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バタフライ
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一面に広がる色とりどりの色彩。風に舞う花びらに同化する彼女を、僕は今日も見つめていた。風が運ぶ、このほのかな花の香りは、彼女から発せられているのではないかと疑うほどだ。
近づくことは出来ない。僕と彼女では住む世界が違いすぎる。彼女が可憐な蝶なら、自分は醜い蛾なのだから。
子供の頃は、ずっと一緒に育った。甘酸っぱい苺を頬張り、共に原っぱを駆けた。大人になってもずっと一緒なのだと信じて疑わなかった。あの日までは‥
最近、舐め回すような視線を感じる。女たちが襲われ、喰われたという話も聞く。不安が入り混じる心細さに、ふと頭によぎる。彼はどうしているだろうか?彼なら、そんな悪党からも自分を守ってくれたのではないかと。
久しぶりに再会した彼が、どこか打ちのめされた顔で「君とはもう会えない‥」そう呟き、去っていった日のことはよく覚えている。
子供のころはいつも一緒だった。自分を大切に思ってくれていたであろう彼のことが、好きだったのに。
今どうしているんだろう‥
背後から、自分を呼び止める声が聞こえた。
淡い期待に、振り返ると、凶悪そうな男が立っていた。
僕らの種族は、大人になる途上で、互いに少し距離を置く。再会の日を楽しみしにして。
待ち焦がれていた日、再び出会った彼女の姿を見た僕は、愕然とした。彼女は、それはそれは美しく、妖艶であった。それに比べて‥
何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちる気がした。
もはや種族が違う。自分ではつりあわないと思った。どうしようもない恥ずかしさが胸を焦がしたのだった。自尊心が破壊された僕は、その場から逃げた。
ぼんやりと昔を振り返っていた僕の目に、彼女を襲う黒い影が、飛び込んできた。
男は有無を言わさず、掴みかかって来た。
押さえつけられた重みに、全身を恐怖が駆け巡る。助けて‥声にならない悲鳴が目頭を熱くする。
"やめろー!!"怒号とともに、懐かしい顔が突っ込んできた。
男は鬱陶しそうに、彼に一瞥をくれた。
対時した瞬間に勝ち目はないことは悟った。相手は自分の倍くらいの体格。鋭利な凶器まであるときた。その上、自分は丸腰だ。
だが、男には引くに引けない時があるのだ。
僕と男は睨み合った。
"ウォー"両者が動く。
美しい花はすぐ散ってしまうかのように、一瞬の決着であった。
男の凶刃が、僕の身体を貫く。
彼女の悲鳴と同時に、かつての思い出たちが走馬灯のように浮かんでくる。
自分が倒れてしまえば、次は彼女が危ない。
もうダメなのか。ここで終わりなのか。
否、倒れるわけにはいかない。いけないのだ。
気力を奮い立たせたその刹那、
突如、はるか上空から現れた何かに掴まれ、男はそのまま空に消えていった。
ボロボロで横たわる僕。恐る恐る彼女は近づいてきた。2人の間に静かな時間が流れる。
あー、カッコ悪い。漫画のヒーローのようには、いかないものだな。
でも、君の顔を見た瞬間、試合には負けてしまったけれど、勝負には勝ったのだと実感した。それも人生の大一番に。
「ずっと君が好きだったんだ」
これだけは伝えておかないといけないな。
「もうっ、待たせすぎだよ‥」
遠のく意識の中、久しぶりに彼女の、泣き顔とも、微笑みともつかない顔をみた気がした。
➖
「パパ~、見て!見て!ちょうちょう!」
幼女の視線の先には、一匹の蝶が飛び去るところだった。
その姿は、美しくもどこか儚げに。
沈みかけの夕空に、消えていった。
近づくことは出来ない。僕と彼女では住む世界が違いすぎる。彼女が可憐な蝶なら、自分は醜い蛾なのだから。
子供の頃は、ずっと一緒に育った。甘酸っぱい苺を頬張り、共に原っぱを駆けた。大人になってもずっと一緒なのだと信じて疑わなかった。あの日までは‥
最近、舐め回すような視線を感じる。女たちが襲われ、喰われたという話も聞く。不安が入り混じる心細さに、ふと頭によぎる。彼はどうしているだろうか?彼なら、そんな悪党からも自分を守ってくれたのではないかと。
久しぶりに再会した彼が、どこか打ちのめされた顔で「君とはもう会えない‥」そう呟き、去っていった日のことはよく覚えている。
子供のころはいつも一緒だった。自分を大切に思ってくれていたであろう彼のことが、好きだったのに。
今どうしているんだろう‥
背後から、自分を呼び止める声が聞こえた。
淡い期待に、振り返ると、凶悪そうな男が立っていた。
僕らの種族は、大人になる途上で、互いに少し距離を置く。再会の日を楽しみしにして。
待ち焦がれていた日、再び出会った彼女の姿を見た僕は、愕然とした。彼女は、それはそれは美しく、妖艶であった。それに比べて‥
何かがガラガラと音を立てて崩れ落ちる気がした。
もはや種族が違う。自分ではつりあわないと思った。どうしようもない恥ずかしさが胸を焦がしたのだった。自尊心が破壊された僕は、その場から逃げた。
ぼんやりと昔を振り返っていた僕の目に、彼女を襲う黒い影が、飛び込んできた。
男は有無を言わさず、掴みかかって来た。
押さえつけられた重みに、全身を恐怖が駆け巡る。助けて‥声にならない悲鳴が目頭を熱くする。
"やめろー!!"怒号とともに、懐かしい顔が突っ込んできた。
男は鬱陶しそうに、彼に一瞥をくれた。
対時した瞬間に勝ち目はないことは悟った。相手は自分の倍くらいの体格。鋭利な凶器まであるときた。その上、自分は丸腰だ。
だが、男には引くに引けない時があるのだ。
僕と男は睨み合った。
"ウォー"両者が動く。
美しい花はすぐ散ってしまうかのように、一瞬の決着であった。
男の凶刃が、僕の身体を貫く。
彼女の悲鳴と同時に、かつての思い出たちが走馬灯のように浮かんでくる。
自分が倒れてしまえば、次は彼女が危ない。
もうダメなのか。ここで終わりなのか。
否、倒れるわけにはいかない。いけないのだ。
気力を奮い立たせたその刹那、
突如、はるか上空から現れた何かに掴まれ、男はそのまま空に消えていった。
ボロボロで横たわる僕。恐る恐る彼女は近づいてきた。2人の間に静かな時間が流れる。
あー、カッコ悪い。漫画のヒーローのようには、いかないものだな。
でも、君の顔を見た瞬間、試合には負けてしまったけれど、勝負には勝ったのだと実感した。それも人生の大一番に。
「ずっと君が好きだったんだ」
これだけは伝えておかないといけないな。
「もうっ、待たせすぎだよ‥」
遠のく意識の中、久しぶりに彼女の、泣き顔とも、微笑みともつかない顔をみた気がした。
➖
「パパ~、見て!見て!ちょうちょう!」
幼女の視線の先には、一匹の蝶が飛び去るところだった。
その姿は、美しくもどこか儚げに。
沈みかけの夕空に、消えていった。
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