27 / 27
第一章:剣姫の婿取り
これからの勝負のために
しおりを挟む「お姉様申し訳ありません」
決闘後、アウローラの第一声はイリスへの謝罪だった。
「いいのよ、アウローラ。むしろ私が不甲斐ないせいだわ」
イリスはそう言ってアウローラを慰めるが、本心だとわかる。
恨み言の一つもないのが本音って凄いな。
例えその場だけだったとしても、俺だったら文句言っちゃってるよ。
まぁ、同時にイリスがアウローラの裏切りに気付いてないって証拠でもあるんだけどね。
「さて。これで明日から、朝食を一緒に摂って貰うぜ?」
「え? うん、別にいいけど、なんでそんな感じなの?」
やっぱりあんまり気にしてない感じだな。
まぁ俺も何か意図があって朝食を一緒にしようって言ってる訳じゃないからいいんだけどさ。
「じゃあ次の決闘だけど、要求は?」
「婚約の破棄よ」
だろうね。
「じゃあ俺は、そうだな~……」
正直、ここから要求をエスカレートさせていく気はないんだよね。
例えば一緒に寝よう、とか、毎朝起こす時にキスして、なんて言っても虚しいだけだ。
ついでに言えば、碌に好意を抱いていない相手にそんな事をしなきゃいけないなんて苦痛でしかない。
嫌われるためにやってるんじゃないんだから、そんな要求意味が無いんだよね。
「じゃあ朝食を一緒にした日は夕食も一緒にして貰おうかな」
「いいわよ」
もうそれ、要求内容を了承したってより、夕食の約束にオッケーしてくれた感じだよな。
「それで? 決闘内容は? どうせあなたの考えたゲームでしょ?」
「それはその通りだけど、一応今作ってる訳じゃなくて、前からある奴を選んでるからな」
「そんな事を疑ってはいないわよ」
ようは絶対に俺が勝つルールのゲームを今考えてる訳じゃないって弁明だったんだけど、イリスに伝わったみたいだ。
伝わって、逆に怒られたけれどね。
「ゲーム内容は国家運営だ」
「せめて決闘内容って言いなさいよ」
思わずそんな言い方をしてしまった俺に、イリスは苦笑いを浮かべてツッコミを入れたのだった。
そろそろ誰が味方で誰がそうでないのかなんとなくわかってきた。
ここに来たばかりの頃は、伯爵をはじめ、家臣団の上層部くらいしか確実な味方はいなかった。
領地軍は一部が最初の決闘で敵ではなくなった。
その後、農作業を一緒にする事で、領地軍の多くが味方になり、敵愾心を抱く者がいなくなった。
領民は割と最初から好意的だった。
ユリアス閣下は救国の英雄なのでそれを誇りに思っている人は多い。
その子供で『剣姫』と呼ばれるイリスはまさに領民の娘的存在。
ただそれとは同時に、領地が困窮している事も感じ取っている。
あくまで伯爵家の人気で領民の不満を抑え込んでいるだけなんだ。
だから、王国一金持ちのエルダード家の三男が婿に来たとなれば、領民は期待してしまう。
しかもその俺が、イリスと結婚した後の事を考えて色々実験しているとなれば、自分達のためにしてくれている、と感謝する人も多い。
そして伯爵家に務める人々。
領地の経営に関わる訳でも、治安を守るためでもない彼ら。
ようは侍女や侍従なんかだけど。
彼らの多くは元々貴族でそれなりの教育を受けているから、この領地の状況をわかっている。
だからやっぱり、俺の味方だ。
自分達の雇い先が潰れたら困るのは当然だもんな。
再就職も中々難しい世界だし。
そんな中でもイリスやアウローラに近い人間はどうなのか。
例えば領地軍の隊長格やイリスの直属の部下達。
例えば彼女の身の回りを主に世話する侍女。
例えば彼女の専属である、リーリア。
彼女達はイリスの味方なんじゃないだろうか。
イリスの望まない結婚に反対なんじゃないだろうか。
イリスを犠牲にして助かる事を望んでいないんじゃないだろうか。
そんな風に思っていた。
けれどどうも違うらしい。
それは、これまで三ヶ月接して来てなんとなくだけどわかるようになっていた。
それは、先日の決闘の解説内容で、なんとなく理解できた。
彼女はイリスに気付かれないようにそれとなく、俺がイリスを追い込もうとしている罠へと彼女を誘導していた。
同時に、イリスが俺に好意を持つようにさりげなく俺を褒めたりフォローしたりしていた。
リーリアはイリスの望まない結婚に反対しているのは間違いない。
彼女が求めるのはイリスの幸せだけだと聞いた。
だからリーリアはイリスを幸せにするために。
俺との結婚をイリス自身が望むように誘導しているんだ。
勿論これは俺の推測だ。
十中八九当たっているとは思うけど、それでも確実じゃない。
だから確実なものにするために、確認しよう。
そのための、国家運営だ。
「とまぁ、こんな感じでそれぞれ役割を選んで施設を建てていくんだ」
「自分の建てた施設が八つになったら勝ちなの?」
「いや、誰かが八つ建てたそのターンが終了するまでゲームは続く。その後は施設ごとに設定されてるポイントの合計で勝敗を決める」
「それじゃあ、最初に八つ建てる意味は無いの? 勿論、勝てると踏んでゲームを終了させるためって意味はあるんでしょうけど」
「最初に八つ建てたプレイヤーにはボーナスポイントがつくよ。他にもカードが色分けされてるは見ればわかるけど、これは赤、青、緑、金、紫の五色あって、これが揃ってるとボーナスが入る」
国家運営も前世にあったゲームをこちらで再現したものだ。
元々中世ヨーロッパ頃を舞台にしたゲームだったから、世界観を合わせるのに苦労はしなかった。
ルールがやや難しくて、建物や役割にそれぞれ特殊な効果があるから、文字が読めない人間ではプレイするのが難しい。
だから基本、貴族の間で流行らせるつもりのゲームだ。
実家や、実家付近の領地ではそれなりに好評だけど、やっぱり中々流行らないね。
この決闘を機に人気が出てくれると助かるんだけどね。
「最大で八人遊べるゲームだ。できれば六人は欲しいかな」
「私とあなた。それとアリーシャは決定でしょ?」
そのくらいしか味方いないわよね、とでも言いたげなイリス。
まぁ他の味方になりそうな人は領地の経営で忙しいから、知らないゲームの練習をする暇無いもんな。
「いいぜ、あとはアウローラ、リーリア、レフェル、ミリナでどうだ?」
最大で八人って言ったけど、このゲーム、八人いない方が面白いんだよね。
役割が八つあってそれぞれ選んでいくんだけど、誰が何を選んだかはわからないようになってるんだ。
最初に八枚のうち一枚を伏せて置き、スタートプレイヤーは七枚の中から一枚を選ぶ。
選んだあとは次の人間に六枚のカードを渡す。
これを繰り返していくんだけど、七人の場合は最後の一人は、回って来たカードと伏せたカードの二択から役割を選ぶ事になる。
最後のプレイヤーにも選ぶ楽しみが残るし、その手間のプレイヤーも、最後のプレイヤーが何を選んだかわからなくなるんだ。
八人だとスタートプレイヤーが、最後に選ぶプレイヤーのカードが何かわかっちゃうからね。
「その人選でいいの? なんならエルダード家から人を呼んでもいいのよ?」
「ハンデだよ。俺とアリーシャはやりこんでるうえ、俺は制作者だぜ?」
「随分な自信ね。けれど、これまでの決闘内容を鑑みれば、当然の自信でもあるわね」
アウローラは間違いなく俺の味方になった。少なくとも、イリスの味方はできなくなった。
俺と結婚して領地から逃げる事ができなくなった以上、俺に領地を再生して貰わないと困るからね。
そのアウローラの専属であるレフェルも大丈夫。
リーリア的な思考の持ち主かもしれないけれど、そもそもイリスを勝たせてもアウローラのためにはならないからね。
俺がアウローラを説得したあの時、専属のレフェルは当然一緒にいたからな。
ミリナは立場が微妙だ。
俺の味方ではあるけれど、イリスの心情を多少は斟酌するだろうからね。
まぁちょっと話しておけば、どちらの敵にもならないように立ち回ってくれるだろう。
彼女はそれで充分。
そしてリーリア。
彼女が俺の推測通りのイリスの味方であるなら。
このゲームでさりげなく俺をアシストしてくれるはずだ。
勿論、リーリアが敵だったとしても負けるつもりはないけどな。
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(19件)
あなたにおすすめの小説
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「お前を愛する事はない」を信じたので
あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」
お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。
腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。
灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。
彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。
タイトル通りのおっさんコメディーです。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
内容忘れたからブクマ削除します❗️
投稿が止まっていますが体調でも崩されたのでしょうか?
毎回楽しみにしてます!ゆっくりでいいので投稿してもらえると嬉しいです🙇♂️
・大変面白く,更新されるたびに即読んでしまいます。
・自分は義妹をどう落とすかも期待しながら読んでいます‼
感想ありがとうございます。
一応落とすか落とさないかも決めてありますので、お楽しみに。