兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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人の言葉に踊らされる子と、自分の目で見て判断する子。

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学園で、ユーリは挨拶程度に私と話すことはあるが、彼には彼の人付き合いもあるようで、学園を案内して以来特に距離が縮まるということもなかった。

彼の人間性に惹かれるものらあったが、中途半端に関わってエクルの反感を買うのは本意じゃない。

それに、この学園に入ってきて一週間、ますます学園の女生徒を虜にしていっているようだ。

彼の一挙一動に注目する令嬢達は数えたらキリがないだろう。



「カティア様、お話がありますの」

教室の隅にある自分の席で読書をしていた時、そんな声が聞こえた。

本から目を離し視線をあげると、クラスメイトの令嬢が三人。


私と同じ侯爵家を筆頭に、伯爵家、男爵家という構成メンバーだ。



「何か?」

「単刀直入に言いますわ」

クルス侯爵家のキャサリン様がキッと目を細めて言葉を続ける。


「いい加減エクル様に嫉妬して嫌がらせをすることはお辞めになってくださる?」


「…なんのことでしょう?」

「しらばっくれても無駄ですわ!あなたは妹の婚約者であるウォルター様を奪おうとしただけでは飽き足らず、今度はエクル様と仲の良いユーリ様にまで手を出しているのでしょう?」


相変わらず妄言を吐くキャサリン様に思わず白けた目を向けてしまう。


ここで一旦整理してみましょう。

まず、ウォルター様がそもそも私からエクルに乗り換えたのであって、私はエクルからウォルター様を奪い取ろうとしたなんて事実は無根だ。

この場合奪ったという表現が正しいならば、エクルの方でしょう、どう考えても。

ユーリに至っては、エクルやキャサリン様の手を出すという表現の定義が、挨拶程度の会話を交わすことだと言うのならば認めるが、そうでないなら誤解も甚だしい。


「僕のこと話してるの~?」

令嬢三人と私の間に、随分と緩い雰囲気で近づいてきたのは、話題の人であるユーリだった。


「ユーリ様っ」

ポッと頬を染める令嬢たち。


「僕の名前が聞こえてやって来たんだけど、何かあったの?」

「っ…ユーリ様は騙されていらっしゃるのです!」

令嬢三人が一人を囲んでいるという構図に横槍を入れられ一瞬たじろいだが、キャサリン様はすぐに良い機会だとばかりに口を開いた。

なんだなんだと視線をよこすクラスメイトには飽き飽きだ。

以前からキャサリン様は何かと理由をつけて私を避難するこがよくあった。


大抵は、幼い頃からお茶会などで親しくしているエクルを守るためという大義名分を翳してのことである。


「ユーリ様、この方はユーリ様が想像も出来ない程に性悪な方なのですわ!」

「性悪…?」

不思議そうなユーリが首を傾げる。


「カティア様はっ、幼い頃、私の母の肩身であった髪飾りを盗んだのです!!」

あ~、そうなこともあったかしら?

浮かんできた古い記憶に思わず遠い目になってしまった。


「そして、エクル様に教えられて駆けつけた時にはもう…彼女は庭の池に、私の肩身を投げ捨ててしまっていたのです…うぅ」


完全にエクルの一人芝居ですけどね?

私だってあの時キャサリン様の少し前に池に呼び出され、事態を把握する間もなく無実の罪を着せられてしまった。


…あの時のご令嬢はキャサリン様だったのね。


「ああ、あれ君だったんだ」

ユーリの口からぽつりと呟かれた言葉。

どうやら小さすぎて私よりも少しだけユーリと距離の遠いキャサリン様には聞こえなかったようだ。


今まさに同じことを考えていた身としては、疑問ばかりが募る。

当事者でもないのに。


「それ、どういう」

「髪飾りが池に捨てられたところは見てないんだね?」

私の声を遮るように口を開いたユーリ。


「ええ、ですがエクル様はカティア様のあまりの行いに絶句して涙を流していらしたのよ?エクル様の悲しそうな姿が何よりの証拠だわ」

彼女は必死に訴える私の言葉は切り捨てたくせに、エクルのことは簡単に信じてしまうみたいだ。

…証拠という言葉を辞書でひきなおした方がよろしいんじゃなくて?


「後日エクル様はあなたの尻拭いのために、必死の思いで池から私の髪飾りを見つけてくださったわ…なのにあなたは未だに一度だって謝罪してくれていませんわね?エクル様は何度も何度も謝ってくださいましたわ…ご自分は一ミリも悪くありませんのに」

エクルが髪飾りを盗んで、私に濡れ衣を着せた上で、自分が探し出したかのように髪飾りを返却したと考える方が余程辻褄が合いそうなものを。


「私は、自分が悪くないことで謝罪なんてしませんわ」

「この後に及んでまだそんなことを!」


「キャサリン様、一旦落ち着きましょう?」

「私はエクル様の真摯な態度に感銘を受け、エクル様についていこうとあの日誓いましたの。だからエクル様を傷つけるあなたを絶対に許しませんわ」

ユーリの宥める声にも耳を貸さない様子だ。


「カティも否定してることだし、エクル様の話だけではなく、彼女自身を見て判断されてみてはどうかな?」

「私のカティア様への嫌悪感は変わりませんわ。それに、エクル様の話だけではなく、グレン様も彼女についてはよく愚痴を零していますのよ?」

ここで出てくるのね、グレン兄様。


「へえ、グレン様が…?」

「そうですわ!エクル様だけに留まらず、お兄様にも迷惑をかけて、なんて恥知らずなんでしょう」


グレン兄様は、言葉通り着々と私を不幸に陥れているようだ。

有言実行するタイプだとはわかっていたのだけど。


「仮にグレン様やエクル様が本当に彼女に迷惑をかけられていたとしても、それは家族間の問題。僕らが口を挟んで良いことではないんじゃないかな。それに、カティのように、僕だって兄とはよくケンカするよ?」


ケロッとそう言ってのけるユーリ。

私達兄妹のいざこざを兄弟げんかに例えられたことは初めての経験だった。


とてもそんな軽いものなんかじゃないけど、そう考えると少し胸の荷がおりた気がする。


「私はただエクル様を思って…!」

「え~、だったら彼女に寄り添って愚痴や悩みを聞いてあげたりする方がよっぽどいいと思うよ~」


……彼は、気を抜いたら口調が緩くなってしまうのだろうか。


キャサリン様は大きく顔を歪めて、精一杯不満そうな表情をみせると、そっぽを抜いて去っていった。

黙っていた伯爵、男爵令嬢も後に続く。



「…ユーリ、ありがとう」

「いいよ~、俺もああいうの苦手だし」


「…ユーリは、私の無実を信じてくれるのですか?」

戸惑いを含む声で、尋ねてみる。


「僕は人の言葉よりも、この目で見て感じたことを信じるタイプだからね。今のところ、カティの優しいところしか知らないよ~」

今のところ、なんて笑って告げるユーリ。

正直なところには、逆に好感が持てた。



「ユーリは、思ってたよりもずっとずっと素敵な人だわ」

「わ、何もしてないのに褒められちゃった。カティも優しくて良い子だって知ってるよ~?」


偏見を持たずに人を見てくれるユーリだからこそ、私も誠実でありたいと思えた。



「そういえば、先ほどキャサリン様におっしゃった、君だったのという言葉はどういう意味ですの?」

「こっちの都合~」


誤魔化し切れていないユーリは、強引に押し通すのだった。


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