兄が度を超えたシスコンだと私だけが知っている。

ゆき

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王太子殿下と妖精の愛し子

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「珍しいの連れてるな、お前」

放課後、図書館で勉強していた私の耳にそんな声が届いた。


(こいつ見えてる~カティといっしょ~)

(王家の人間ねっ!)

(僕らが見える人間珍しいの~)


私と頭上に飛んでいる妖精さん達に交互に視線を送る彼。

金髪碧眼の人目をひく容姿は、王家特有のものだった。


「…っ、フィリップ殿下」

驚きすぎてその名前を口にすることしか出来ない私に、殿下は面白そうに口角を上げた。

フィリップ殿下は、この国の第一王子であり、王太子様である。


「妖精に随分懐かれているようだな」

「見えるの、ですか」


そんな彼が私に声をかけてくるなど誰が予想できるだろうか。

しかも、妖精さん達が見えるらしい。


「愚問だな。私からすると、そなたが妖精達と仲良くしていることの方が不思議だ」


殿下はそう言うと、私の隣の席に腰を下ろした。


「そなたは、何者だ?」


「ご挨拶が遅れて大変申し訳ございません、私はリシャール侯爵家が長女、カティア・リシャールでございます」

慌ててそういうと殿下が少し目を見開く。


「へえ、じゃあお前グレンの妹か。私はフィリップ・ロズベルクだ。よろしくカティア嬢」

「こちらこそ、よろしくお願い致しますわ。確か、殿下はグレン兄様とクラスメイトだとか?グレン兄様とは親しいのですか?」


「ああ、私とグレンは親友だよ。あいつは嫌がるけどな」

あっけらかんと言ってのける殿下に思わず目眩がしそうだった。

グレン兄様はそんなに殿下と親しかったのですね。


「グレンには二人の妹がいるとは聞いていたが、何度聞いても下の妹のことしか教えてくれなかったからな。気になっていたんだ」

グレン兄様のことだから、殿下にも私の悪い噂を流しているのだと思ったけど、どうやら存在自体隠したがっていたようだ。

相変わらず理解に困る。


「まさかグレンの妹が妖精の愛し子とはな」

愉快そうに笑いながら話すフィリップ殿下。


「あの、愛し子とは?」

「妖精から愛される者のことだ。まあ、昔はそれ程珍しい存在でもなかったようだが、今となっては滅多に見られなくなってしまったから知らなくて当然だ」

妖精の愛し子。

聞きなれない言葉だ。


「本当に存在していたのだな。王家には、私のように妖精を見ることができる者が極稀にうまれることもあるが、カティア嬢のように妖精を侍らせることなんてできない」

「侍らせるなんて、そんな。妖精さん達は私のことを心配してくれて、見守ってくれているだけでございます。有難いことですわ」


私が悲しい時、困っている時は、手を差し伸べてくれる優しい妖精さん達だ。

改めて、それはすごく幸福で感謝すべきことなのだとしみじみ思った。


「さて、どうしたものか」

フィリップ殿下が、わざとらしい口調でそんな言葉を零した。


「妖精に愛される愛し子が、もし国に背くような考えを持っていたならば、これは国の危機にもなりかねないわけだが…」

「そのような愚かな考えは抱いておりませんわ!」


「言葉とはいくらでも偽れるもの…そうだな、カティア嬢、そなたもグレンと同じく今日から私の友人になると良い」


したり顔でそう言う殿下は、最初からそれが狙いのようだった。


「私がそばでそなたの人柄を見定めてやろう。グレンの妹ならば退屈しないだろうしな」

本音がダダ漏れの王太子様だ。

断れば私は国への反逆者ってわけ?


そのような回りくどい理由をつけなくとも、この国の第一王子の言葉を無下にできる人間なんていないのに。

フィリップ殿下はなかなか素直じゃない人間らしい。


「承知致しました」

「放課後はいつもここにいるのか?」


「そうですね、毎日ではありませんが週に二三日程は」


「ならば私も気が向いたらここに足を運ぶことにしよう」

そう言って殿下は満足気に笑った。


「念の為、愛し子であることは秘密にしておいた方がいい。もちろんそなたが公表したければそれでも構わないが、愛し子の意思を尊重せず国に縛り付けることは妖精達も望まない。愛し子への接し方を間違って崩壊させられた国もあると聞く。一応父上には報告させてもらうが、無駄に騒ぎ立てられたくないのであれば黙っておくのが懸命だな」

「お気遣い痛み入ります。私としては家族にも告げる気はありませんので、グレン兄様にも内緒にして頂ければ幸いです」

このようなことが知れれば、また家族が騒ぎ出すのは目に見えている。

特にエクルや義母は喚き散らすだろう。


「そうか…わかった。約束しよう」

「ありがとうございます殿下」


「そろそろ暗くなる。もう家へ帰ると良いだろう」

「かしこまりました。では失礼致します」

殿下の言葉に、荷物をまとめ学園を後にした。


できれば殿下と仲良くなったことも兄上には黙っていてくれるよう頼んでおけば良かった。

そんなことを思いながら、馬車に揺られた。


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