[本編完結]私に嫌がらせする公爵令嬢の弟が大好きなので、王子との婚約は解消したい。

ゆき

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二人の決断

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季節が変わり冬になっても、場所は変われど二人で過ごすお昼休憩は変わらなかった。

さすがに寒さがきつくて今は裏庭ではなく、空き教室で昼食をとっている。


「アーシェ、なんか元気ない?」


一日の中で一番大切にしている時間なのに、どこか上の空の私にカイが心配そうに声をかけた。


カイには心配をかけてばかりな気がする。

…嫌だなぁ。


カイには、もっと元気で良いところばかり見せていたいのに。

弱い部分ばかりさらけだしている気がする。



「結婚の日取りが、早まったの」

「っ、どうして…?」


カイの声は微かに震えていて、まるで私はカイに愛されているのではないかと錯覚してしまいそうになる。


「ディラン殿下が遊び人だから」

「そっか…」


一を聞いて十を知るような聡明なカイにはいつも助けられている。

余計なことを言わなくてもしっかり伝わってくれるから、言いたくないことを言わなくてもわかってくれるから…

弱い私は…傷つかないで済むんだ。



殿下の女遊びもさすがに結婚したら落ち着くだろうという考えが両陛下や国の重役達の間で持ち上がったのだ。

だから、キリがいい殿下の誕生日に正式に婚姻することとなった。


「一ヶ月後よ。本当いきなりすぎて…」


心が追いつかない。


各国の貴賓を呼んで執り行う式はまだまだ先だが、籍を入れることは教会の準備が整いさえするといつでもできる。

どうしようもないことだとはわかっているけど、心が沈むのは仕方ない。


ちゃんと受け入れるのだから今だけは許して欲しい。



「アーシェ」


「……何?カイ」


「アーシェはそれでいいの?」


真っ直ぐに私を見つめる瞳を私は見つめ返すことが出来なかった。

ふいっと視線をそらすと、ぎゅっと握りしめた拳をカイの大きな手が包み込む。


本当に騎士なんだなあ、としみじみ感じた。

普通の男の人の手なんて知らないけど、カイの手が努力した人の手だということははっきりとわかった。


カイのしなやかな指からは予想できない、固くて厚い手のひらだった。



「私の意思なんて関係ないわ…」


「一番大切なことだよ?」


「私が例え嫌だと言っても、この結婚を取りやめることなんてできない」


自分で言った言葉に、視界に涙が滲んだ。

殿下との結婚することは幼い頃から決められていて、半ば当たり前のような感覚にすらなっていた。


どうして今になって受け入れることが難しくなってしまったのか。

その理由なら痛いほどわかってる。



「カイの…せいだよっ」

みっともなく誰かのせいにして責任を逃れる私は本当に汚い。


本当は全部自分のせいなのにね。


私がカイを好きになってしまったから。



「いつの間にか、カイのことっ、大好きに…なっちゃったんだもん」


初めて口にした言葉だった。

形振り構わず告げた想いに、恐る恐るカイの顔色をうかがう。


カイは、考え込むような、何かを決めかねているような、そんな表情を浮かべていた。


そして、意を決したように一度大きく息を吸ってから声を出した。



「僕のせいなら、しっかり責任はとらないといけないね」

自分に言い聞かせるような、カイはそんなことを口にする。


「責任って…」


恐る恐る言葉の意味を尋ねた。



「本当は、ずっと考えてたんだ…アーシェが殿下と結婚しなくても済む方法」


「…え?」


真面目な顔で信じられないようなことを言うカイに思わず表情が強ばる。

殿下と結婚しなくても済む方法…

そんな方法今まで考えたらこともなかったが、到底あるとも思えなかった。



「できれば、正攻法で攻めたかったんだけど…もう時間もないみたいだし、仕方ないか」

「カイ…?」



「アーシェ、僕の考えを聞いて、しっかり自分で判断するんだよ?」

「っ、うん…わかったわ」


今だけは、どんなに細い糸だとしても、縋り付きたかった。



そうしてカイが語ったことは、私では到底思いつかないとんでもない方法。


だけど、十分成功が見込める作戦だ。


良いか悪いかは別として…これしか道がないことはわかりきっていた。



「必要なものは私が揃える…カイの言っていたものも、うちにあったはず。グレイスさんはカイが説得してくれる?」

「…乗ってくれるの?」


不安そうな顔でカイは私に問いかけた。



「目の前の幸せをみすみす逃す手はないでしょう?…私は、カイとの未来を選ぶわ」


そう告げると、カイは泣き出しそうな顔で微笑みを浮かべた。



「僕、アーシェが好きだよ。すごく好き」


言っているうちに感極まってしまったのか、ぽたぽたと涙を零すカイがたまらなく愛おしい。


「っ、愛してる…アーシェ」

「私も、愛してる」


二人で涙を流しながら愛を伝えあった。



そうしているうちにカイの温かい手が頬に添えられ、軽いリップ音を立てて瞼に温もりを感じた。


それから、額や頬、鼻先、恥ずかしくなるくらいたくさんのキスが降ってきて


最後にそっと、カイの唇が私のそれに触れた。


「ふふっ、カイの顔真っ赤だわ」

「…慣れてないんだから笑わないでよ」



______幸せだと思った。


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