、ダニエルさんが
 最高執行責任者で、ターニャさんが最高財務責任者で、芳乃様が最高情報責任者
 で、私と秋が最高知識責任者になりました」

「婆さんには、役職を渡したら駄目だよ!親父」

ダニエル君は、インガ婆様を警戒している様だな!それもそうか......

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