19 / 56
王太子殿下と妖精の愛し子
しおりを挟む「珍しいの連れてるな、お前」
放課後、図書館で勉強していた私の耳にそんな声が届いた。
(こいつ見えてる~カティといっしょ~)
(王家の人間ねっ!)
(僕らが見える人間珍しいの~)
私と頭上に飛んでいる妖精さん達に交互に視線を送る彼。
金髪碧眼の人目をひく容姿は、王家特有のものだった。
「…っ、フィリップ殿下」
驚きすぎてその名前を口にすることしか出来ない私に、殿下は面白そうに口角を上げた。
フィリップ殿下は、この国の第一王子であり、王太子様である。
「妖精に随分懐かれているようだな」
「見えるの、ですか」
そんな彼が私に声をかけてくるなど誰が予想できるだろうか。
しかも、妖精さん達が見えるらしい。
「愚問だな。私からすると、そなたが妖精達と仲良くしていることの方が不思議だ」
殿下はそう言うと、私の隣の席に腰を下ろした。
「そなたは、何者だ?」
「ご挨拶が遅れて大変申し訳ございません、私はリシャール侯爵家が長女、カティア・リシャールでございます」
慌ててそういうと殿下が少し目を見開く。
「へえ、じゃあお前グレンの妹か。私はフィリップ・ロズベルクだ。よろしくカティア嬢」
「こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。確か、殿下はグレン兄様とクラスメイトだとか?グレン兄様とは親しいのですか?」
「ああ、私とグレンは親友だよ。あいつは嫌がるけどな」
あっけらかんと言ってのける殿下に思わず目眩がしそうだった。
グレン兄様はそんなに殿下と親しかったのですね。
「グレンには二人の妹がいるとは聞いていたが、何度聞いても下の妹のことしか教えてくれなかったからな。気になっていたんだ」
グレン兄様のことだから、殿下にも私の悪い噂を流しているのだと思ったけど、どうやら存在自体隠したがっていたようだ。
相変わらず理解に困る。
「まさかグレンの妹が妖精の愛し子とはな」
愉快そうに笑いながら話すフィリップ殿下。
「あの、愛し子とは?」
「妖精から愛される者のことだ。まあ、昔はそれ程珍しい存在でもなかったようだが、今となっては滅多に見られなくなってしまったから知らなくて当然だ」
妖精の愛し子。
聞きなれない言葉だ。
「本当に存在していたのだな。王家には、私のように妖精を見ることができる者が極稀にうまれることもあるが、カティア嬢のように妖精を侍らせることなんてできない」
「侍らせるなんて、そんな。妖精さん達は私のことを心配してくれて、見守ってくれているだけでございます。有難いことですわ」
私が悲しい時、困っている時は、手を差し伸べてくれる優しい妖精さん達だ。
改めて、それはすごく幸福で感謝すべきことなのだとしみじみ思った。
「さて、どうしたものか」
フィリップ殿下が、わざとらしい口調でそんな言葉を零した。
「妖精に愛される愛し子が、もし国に背くような考えを持っていたならば、これは国の危機にもなりかねないわけだが…」
「そのような愚かな考えは抱いておりませんわ!」
「言葉とはいくらでも偽れるもの…そうだな、カティア嬢、そなたもグレンと同じく今日から私の友人になると良い」
したり顔でそう言う殿下は、最初からそれが狙いのようだった。
「私がそばでそなたの人柄を見定めてやろう。グレンの妹ならば退屈しないだろうしな」
本音がダダ漏れの王太子様だ。
断れば私は国への反逆者ってわけ?
そのような回りくどい理由をつけなくとも、この国の第一王子の言葉を無下にできる人間なんていないのに。
フィリップ殿下はなかなか素直じゃない人間らしい。
「承知致しました」
「放課後はいつもここにいるのか?」
「そうですね、毎日ではありませんが週に二三日程は」
「ならば私も気が向いたらここに足を運ぶことにしよう」
そう言って殿下は満足気に笑った。
「念の為、愛し子であることは秘密にしておいた方がいい。もちろんそなたが公表したければそれでも構わないが、愛し子の意思を尊重せず国に縛り付けることは妖精達も望まない。愛し子への接し方を間違って崩壊させられた国もあると聞く。一応父上には報告させてもらうが、無駄に騒ぎ立てられたくないのであれば黙っておくのが懸命だな」
「お気遣い痛み入ります。私としては家族にも告げる気はありませんので、グレン兄様にも内緒にして頂ければ幸いです」
このようなことが知れれば、また家族が騒ぎ出すのは目に見えている。
特にエクルや義母は喚き散らすだろう。
「そうか…わかった。約束しよう」
「ありがとうございます殿下」
「そろそろ暗くなる。もう家へ帰ると良いだろう」
「かしこまりました。では失礼致します」
殿下の言葉に、荷物をまとめ学園を後にした。
できれば殿下と仲良くなったことも兄上には黙っていてくれるよう頼んでおけば良かった。
そんなことを思いながら、馬車に揺られた。
0
あなたにおすすめの小説
転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました
桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。
言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。
しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。
──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。
その一行が、彼の目に留まった。
「この文字を書いたのは、あなたですか?」
美しく、完璧で、どこか現実離れした男。
日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。
最初はただの好奇心だと思っていた。
けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。
彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。
【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました
佐倉穂波
恋愛
転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。
確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。
(そんな……死にたくないっ!)
乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。
2023.9.3 投稿分の改稿終了。
2023.9.4 表紙を作ってみました。
2023.9.15 完結。
2023.9.23 後日談を投稿しました。
死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について
えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。
しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。
その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。
死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。
戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。
婚約破棄された夜、最強魔導師に「番」だと告げられました
有賀冬馬
恋愛
学院の祝宴で告げられた、無慈悲な婚約破棄。
魔力が弱い私には、価値がないという現実。
泣きながら逃げた先で、私は古代の遺跡に迷い込む。
そこで目覚めた彼は、私を見て言った。
「やっと見つけた。私の番よ」
彼の前でだけ、私の魔力は輝く。
奪われた尊厳、歪められた運命。
すべてを取り戻した先にあるのは……
半竜皇女〜父は竜人族の皇帝でした!?〜
侑子
恋愛
小さな村のはずれにあるボロ小屋で、母と二人、貧しく暮らすキアラ。
父がいなくても以前はそこそこ幸せに暮らしていたのだが、横暴な領主から愛人になれと迫られた美しい母がそれを拒否したため、仕事をクビになり、家も追い出されてしまったのだ。
まだ九歳だけれど、人一倍力持ちで頑丈なキアラは、体の弱い母を支えるために森で狩りや採集に励む中、不思議で可愛い魔獣に出会う。
クロと名付けてともに暮らしを良くするために奮闘するが、まるで言葉がわかるかのような行動を見せるクロには、なんだか秘密があるようだ。
その上キアラ自身にも、なにやら出生に秘密があったようで……?
※二章からは、十四歳になった皇女キアラのお話です。
【完結】番としか子供が産まれない世界で
さくらもち
恋愛
番との間にしか子供が産まれない世界に産まれたニーナ。
何故か親から要らない子扱いされる不遇な子供時代に番と言う概念すら知らないまま育った。
そんなニーナが番に出会うまで
4話完結
出会えたところで話は終わってます。
目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです
MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。
しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。
フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。
クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。
ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。
番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。
ご感想ありがとうございます!!
誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。
小説家になろう様に掲載済みです。
ブサイク令嬢は、眼鏡を外せば国一番の美女でして。
みこと。
恋愛
伯爵家のひとり娘、アルドンサ・リブレは"人の死期"がわかる。
死が近づいた人間の体が、色あせて見えるからだ。
母に気味悪がれた彼女は、「眼鏡をかけていれば見えない」と主張し、大きな眼鏡を外さなくなった。
無骨な眼鏡で"ブサ令嬢"と蔑まれるアルドンサだが、そんな彼女にも憧れの人がいた。
王女の婚約者、公爵家次男のファビアン公子である。彼に助けられて以降、想いを密かに閉じ込めて、ただ姿が見れるだけで満足していたある日、ファビアンの全身が薄く見え?
「ファビアン様に死期が迫ってる!」
王女に新しい恋人が出来たため、ファビアンとの仲が危ぶまれる昨今。まさか王女に断罪される? それとも失恋を嘆いて命を絶つ?
慌てるアルドンサだったが、さらに彼女の目は、とんでもないものをとらえてしまう──。
不思議な力に悩まされてきた令嬢が、初恋相手と結ばれるハッピーエンドな物語。
幸せな結末を、ぜひご確認ください!!
(※本編はヒロイン視点、全5話完結)
(※番外編は第6話から、他のキャラ視点でお届けします)
※この作品は「小説家になろう」様でも掲載しています。第6~12話は「なろう」様では『浅はかな王女の末路』、第13~15話『「わたくしは身勝手な第一王女なの」〜ざまぁ後王女の見た景色〜』、第16~17話『氷砂糖の王女様』というタイトルです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる