戦国の鍛冶師

和蔵(わくら)

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第119話 破落戸と突入

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借金取りの男は、手下に指示を出すと直ぐに此の場にイルマを
連れてくる様に言っていたのだ。それを見届けてから俺は刀を
鞘に戻し近場で座れる場所を探すと、腰をその場に降ろして座
ってしまっていた。

用心棒の男は、まだ白目のまま気絶していたが、俺は用心棒を
気絶から助け起こそうとはしなかった。助けてしまうと、また
厄介な事に成りそうだったからだ。

現状維持のままイルマが、此の場に到着するのを待っていたの
だが、帰る前に借金取りの男にイルマの借金の事で話をしない
と行けない事に気が付き、その場から男に話し掛けたのだった。

おい、イルマさんの借金は確か1万ベルクだったよな?

「へい、その通りです!」

此処に1万ベルクある。此れでイルマさんの借金を無かった事
にして貰いたいのだが、それで良いよな?

「ひい、ふう、みぃ、...........確かに1万ベルクあります!これで
イルマ様の借金は返済された事になりました。付きましては借用
書を持ってきますので、もう暫く待って貰えますかね?」

うむ、早くしてくれ!

「へい!おい、お前ら俺の部屋から借用書を持って来い」

《へい!》

男は手下に、再度、指示を出し違う部下を自室にある借用書を
取りに行かせていたのだ。

それを見届けた後に、俺は本題を男に伝えたのだった。

おい!俺への慰謝料は、どうなっているのだ?まさか此のまま
俺を襲っておいて、尚且つ難癖まで付けたあげく、また襲って
きた癖に、そのまま手ぶらで帰れと言うつもりでは無いよな?

男は用心棒の男を見ながら、何やら口をごもごもしながら言っ
ているが、俺にははっきりと聞き取れないでいた。

話すならば、他の人に聞える様にちゃんと話せ!

俺は男に、怒鳴りつけると男は、驚き体を震わせながら大きな
声で話し出した。

「この度は、此方の勘違いから迷惑を掛けてしまいまして、そちら
さんには大変なご迷惑をお掛けしました事を詫びると同時に、俺か
らの慰謝料として、1.000ベルクを貴方に支払います」

俺は1.000ベルクと訊くや否や、刀の柄を持ち上げ、そして、刀を
その場の床に下ろしたのだった。刀のこじりが床に当たり
静寂だった場に、ガッーンっと鈍い音が響いたのだった。

俺の鞘は、鞘の先端部分である鐺に、鞘が痛まない様にする為と
鞘に刀を納めた状態でも戦える様にする為に、鐺部分には鉄で覆
い隠していたのだ。そうすれば、鞘も痛まず、刀を抜かずとも戦
えるのだから便利である。

「1.000ベルクでは不足でしたか、それならば2.000ベルクでは
どうでしょうか?」

無言で俺は、刀を床に下ろしガッーンと言う音を出していた。

「解りました!5.000ベルクで手を打ちませんか?俺達としても
これ以上の慰謝料を支払うと、食って行けなくなるんです!」

男は、涙目で俺に懇願して来ているが、俺はお構い無しに刀を
床にぶつけ。ガッーンと音を立て続けに響かせたのだった。

「クソッ!もう自棄だ!あんたから貰った10.000ベルクを全て
返す.........えっ?」

《頭を馬鹿にしやがって!もう許さねぞ!》

男が全部言う前に、男が悪態を付いた事で、俺と遣り合うと勘違い
した手下共が、俺を取り囲むと手にした獲物を俺に向けて来たのだ
った。

男は一生懸命に、手下を止めようとしているが、男達は頭に血が上っ
て居るのか、全然男の言う事を訊こうとしなかったのだ。

町の破落戸ごろつき共など、何人いようが物の数ではなく!好成
に取っては、運動とも呼べない代物であった。道場で子弟と稽古をして
居た方が、まだ歯応えがあると言う物だ。

決着は、あっと言う間に付いてしまい。男が止めたにも関わらず。全員
一撃で伸されていたのだった。止める暇も無かったと言う事である!

その場には、8人の手下が気絶しており、好成は全員を峰打ちにしていた
のだった。

そして......

イルマを連れた手下が、その場に戻ってくると同時に、借用書を取りに
言っていた手下も戻ってきたのだった。

戻って来た手下達は、その場に転がっている仲間を見るや直ぐに頭を
見て何があったのかと、目で訴えかけて居たのだった。

俺は、直ぐにイルマと借用書を受け取ると、その場に崩れ落ちている頭の
所まで歩いて行くと、先程、頭に渡した袋を返して貰っていたのだ。

頭も何も言わずに、すんなりと10.000ベルクが入っている袋を俺に渡すと
ただ座ったままで、何も言おうともしないまま黙って座っていたのだ。

そして、俺は診療所に帰ろうとした矢先に、入り口である玄関から、大勢
の鎧を着込んだ男達が雪崩込んできたのだった。

「シーランド辺境伯直属、白の団である!女性を誘拐した件と並びに不正
賭博の件で、その方達をひっ捕らえる!抵抗すれば容赦なく切り捨てるもの
と覚悟せよ!」

衛兵隊の突入であったのだ。衛兵に通報したのは多分であるが、医者で
イルマの旦那でもあるアウリスであろう!

診療所に押し込んで、回復治療士のイルマを攫えば、最終的にはこうなる
事は解っていただろうに、何故こんな暴挙にでたのかは不明である。

衛兵隊の取調べが進めば、後日、事情も解るであろうが、今は解らず終い
であった。

「んっ!? 貴方は教会で治療を手伝ってくれた方ではありませんか!」

俺は衛兵の1人に、呼び止められると何故、此の場に居るのかを訊かれ
たのだった。

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