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ユーリとグレン
しおりを挟むsideグレン
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エクルが入学して、より一層カティの評判が悪くなっていくのがわかる。
以前は俺がカティと親しくなるような人物ができない程度の噂話を流して印象操作をはかっていたが、今ではもうそんなことする必要もない。
俺が動かなくても勝手にカティの印象は悪くなっていく。
概ね上手くいっていると言える。
…概ねは、な。
昼休憩の時間、校舎の窓から見下ろした中庭に、あの男の姿が見えた。
彼は、俺の計略に歪みを与える存在だ。
シュゼット伯爵家が次男、ユーリ・シュゼット。
理由は様々だが、学園中から敬遠されるカティに、唯一普通に接している彼は、きっとカティの心の拠り所になりかけている。
…ダメだ、そんなことにはさせない。
気がつくと俺の足は一直線に中庭に向かっていた。
気だるそうにベンチに腰かけるユーリ・シュゼットは、普段社交界で見かけるような愛想の良さなど微塵も感じなかった。
一人でいるのだから当たり前だが。
「こんにちは、ユーリ殿」
「これはこれは、グレン様。ちゃんとご挨拶するのは初めてですね。お初にお目にかかります、シュゼット伯爵家が次男、ユーリ・シュゼットです」
声をかけると、普段の軽薄そうな印象とは打って変わってしまりのある落ち着いた挨拶を返した。
「そのような堅苦しい態度ないよ。ユーリ殿は行く行くは私の親戚になるのだろう?」
「まあ、そうですねえ?…ですが、年齢でいっても僕の方が下なので、これくらいの砕けた口調でお許しください」
「ならば心を開いてもらえるよう、これから努力することにしよう」
思ってもない事ばかりスラスラと口から飛び出していくのだから面白い。
昔から感情を隠すことは得意だと思っていたか、いつも以上に饒舌な自分は少し動揺しているのかもしれない。
数回言葉を交わしただけでわかる。
ユーリ・シュゼットは曲者だ。
浮かべられた笑顔の中、全く笑っていない瞳は“お前なんか信用してないぞ“とでも告げているかのように冷ややかに思える。
「ユーリ殿は、妹と同じクラスだとか」
漸く切り出した本題にも、ユーリ・シュゼットが表情を変えることはなかった。
「ええ、そうですよ」
「恥ずかしい話、あれは性根に問題があるようなのだが、迷惑をかけられたりはしていないか?」
わざとらしく、声に心配の色を混じえながら話す。
俺が妹を嫌っているのではなく、純粋に心配しているように思われることが肝心だ。
その方が信憑性も増してくる。
「彼女は優しい良い子ですよ。それは侯爵家の方々のほうがよくご存知なのでは?」
至極真面目に返された言葉は、俺にとってすごく不愉快なものだった。
カティが優しい良い子だと?
…当たり前だろう。
あの子は誰よりも聡明で、冷静さと冷たさを誤解されがちだが、とても綺麗な心を持っている。
誤解させている要因は、俺や他の家族にあるのだが。
しかし、俺以外の人間がカティの本質を見抜くことは如何せん腹立たしい。
たかだか数週間の付き合いでカティをわかった気になられては困る。
そんなエゴな思いばかり頭によぎった。
「どうしてカティにはあんなに悪い噂ばかり流れているのですかねえ?」
「普段の行いの結果だと思うが?」
きっとこの男は気づいている。
ユーリ・シュゼットは、カティの現状が俺やエクルのせいだと確信を持っているくせに、わざとらしく首を傾げるのだった。
「ユーリ殿は妹と知り合って日が浅い。まだ妹の知らない面もたくさんあるだろう」
「そうかもしれませんね~」
「一人に肩入れせず、様々な人間の話に耳を傾けてみるといい」
「これこれは、ご忠告ありがとうございます」
自分で言っていて馬鹿らしくなる。
カティ以外の話など、全て戯言であるのに。
「そろそろ、午後の授業が始まりますね」
「そうだな」
もう、俺からこの男に声をかけることもないだろう。
今まで出会ったことの無い人間だった。
社交界で生きていく連中は、人の話に敏感なぶん、悪い噂の立った人間を切り捨てるのも早い。
家名を背負っている分、リスクマネジメントに力を入れるからだ。
触らぬ神に祟りなし、そんな諺を無意識に実行している人間ばかりなのだ。
「あ、最後に聞いときたいんですけど」
ユーリ・シュゼットが思い出したように口を開いた。
「あなたは、カティのことが嫌いなんですか?」
「さあ、どうだろうな」
濁した言葉に、目の前の男はどこか意外そうな顔をしていた。
「私は教室に戻る」
「はい、ではまた」
少なくとも俺は、またの機会が無いことを願っているよ。
この男との会話は少し疲れる。
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